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第五章 決戦の時
プロポーズ
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私は兄と魔王、レイラと自宅のリビングで緑茶を啜っている。
「良かったのかな。後処理全部任せちゃって」
「良いんじゃない? 僕らが出て行くとややこしくなるし」
「俺が出て行くのも少々面倒なことになるからな」
「その国の者に任せるのが一番ですわ」
そう、私達は戦いの後、正気に戻ったセドリックに後処理を任せて帰宅したのだ。
「でもどうしてセドリックだけ正気に戻ったんだろうね。他の四人はまだ惚れ薬の効果切れてなかったよ」
「それなのですが、一つ思い出したことが」
「どうしたの?」
レイラが自身のスマートフォンを取り出し、何やら検索し始めた。そして『胸キュンラバーⅡ』のアイテムの詳細が書かれたページを開いて見せた。
「これを見てくださいませ。美羽のアイテムは解毒作用もあるらしいのですわ」
「え、てことは私が解毒したの? てか、惚れ薬って毒なの?」
「精神を操るからな。毒の一種なのだろう」
「美羽はセドリックが正気に戻る時にアイテム使ってないの?」
「使ってないよ。観戦はしてたけど」
即答したが、私は一つ思い出した。
「独り言は言ったかも。『セドリックの惚れ薬の効果が早く切れれば良いのに』って」
「それだね」
「それだな」
「それですわね」
マジか。そんなことを知っていたら、初めから惚れ薬の効果を無効にして不毛な戦いを阻止できていたはずだ。
「今からみんなを正気に戻しに行った方が良いかな?」
私の問いに魔王が顎に手を当てながら考え出した。
「あれは……そのままにしておいた方が良いだろう」
「なんで? 早く正気に戻った方がみんなの為じゃない?」
「それはそうだが、美羽が後々面倒ごとに巻き込まれる可能性がある」
「私?」
私が不思議そうに魔王を見ると、レイラも魔王に賛同して言った。
「魔王様の仰る通りですわ。既に惚れ薬の件は国王陛下の耳に入っています。その対策も講じられているはずですわ。そこへ美羽が解毒してしまえば、美羽は一気に英雄ですわ」
「ダメなの?」
「崇め奉られて聖女としてこき使われますわ。さらには、いずれサイラス殿下と結婚になりますわよ。あの国で聖女は王族と結婚する事が決定されていますから」
「え……でも魔王様が連れ帰ってくれるし……」
「王城には転移出来ない部屋があっただろう。どういう仕組みかは分からんが、あれを美羽に仕掛けられたら二度とこっちに戻れんかもしれん」
「うわぁ……放っとこう」
何もせずとも一ヶ月経てば元に戻るのだ。そんな危険をおかしてまで助けようとは思わない。
そうとなれば、私はもう異世界に用事はない。攻略してしまったセドリックとアレックスには申し訳ないが、このままフェードアウトしよう。
◇◇◇◇
それから一ヶ月後。惚れ薬の効果も切れ、シャーロットの処分も決定した。
シャーロットは斬首刑になるところだったが、修道院送りとなった。何でもシャーロットは早く死にたがっていたそうだ。
『あたしを早く殺してちょうだい。そしたら別の世界に転生して次こそはハッピーエンドにしてみせるんだから』
と、喚き散らしながら殺せ殺せと言ってくるのだとか。死にたい者を殺すのは処罰の意味がないので、修道院……つまり一生出られない牢獄で今世は長生きしてもらうつもりのようだ。
「良いんだけどさ、魔王様、最近滞在時間が前よりも長くなってない?」
戦闘が終わった今も魔王はまだ我が家に居候中だ。
「美羽のせいだ。文句を言うな」
「なんで私? 責任転嫁じゃない?」
急に自分のせいにされてイラッとしたが、魔王の次の言葉を聞いたら何も言えなくなった。
「ブラッドを除いて、攻略対象達が魔王城に代わる代わる美羽を訪ねてくるのだ。お前のせいだろう」
「……」
「セドリックやアレックスだけじゃなく、コリンも攻略していたんだな」
「え、でもコリンはこの間振られたよ。僕にはシャーロットがいるとか何とか」
魔王が溜め息を吐きながら言った。
「それは惚れ薬をかけられた後の話だろう。『自分に嘘を吐くのも誰かに遠慮して我慢するのもやめた』と言って婚約を申し込みに来たぞ」
「マジか……」
いや、嬉しいけどさ。コリンの考え方が変わったことも、自分を好いてくれていることも嬉しい。けれど、私はあちらの世界で結婚する気は毛頭ないのだ。
さて、どうしたものか。このままフェードアウトを狙ったとしても魔王に迷惑がかかるだけな気がしてきた。
やはり逃げ回らずに一度一人ずつ話をしに行くべきか。私が悩んでいると、魔王がお煎餅を齧りながらのんびりと言った。
「美羽は別に行かなくて良い」
「え、でも……」
「行ったところであいつらは諦めんだろ」
確かにそれはある。乙女ゲームのキャラだからかとても一途で愛が重たい。さらには、逆ハーエンドがあるくらいだ。『一人に決めなくて良いから一緒にいてくれ!』みたいなことになりそうだ。
両思いであるのならそれもアリかもしれない。しかし、私は別世界の人間だからか、どうしても彼らを恋愛対象として見ることが出来ない。
「美羽が結婚でもすれば流石に諦めそうだがな」
「確かに……。結婚かぁ」
