アピス⁈誰それ。私はラティス。≪≪新帝国建国伝承≫≫

稲之音

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CCⅩⅩⅩⅡ 星々の膨張と爆縮編 前編(3)

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第1章。選ばれしもの


 扉を開けて、カシノさん、それに連れられてナナリス卿、ラトレアさん、
ミサールさんが、この部屋を退出された。

ナナリス卿は、たしか、旧双月教の儀仗ぎじょう隊の出身。

今後、新帝国では、6世の時代との区分、国家としての区別を強調するため、
儀礼は基本、教国式を踏襲とうしゅうすることになった。
その儀礼、言葉づかい、食事作法、詩、音曲など一式を、
わたしに伝授するために、しばらくの間、ナナリス卿は、アバウト学院内で、
個人教師護衛をしてくれる。

ラトレアさん、ミサールさんは、北カブラ王国の元伯爵令嬢・元子爵令嬢と、
貴族階級の亡命者で、王国連合式の義礼・作法を身につけていらっしゃるので、
おふたりからは、それを見て、教国式との差異を、学ぶことになった。
このおふたりからは、ナナリス卿同席の上での、不定期での個人授業になる。

そのミサールさんは、新帝国で生きていくのに、必要な知識を習得されるため、
特別聴講生として学院に通われるので、同窓生にも・・なるわ。
その後、ナナリス卿が將として、新規に立ち上げられる予定の
新双月教親衛軍に、入隊を希望してる。

またラトレアさんの方は、教会の印刷所で、婚約者?のレサト?さんと、
もう現在、働きだされていて、
『今後のことは、この子が生まれ、ある程度育ってから決めます。』と、
自分のおなかをさすりながら言われたのが、印象に残ったかも・・。

今、お方のように他国からの人たち・・・、
それ以上に、新帝国領、旧帝国本領から、
孤児たち、生活のできなくなった人々・家族が、
続々と皇都に、流れ込んでいる。
無論、ラティスさんの宣言が、その契機けいきとなっているのは、
動かせない事実だけれど・・・。

孤児たちは、ラティスさんの方で、アバウト学院に創設した保育院で受け入れを。
生活の手段を求める人々には、ルリさんの方で職の斡旋あっせん
必要によっては、学院の臨時聴講生として、知識の習得を・・・。
肉体の治療・治癒ちゆが必要な人には、リアさん・・そうラファイスさん・・の方で
引き受けてもらって・・・、そういう形で新帝国は動いている。

ただ、他国と大きく違うのは、イルムさんは、新帝国の施策として、
貧民街を作らない、作らせないと明言している。
そのような環境が、住む人々の心をすさませていくのは、わたし自身も、
十分に体験している。
なぜなら、わたしも、ユウイさんに、居宅に住まわせていただくまでは、
それにちかいところに、住んでいたから・・・、

『ただ、セプティ。お情けで、人々をこの皇都に受け入れれば、終わりではない。
最低の住居・生活は配慮はいりょ、本音のところで言えば保証しなければならない。
それを与えて、与えられて、初めて人々は、新帝国の国の旗に、
忠節をつくくしてくれると、わたしは思うよ。』

これは、きのう夏宮の執政官のイルムさんの私室で、
執政官としてとして、初代新帝国皇帝としてのわたしへの講義、
新帝国施策編というべき個人授業のなかでのひとこと。

そう、わたしは、アバウト学院での集団講義のみならず、
いろんな方から、いろんな場所で、個人での講義を受けている。

ただ、イルムさんの場合は、居宅のイルムさんの部屋でもいいとも思うのだけど、

『さすがに未来の皇帝陛下に、あので、話を聞かせるわけにはいかない。』

これは、きのう、イルムさんと一緒に講義してくれたルリさんの言葉・・・。

イルムさんも、ルリさんも、講義が堅苦しくならないよう、
話の端々にこのような冗談を、はさんでくれる・・・。

・・・・・・・・

「セプティ。お待たせ。」

再び、扉が開くと同時に、カシノさんが、モクシ教皇猊下げいかを引っ張って、
共に入って来られた。

「こら、カシノ。年寄をいたわるということを、知らんのか?」

「はあ!?信徒の方々への教会前での説法は、本日は朝と昼1回ずつということに
なっていらっしゃたのに、
天気がいいからと、4回もなされたのは、どなたでしたっけ・・・。」

