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第4話「優しい彼は私を待ってくれる」
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送ってくれたけど、別れ際のキスはなかった。
手のひらを押し抱いたキスはくれたけれど。
『このまま君の部屋に入れてほしくなるから』
照れるようなこそばゆいことを真顔で言い、
慧一さんは、愛車のスポーツカーを発進させた。
(彼は、私を怖がらせたくないって、
思ってくれてる。寝てる女に手を出すケダモノではなかったし、信頼に足る男だ)
夜の10時、5月の夜の風はまだ、ひんやりとしていたけれど、私の心は、熱くざわめいていた。
(GWも明日で終わりね)
その日は、慧一さんの夢を見た。
さりげなく手を引いて歩いてくれる彼に、夢の中の私はひどくくつろいだ気持ちになってい。
現実と同じで幸せそうだった。
朝起きると、定番になったメールが入っていた。
「君の部屋に行ってもいいかい?
無理ならもちろん断ってね。外で会おう」
「いいですよ。片づけてお掃除して、
チョコレートのおやつを用意して待ってます」
「……OKしてもらえた上に、手作りのおやつまで食べられるなんて、感激だよ」
大げさに反応され戸惑う。
慧一さんが喜んでくれるなら、私にできることはしたい。
チョコレートが好きだって、昨日教えてくれたから。
携帯を置くと、片づけと掃除をした。
狭い部屋でもくつろいでもらいたい。
「よし! 」
エプロンをつけて三角巾をすると、
お菓子作りを始める。
偶然買っていた板チョコをレンジでチンして、粉と卵とバターと混ぜて、生地を作る。
冷蔵庫で寝かせたあと、生地をくり抜いて、
トースターに載せる。オーブンがなくても
クッキーは作れる。
「慧一さん、できました。お待ちしてますね」
メールでは丁寧語になってしまうことが、多い。
彼は何も言わないけどこれくらいは見逃してほしい。
「OK。すぐ行くよ」
すぐ行くの言葉通り10分程でチャイムが鳴った。
扉を開けると慧一さんは、花束を抱えていた。
「いらっしゃいませ」
「優香、会いたかったよ」
差し出された花束を受け取る。
赤い薔薇と白い薔薇が混ざった花束だ。
数は10本ほど。
「本当はもっとたくさん贈りたかったけど、
部屋に飾れなかったら迷惑だからね」
「十分よ。ありがとう」
「手を洗わせてもらっていい? 」
慧一さんを洗面所に案内した。
花瓶に挿して生けて台所のテーブルに置いた。
部屋のテーブルに置くには香りがきついかなと思ったのだ。台所では食事をしない。
「いい匂いだね」
「こっちに置いてあるの」
慧一さんの背中を押して、居間兼寝室へと誘う。
大胆なことをしてしまった気がする。
「簡単なものしか用意できなかったけど
チョコレートが、好きって知ったから」
「いや、嬉しいよ。クッキーなんて、普段は食べないからね」
「座ってて。お茶を入れてくるわ」
手を洗った後で紅茶を入れた。お盆に載せて運ぶと、慧一さんは、鼻をひくつかせた。
「紅茶の匂いもいいね」
「……狭くてごめんなさい」
「変なことを謝らないの」
その笑顔に、和む。
眼鏡ではなくてコンタクトの彼は、
仕事の時とも違った清潔感の漂う青年だった。
私服は意外にも砕けている。チノパンを履くなんて驚いた。
慧一さんを見ていると胸の高鳴りが、抑えられなくなる。
思わず手のひらで胸元を抑えてしまう。
「苦しいのかい? 」
「初めて部屋に来てくれたものだから」
「可愛らしいね。本当に少女みたいだ」
「……食べてください」
「いただくよ」
慧一さんは、チョコレートクッキーを手に取ると、
噛み締めるようにゆっくりと食べた。
私は彼の姿を見て胸がいっぱいになったので、食べる気にならない。
「食べれそうなら全部食べて。
持ち帰るなら、タッパーか袋につめますし」
「君は食べないの?」
「胸がいっぱいで食べられないの」
「……へえ」
慧一さんが、身を寄せてくる。
耳元に唇をつけてささやいた。
「この一年で、本当に綺麗になったね」
「……えっ、私が? 」
「俺の目の前には君しかいないじゃないか」
引き寄せられた腕の中、心臓が激しく鳴り響く。
「入社したばかりの頃に、声をかけたかったのも事実だけど今の君に告白してよかったよ」
「……慧一さん」
彼が、そう言うなら時が満ちたということなのだろう。
みじろぎすると背中を掻き抱く力が強くなった。
「理性で堪えるのは、大変なんだよ。
俺だって健全な男なんだから」
「……はい」
「過去の恋で傷ついて臆病になっている君を手荒に扱いたくないんだ……」
「あなたの優しさが痛いほど身に染みてくるわ」
「繋がるだけが、すべてじゃないからね……って言い聞かせてるだけかな? 」
ゆるくなった腕の拘束から、逃れ、彼を見上げる。切ない瞳が、こちらを映していた。
「……慧一さん、変なことを聞いてもいい? 」
「どうぞ」
「三年目の浮気って、定番だけど、
あの選曲は、躊躇わなかったの?
