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35.僅かな希望
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夏季休暇。
ミンティリスは暗い気持ちで実家に帰省した。
といっても実家は外れの方とはいえ王都内にある。
休暇前の試験は勉強も手につかず、かろうじて合格というなんとも情けない結果となった。
「はーーー、このまま逃走しようかしら」
ミンティリスは王家が公式に第2王子との交際を認めた事や、正式に婚約になる場合は然るべき爵位の家の養女となる事、それらが本人の意志とは関係なく決まった事で、投げやりな気分になってしまっていた。
(はぁ、こんなルートってあったのかなぁ)
何もかも放り出して逃げたい、でも逃げ切れる自信も無い。
逃げれたら逃げれたで、その後の生活をどうやって営んでいこうか、生きていける自信もないのだ。
だから、なんとか生存ルート漕ぎ着ける方法を模索しなければならない。
ミンティリスは本当に諦めた訳ではない。
こうなったら当面八方美人で様子を見るだけだ。
第2王子との交際は夏季休暇開けから公になる予定らしい。
下手をすると実家で過ごせるのはこれで最後かもしれなかった。
ごろごろしていても怒られないなら第2王子妃になってもいいんだけどなぁ、などと思っているが、そんな訳ないのも判っている。
ミンティリスはここの所、試験と第2王子に振り回されてメリスからの手紙の事などすっかり忘れてしまっていたのだが、実家で久しぶりにゴロゴロすること3日目に来客という形で思い出す事になった。
「ティティ、お久しぶり。元気そうで何よりね」
「おー、メリス姉ちゃん。お久しぶりー」
ミンティリスは、応接室で久しぶりにメリスに会った。
部屋にはメリスの他にミンティリスの姉もいる。
「ティティ、きちんと挨拶なさい。親しき仲にも礼儀ありよ」
「私とメリス姉ちゃんの間では不要でしょ」
「相変わらずで嬉しいわ。でも確かにティティにはもう少しご令嬢らしさは必要かしらね」
いつもの変わらぬ姉妹のやり取りにメリスは苦笑する。
自身の境遇はだいぶ変化したけどこの姉妹の変わらなさは懐かしく、そして羨ましく思った。
3人は暫しお互いの近況について語り合った。
そこでミンティリスは メリスからの手紙にあったノートの件を思い出した。
ノートがあれば、今後の試験対策はバッチリである。
「そういえばメリス姉ちゃんさ、全授業のノート貸してくれるんだよね」
「ええ、興味ある?」
「もちのろん!」
対価についてはすっかり抜けてしまっているミンティリスに苦笑するメリス。
「あら、ティティにそんな手紙出したの!? でもこの娘には確かに必要かもしれないわ」
「……シアン姉さんには怒られると思っていたのだけど」
ミンティリスの実姉シアンテリアこと、シアン姉は不正を許さない人だ。
バレれば恐ろしい目に会うのをミンティリスも知っているのによくここでぶちまけたなと思いつつも、怒らなかったシアン姉をメリスは不審に思う。
ミンティリスの身を案じる様子から何かあったのは判った。
「ノートは自分取るから意味があるのだけど……この事は秘密にしておいてほしいのだけど実はねーー」
シアンはメリスならばと他言無用の念押しをしてミンティリスが第2王子に見初められ、正式に交際する事になったと伝えた。
「それは……おめでとうと言うべきか、第2王子殿下ご愁傷様と言うべきか……」
「酷い!メリス姉ちゃん。 私の方がご愁傷さまだよ。 ゴロゴロ出来なくなるんだよ?」
「相変わらず残念すぎるわね」
見目だけは麗しいミンティリスが実は残念極まりない少女だと第2王子が知ればこんな話は即流れるんだろうな、とメリスは思った。
「でね、これからは王族の方々に釣り合うために勉強も必死にならないとならないでしょう。他にも礼法やダンスや教養なども。だから時間は有効に使わないとなのよ。ノートがあれば助かるわ。私では手助け出来ないもの」
