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12.メリスの気持ち
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元リリアーシアの専属侍女であったメリスは、リリアーシアの修道院入りを理由に公爵家から解雇され、実家に戻って来ていた。
メリスの実家は王都の外れにある。
大きい屋敷ではないが、一応貴族である。
メリスはミセルキン男爵家の令嬢だった。
貴族と言っても貧乏貴族で学校に出しては貰えなかった。
だからメリスは自ら進んで奉公に出る事にした。
少しでも実家の負担を減らす為であり、その分の費用を少しでも弟の教育に回して貰える様にだ。
運良くフェリス公爵家が侍女を募集をかけていた。
多くの女性が面接に来ていたが、メリスも無事採用してもらうことが出来た。
メリスが採用されたのは、リリアーシアと歳が近かったからだった。
しかも、侍女としての教育だけでなく、勉強や礼法や魔法などの教育も受けさせて貰った。
公爵家で多くの事を学んだメリス。
あんな事があり、実家に戻ってきたが公爵家で侍女をやっていたという経歴を持つ彼女がその気になれば、直ぐに別の貴族家に雇って貰えるだろう。
しかし実家に戻って来たメリスの頭に有ったのは、リリアーシアの事だ。
リリアーシアは今頃、修道院での生活を始めた頃だろうか?
それともまだ公爵邸にいるだろうか。
今直ぐ会いに行きたい。
挨拶もさせてもらえなかった。
だから、会って先ずは謝りたかった。
リリアーシアの生活が落ち着くまで待った方がいいだろうか。
本心を言えば、一緒に修道院に行きたかった。
それは許されない願い。
メリスはお金を稼がなければならない、という訳ではない。
そこは貧しくとも男爵家、メリスも男爵家ご令嬢なのだ。
しかし今、メリスに求められているのは高位貴族の侍女となり、できればご令息に見初められる事。
当然男爵家への援助を当てにしての事だ。
メリスには幼い弟がいるが、メリスとしても弟には王立魔法学院に通わせてあげたいという思いもある。
王立魔法学園に通うためにはかなりのお金が必要になる。
実家の財力では難しい。
それにリリアーシアが、自身の側にいて貰う為にメリスが修道女になる事を望まないし、許してもくれないだろう。
もし、自分が高位貴族の令息に見初められて正室なり側室なりになることが出来たなら、リリアーシアには還俗してもらって匿うことが出来るだろうか?
また昔の様に一緒に笑うことが出来るだろうか?
これでお別れなど考えられない。
なんとか一緒に暮らせる手段は無いものか。
「はぁ」
自室で夜空を見ながらメリスはため息をついた。
(お嬢様……)
頭では、直ぐに次の勤め先を探さなければならないのは判っている。
しかし、感情が、リリアーシアへの想いがその邪魔をしてしまう。
リリアーシアはメリスより1歳年下でこっそり妹の様にも思っていた存在だ。
優しいが、おっとりしていて、抜けたところがあるリリアーシア。
お人好しで、簡単に騙されそうな人。
放っておけない。
守ってあげたい。
微笑んでくれる笑顔が忘れられない。
彼女に会いたい。
リリアーシアの笑顔を取り戻す為に、何かをしてあげたい。
そんな想いがメリスから離れてくれないのだ。
「こんなではお嬢様に叱られてしまうわね」
優しい主人だった。(メリスは公爵を主人と思っていない)
リリアーシアがこんな腑抜けた自分を見たらきっと優しく励ますのだろう。
そう思うと、なおさら王太子とナルシリスが許せなかった。
優しい主人を裏切った王太子、友人で在りながら主人を裏切り蹴落としたナルシリス。
得意の風魔法で八つ裂きにしても飽き足りない。
なにも出来ない自分自身が悔しい。
今、メリスの手の平の上では風が渦巻いている。
手の平に魔力を込め、風を起こしているのだ。
ただ、風を起こすだけの魔法。
集中力を研ぎ澄まし、強い精神力、意志に魔力を込めてようやく発動する、手のひらで渦巻く風。
とても弱い風。
団扇を扇いだほうがもっと少労力で強い風が起こせるだろう。
でも、メリスが初めて魔法で弱い風を起こすことに成功した時、自身の事のようにリリアーシアは喜んでくれた。
魔法のネックレスをお祝いにくれた。
魔法のネックレスは魔法の杖の代わりの役割を果たしてくれる魔道具で、手ぶらで魔法が使うことが出来るので大変便利な物だ。
そしてとても高価な物でもある。
これを売れば、弟を学園に通わせる費用の足しになってくれるだろうが、メリスにその気は無い。
これは墓場までも持っていくと決めた、メリスだけの宝物なのだ。
なにか、せめて主人の為に出来ることはないだろうか?