歓迎会の席で歌うにはちょっと似つかわしくないというか」
「確かに優香の言う通りだね。おかしな選曲だった」
クスッと笑う顔に見とれた。
「いちいち歌の意味とか考えるのも変ね」
「真面目なだけだろう」
「三年目に浮気したことあるの? 」
「浮気はないねえ。優香はどうなの? 」
慧一さんの瞳は一瞬も揺るがなかった。
私は、ぎくっとした。
「三年ももったことがありません。
最後の彼は浮気が原因で別れましたけど」
「……余計なことを聞いたね。ごめん」
「いいえ。済んだことですから」
「臆病になっても仕方がないよ」
「慧一さんは、信頼できる人だって思います」
「俺だって君を傷つけるかもしれない」
「昨日、酔った私を介抱してくれた
から十分なんです。心は決まってます」
「……俺がそんなに好きなの? 」
「はい」
頭をかき抱かれた。
大きな掌が、頭の上に置かれた。
「顔と同じで髪も綺麗だ」
うっとりするように言われて髪がすかれ始める。
髪を撫でる動きは繊細だ。
私にこんなふうに、触れる人がいるなんて思わなかった。
頭のてっぺんを撫でられたら、胸がきゅんとする。
慧一さんの穏やかで紳士的な部分に、
心が溶かされて、彼のものになりたいって、感じてしまった。
「……今日は用意がないな」
「……えっ、あ……」
慧一さんのつぶやきに顔が赤くなる。
「……近い内に君を全部もらうから、
その時は、逃げないでね」
ぽん、ぽんと背中を撫でられて、
たまらない心地になる。
抱きついたら、抱きしめられた。
「無邪気な誘惑をするね」
「逃げないって意思表示です」
「可愛いなあ」
頬や額、首筋にまでキスが降り注ぐ。
チュッという音が、ときめきを呼ぶこむ。
瞬きして、慧一さんを見た。
彼との初めての夜はどんなだろう。
想像すると、期待で胸がふくらむ。
GW最後の日は、久しぶりにできた彼ととても素敵な時間を過ごした。
夜は、買い物に行った後、私の部屋で、お料理を作って一緒に食べた。
紛い物の指輪は、会社でつけてるだけで、
私と一緒にいる時は外している慧一さん。
そんな彼をまた好きになった。
休日明けの出勤だが、このまま休んでいたいとは思わなかった。
職場では、秘密であろうとも、彼がいるのだ。
職場恋愛のいい所は、
恋人の仕事をしている姿を見られることだ。
そわそわしないよう気をつけて、仕事に取り組む。
昼休みは同僚兼親友が恋人とと結ばれたのを教えてくれたので、
私も課長と付き合いだしたのを告げた。私の告白に驚かなかった。
やっと、想いがかなう時が来たのねと、言われた。
好きだなんて彼女には一言も告げたこともなかったが、お見通しだった。
結婚指輪は、偽物だったというのも隙のない課長らしいと笑った。
残業も終わり、帰り支度もできた頃、携帯が着信を知らせた。
慧一さんからのメールだ。
『送っていくから駐車場まで』
『はい』
即返事をして、駐車場に向かう。
しばらく待っていると、靴音が聞こえてくる。
身長の高い彼の歩幅は、大きい。
あと一歩と数えた次の瞬間には、腕を引かれていた。
「優香、お待たせ。今からは恋人同士の時間だよ」
慧一さんは、私を一度腕に抱いた後、助手席のドアを開けた。
左手に、車のキーを持っている。
助手席に、私が乗るのを確認すると、慧一さんも運転席の扉を開けた。
紛い物の指輪を外し、サイドポケットに
