甘く残酷な支配に溺れて~上司と部下の秘密な関係~

雛瀬智美

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第6話「君をもののように扱うつもりはない」

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怖くなって目を閉じたが、感覚でわかってしまう。
胸のふくらみの上に手が置かれている。
「……っ、あ……ふぁ……」
あやす手つきだ。
やわらかくこねては、手を離す。
「こんなことされるの初めて? 」
「……はい。深いキス以外知りませんでした」
「そうか。キスには慣れてるんだなとは思ったが……切ないなあ。妬いてしまうよ」
「でも、慧一さんとのキスが初めてです!
心地よくて、もっと欲しいって思ったのは、あなたとのキスだけなの」
「ふうん」
舌なめずりされた。
「どこで、そんな殺し文句覚えてきたのかな? 」
慧一さんを見上げた。髪をかきあげて、私の首筋に唇を押しあてる。
胸元に這わせた手が、さっきより、強めに動く。
「愛を撫でているんだよ」
「愛を撫でる? 」
「優香、今は俺に身をゆだねて。君が気持ちよくなってくれたら、嬉しい」
ブラウスのボタンが外される。下着を押し上げられた。
誰にも見せたことがない肌を慧一さんに見せている。
羞恥か、快楽か私の肌は熱くなっている。
彼の目には色づいて見えるだろうか。
「綺麗だよ……無垢な心と同じで肌も無垢なんだね」
「きゃあ……っ」
慧一さんは、中指で、私のふくらみの頂点を弾いた。
双方交互に。
「薄い桃色……食べちゃいたい」
頂に、唇が吸いつく。
舌を絡めてしゃぶっている。
唇を噛んで声を押さえようとしても、勝手にほとばしってしまう。
こんな声、聞かれたくないと願っても、慧一さんの行為は、
次第にエスカレートしていき、私の呼吸を乱した。
「……優香が、可愛すぎて理性なんて、吹き飛んでしまう。
清らかな女ほど、中身は淫らだって言うけど、まさにそうだね」
ふくらみが、揉みしだかれる。
頂きを食みながら、しゃべられると震えが増すばかりだった。
「わたし、変じゃない? 反応とか、身体が……変なのかもしれない」
消せない過去に、未だ縛られている。
「変だとか言われたことがあるのか。
それは、許せない愚行だな! 」
びく、とした。
慧一さんが、こんなに激しさを見せるなんて。
「ごめんね。優香を怖がらせるつもりはなかったんだ。
過去の男への嫉妬と憎しみかな。好きな人に触れられるのは、嬉しいけど怖いことなのにね」
「はい。でも慧一さんは怖くないわ」
起き上がって抱きつくと、慧一さんは、抱き返してくれた。
髪を撫でて、頬に口づけられる。
「俺が君を心ごと抱いてあげる……」
背中を撫でる指には、偽りなんてない。
「……優香」
「慧一さん、抱いてください」
「今日はもう、やめよう」
「え……どうして? 」
「優香は、俺のものになりたいって思っているの?」
「慧一さんのものになりたい。あなたの全部がほしい」
「とても情熱的だが、アウトだ。
君は誰のものにもならないよ。この先ずっとね」
頭をかきいだかれる。
「俺の全部をあげるのは簡単だけど、君を
もののように扱うつもりはない」
「……うっ」
泣いてしまう。こんな風に大事にされることがあるだなんて。
男の人は、すぐしたがるものだって、思ってたけどそうでもない。
慧一さんは、自制心がある大人の男性。
弱気な私を見透かして、なだめてくれた。
はだけられた下着が直される。
「……慧一さん、私のことを愛してますか? 」
彼の言葉が欲しいのは、私のわがまま。
「愛してるから、自分の欲を押しつけなかったんだよ」
腕が、私を導く。触れた場所からは熱と体温が伝わってきた。
