引きこもり大豚令嬢は今日もマイペースに生きたい

赤羽夕夜

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大豚令嬢はお得意様

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「ひ・め・さぁ~ん!お久しゅうございます~♡半年もの間、報告をブルーベル経由で済ますなんていけずやわ~」

「久しぶり、ディナサ――」

次の日の昼下がり。

ブルーベルは言いつけ通り、ディナサン・ドラムドルその人を連れて来た。

ゴマすりをしながら長身の体を屈めながらこちらに歩み寄る、茶髪でツーブロックの糸目の青年。そしてうさんくさい訛り方と茶色のスーツをパリっと着こなす様は、見る人が見れば彼に見惚れるのだろう。



ディナサンはセールスする気満々で大きなスーツケースを無遠慮にいくつも運ばせてくるのは今に始まったことではない。



ひょうひょうとしており、食えない態度でこちらに接近する。接待用の机を挟んで、猫なで声でご機嫌を伺うのはまさに王国有数の大規模商会の商会長にふさわしい態度......といえなくもないかもしれない。



信頼はしているが、考えが読めないことが多い。この人のおかげで色々な事が助かっているからあまり多くは言わないけど。



「もう、姫さん!僕のことはディーでいい言うとるやんかっ!僕と姫さんの仲やさかい、そう呼んだって欲しいねんなッ?」

「こんな根暗な卑屈デブに愛称で呼んで欲しいとか変わってるでしょ。ま、いつものくだらないやり取りは置いて......」

「こんな、なんて言わんといてぇな。僕は姫さんの体型とかどうでもいいし、体型を自分を卑下する材料にせんといて。姫さんは僕の女神、姫さんにとって、僕は姫さんに尽くす騎士。それでええやんか」

「……臭いセリフね。昨日抱いた女に受けが良かったからそのままそのセリフを転用してるだけでしょ」

初対面が引くくらいの棘のある言葉と皮肉にも、ディナサンは恍惚とした表情を浮かべ、自分の身を抱きしめた。

「ああッ、もう!姫さんのその辛辣な態度がたまらん......ッ!――で、呼んだ理由言うんは使用人が欲しいからやろ?」

これ以上は話が逸れてしまうと、ほどほどにディナサンはテーブルに肘をついて話を切り出した。

呆れながらも一度のみ頷く。一応ブルーベルから経緯は聞いているのだろう。友人に会うような馴れ馴れしい態度から、ビジネスの話をする、真剣な顔付きに変わる。



だから、商人としては信じられる。お金でのやりとりに関してはこの人ほど誠実な人間はいないから。



「そう」

「まぁ、庭の荒れ方の屋敷の手入れが行き届いていない有様みればすぐわかるわ~。んで、何人欲しいん?」

言葉にせずに指を4本突き立てる。意外そうにディナサンは細い目をかっぴらいた。



「そんな少なくてええん?生活費は公爵様が負担してくれんねやろ?20人くらい雇えるやん~」

「公爵様から送られてくる生活費の予算だとこれくらいが限界なの。今でも維持費は私のポケットマネーで賄っているくらいだし」

「......ええ~、ヴァーレンス・グラトニー公爵様ってそんなにケチなん?」



通常貴族の1ヶ月の生活費は1人頭の生活費はおおよそ金貨5枚と言われている。うちの場合、広い中庭の手入れはもちろん、読み書きができてマナーもきちんとできはる上級の使用人が欲しい。人件費や屋敷の維持費もろもろ入れると金貨30枚はいるだろう。



しかし、実際に私に回ってくる生活費は金貨3枚。ブルーベルの給金を入れるにしても、屋敷の維持費まで手を回せない状態だった。


つまり、生活費で使えるのは金貨3枚程度。そして使用人を解雇してしまい、お財布は公爵家が握っている以上は、この離れの管理はこれから自分で回さなければ行けないのだ。

公爵家からの支給金だけでやりくりしようと思うと、身の回りを整えるだけで精一杯だ。


「金貨3枚はすっくなすぎやんか。それ公爵様に言ったん?明かに予算管理の人間が姫さんの生活費を着服しとるやろ」

「グラトニー公爵は忙しいし、予算管理をしているハイリーっていう人間が管理しているんだけど、会おうとしても無視されるから打つ手なし。自分の生活は自分で管理するしかないでしょ」