入れる様子を食い入るように見てしまう。
「どうしたの?」
「指輪を外す姿も色っぽいなって」
「優香は、男泣かせだね」
「そうかしら? 」
「……この上なく」
「け、慧一さん!? 」
シートベルトをしようとした私は、助手席に押し倒された。
シートが、後ろに傾いていく。
大きな身体がのしかかって来て、瞳を閉じる。背中に腕を回す。
「……ん……ふっ」
唇を割られて、舌が入ってくる。
大きな手が、胸元をまさぐった。
「……煽ったお前が悪い」
君ではなくお前と言われた。嫌な気分はなく、むしろとても心地よい響きだった。
「思ったことを口にしただけよ」
「優香は危険だな」
胸に置かれた手が動いた。
深く口づけられながら、肌への刺激を受けて鼻から甘い吐息が弾んだ。
「……あ……んっ」
「俺は君が、思ってるほど大人でも、理性的でもない。
一年も耐えたんだから、そろそろ褒美をもらわないと」
胸のふくらみの上で、円を描く手のひら。
ちゅく、ちゅくと交わし合う唇。
秘めたる場所が、熱くなっている。
「だ、だめ……車を出して」
「……すまない」
慧一さんは、私の身体から身を引いた。
うなだれている様子に、いたたまれなくなる。
車の中は、暗いがそれくらいは分かった。
「一つ嘘をつきました」
「……女だってこと? 」
「私は処女ですから」
「女と言ったのは、大人だって、主張だったんだろ……君が女の子なのはよくわかった」
「子供扱いしないで」
「子供に欲情はしない。君が初体験がまだとか、関係なく本気でいくよ」
どくん、心臓が暴れた。
「……はい」
「君を待てなかった浮気男と同列に並びたくないものだが」
悟られて驚く。
拒絶されたから、元カレは浮気した。
部屋に来ると分かっていながら、自分の部屋に女性を招き入れた。
あの時は、最大限の罵りの言葉を吐いて逃げ出し、連絡先を消した。
「あなたは、違うわ」
「処女なのは、嬉しいが少し怖くなったな」
息を飲む。
慧一さんが、運転の準備を始めて、慌ててシートベルトを装着した。
「奪い尽くしても終わる自信がない」
駐車場から出た車の中、横顔を見つめる。
上の立場として、私より背負うものが大きい慧一さんは、
私よりずっとかかる負荷も大きい。
少しでも疲れを癒してあげられたら、と思う。
付き合って一週間足らずで、結ばれてもない関係だけれど。
「……慧一さん、週末どこかへ行きませんか? 」
「君の方からお誘いとは、珍しいね」
「連れて行ってくれるのは、慧一さんですけど」
待っているだけでは、よくない。
自分から誘いかけなければ。大胆に思われたっていい。
手のひらを押し抱いたキスはくれたけれど。
『このまま君の部屋に入れてほしくなるから』
照れるようなこそばゆいことを真顔で言い、
慧一さんは、愛車のスポーツカーを発進させた。
(彼は、私を怖がらせたくないって、
思ってくれてる。寝てる女に手を出すケダモノではなかったし、信頼に足る男だ)
夜の10時、5月の夜の風はまだ、ひんやりとしていたけれど、私の心は、熱くざわめいていた。
(GWも明日で終わりね)
その日は、慧一さんの夢を見た。
さりげなく手を引いて歩いてくれる彼に、夢の中の私はひどくくつろいだ気持ちになってい。
現実と同じで幸せそうだった。
朝起きると、定番になったメールが入っていた。
「君の部屋に行ってもいいかい?
