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失われた書と守護の国
予定を急遽変更
しおりを挟むティウはアルドリックに返事をせずにジルヴァラに縋り付くと、ジルヴァラも黙って足早にレストランから出た。
アルドリックの従者達が追いかけてくる可能性を考え、レストランから出てすぐ目の前の噴水を背に、人が見えなくなった瞬間を狙ってジルヴァラは、泊まっている宿の近くへと転移した。
気付けば建物と建物の隙間に器用に転移していて、ティウは驚く。
「ジル、転移ができたの!?」
「ノアのじーさんから渡されている緊急用の魔道具だ。俺の魔力量では近場までしか飛べない」
「そ、そうなんだ……」
抱っこされていた腕からすとんと地面に下ろされたティウは、物憂げな表情できゅっと両手を握りしめた。
「あの言葉、どういう意味だったんだろう……」
アルドリックの最後の言葉が気になって思わず深い溜息をこぼすと、ジルヴァラは不機嫌を隠しもせずに、覆い被さるようにティウを抱きしめた。
「ジル?」
「…………」
ジルヴァラは抱きしめる腕に力を込めて離そうとしない。
ティウはジルヴァラが震えているのに気付いた。ティウの擬態した獣耳の間に顔を埋めて、落ち着こうと深呼吸をしている。
「ジル、ごめんね。助けてくれてありがとう」
ジルヴァラはティウが結界を施した百年前の瞬間を思い出したのだろう。
ティウが命をかけて結界を施したというのに、特に修復を望むのでもなく、結界が崩壊するのを当たり前のように受け入れていたアルドリックに憤りが隠せなかったようだ。
元から修復させる気はなかったが、それを望まれないのもそれはそれで腹が立つらしい。
記憶が無いティウからすれば感謝して当然などとはつゆにも思わないが、昔からあり続けた結界が崩壊した時、その後の人族がどういう状況下に置かれるのかなど考えもしなかった。
『しかしその安らぎが長く続いてしまったからこそ、恩恵を当たり前として胡坐をかき……冒涜している』
(だからじーちゃん達は人前で魔法を使ってはいけないって言ってたんだ……私の結界は、結局人にとって迷惑だったって事なのかな……)
ティウの耳と尻尾がしゅんと落ち込んでいると、頭の上でジルヴァラが深い溜息をこぼしたのが分かった。
「……巻き込まれる気はしていた」
「えっ。どうして?」
「ティウは昔からそうだったから」
「どういう意味!?」
思い当たる覚えなど全くない。もしや百年前の事を言っているのかとティウはふて腐れた。
「ジルさん、百年前の事を持ち出されても、記憶がない私は困ります!」
「敬語禁止」
「むむー!」
ジルヴァラに両頬をムニムニと揉まれる。ジルヴァラはティウの頬の柔らかさに感動していた。
この扱いは酷いとちょっとむくれつつも、ジルヴァラの好きなようにさせていた。
「またしつこそうなのを引っかけて……」
「またって何!?」
「特にアイツはしつこい。俺は分かる」
「どうして?」
「…………教えない」
「なんで!?」
何か言いたそうであったが、言いたくないのだろうと分かったティウは、それ以上の追求は止めた。
ティウは話を変えるべく、周囲を見回した。
「……ここ、宿屋の近く?」
「ああ。すぐ発ちたいが、ノアのじーさんの用事が残ってるんだよな……」
ミズガルに入国する理由を作るため、ノアの用事を利用したのだ。ミズガル国に入る時にユグドラシル協会への用事と日程、そして出立日も記載して提出している。
「あっ。忘れてた」
「フッ」
ミズガルの観光に夢中になり過ぎて忘れていた。そんなティウに毒が抜かれたようで、ようやくジルヴァラも笑った。
*
疲れた二人は、宿で休もうとそのまま戻ることにした。
早急に用事を終わらせてしまいたいが、ノアへの依頼品はかなり内密な案件で、厳重な警戒態勢で行われる。
予定が早まったなどと言ってギルドの者に簡単に預けるなど出来ない代物なだけに、身動きが取れなくなってしまったなと溜息をこぼす。
部屋に戻った二人はハンガーに上着をかけてルームシューズに履き着替えるが、すぐにベッドの端へと腰掛けた。
ティウはそのままバタンと後ろに倒れる。その瞬間にルームシューズがぽーんと飛んで行ってしまって「あっ」と声が出たが、思っていた以上に疲れていたようで身体はそのまま動かなかった。
柔らかいベッドのスプリングに身を任せると、そのまま眠ってしまいそうだ。
「何だか疲れちゃったね……」
「さすがに到着してすぐにこうなるとは思わなかったな」
「この宿、すぐバレちゃうかな?」
「バレるだろうな。入国記録を調べればあっという間だ。何より獣人の子供というだけで目立つ」
「じーちゃん、この変装は悪手だったよー!」
ティウは叫ばずにいられなかった。
「それはじーさんの執念の結晶だからな。それ以外の変装は却下されて外に出さないだろうから、どの道こうなる運命だったという事かもしれない」
「ひええ……」
まだ外は明るいとはいえ、もうすぐ夕刻になりそうな時間だった。また本屋に行ったりするつもりだったのに気疲れしてしまった。それに沢山食べたせいか、少しうとうとしている。
新しい街は何もかも新鮮で、予想以上に頭に負担をかけていたようだ。
「ベッドの上に寝転んだら眠くなってきちゃった……」
「今日はもうこのまま休むか?」
ティウの状態に気付いたジルヴァラがティウの髪をくしゃりと撫でた。くすぐったくてティウの耳がぴくぴくと動く。
「晩ご飯楽しみにしているの……」
「分かった。起こしてやるから少し休むといい」
「うん……ありがと……」
まぶたがくっつこうとしている。眠気に抗えないまま、ティウはそのまま眠り込んだ。
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