転生先がサイコパス一家だったので悪役令嬢になりきってみせます!

パクパク

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潜入調査、開始!

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荷馬車の中に放り込まれると、そこにはすでにガキンチョが待機していた。

「遅いんだよ、ガキ。口だけじゃなくて足も回らねーのか、笑」

──は?

危ない。今、本気でブチギレるところだった。

三日間も飢えに耐え、体力も気力もギリギリの状態なのに、なんでこっちが開口一番で煽られなきゃいけないの!?

いやいや、冷静になれ私。

確かに理不尽な扱いをされ続けてきたけど、こんなクソガキにキレるなんて、さすがに大人げな……

「ふざけんじゃねー!このクソガキ!! お前さ、父親の前でだけ猫被ってんじゃねーよ!!」

……あ、言っちゃった。

しかも、噛まずに言えた!

ちょっと達成感を感じながらガキンチョの方を見ると、ワナワナと震えている。

あれ? もしかして、これ言っちゃいけないやつだった?

なんかガチでダメージ受けてない? いや、まさかね? クソガキだし。

──が、次の瞬間。

「……それは関係ねぇーだろ」

聞こえるか聞こえないかの、小さな声。

おお……?

もしかして、これ……図星だった?

いや、いやいやいや。待て待て待て。あのナイフ事件のときの狂気じみた笑いと、父親の前での完璧な態度を考えたら、もうとっくに精神的にも大人びてるはずじゃないの?

でも、今の反応……めちゃくちゃ子供っぽい。

……あれ? もしかして、こいつ、精神年齢だけはまだまだ子供?

まあ、そんなことを考えている場合じゃない。

またキレてナイフで刺されたらたまったもんじゃない。

とにかく、話題を変えよう。

「……あんたは、孤児院にどうやって潜入するか考えてんの?」

話を振ると、即答。

「“あんた”じゃなくて“兄上”だ、ガキ」

……はぁ!?

兄上? いやいや、ふざけんな。お前の方が先に私をガキ呼ばわりしたくせに、なんで私だけ敬称つけなきゃいけないわけ!?

なんて思っていると、ガキンチョはすでに話し始めていた。

「ヴァルムント家の情報収集能力から考えると、孤児院で起きている問題も把握済みのはずだ」

……すごい。

本気で感心してしまった。

6歳くらいで、ここまで論理的に物事を考えられるの?

いや、さすがヴァルムント家。英才教育が違う。

このまま、冷静で聡明な作戦が聞けるかも……と期待した次の瞬間。

「だから……孤児院のやつは皆殺しにする。」

ええええええええええ!?!?!?

なんでそうなる!?!?!?!?!?

さっきまでの冷静な分析はどこいったの!?

え、あれ? 今、話の流れ的に、普通は「まずは内部の情報を集めて……」とかそういう話が出るんじゃないの!?!?!?!?

なのに、なんで「皆殺し」!?!?!?!?

「……待て待て、さすがに聞き間違いだよね?」

とか思っていたら、クソガキはまだ続ける。

「そうすれば、怪しい動きをしているやつはいなくなるし、後からゆっくり調査すればいいだろ」

「…………」

「で、なんで皆殺しにしたか聞かれたら、調査中にお前がミスをしてやむを得ず皆殺しにしたって言えばいい」

「…………」

……いやいやいやいやいや!!!!!!!!

なんで私のせいになる前提!?!?!?!?

いや、というか、それ以前に!!

そんな「間違えて全員殺しました」みたいな大惨事が通るわけないでしょ!?!?!?!?

普通、そこは「証拠を掴んで報告する」とかそういう流れじゃないの!?!?!?!?

なんで開幕皆殺しが選択肢に入ってくるの!?!?!?

「……いや、待てよ?」

もしかしてこいつ、ナイフ事件のときといい、考え方の根本がヤバいやつなんじゃ……?