無理ならもちろん断ってね。外で会おう」
「いいですよ。片づけてお掃除して、
チョコレートのおやつを用意して待ってます」
「……OKしてもらえた上に、手作りのおやつまで食べられるなんて、感激だよ」
大げさに反応され戸惑う。
慧一さんが喜んでくれるなら、私にできることはしたい。
チョコレートが好きだって、昨日教えてくれたから。
携帯を置くと、片づけと掃除をした。
狭い部屋でもくつろいでもらいたい。
「よし! 」
エプロンをつけて三角巾をすると、
お菓子作りを始める。
偶然買っていた板チョコをレンジでチンして、粉と卵とバターと混ぜて、生地を作る。
冷蔵庫で寝かせたあと、生地をくり抜いて、
トースターに載せる。オーブンがなくても
クッキーは作れる。
「慧一さん、できました。お待ちしてますね」
メールでは丁寧語になってしまうことが、多い。
彼は何も言わないけどこれくらいは見逃してほしい。
「OK。すぐ行くよ」
すぐ行くの言葉通り10分程でチャイムが鳴った。
扉を開けると慧一さんは、花束を抱えていた。
「いらっしゃいませ」
「優香、会いたかったよ」
差し出された花束を受け取る。
赤い薔薇と白い薔薇が混ざった花束だ。
数は10本ほど。
「本当はもっとたくさん贈りたかったけど、
部屋に飾れなかったら迷惑だからね」
「十分よ。ありがとう」
「手を洗わせてもらっていい? 」
慧一さんを洗面所に案内した。
花瓶に挿して生けて台所のテーブルに置いた。
部屋のテーブルに置くには香りがきついかなと思ったのだ。台所では食事をしない。
「いい匂いだね」
「こっちに置いてあるの」
慧一さんの背中を押して、居間兼寝室へと誘う。
大胆なことをしてしまった気がする。
「簡単なものしか用意できなかったけど
チョコレートが、好きって知ったから」
「いや、嬉しいよ。クッキーなんて、普段は食べないからね」
「座ってて。お茶を入れてくるわ」
手を洗った後で紅茶を入れた。お盆に載せて運ぶと、慧一さんは、鼻をひくつかせた。
「紅茶の匂いもいいね」
「……狭くてごめんなさい」
「変なことを謝らないの」
その笑顔に、和む。
眼鏡ではなくてコンタクトの彼は、
仕事の時とも違った清潔感の漂う青年だった。
私服は意外にも砕けている。チノパンを履くなんて驚いた。
慧一さんを見ていると胸の高鳴りが、抑えられなくなる。
思わず手のひらで胸元を抑えてしまう。
「苦しいのかい? 」
「初めて部屋に来てくれたものだから」
「可愛らしいね。本当に少女みたいだ」
「……食べてください」
「いただくよ」
慧一さんは、チョコレートクッキーを手に取ると、
噛み締めるようにゆっくりと食べた。
私は彼の姿を見て胸がいっぱいになったので、食べる気にならない。
「食べれそうなら全部食べて。
持ち帰るなら、タッパーか袋につめますし」
「君は食べないの?」
「胸がいっぱいで食べられないの」
「……へえ」
慧一さんが、身を寄せてくる。
耳元に唇をつけてささやいた。
「この一年で、本当に綺麗になったね」
「……えっ、私が? 」
「俺の目の前には君しかいないじゃないか」
引き寄せられた腕の中、心臓が激しく鳴り響く。
「入社したばかりの頃に、声をかけたかったのも事実だけど今の君に告白してよかったよ」
「……慧一さん」
彼が、そう言うなら時が満ちたということなのだろう。
みじろぎすると背中を掻き抱く力が強くなった。
「理性で堪えるのは、大変なんだよ。
俺だって健全な男なんだから」
「……はい」
「過去の恋で傷ついて臆病になっている君を手荒に扱いたくないんだ……」
「あなたの優しさが痛いほど身に染みてくるわ」
「繋がるだけが、すべてじゃないからね……って言い聞かせてるだけかな? 」
ゆるくなった腕の拘束から、逃れ、彼を見上げる。切ない瞳が、こちらを映していた。
「……慧一さん、変なことを聞いてもいい? 」
「どうぞ」
「三年目の浮気って、定番だけど、
あの選曲は、躊躇わなかったの?
歓迎会の席で歌うにはちょっと似つかわしくないというか」
「確かに優香の言う通りだね。おかしな選曲だった」
クスッと笑う顔に見とれた。
「いちいち歌の意味とか考えるのも変ね」
「真面目なだけだろう」
「三年目に浮気したことあるの? 」
「浮気はないねえ。優香はどうなの? 」
慧一さんの瞳は一瞬も揺るがなかった。
私は、ぎくっとした。
「三年ももったことがありません。
最後の彼は浮気が原因で別れましたけど」
「……余計なことを聞いたね。ごめん」
「いいえ。済んだことですから」
「臆病になっても仕方がないよ」
「慧一さんは、信頼できる人だって思います」
「俺だって君を傷つけるかもしれない」
「昨日、酔った私を介抱してくれた
から十分なんです。心は決まってます」
「……俺がそんなに好きなの? 」
「はい」
頭をかき抱かれた。
大きな掌が、頭の上に置かれた。
「顔と同じで髪も綺麗だ」
