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第三章 アイテム争奪戦

ふかふかベッド

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 一方、セドリックに連れて行かれた私はといえば……。

「礼儀がなっていない御令嬢ね。サイトウ? そんな身元のはっきり分からない御令嬢と婚約なんてあり得ません」

 セドリックの母に婚約を反対されていた。

「セドリック、こう言われていることだし諦めよう」

「嫌だ! オレはミウ意外の女と婚約なんて絶対しない! ミウ行こう」

「う、うん」

 私はセドリックに手を引かれながら、大きな屋敷の廊下を歩いた。

 先に断っておくが、私は決してセドリックと婚約がしたい訳ではない。ただ、到着して早々にセドリックが私と婚約するとセドリックの両親に言ったのだ。

『父上、母上、紹介致します。こちら、ミウ・サイトウ。既に生涯も誓い合った仲です』

『それは本当か!? あんなに結婚を嫌がっていたのに……。これでこの家も安泰だ」

 セドリックの父には泣いて喜ばれた。紹介された手前、生涯なんて誓っていませんとは言い出しにくかった。

 ひとまず話を合わせて後ほどセドリックとしっかり話せば良いと思っていた矢先、セドリックの母に婚約を大反対されたのだ。

 セドリックは公爵の息子らしい。後継の為にはしっかりとした身分の御令嬢でなければならない。故にセドリックが冷静さを取り戻せば何事もなかったかのように家に帰れる予定だ——。

「廊下長いね」

「そうか?」

 高校の校舎の廊下くらい長い。むしろそれより長いかもしれない。幅も広くて大きなショッピングモールを貸切で歩いているかのような気分にさせられる。セドリックが一つの部屋の前で止まって扉を開けた。

「ここは?」

「オレの部屋だ」

「えっと……」

 兄から言われていることがある。

『決して好きでもない異性の部屋には入っちゃいけないよ。特に二人きりでは』

 その理由は鈍い私にも分かる。だが、セドリックはただ先程の客間に居場所の無くなった私を避難させているだけ。邪な気持ちは決してないと思う。

 部屋に入るのを躊躇っている私を見て、セドリックが怪訝な顔をしながら入室を促してきた。

「ミウ? どうしたの? 入りなよ」

「う、うん。だけどね、お兄ちゃんがね……」

「義兄上がどうしたの……?」

 言いにくいが言うしかない。私はやや俯き加減で小さな声で言った。

「異性の部屋には入っちゃダメだって」

 そう言った瞬間、セドリックが慌てふためいた。顔を真っ赤にさせながら。

「いや、オレは決して美羽とそういうことがしたくて部屋に入れと言ってるわけじゃなくて、いや、したくないと言えば嘘になる。違う、違うんだ。今はそういうのじゃなくて……」

 いつも余裕のセドリックが慌てる様子が新鮮で顔を上げてその様子を見つめていると、セドリックは強引に私の手を引っ張った。

「良いから、とにかく入れ」

「あーあ、入っちゃった。って、何ここ! めっちゃ広い! 私の部屋何個分だろ。十は優に超えてるね」

「それは言いすぎだろ」

「いや、ほんとガチで凄いよ。え、なに、このソファ。高級感溢れすぎでしょ。こっちのベッドなんてどこかの高級ホテルみたい。テレビでしかこんなの見たことないよ! こんなとこで寝たらさぞかし安眠できるんだろうね。ベッドから落ちる心配ないもんね」

 私は好奇の目で部屋の物を眺めた。こんな金持ちの家にお邪魔できることなんて二度とないだろう。この機会に、人生で一度はやってみたかったことをセドリックにお願いしてみた。

「ねぇ、このベッドに飛び込んでみても良い? 後で皺ちゃんと伸ばすからさ。ダメ?」

「え、別に良いけど。ドレスが皺になるよ?」

「ドレスは良いよ。もう着ることないだろうし。じゃあ、遠慮なく……」

 私は思い切りキングサイズよりも更に大きなベッドにダイブした。

「うわぁ、モフモフ。このクッションも気持ちいい」

「気に入った?」 

「うん! お姫様みたいなベッドで寝るっていう、小さい時の夢が叶ったよー。ありがとう」

「可愛い夢だね。好きなだけゴロゴロしてると良いよ」

「ありがとう。幸せ」

 暫くベッドに寝転がっているとウトウトしはじめた。ウトウトしていると、セドリックがベッドの端に腰掛けて私の頭を梳くように撫でてきた。一瞬びくりとしたが、その手が何だか心地よくてされるがままになった。

「ミウ」

「なに?」

「初めて会った時のこと覚えてる?」

「あれは、忘れられないよ」

 初めて異世界に来て、古代遺跡に入ろうとしたらトラップに引っかかって……白骨化遺体の数々。忘れたいのに頭から離れてくれない。

「オレも忘れられないんだ。美羽の気持ちにもきちんと応えたい」

 私の気持ち? 何のことだろうか。あの場でのお願いは全てセドリックが叶えてくれた。山賊抱っこは想定外だったが。

 しかしそれなら何の話だ? 家に早く帰して欲しいということだろうか。うん、今のところセドリックに言ったのはそれしかない。

「なるべく早くお願いね。今すぐでも良いよ」

 セドリックの私を撫でる手がピタッととまった。そしてブツブツと小さな声で独り言を呟きだした。

「確かにな。オレの家に来てもらうことばかり考えていたが、オレがそっちに行っても良いしな。既成事実さえ作ってしまえば後はどうにでもなるか。最悪駆け落ちしても愛があればどうにかなる。うん」

「ごめん、うまく聞き取れなかった。もう一回言ってくれる?」

「何でもない。本当に良いのか?」

「良いよ」

 我が家に帰るのにそんな確認必要ないだろうに。そう思っていると、セドリックが私の上に跨った。

「え、待って、待って……」

「なんだ、恥じらう姿も可愛いな」

「いや、恥ずかしいけどさ……何しようとしてるの?」

「お前の愛に真摯に応えようとしてるだけだ」

 セドリックの顔がどんどん近付いてきて、唇が私のそれに触れるか触れないかというところで扉がパッと開いた。その瞬間セドリックの顔も同時に離れた。

「迎えにきたぞ、美羽!」

「早く帰らないと明日の学校に支障が出てしまいますわ」

「魔王様、レイラ!」

 私は状況を把握しきれていないが、魔王とレイラの顔を見て心底安堵した。

「ごめんね、セドリック。私帰らなきゃ」

「うん。すぐに迎えに行くから」
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