高校生ではあるが、既に私も結婚出来る年齢だ。生涯を共に過ごすことを誓い合って一生寄り添うのか……。悪くない。
「魔王様、私と結婚する?」
「良かったのかな。後処理全部任せちゃって」
「良いんじゃない? 僕らが出て行くとややこしくなるし」
「俺が出て行くのも少々面倒なことになるからな」
「その国の者に任せるのが一番ですわ」
そう、私達は戦いの後、正気に戻ったセドリックに後処理を任せて帰宅したのだ。
「でもどうしてセドリックだけ正気に戻ったんだろうね。他の四人はまだ惚れ薬の効果切れてなかったよ」
「それなのですが、一つ思い出したことが」
「どうしたの?」
レイラが自身のスマートフォンを取り出し、何やら検索し始めた。そして『胸キュンラバーⅡ』のアイテムの詳細が書かれたページを開いて見せた。
「これを見てくださいませ。美羽のアイテムは解毒作用もあるらしいのですわ」
「え、てことは私が解毒したの? てか、惚れ薬って毒なの?」
「精神を操るからな。毒の一種なのだろう」
「美羽はセドリックが正気に戻る時にアイテム使ってないの?」
「使ってないよ。観戦はしてたけど」
即答したが、私は一つ思い出した。
「独り言は言ったかも。『セドリックの惚れ薬の効果が早く切れれば良いのに』って」
「それだね」
「それだな」
「それですわね」
マジか。そんなことを知っていたら、初めから惚れ薬の効果を無効にして不毛な戦いを阻止できていたはずだ。
「今からみんなを正気に戻しに行った方が良いかな?」
私の問いに魔王が顎に手を当てながら考え出した。
「あれは……そのままにしておいた方が良いだろう」
「なんで? 早く正気に戻った方がみんなの為じゃない?」
「それはそうだが、美羽が後々面倒ごとに巻き込まれる可能性がある」
「私?」
私が不思議そうに魔王を見ると、レイラも魔王に賛同して言った。
「魔王様の仰る通りですわ。既に惚れ薬の件は国王陛下の耳に入っています。その対策も講じられているはずですわ。そこへ美羽が解毒してしまえば、美羽は一気に英雄ですわ」
「ダメなの?」
「崇め奉られて聖女としてこき使われますわ。さらには、いずれサイラス殿下と結婚になりますわよ。あの国で聖女は王族と結婚する事が決定されていますから」
「え……でも魔王様が連れ帰ってくれるし……」
「王城には転移出来ない部屋があっただろう。どういう仕組みかは分からんが、あれを美羽に仕掛けられたら二度とこっちに戻れんかもしれん」
「うわぁ……放っとこう」
何もせずとも一ヶ月経てば元に戻るのだ。そんな危険をおかしてまで助けようとは思わない。
そうとなれば、私はもう異世界に用事はない。攻略してしまったセドリックとアレックスには申し訳ないが、このままフェードアウトしよう。
◇◇◇◇
それから一ヶ月後。惚れ薬の効果も切れ、シャーロットの処分も決定した。
シャーロットは斬首刑になるところだったが、修道院送りとなった。何でもシャーロットは早く死にたがっていたそうだ。
『あたしを早く殺してちょうだい。そしたら別の世界に転生して次こそはハッピーエンドにしてみせるんだから』
と、喚き散らしながら殺せ殺せと言ってくるのだとか。死にたい者を殺すのは処罰の意味がないので、修道院……つまり一生出られない牢獄で今世は長生きしてもらうつもりのようだ。
「良いんだけどさ、魔王様、最近滞在時間が前よりも長くなってない?」
戦闘が終わった今も魔王はまだ我が家に居候中だ。
「美羽のせいだ。文句を言うな」
「なんで私? 責任転嫁じゃない?」
急に自分のせいにされてイラッとしたが、魔王の次の言葉を聞いたら何も言えなくなった。
「ブラッドを除いて、攻略対象達が魔王城に代わる代わる美羽を訪ねてくるのだ。お前のせいだろう」
「……」
「セドリックやアレックスだけじゃなく、コリンも攻略していたんだな」
「え、でもコリンはこの間振られたよ。僕にはシャーロットがいるとか何とか」
魔王が溜め息を吐きながら言った。
「それは惚れ薬をかけられた後の話だろう。『自分に嘘を吐くのも誰かに遠慮して我慢するのもやめた』と言って婚約を申し込みに来たぞ」
「マジか……」
いや、嬉しいけどさ。コリンの考え方が変わったことも、自分を好いてくれていることも嬉しい。けれど、私はあちらの世界で結婚する気は毛頭ないのだ。
さて、どうしたものか。このままフェードアウトを狙ったとしても魔王に迷惑がかかるだけな気がしてきた。
やはり逃げ回らずに一度一人ずつ話をしに行くべきか。私が悩んでいると、魔王がお煎餅を齧りながらのんびりと言った。
「美羽は別に行かなくて良い」
「え、でも……」
「行ったところであいつらは諦めんだろ」
確かにそれはある。乙女ゲームのキャラだからかとても一途で愛が重たい。さらには、逆ハーエンドがあるくらいだ。『一人に決めなくて良いから一緒にいてくれ!』みたいなことになりそうだ。
両思いであるのならそれもアリかもしれない。しかし、私は別世界の人間だからか、どうしても彼らを恋愛対象として見ることが出来ない。
「美羽が結婚でもすれば流石に諦めそうだがな」
「確かに……。結婚かぁ」
高校生ではあるが、既に私も結婚出来る年齢だ。生涯を共に過ごすことを誓い合って一生寄り添うのか……。悪くない。
「魔王様、私と結婚する?」
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