うっとりするように言われて髪がすかれ始める。
髪を撫でる動きは繊細だ。
私にこんなふうに、触れる人がいるなんて思わなかった。
頭のてっぺんを撫でられたら、胸がきゅんとする。
慧一さんの穏やかで紳士的な部分に、
心が溶かされて、彼のものになりたいって、感じてしまった。
「……今日は用意がないな」
「……えっ、あ……」
慧一さんのつぶやきに顔が赤くなる。
「……近い内に君を全部もらうから、
その時は、逃げないでね」
ぽん、ぽんと背中を撫でられて、
たまらない心地になる。
抱きついたら、抱きしめられた。
「無邪気な誘惑をするね」
「逃げないって意思表示です」
「可愛いなあ」
頬や額、首筋にまでキスが降り注ぐ。
チュッという音が、ときめきを呼ぶこむ。
瞬きして、慧一さんを見た。
彼との初めての夜はどんなだろう。
想像すると、期待で胸がふくらむ。
GW最後の日は、久しぶりにできた彼ととても素敵な時間を過ごした。
夜は、買い物に行った後、私の部屋で、お料理を作って一緒に食べた。
紛い物の指輪は、会社でつけてるだけで、
私と一緒にいる時は外している慧一さん。
そんな彼をまた好きになった。
休日明けの出勤だが、このまま休んでいたいとは思わなかった。
職場では、秘密であろうとも、彼がいるのだ。
職場恋愛のいい所は、
恋人の仕事をしている姿を見られることだ。
そわそわしないよう気をつけて、仕事に取り組む。
昼休みは同僚兼親友が恋人とと結ばれたのを教えてくれたので、
私も課長と付き合いだしたのを告げた。私の告白に驚かなかった。
やっと、想いがかなう時が来たのねと、言われた。
好きだなんて彼女には一言も告げたこともなかったが、お見通しだった。
結婚指輪は、偽物だったというのも隙のない課長らしいと笑った。
残業も終わり、帰り支度もできた頃、携帯が着信を知らせた。
慧一さんからのメールだ。
『送っていくから駐車場まで』
『はい』
即返事をして、駐車場に向かう。
しばらく待っていると、靴音が聞こえてくる。
身長の高い彼の歩幅は、大きい。
あと一歩と数えた次の瞬間には、腕を引かれていた。
「優香、お待たせ。今からは恋人同士の時間だよ」
慧一さんは、私を一度腕に抱いた後、助手席のドアを開けた。
左手に、車のキーを持っている。
助手席に、私が乗るのを確認すると、慧一さんも運転席の扉を開けた。
紛い物の指輪を外し、サイドポケットに
入れる様子を食い入るように見てしまう。
「どうしたの?」
「指輪を外す姿も色っぽいなって」
「優香は、男泣かせだね」
「そうかしら? 」
「……この上なく」
「け、慧一さん!? 」
シートベルトをしようとした私は、助手席に押し倒された。
シートが、後ろに傾いていく。
大きな身体がのしかかって来て、瞳を閉じる。背中に腕を回す。
「……ん……ふっ」
唇を割られて、舌が入ってくる。
大きな手が、胸元をまさぐった。
「……煽ったお前が悪い」
君ではなくお前と言われた。嫌な気分はなく、むしろとても心地よい響きだった。
「思ったことを口にしただけよ」
「優香は危険だな」
胸に置かれた手が動いた。
深く口づけられながら、肌への刺激を受けて鼻から甘い吐息が弾んだ。
「……あ……んっ」
「俺は君が、思ってるほど大人でも、理性的でもない。
一年も耐えたんだから、そろそろ褒美をもらわないと」
胸のふくらみの上で、円を描く手のひら。
ちゅく、ちゅくと交わし合う唇。
秘めたる場所が、熱くなっている。
「だ、だめ……車を出して」
「……すまない」
慧一さんは、私の身体から身を引いた。
うなだれている様子に、いたたまれなくなる。
車の中は、暗いがそれくらいは分かった。
「一つ嘘をつきました」
「……女だってこと? 」
「私は処女ですから」
「女と言ったのは、大人だって、主張だったんだろ……君が女の子なのはよくわかった」
「子供扱いしないで」
「子供に欲情はしない。君が初体験がまだとか、関係なく本気でいくよ」
どくん、心臓が暴れた。
「……はい」
「君を待てなかった浮気男と同列に並びたくないものだが」
悟られて驚く。
拒絶されたから、元カレは浮気した。
部屋に来ると分かっていながら、自分の部屋に女性を招き入れた。
あの時は、最大限の罵りの言葉を吐いて逃げ出し、連絡先を消した。
「あなたは、違うわ」
「処女なのは、嬉しいが少し怖くなったな」
息を飲む。
慧一さんが、運転の準備を始めて、慌ててシートベルトを装着した。
「奪い尽くしても終わる自信がない」
駐車場から出た車の中、横顔を見つめる。
上の立場として、私より背負うものが大きい慧一さんは、
私よりずっとかかる負荷も大きい。
少しでも疲れを癒してあげられたら、と思う。
付き合って一週間足らずで、結ばれてもない関係だけれど。
「……慧一さん、週末どこかへ行きませんか? 」
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