手の平の風を見つめながらリリアーシアの事を考える。
メリスは今でもまだリリアーシアの専属侍女だった。
◇◆◇
翌日、メリスは市場に買い出しに来ていた。
実家には使用人が2人いるが、忙しそうにしていたのでメリスが散歩がてら買い出しに出る事にしたのだ。
メリスは店に並べられた野菜を吟味していると、背後より名前を呼ばれた。
「メリスちゃんじゃない?」
懐かしい声だった。
公爵家へ奉公に上がるまで、仲良くしていた同じ男爵家の令嬢で姉の様に慕っていた人の声だった。
振り返ると、そこには予想通りの人が居た。
「シアン姉さん!」
懐かしい、何年ぶりか。
記憶にあった姿はまだ少女だった。
でも今目の前にいるのは大人になった美しい女性。
でも、姉の様に慕った人に間違いなかった。
「お久しぶりね。何年ぶりかしら?」
「私が奉公に上がったのが9歳の時だから9年かな」
「メリスちゃん綺麗になったわ」
「私なんて。シアン姉さんの方が断然綺麗だわ」
変わらないなぁ、と思った。
リクシフォン男爵家の令嬢、シアンテリア。
幼少の頃より親交のある同じ男爵家のご令嬢だ。
シアンテリアは気さくな性格で話しやすく、また懐かしさもあってメリスはついつい話し込んでしまう。
「そういえば、ティティは今どうしてるの?」
シアンテリアの妹、ティティの本名はミンティテリス。
メリスにとって、3歳年下の妹の様な存在だ。
ただしもう一人の妹、リリアお嬢様と違ってティティはお転婆で横着者で世話の焼ける妹だ。
シアンテリアよりもメリスに歳が近いのでよく一緒に遊んだものだ。
当時のティティの無邪気な笑顔が思い出される。
懐かしい。
「あの子は今、王立魔法学院に通っているわ。寮暮らしだから私も長期休暇でないと会えないわ」
「そうなんだ。それなら学院で見かけていたかも」
「あら、メリスちゃんも学院に?」
「いえ、私はお嬢様の侍女として」
「あ、私としたことが、ごめんなさい」
シアンテリアはメリスの家の経済力を知っている。
子供を学園に通わせる財力が無い事も。
だから、自らの失言を素直に侘びた。
「いえいえ、シアン姉さん気にしてないって。それよりあの学院は学年が違うと校舎が変わし、私も侍女として控室にいるから会うことが出来なかったのかな。でもティティは何故 寮の入ったの?実家から通えるんじゃ?」
メリスにはシアンテリアの言葉が嫌味では無いことなど百も承知である。
そんな嫌な人ではない。
だから、シアン姉さんが気まずくならない様、メリスは話を進めた。
「それはねえ」
シアンテリアはそこでため息をついた。
その事でなんとなく理由が理解ってしまった。
「一分一秒でも長く寝ていたいからですって」
あ、やっぱり。
ティティはやっぱりティティだ。
と、メリスは納得してしまった。
その日の夜、メリスは手紙を書いた。
宛先はミンティテリス。
懐かしいからではなかった。
学園内の情報を得るためだ。
王太子とナルシリスの情報が得れたらいいな、位の気持ちで書いている。
書きながらもあまり期待はしていない。
ものぐさなミンティテリスが返事を書いてくれるイメージが沸かないし、学園の噂などにも疎そうな気もした。
実際、彼女については、まったくもってメリスの考え通りだった。
だから、メリスの手紙は開封されることもなく、暫く机の上に起きっぱなしにされてしまうのである。
尚、手紙が届いた日の夜、ミンティテリスはベッドの上で唸る残念少女となっていた。
メリスの実家は王都の外れにある。
大きい屋敷ではないが、一応貴族である。
メリスはミセルキン男爵家の令嬢だった。
貴族と言っても貧乏貴族で学校に出しては貰えなかった。
だからメリスは自ら進んで奉公に出る事にした。
少しでも実家の負担を減らす為であり、その分の費用を少しでも弟の教育に回して貰える様にだ。
運良くフェリス公爵家が侍女を募集をかけていた。
多くの女性が面接に来ていたが、メリスも無事採用してもらうことが出来た。
メリスが採用されたのは、リリアーシアと歳が近かったからだった。
しかも、侍女としての教育だけでなく、勉強や礼法や魔法などの教育も受けさせて貰った。
公爵家で多くの事を学んだメリス。
あんな事があり、実家に戻ってきたが公爵家で侍女をやっていたという経歴を持つ彼女がその気になれば、直ぐに別の貴族家に雇って貰えるだろう。
しかし実家に戻って来たメリスの頭に有ったのは、リリアーシアの事だ。
リリアーシアは今頃、修道院での生活を始めた頃だろうか?
それともまだ公爵邸にいるだろうか。
今直ぐ会いに行きたい。
挨拶もさせてもらえなかった。
だから、会って先ずは謝りたかった。
リリアーシアの生活が落ち着くまで待った方がいいだろうか。
本心を言えば、一緒に修道院に行きたかった。
それは許されない願い。
メリスはお金を稼がなければならない、という訳ではない。
そこは貧しくとも男爵家、メリスも男爵家ご令嬢なのだ。
しかし今、メリスに求められているのは高位貴族の侍女となり、できればご令息に見初められる事。
当然男爵家への援助を当てにしての事だ。
メリスには幼い弟がいるが、メリスとしても弟には王立魔法学院に通わせてあげたいという思いもある。
王立魔法学園に通うためにはかなりのお金が必要になる。
実家の財力では難しい。
それにリリアーシアが、自身の側にいて貰う為にメリスが修道女になる事を望まないし、許してもくれないだろう。
もし、自分が高位貴族の令息に見初められて正室なり側室なりになることが出来たなら、リリアーシアには還俗してもらって匿うことが出来るだろうか?
また昔の様に一緒に笑うことが出来るだろうか?
これでお別れなど考えられない。
なんとか一緒に暮らせる手段は無いものか。
「はぁ」
自室で夜空を見ながらメリスはため息をついた。
(お嬢様……)
頭では、直ぐに次の勤め先を探さなければならないのは判っている。
しかし、感情が、リリアーシアへの想いがその邪魔をしてしまう。
リリアーシアはメリスより1歳年下でこっそり妹の様にも思っていた存在だ。
優しいが、おっとりしていて、抜けたところがあるリリアーシア。
お人好しで、簡単に騙されそうな人。
放っておけない。
守ってあげたい。
微笑んでくれる笑顔が忘れられない。
彼女に会いたい。
リリアーシアの笑顔を取り戻す為に、何かをしてあげたい。
そんな想いがメリスから離れてくれないのだ。
「こんなではお嬢様に叱られてしまうわね」
優しい主人だった。(メリスは公爵を主人と思っていない)
リリアーシアがこんな腑抜けた自分を見たらきっと優しく励ますのだろう。
そう思うと、なおさら王太子とナルシリスが許せなかった。
優しい主人を裏切った王太子、友人で在りながら主人を裏切り蹴落としたナルシリス。
得意の風魔法で八つ裂きにしても飽き足りない。
なにも出来ない自分自身が悔しい。
今、メリスの手の平の上では風が渦巻いている。
手の平に魔力を込め、風を起こしているのだ。
ただ、風を起こすだけの魔法。
集中力を研ぎ澄まし、強い精神力、意志に魔力を込めてようやく発動する、手のひらで渦巻く風。
とても弱い風。
団扇を扇いだほうがもっと少労力で強い風が起こせるだろう。
でも、メリスが初めて魔法で弱い風を起こすことに成功した時、自身の事のようにリリアーシアは喜んでくれた。
魔法のネックレスをお祝いにくれた。
魔法のネックレスは魔法の杖の代わりの役割を果たしてくれる魔道具で、手ぶらで魔法が使うことが出来るので大変便利な物だ。
そしてとても高価な物でもある。
これを売れば、弟を学園に通わせる費用の足しになってくれるだろうが、メリスにその気は無い。
これは墓場までも持っていくと決めた、メリスだけの宝物なのだ。
なにか、せめて主人の為に出来ることはないだろうか?
手の平の風を見つめながらリリアーシアの事を考える。
メリスは今でもまだリリアーシアの専属侍女だった。
◇◆◇
翌日、メリスは市場に買い出しに来ていた。
実家には使用人が2人いるが、忙しそうにしていたのでメリスが散歩がてら買い出しに出る事にしたのだ。
メリスは店に並べられた野菜を吟味していると、背後より名前を呼ばれた。
「メリスちゃんじゃない?」
懐かしい声だった。
公爵家へ奉公に上がるまで、仲良くしていた同じ男爵家の令嬢で姉の様に慕っていた人の声だった。
振り返ると、そこには予想通りの人が居た。
「シアン姉さん!」
懐かしい、何年ぶりか。
記憶にあった姿はまだ少女だった。
でも今目の前にいるのは大人になった美しい女性。
でも、姉の様に慕った人に間違いなかった。
「お久しぶりね。何年ぶりかしら?」
「私が奉公に上がったのが9歳の時だから9年かな」
「メリスちゃん綺麗になったわ」
「私なんて。シアン姉さんの方が断然綺麗だわ」
変わらないなぁ、と思った。
リクシフォン男爵家の令嬢、シアンテリア。
幼少の頃より親交のある同じ男爵家のご令嬢だ。
シアンテリアは気さくな性格で話しやすく、また懐かしさもあってメリスはついつい話し込んでしまう。
「そういえば、ティティは今どうしてるの?」
シアンテリアの妹、ティティの本名はミンティテリス。
メリスにとって、3歳年下の妹の様な存在だ。
ただしもう一人の妹、リリアお嬢様と違ってティティはお転婆で横着者で世話の焼ける妹だ。
シアンテリアよりもメリスに歳が近いのでよく一緒に遊んだものだ。
当時のティティの無邪気な笑顔が思い出される。
懐かしい。
「あの子は今、王立魔法学院に通っているわ。寮暮らしだから私も長期休暇でないと会えないわ」
「そうなんだ。それなら学院で見かけていたかも」
「あら、メリスちゃんも学院に?」
「いえ、私はお嬢様の侍女として」
「あ、私としたことが、ごめんなさい」
シアンテリアはメリスの家の経済力を知っている。
子供を学園に通わせる財力が無い事も。
だから、自らの失言を素直に侘びた。
「いえいえ、シアン姉さん気にしてないって。それよりあの学院は学年が違うと校舎が変わし、私も侍女として控室にいるから会うことが出来なかったのかな。でもティティは何故 寮の入ったの?実家から通えるんじゃ?」
メリスにはシアンテリアの言葉が嫌味では無いことなど百も承知である。
そんな嫌な人ではない。
だから、シアン姉さんが気まずくならない様、メリスは話を進めた。
「それはねえ」
シアンテリアはそこでため息をついた。
その事でなんとなく理由が理解ってしまった。
「一分一秒でも長く寝ていたいからですって」
あ、やっぱり。
ティティはやっぱりティティだ。
と、メリスは納得してしまった。
その日の夜、メリスは手紙を書いた。
宛先はミンティテリス。
懐かしいからではなかった。
学園内の情報を得るためだ。
王太子とナルシリスの情報が得れたらいいな、位の気持ちで書いている。
書きながらもあまり期待はしていない。
ものぐさなミンティテリスが返事を書いてくれるイメージが沸かないし、学園の噂などにも疎そうな気もした。
実際、彼女については、まったくもってメリスの考え通りだった。
だから、メリスの手紙は開封されることもなく、暫く机の上に起きっぱなしにされてしまうのである。
尚、手紙が届いた日の夜、ミンティテリスはベッドの上で唸る残念少女となっていた。
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