「……私のことをこんなにも愛してくれてるのね」
(慧一さんの欲望は、私が燃え上がらせた……)
優越感というより独占欲。
もう彼を離したくない。
「そうだよ。優香を愛しているからだ」
「いい女になるから抱いてね」
「優香はいい女だよ
今すぐひとつになりたいけど、もったいないから、
自分にお預けを食らわせることにしたんだ」
慧一さんは、苦笑いした。
窓からの陽光に照らされて端正な面立ちが、よくわかる。
「あなたのような素敵な人に言われたら照れてしまうわ」
「俺の心を殺す気なの? 」
甘い眼差しを注がないで。
「優香が、今まで経験してなかったことは、
神に感謝だね。これから一緒に階段をのぼろう?」
「はい……」
「お姫様に相応しい場所で、素敵な夜を迎えようね」
「お姫様じゃないけど、約束よ」
「約束の印を消えないように、
残してあげるから」
慧一さんが、身を寄せてくる。
「……っん」
耳朶に触れた舌。あの時にされたより強い力で、口づけられて、舌が這う。
首筋から、鎖骨まで甘く熱い感覚が、もたらされる。
強く吸われて、声をあげる。
ちくりとした感覚。
痛かったけれど、とても幸福に満ちた瞬間だった。
「……慧一さん……」
「何だい? 」
「どんな痛みでも、与えてほしい」
「そういうことを口にしたら、いけない。
優香は、それを学んでいかなければね」
「わかりました」
乱れた衣服を整えてくれた慧一さんに腕をひかれて、寝室を出た。
私をリビングのソファーに下ろして、
慧一さんは、ダイニングキッチンの方に消えてしまった。
ぼうっとしていると、彼が戻ってくる。
飲み物を載せたトレイを抱えている。
「アイスココアだよ」
渡されたグラスを手に持つ。
隣に腰掛けた慧一さんは、私を見て、くすっと笑った。
「いただいていい? 」
「どうぞ」
「甘い……」
「優香の唇と肌の方が、甘いよ」
「……むせちゃうから」
慧一さんは、アイスココアのグラスを傾ける。
時計は午後3時を指していた。
ソファーに置いたバッグが、振動している。
マナーモードにしている携帯が、着信したらしい。
「ごめんなさい! 携帯が鳴ってるみたいで」
「重要な連絡かもしれないから、早く出た方がいい」
慧一さんが、バッグを渡してくれる。
私は、焦りつつ携帯電話を取り出した。
表示された名前に驚きつつも電話に出る。
怪しまれる相手でもない。
「優香、最近どうしたんだ。連絡してこないな」
「仕事が忙しかったし」
「男できたろ」
「……っ、できてないわ」
「うわ、嘘くさっ。どうせ隣に男いるくせに」
どこまで鋭いのか。
兄は、いつも私の変化に敏感だった。
「さ、朔(さく)兄ちゃん……そのことについては、
また話すから」
言い淀んでいると、兄は舌打ちした。
この電話をどうすれば穏便に終わらせられるのか。
思案していた私に救いの手が差し伸べれた。
貸してと耳元でささやかれ、携帯を渡す。
「はじめまして、香住慧一と申します。
優香さんとお付き合いさせていただいてます」
慧一さんが、自己紹介した。
思い煩う必要がなくなった。
きっと慧一さんなら、兄も信用してくれるだろう。
会話はすぐ終わり、携帯が手に戻ってくる。
慧一さんは、優香さんを大事にしますと、言っていた。
「……優香、とりあえずお前を信用しているから……」
「うん! 私は大丈夫。また連絡するね」
ため息混じりの兄が気にかかったが、
隣の慧一さんは、微笑んでいるので
特に問題はなく会話は終わったのだろう。
携帯電話を閉じると、慧一さんに向き直る。
「……お兄さん、いい声だね」
「カラオケも上手いんですよ」
「それは、聞いてみたい。ところで、
おいくつかな、お兄さん? 」
「6つ上の30歳です。銀行員をしています」