ヴァルムント家の英才教育、もしかして、倫理観を育てる項目なかった? まさかの欠陥教育!?!?!?

やばい。

やっぱり、このクソガキとは関わらない方がいい。

本能が、そう訴えていた。

もうね、こいつと話すの、本当に疲れる。

さっきまで「さすがヴァルムント家の教育」みたいなことを思ってたのに、一瞬で全部ぶち壊された。

何が「皆殺しにする」だ。なんで最適解が即虐殺なんだよ。

ていうか、これ放っておいたらマジで孤児院全滅ルートに突入するんじゃないか?

……うん、やばい。ここはちょっと、このクソガキを諭してやる必要がある。

「皆殺しにしたら、きっとお父様はがっかりなさるんじゃない?」

その瞬間。

ガキンチョの耳がぴくりと動いた。

お、食いついた。

「なに?」

──よし、しめた!!

ここで一気に押し切る。

「きっとお父様は、私たちの情報収集能力を試したいんだと思うの。ここで皆殺しにしちゃったら、きっと監視している公爵家の手の者が報告しちゃうんじゃない?」

ヴァルムント家の情報網のことは、こいつだって理解しているはず。

少なくとも「監視されていない」なんて甘い考えは持っていないだろう。

だから、こう言っておけば、勝手に自分の頭の中で補完して納得するんじゃない?

そう思って黙っていると、案の定。

──ガキンチョは少し黙った。

はい、勝った。

もうここまで言えば、あとはこいつが勝手に考えて勝手に結論を出すでしょ。

──と、思った次の瞬間。

「……わかった。じゃあ、今考えたプランで行こう」

は!?

もう考えたの!? 今考えた!?!?!?

いやいや、待って待って!? 私の説得が終わったの、ほんの数秒前だよね!? 本当に今考えた!?!?!?!?

この短時間で新しい作戦考えたってこと!? どんだけ脳の回転速いの!? こいつ、もしかして戦闘脳だけじゃなくて頭もめちゃくちゃいい!?!?

すごい。

いや、すごいんだけど……。

次の言葉で、私は一瞬で感動を失った。

「俺の方が年が上だから、俺の言うことは全部聞けよ」

……はぁぁぁぁぁぁ!?!?!?

いやいやいや、今の流れ、完全に私の説得でルート変更したよね!?

もし私が何も言わなかったら、こいつ、確実に孤児院を皆殺しにしてたよね!?!?!?

なのに、なんでこの流れで私が従属ポジションになるの!?!?!?

ここで逆らったら、またナイフで刺される可能性があるから、ここは耐えたほうがいい気がする。

……うん、ここで反発して刺されたら、さすがに報われなさすぎる。

「……わかったわ、兄上」

あぁ、くやしい!!!

馬車がガタガタと揺れながら動き出す。

もう後戻りはできない。

──ヴァルムント公爵家による、孤児院への潜入調査が始まった。

とはいえ、今の私はまだそこまで実感が湧かない。

……何より、さっきのやり取りが納得いかない。

クソガキが皆殺しルートを選びかけてたから、こっちが必死に説得して路線変更させたのに、結局あいつが主導権握ってるみたいになってるの、どう考えてもおかしくない!?

今、馬車の向かい側に座ってるクソガキが、どや顔で腕を組んで座ってるのが本当にムカつく。

「……お前さ、内心では絶対“俺が正しい判断をした”とか思ってるでしょ?」

ってツッコみたかったけど、ここでまた言い争いになったら本格的に刺されそうなので、ここはグッと飲み込む。

……はぁ、納得いかない。

──そんなモヤモヤした気持ちを吹き飛ばすように、隣から無機質な声が響いた。

「それでは、調査の概要を説明いたします」

……鬼畜Aだ。

相変わらず無表情、無機質な声音。

「……あんた、いつの間に乗ってたの?」

いや、乗ってたこと自体は知ってるけど、あまりにも空気すぎて気配を完全に消してた。

この人、マジで忍者なんじゃないの? ゴキAとか鬼畜Aとか言ってたけど、今度から“忍A”にしたほうがいいのでは???