そう掛け合いをしながら、おふたりは、席につかれる。
ゴホンとわざとらしく、せき払いを一つして、猊下げいかは口を開かれる。

「セプティ。講義は進んでおるかの?」

わたしは、涼しい顔で、猊下げいかにお答えする。

「講義の方は順調に進んでいます。覚えることが多くて、大変ですけど。」

「なに、ゆっくりで構わんよ。たぶん、クリル大公国の方では、
おぬしの即位が、遅ければ遅いほど、国家の利になると、考えておろうから。」

「まあ、だいたい早々に、おぬしの勉強が終わったら、
即位式の準備も早めなければならない、そうすれば、イルム執政官どのの方が、
お困りになるだろうし・・・。」

「わしも、師匠のラティスどのに、アバウト学院の校舎程度には、
この教会一式も大掃除して下さいと、頭を下げねばならん。」

わたしは、いつものような猊下げいかの口ぶりに、なんか安心してしまう。

「あら、やっと笑ってくれたわね。わたしたちからの講義は、講義の内容よりも、
セプティの心を支えるための色合いが、多いからね。」

カシノさんが、軽快な口調で、不思議なことを話された。

「そのへんは、イルムどのは、さすがに新帝国の女狐の二つ名を、
周りから言われるだけのことはある。」

「おぬしに、皇帝の教育をほどこすにあたって、心のいやしを
同時にしてゆくことの大事さを、良く理解しておる。」

「あやつは、教育者としても、一流のいきにおると、
今度会ったときにでも、めんといかんかの。」

ここで、カシノさんが、話に入ってくる。

「ふふふ、そうね、双月教の教えの講義など、1年2年そこらで
どうにかなるものでもないわ。
ま、新双月教としては、ぶっちゃけた話、
新帝国初代皇帝さまが、即位前、講義に訪れておられていたと、
内外に示せれば・・、歴史に残れば・・、それでいいからね。」

おだやかで美しい司祭さまと、皇都の人々に人気のカシノさんも、
この場では、非常にが出ている、つまり辛辣しんらつ・・・。

「セプティ。2代目教皇猊下げいかは、わしより腹黒とは思わんか?」

「え、2代目教皇・・・猊下げいか・・・?」

わたしは驚いて、固まってしまう。

猊下げいか!!」

カシノさんの言葉が、悲鳴に聞こえてしまう。

「カシノ司祭どの。セプティ陛下には、伝えておいた方がいいと思ってな。」

「そう、わたしの命は、おぬしたちより、当然、先にきよう。
ふたりは、腐敗ふはいにまみれていた、帝国、教国を、立て直さねばならないのが、
神々が、ふたりに与えもうた責務であろう。」

「無論、わしが生きている間は・・、わしは、ふたりのたてであり続けるよ・・。」

「・・・・・・・。」

猊下げいかの話に、わたしの口は、固まったように開くことができない。
だけど、わたしを見る、モクシ猊下げいか眼差まなざしはやさしい。

「セプティ。おぬしの周りにも、神々に選ばれたとしか思えぬ人間は多い。」

「そして、そのものたちは、そのものたちなりに、苦悩をしておる。」

「たとえば、アマトやエリースは、そなた以上の責務を
負わされておるわい。ま、なぐめにもならんかもしれんが。」

「〖神々が、人を選ばれしときには、その定められし責務も負わせしむ。〗との
お言葉があるが、
別に、〖神々は、その者に耐えられない責務は、お与えにならない。〗との
お言葉もあることが、今は、奇異きいに聞こえる。」

顔にうれいをきざまれて、猊下げいかは言葉を続けられる。

「わしは、あの世の裁きの法廷で、神々に対して、向こうが笑顔をなくすまで、
文句を吐き続けてやると、もう決めておる。」

「そして、わしのあと、長い時間して、カシノ、セプティが来たときには、
わしは、あの世の裁きの法廷の、ふたりの弁護人に手をげて、
また神々に文句をくれてやるから・・・。
『この、ふたりに、責務の与え過ぎではありませんでしたか!?』と・・・。」
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