だが、幸福なことに、私は今までの投資金の配当やら、事業に関わっている関係で普通の貴族が十分に暮らしていける程度にはお金がある。

なんとか事業の仲介料や、ディナサンから貰っている契約金等で月に金貨500枚くらいは手元に入ってきていて貯金もある。

事業等の維持費、投資金、伯爵家にお金を入れても自分で選んで使用人を雇う程度のお金はある。

彼は私が提案した孤児院を利用した教育事業や化粧品事業の共同経営者でもあり、私に入ってくるお金を管理してくれている。

だからこそ、今日ここに呼んだのだ。

「はぁ~、姫さんも苦労しとんやなぁ......。まぁ、人材の件は僕に任しとき。後、4人くらいの給金なら僕が出したるわ。いつも僕の事業にアドバイスしてくれているお礼や。ついでに清掃業者も雇ったろ」


ディナサンは懐から取り出した計算機をぱち、ぱち、と弄りだし、4人分の給金と清掃業者を雇う分の金額を算出する。得意気に笑っているが......。



「いいの?」

「かまへん。かまへん。姫さんのアイデアにはそれ以上の利益を出させてもろうてるから。姫さんの引きこもりライフに協力させたってぇや~」



両手を握って食えない笑みを浮かべる。今はその言葉が頼もしいので、行為に甘えようと思う。教育事業もそうだが、今出資している事業が上手く行けば、長期的な利益が見込めるはずだ。



それまでの辛抱と思えば、この苦痛も嫌ではない気がしてきた。

まぁ、人と関わるのは本当嫌なんだけど。






「んで、姫さんの話はこれで終りでええ?」

「ええ。ここまで足を運んでくれてありがとう。お帰りは――」



あちらです。と言葉を続けようとしたが、流れるような動きでディナサンは私の隣に来ると、友達同士の気軽さで私の肩を抱いた。肩幅......肉幅が大きいから、ディナサンの大きな手が肩を掴み切れてない。



「んもう!姫さん!自分の話が終ったら帰らすなんて薄情やないの!僕も姫さんには用があんねん。たとえばぁ……」



ディナさんは指をパチン、と一度鳴らす。すると、呼んでもいない若い女たちが大小さまざまなスーツケースをもって現われる。



「僕んとこの商会の新作ドレス、アクセサリー、色々あるから見ていったってぇな」

ディナサンのところの従業員だろうか。若い女たちは慣れた手つきで汲みたて式のハンガーラックを手早く設置して、私に売り込む気のあるドレスを並べていく。黒、白、ピンク、水色......暖色から寒色まで色とりどりの、さまざまなタイプのドレスが並べられた。



「......ディナサン、私、ドレスを買うなんていった?」

「女の子がそんなこと言うたらあかん!普通の令嬢は季節ごとにドレスを購入するんやから、姫さんもそれくらいはせな」

「たしかに、春夏秋冬で茶会や夜会があるし、社交界シーズンは同じ服を着るわけにはいかないから、令嬢たちはドレスを買う必要があるけど。そもそも私、社交界にはでないし、ドレスなんて大事なところさえ隠せれば――」



貴族用のドレスは安いものだと、中古で銅貨1枚からだが、高級なものは金貨1枚は珍しくない。ディナサンは高級ドレスを取り扱うので、ここにあるものは最低でも銀貨30枚はするだろう。

......と、いうか。



「私にドレスに対しての文句を言わせて、それを次のドレスのデザインの参考にでもする気なのでしょ。転んでもただで起きないのよね、あなた」

「ひゅ~♪ ひゅ~♪ なんのことやろ~」



下手くそな口笛を吹かせて誤魔化すディナサン。この光景は今に始まったことではないので、これ以上問い詰めるのはやめておく。



「はぁ......、わかった。でも」

「大丈夫!気に入ったのがあればプレゼントするから!な?ええやろ?」

「ドレス費も浮くし、いいか」



大きめのドレスをいくつも着させられて、その度に私は改良点や、気に入った点を伝えると、真剣な表情で、その言葉をメモを取らせた。




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