──と、そんなことを考えていると、鬼畜Aが淡々とした口調で話し始めた。

「今回の任務の目的は、ヴァルムント公爵領の外れに位置する孤児院の実態を把握し、怪しい動きをしている者を特定することです」

まぁ、そりゃそうだろうな。

「その孤児院では、王国からの援助金の横領、不正取引、児童虐待、人身売買などが行われている可能性が高いと見られています」

うわ……思った以上に真っ黒じゃん。

ていうか、この段階でそこまで情報掴んでるのに、なんで潜入調査しなきゃいけないの!?

これ、もう確定でアウトじゃない!? さっさと証拠押さえて潰せばいいのに!

「ヴァルムント公爵家は、すでに一定の情報を掴んでいますが、確証を得るためにさらなる調査が必要と判断されました」

なるほど、証拠が決定的じゃないから慎重に動いてるってことか。

──でも、ここで一つ気になることがある。

「ねぇ、ちょっといい?」

馬車の中に響く私の声。

鬼畜Aは一瞬だけ視線を向けるが、特に驚いた様子もなく、ただ「何でしょうか」と返す。

「確証を得るのが目的なら、普通にスパイを送り込んだほうが早くない? なんでわざわざ、こんな小さい子供を送り込んでるの?」

ぶっちゃけ、私はずっとそれが疑問だった。

ヴァルムント公爵家には、情報収集を専門にする人間だっているはずだ。

それこそ、鬼畜Aみたいな存在を一人送り込めば、余裕で証拠掴めるでしょ。

……なのに、なんでよりによって3歳児と6歳児なの?

その問いに、鬼畜Aは淡々と答えた。

「理由は二つあります」

「まず一つ目は、孤児院には大人の侵入が極めて難しいためです」

なるほど。

「孤児院は完全に閉鎖的な環境であり、外部の者が関与しづらい体制が整えられています。職員も限られており、新しい者を雇うことも少なく、大人が潜入するのはリスクが高い」

だから、見た目からして“孤児”にしか見えない私たちを送り込んだってことか。

……まぁ、それはわかる。

でも、それなら「適当に捕まえた本物の孤児を使えばいい」って話にならない?

スラム街とかにいけば、孤児なんていくらでもいるでしょ? わざわざヴァルムント家の子供を送り込む必要はないのでは?

そう思った瞬間、鬼畜Aが続ける。

「そして二つ目の理由ですが……お嬢様と坊ちゃまの“適性”を見極めるためでもあります。」

……は?

「今回の潜入調査は、単なる情報収集ではなく、“教育”の一環でもあります。お二人がどのように判断し、どのように行動するか──それを見定めるための試練です」

……

………

………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?!?!?

やっぱりそういうことかよ!!!

これ、完全に父親の趣味じゃん!!!

いや、確かにヴァルムント家の英才教育が異常なのは理解してたよ!? 理解してたけど!!!

まさか「潜入調査を任せる理由」が、私たちの“適性”を見極めるためってどういうこと!?!?

こんなもの、もはや訓練じゃなくて実戦じゃん!!!!!

──そんな絶望感に打ちひしがれていると、向かいのクソガキが「ふん」と鼻を鳴らした。

「要するに、俺たちの実力を試すってことか。面白ぇじゃねぇか」

……いや、いやいやいやいや。

何その楽しそうな顔!!!

さっきまで皆殺しにしようとしてた奴が、「俺の能力を試す機会だ」みたいな顔してんじゃねぇよ!!!

ほんとダメだこいつ!! 根っからのヴァルムント家の人間すぎる!!!

「……私は、普通の人生が送りたかったなぁ……」

そんなことを心の中で呟きながら、私はガタガタと揺れる馬車に身を任せた。

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