そのうち紹介するつもりでいたので、勝手に言ってしまってもいいだろう。
「堅実な職業だ」
「……自慢の兄なんです。幼い頃から、
お兄ちゃんは、私を可愛がってくれました」
「兄妹愛、いいなあ」
「大人になってからも変わらなくて……
やっぱり女の子のままだったのは、
ブラコンだったからかしら?」
「優香は、愛されているんだね。
短い電話でも伝わってきたよ。こんな
可愛いんだからうなずけるけど」
唇が重なって離れる。
「……私だけを見ていてくれるなら、
何をされても本望なの。こんなこと
誰にでもは言わないから、許して」
「俺がどうにかなりそうになるから、言わないでほしいだけなんだ。
所詮、弱い生き物だからね」
「……嫌じゃないのね」
「優香にされて嫌なことはないよ」
がばっ、と抱きついたら、自然と抱き返された。
背中に回された腕は熱い。
「日曜日なのに、泊まる準備してきて
イケナイ子だね。ここから出社するつもりだったの? 」
近い距離で破壊力のあることを破壊力のある声で、言われると鳥肌が立つ。
「……甘えすぎだったわ」
「泊まっていいよ。部屋はあまってるし、
ベッドを別々にすれば問題ない」
「……うん」
買い物に行って、夕食を共に作って食べて、
お風呂に入った。初めて慧一さんの部屋の
バスルームを使わせてもらって
どきどきした。
厚かましい女だなと思われたかな……今更かと開き直った。
案内された部屋は、シングルベッドが置かれていた。
「狭くて申し訳ない」
「十分広いわ」
「主寝室と比べたらってこと」
慧一さんが、頭を撫でる。
昔から、お兄ちゃんもよくしてくれていたけど、彼にされるのはまた違う。
「独り寝が、寂しかったら添い寝して
もいいけど、朝起きた時に驚かせるのは、よくないからね」
慧一さんの言葉の意味が掴めなかった。
「おやすみなさい」
「おやすみ、優香」
翌朝は、二人で朝食を食べた後、慧一さんの車で出社した。
緊張感がいっぱいだったが、彼は普段と変わらない。
地下駐車場で、車を先に降りると足早に社屋に入った。
午前中は、仕事に追われてあっという間に、
過ぎたものの午後からが長い。
三時の休憩の時間、食堂のそばにある自販機
で飲み物を買っていると慧一さんがやってきた。
「香住課長……」
「三島さんとこんな所で会うなんて、
偶然だね」
「……は、はい」
慧一さんは、白々しいことを言い、自販機のボタンを押した。
ブラックの缶コーヒーだ。
怪しまれたくないので、その場を立ち去ろうとしたが、呼び止められる。
「三島さん、一緒に休憩しない? 」
「す、するわけないです! 」
会社では名前ではなく苗字で呼び合うが、
他の態度は、恋人同士の時と同じだ。
「……残念だな」
慧一さんは、面白がっているのだろうか。
少し疑わしくなってきた。
私も部下として慧一さんに応じているが、悪意はない。
(距離感に気をつけてほしいわ)
眼鏡の奥の瞳には、ほの暗い光が宿っている気もした。
それに、ドキッとする私も重症なのかもしれない。
廊下を早足で去る。
自分のデスクに戻って、アイスカフェオレの缶を傾ける。
「……はぁ」
「優香?」
菜都子が、話しかけてきている。
私より少し小柄で豊かな胸を持つ彼女は、
小柄ゆえに、太って見えやすいと嘆いていた。
「菜都子、お疲れ様」
「お疲れ様どころじゃなさそうだけど」
「……ちょっと色々あって」
「愚痴ならメールや電話で聞くわよ」
「……また話せる時に聞いて」
「わかった」
「菜都子は順調なのね」
会社だから端的に喋っているが、お互い通じ合えている。
「うん。おかげさまで」
頬を染める彼女を微笑ましいと感じた。
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