ああ、相変わらずシアン姉さんは優しいと、メリルは思う。
「ノートは私が公爵家に仕えていた時に、お嬢様から写させて頂いたものなの。私もそのノートで勉強したし内容は保証するわ」
「まぁ、リリアーシア様の……、そのリリアーシア様のことは残念でした」
申し訳なさそうにシアンテリアが言った。
リリアーシアの婚約破棄騒動の一件は市中にも広まっている。
ナルシリスが故意に広めたからだ。
「ありがとうシアン姉さん。でも大丈夫よ」
「そんな大切なノート本当にいいの?」
ミンティリスもメリスがリリアーシアの侍女だった事もリリアーシアが失脚したことも知っている。
成績優秀だったリリアーシアのノートの写しなら願ってもない。
でも同時にメリスにとって大事だろうノートを貰っていいのか戸惑いもある。
とは云えやはり喉から手が出るくらい欲しいので断られない事前提で控えめな疑問が出た。
やはりミンティリスはその対価を払う必要があるなどとは考えてもいなかった。
「ティティ、貴女さえよかったら私の家に来ない? 他にも相談に乗れるかも知れないわ」
「そうか、メリス姉ちゃんはリリアーシア様の侍女だったんだもの。詳しく教えてほしいな」
「私がではないけど、礼法とかダンスとかにお詳しいお方と親交があるから引き合わせる事はできるわ」
「えー、でも面倒なのはヤだよ? 折角の長期休暇だしゴロゴロしてたいよ」
「ティティ! 貴女このまま第2王子と交際が始まったらすぐ不敬罪で捕まるわ!」
「ゔ! 否定できない」
そしてそれは即ちゲームの知識に照らし合わせればバッドエンド、即ちデッドエンドだ。
「そうならない為にもこの休みはみっちり鍛えて貰いましょう。レッスン料なら多少は蓄えがあるわ」
「レッスン料については私からはなんとも言えないけど、ともかく聞いてみるわ。 ティティ、日程の連絡は改めてするけど今週中にはセッティングできると思うから予定を開けておいてね」
「はひ……」
命が懸かっているのを思い出したミンティリスは項垂れながらも了承するしかなかった。
ミンティリスは暗い気持ちで実家に帰省した。
といっても実家は外れの方とはいえ王都内にある。
休暇前の試験は勉強も手につかず、かろうじて合格というなんとも情けない結果となった。
「はーーー、このまま逃走しようかしら」
ミンティリスは王家が公式に第2王子との交際を認めた事や、正式に婚約になる場合は然るべき爵位の家の養女となる事、それらが本人の意志とは関係なく決まった事で、投げやりな気分になってしまっていた。
(はぁ、こんなルートってあったのかなぁ)
何もかも放り出して逃げたい、でも逃げ切れる自信も無い。
逃げれたら逃げれたで、その後の生活をどうやって営んでいこうか、生きていける自信もないのだ。
だから、なんとか生存ルート漕ぎ着ける方法を模索しなければならない。
ミンティリスは本当に諦めた訳ではない。
こうなったら当面八方美人で様子を見るだけだ。
第2王子との交際は夏季休暇開けから公になる予定らしい。
下手をすると実家で過ごせるのはこれで最後かもしれなかった。
ごろごろしていても怒られないなら第2王子妃になってもいいんだけどなぁ、などと思っているが、そんな訳ないのも判っている。
ミンティリスはここの所、試験と第2王子に振り回されてメリスからの手紙の事などすっかり忘れてしまっていたのだが、実家で久しぶりにゴロゴロすること3日目に来客という形で思い出す事になった。
「ティティ、お久しぶり。元気そうで何よりね」
「おー、メリス姉ちゃん。お久しぶりー」
ミンティリスは、応接室で久しぶりにメリスに会った。
部屋にはメリスの他にミンティリスの姉もいる。
「ティティ、きちんと挨拶なさい。親しき仲にも礼儀ありよ」
「私とメリス姉ちゃんの間では不要でしょ」
「相変わらずで嬉しいわ。でも確かにティティにはもう少しご令嬢らしさは必要かしらね」
いつもの変わらぬ姉妹のやり取りにメリスは苦笑する。
