10 / 12
4 小さな意地と大きな抱擁
4-3
しおりを挟む
「やば……、っ!」
ぐらりと揺れる景色はまるでスローモーション。地面までの距離はそう遠くないはずなのに、体感としてはあまりにもゆっくりと世界は回る。
バキバキと乾いた音を立てた枝は重力に従って真っ逆さまに落ち始め、優は手に握る果実を落とさぬようにと腹部に抱きかかえるように身を丸くし、衝撃に備えるべく強く瞼を閉じた。
ひゅるり。一筋の風が優の髪を揺らし、そして木々が風に踊らされるようにがさがさとけたたましい音を奏でた。
「ユウちゃん!」
いつもの柔らかな声色に似合わない、張りのある声が耳に届いた。
閉じたばかりの目を開くと、そこには少し前に家を出たはずの雫の姿。日頃穏やかにしている彼の笑顔とは全く違う、切羽詰まった緊迫に強ばっている表情をした彼がそこに居た。
突如起こった突風は木々だけでなく、水面下の魚によって穏やかにたゆたうだけだった泉に大きな波紋を広げていく。
飛沫は空高く舞い上がり、木の葉とともに日差しを浴びてきらりと美しく輝いた。
そんな一瞬の出来事のうちに、地面に打ち付けられるはずの身体は雫によってしっかりと受け止められ、両腕にしっかりと収められていた。
「シ、ズク……?」
飛び込むような勢いで優を受け止めた為か、そのままの勢いで地を転がるような状態で静止し、優はこの数秒間に起こった事実をまだ受け止めきれないまま縮み上がっていた。
ゆっくりと抱きこむ腕がゆるんでいく。横たえたままの状態で、少しだけ身体が離れた。
「あいたたた……。ユウちゃん、怪我はない?」
そこにはいつもの表情をした雫が居た。土に頬を汚しながらも、普段優に話し掛けるのと同じ声色で目の前の男は言葉を紡ぐ。
先程とっさに見せた顔の名残も何も無かったが、それは優を酷く安心させた。
「う、ん……」
「そっか。よかった。間に合って」
慣れた手つきで雫の手が優の頭をぽふんと撫でた。そして、確かめるように引き寄せられ、ぎゅうと強く抱き締められる。
「ごめんね。ユウちゃんの気持ちも考えないで」
「いや、俺の方こそ、ごめん……結局こうやって迷惑かけて……」
「んーん。迷惑なんかじゃないよ。大丈夫」
連れ出さなかったのは来たばかりの環境や身体に慣れるためという雫なりの気遣い。
そして、自分のものを出会ったばかりのものに頼りきるのはと考えたのは優なりの優しさと、小さな意地。
「明日は一緒に食べ物取りに行こうか」
「いいの?」
「うん。運動しながらの方が体に慣れるのも早くなるかもしれないし」
互いの遠慮や気遣いが生み出していた小さな溝は、この日から少しずつ埋まり始めた。
ぐらりと揺れる景色はまるでスローモーション。地面までの距離はそう遠くないはずなのに、体感としてはあまりにもゆっくりと世界は回る。
バキバキと乾いた音を立てた枝は重力に従って真っ逆さまに落ち始め、優は手に握る果実を落とさぬようにと腹部に抱きかかえるように身を丸くし、衝撃に備えるべく強く瞼を閉じた。
ひゅるり。一筋の風が優の髪を揺らし、そして木々が風に踊らされるようにがさがさとけたたましい音を奏でた。
「ユウちゃん!」
いつもの柔らかな声色に似合わない、張りのある声が耳に届いた。
閉じたばかりの目を開くと、そこには少し前に家を出たはずの雫の姿。日頃穏やかにしている彼の笑顔とは全く違う、切羽詰まった緊迫に強ばっている表情をした彼がそこに居た。
突如起こった突風は木々だけでなく、水面下の魚によって穏やかにたゆたうだけだった泉に大きな波紋を広げていく。
飛沫は空高く舞い上がり、木の葉とともに日差しを浴びてきらりと美しく輝いた。
そんな一瞬の出来事のうちに、地面に打ち付けられるはずの身体は雫によってしっかりと受け止められ、両腕にしっかりと収められていた。
「シ、ズク……?」
飛び込むような勢いで優を受け止めた為か、そのままの勢いで地を転がるような状態で静止し、優はこの数秒間に起こった事実をまだ受け止めきれないまま縮み上がっていた。
ゆっくりと抱きこむ腕がゆるんでいく。横たえたままの状態で、少しだけ身体が離れた。
「あいたたた……。ユウちゃん、怪我はない?」
そこにはいつもの表情をした雫が居た。土に頬を汚しながらも、普段優に話し掛けるのと同じ声色で目の前の男は言葉を紡ぐ。
先程とっさに見せた顔の名残も何も無かったが、それは優を酷く安心させた。
「う、ん……」
「そっか。よかった。間に合って」
慣れた手つきで雫の手が優の頭をぽふんと撫でた。そして、確かめるように引き寄せられ、ぎゅうと強く抱き締められる。
「ごめんね。ユウちゃんの気持ちも考えないで」
「いや、俺の方こそ、ごめん……結局こうやって迷惑かけて……」
「んーん。迷惑なんかじゃないよ。大丈夫」
連れ出さなかったのは来たばかりの環境や身体に慣れるためという雫なりの気遣い。
そして、自分のものを出会ったばかりのものに頼りきるのはと考えたのは優なりの優しさと、小さな意地。
「明日は一緒に食べ物取りに行こうか」
「いいの?」
「うん。運動しながらの方が体に慣れるのも早くなるかもしれないし」
互いの遠慮や気遣いが生み出していた小さな溝は、この日から少しずつ埋まり始めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
21
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる