100年後の賢者たち

松浦

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失われた書と守護の国

どこでもノア

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 ふと目が覚めたら、ふわふわの毛皮に埋もれていた。
 もぞもぞと寝返りを打って顔を上げると、フェンリルの姿になったジルヴァラが、眠っていたティウを取り囲むようにベッドの上に丸まって寝ていたようだ。

 寝ぼけたままの頭で周囲をぐるりと見回すと、部屋は窓から入り込む夕日で赤く染まっていた。
 今何時なのだろうかともぞもぞしていると、ティウが起きた気配を感じてジルヴァラも起きたようだ。

「ティウ、起きたのか?」

「うん……おきた……」

 そう言いながらもぞもぞとジルヴァラの腹の毛に埋もれていくティウを見て、「寝ぼけているのか」とジルヴァラが笑った。

「あったかーい……」

 ジルヴァラの毛皮にすりすりと頬ずりしながら擦り寄ると、ジルヴァラも大きな鼻先をティウの頭に擦りつけてきた。

「夕飯は食わないのか?」

「ん~……ごはん……たべるぅ……」

 ご飯という言葉に頭が次第に覚醒してきた。しかし、ジルヴァラの毛皮に埋もれて出口が分からない。
 ぱっとジルヴァラが立つと、ジルヴァラに寄りかかっていたティウは、ばふんとベッドの上に落ちた。

「もふもふがなくなった……」

「二度寝をしそうだったからな。夜眠れなくなるから今は起きた方がいい」

「はぁ~い……」

 ティウは目元を擦りながら「ふああああ……」と大きなあくびをする。するとジルヴァラにもあくびが移ったようで、獣化した大きな口が「くあっ」と大きな口を開けた。

「ティウのあくびが移った」

「えへへ。ごめんね」

 上半身を「ん~~」と唸りながら伸ばしていると、その間にジルヴァラが人化して部屋の明かりを点けた。
 魔道具の明かり一つで、まるで昼間のように部屋中が明るくなった。

 まだ部屋はそれなりに明るかったが、建物の中だと日が傾けばすぐに真っ暗になってしまう。
 百年前は魔法か蝋燭か、もしくはランプの明かりが当たり前だったが、今では照明の魔道具が開発されていた。
 ノアの家でしか見た事がなかった魔道具は、こうして世の日常に使われ始めたのだと思うと感慨深い。

「何時間寝てたのかなぁ……?」

「一~二時間といった所か。夕飯は何がいい?」

 昨日の夕飯はもう少し早いくらいに食べていた。そろそろ店も閉まる頃だろうと思っていたが、もっと暗くなっても開いているらしい。
 これもノアの開発した魔道具のお陰で、夜でもある程度外灯で明るくなっていたからだった。

「夜にお店が開いてるの?」

「ああ。店を探すか?」

「ん~……着いた時に食べた所で食べない? ちょっとお母さんの書録で確認したい事があるの」

 宿から三件隣の食事処なら、何かあってもすぐに宿へ引き返すことがきるだろう。
 それに前回は頼まなかったを中心に注文してみたい気持ちもあった。

「何か気になる事でもあったのか?」

 ティウはベッドから下りて、放り出されていたルームシューズを見つけ出す。それを履きながらティウは疑問に思っていた事を口にした。

「アルドリックさんと話してて、ちょっと気になったの。魔法って百年経ったわりに、そんなに研究が進んでないのかなって」

「ああ、その事か」

「何か知ってるの?」

 何か知っているそぶりを見せるジルヴァラの横で、外出用のコートを羽織りながらティウが聞くと、ジルヴァラは顎に手を当てながらぽつんと「ノアのじーさんのせいだろうな」と言った。

「え? じーちゃん?」

「ノアのじーさんは自分が楽をするために色々魔道具を作った話をしただろう? その流れで、生活用の魔道具がどんどん開発されていったんだ」

「うん」

「ついでに魔道武器も色々と手を加えていた。ノアのじーさんがどっかの国に依頼されて、魔法が得意じゃない人用の武器とか作ってくれと頼まれていたな。まあ、戦争用はお断りだと言ったからあくまで魔物用という理由付けだったが。そこから個人の魔力に対する価値観がガラッと変わっている。あれは……三十年くらい前か?」

「えええ~……じーちゃんどこにでもいるね?」

「ぷっ」

 ノアの影響力があらゆる場所に感じられて、ティウは思わずそんな事を言ったら、ジルヴァラが噴出して笑っている。

(う~ん……じーちゃんの魔道具が魔法より特出しちゃってるのかな…)

 魔道具に頼るようになったと言う事は、余計に魔法の研究が進んでいないのだろう。個人の魔法に頼るよりも、魔道具の方がより確実に成果を得られるからだ。

(いや、逆に魔道具の進歩は凄いのかも?)

 家のキッチンにあったような魔道具が他にもたくさんあるかもしれない。

(料理の道具も気になってきた……!)


 昔聞いた「賢者の石」事件といい、賢者という存在は歴史に影響してしまうのだと改めて思った。

 己の一族は影響力が特に強い。行動一つ、何が影響するのか分からない。
 記憶が無くなってしまったティウ自身も、ミズガルの歴史に関わってしまったのだと痛感した。



          *



 ルームシューズからブーツに履き替え、準備万端! と胸を張ると、またジルヴァラがティウを抱っこした。

「……何だか小さな子供になった気分」

 ジルヴァラに運ばれながらそう言うと、ジルヴァラは腕の中にいるティウを見つめながら言った。

「違うのか?」

「なっ」

 ティウが不服だと言わんばかりに頬を膨らませると、「俺に比べれば小さいだろう?」と笑った。

「そうですけど……っていうか、比較対象おかしくないですか?」

「敬語。というよりも、獣人の子供というのは攫われやすいんだ。すまんが我慢してくれ」

「う……それを言われると何も言えない。……ありがとう」

「ああ」

 ジルヴァラはティウの頭を撫でた。
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