自身の境遇はだいぶ変化したけどこの姉妹の変わらなさは懐かしく、そして羨ましく思った。
3人は暫しお互いの近況について語り合った。
そこでミンティリスは メリスからの手紙にあったノートの件を思い出した。
ノートがあれば、今後の試験対策はバッチリである。
「そういえばメリス姉ちゃんさ、全授業のノート貸してくれるんだよね」
「ええ、興味ある?」
「もちのろん!」
対価についてはすっかり抜けてしまっているミンティリスに苦笑するメリス。
「あら、ティティにそんな手紙出したの!? でもこの娘には確かに必要かもしれないわ」
「……シアン姉さんには怒られると思っていたのだけど」
ミンティリスの実姉シアンテリアこと、シアン姉は不正を許さない人だ。
バレれば恐ろしい目に会うのをミンティリスも知っているのによくここでぶちまけたなと思いつつも、怒らなかったシアン姉をメリスは不審に思う。
ミンティリスの身を案じる様子から何かあったのは判った。
「ノートは自分取るから意味があるのだけど……この事は秘密にしておいてほしいのだけど実はねーー」
シアンはメリスならばと他言無用の念押しをしてミンティリスが第2王子に見初められ、正式に交際する事になったと伝えた。
「それは……おめでとうと言うべきか、第2王子殿下ご愁傷様と言うべきか……」
「酷い!メリス姉ちゃん。 私の方がご愁傷さまだよ。 ゴロゴロ出来なくなるんだよ?」
「相変わらず残念すぎるわね」
見目だけは麗しいミンティリスが実は残念極まりない少女だと第2王子が知ればこんな話は即流れるんだろうな、とメリスは思った。
「でね、これからは王族の方々に釣り合うために勉強も必死にならないとならないでしょう。他にも礼法やダンスや教養なども。だから時間は有効に使わないとなのよ。ノートがあれば助かるわ。私では手助け出来ないもの」
ああ、相変わらずシアン姉さんは優しいと、メリルは思う。
「ノートは私が公爵家に仕えていた時に、お嬢様から写させて頂いたものなの。私もそのノートで勉強したし内容は保証するわ」
「まぁ、リリアーシア様の……、そのリリアーシア様のことは残念でした」
申し訳なさそうにシアンテリアが言った。
リリアーシアの婚約破棄騒動の一件は市中にも広まっている。
ナルシリスが故意に広めたからだ。
「ありがとうシアン姉さん。でも大丈夫よ」
「そんな大切なノート本当にいいの?」
ミンティリスもメリスがリリアーシアの侍女だった事もリリアーシアが失脚したことも知っている。
成績優秀だったリリアーシアのノートの写しなら願ってもない。
でも同時にメリスにとって大事だろうノートを貰っていいのか戸惑いもある。
とは云えやはり喉から手が出るくらい欲しいので断られない事前提で控えめな疑問が出た。
やはりミンティリスはその対価を払う必要があるなどとは考えてもいなかった。
「ティティ、貴女さえよかったら私の家に来ない? 他にも相談に乗れるかも知れないわ」
「そうか、メリス姉ちゃんはリリアーシア様の侍女だったんだもの。詳しく教えてほしいな」
「私がではないけど、礼法とかダンスとかにお詳しいお方と親交があるから引き合わせる事はできるわ」
「えー、でも面倒なのはヤだよ? 折角の長期休暇だしゴロゴロしてたいよ」
「ティティ! 貴女このまま第2王子と交際が始まったらすぐ不敬罪で捕まるわ!」
「ゔ! 否定できない」
そしてそれは即ちゲームの知識に照らし合わせればバッドエンド、即ちデッドエンドだ。
「そうならない為にもこの休みはみっちり鍛えて貰いましょう。レッスン料なら多少は蓄えがあるわ」
「レッスン料については私からはなんとも言えないけど、ともかく聞いてみるわ。 ティティ、日程の連絡は改めてするけど今週中にはセッティングできると思うから予定を開けておいてね」
「はひ……」
命が懸かっているのを思い出したミンティリスは項垂れながらも了承するしかなかった。
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