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46.最終話 ジャンの素朴な疑問

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 魔神が消えた時、眠っているナルシリスの首に掛かっていた魔神のネックレスもまた黒い霧となったがそれは消えずにナルシリスに吸い込まれていった。

 全てが終わったその頃、アーティアの本体にも変化が起きた。
 ちょうどその場にいたメリスが後で語った内容によれば、顔の火傷の爛れが黒い霧になってどこかに飛んでいき、アーティアの火傷は綺麗さっぱり無くなったのだという。


 ジジは皆が目を覚ますよう眠りの魔法を解いた。
 そして皆が一斉に目を覚ます。
 
「これは?」

 目覚めた皆はキョトンしたが、そこに記憶が流れ込んでくる。
 これはジジが魔法を解除する際に与えた偽りの記憶だ。
 決闘で王太子が勝った事になっている。
 
「兄上、かくなる上は異存ございません。この国を宜しくお願い致します」
 
 皆が狐に摘まれた様に呆然している中で、ウィリアム王子は王太子アルドリヒに言うべきを言うと、ミンティリスの手を引いてこの場から去っていった。
 この時のミンティリスは顔を赤らめていたのを多くの者が目撃している。
 勿論アーティア達も第二王子と共に抜け出したのは言うまでもない。

 ナルシリスはスッキリとしない頭で懸命に状況を整理していた。
 アルドリヒが勝ったが何故か対戦相手の帝国の第二皇子がピンピンしていてウェイリアムと共に去っていった。
 それならそれで帝国との関係が悪化しないので構わないが、第二王子とフェリス公爵の断罪は改めて別の機会で行わなければならない。
 そこでナルシリスは違和感を覚える。
 直ぐに首に在るはずのネックレスの感覚が無いと気付いた。
 青ざめ、心の中で魔神に呼びかけるが応答は無かった。 
 周囲を見渡したが侍女の姿も見当たらない。
 ナルシリスは魔神の力を失った事を知った。
 同時にナルシリスは知らない。
 まだ魔神の力の残滓が残っていてナルシリスはある役目を負わされた事を。


 アルドリヒが卒業演説をした数日後、正式に王太子アルドリヒが王位を継承し、王妃には正式にナルシリスがなったと公示された。


☆★☆


 なんでも屋に依頼を出した男爵の元に依頼達成を知らせる手紙が届いた。
 養子縁組解消の申請書類が同封された手紙には、結婚お披露目の日を待つようにと書かれていた。
 確認の為、男爵はなんでも屋を訪れたが、既にそこは閉鎖されていた。
 そこでアーティアとの養子縁組を解消手続きを済ませた後は待った。
 新王即位及び結婚の演説が行われるその日を。
 そして待ちに待ったその日、男爵は依頼達成の成否を確かめるべく王城の演説用広場に足を運んだ。
 多くの観衆が新たな王、王妃の登場を期待して待つ中、男爵だけは冷めた心で待った。
 暫く待つと予定時間よりだいぶ遅れてファンファーレが鳴り響き、いよいよ登場かと王城の演説用バルコにーに視線が向かう。

 凛々しい顔立ちの新王が美しい新王妃を伴って登場した。
 男爵は、なんでも屋が嘘を報告したのだと思ったが、何も出来ない自分を呪うしか出来なかった。

 新王の演説が始まった。
 新王は演説の中で王妃だけを愛し、他に側室も愛妾も持たないと宣言した。
 割れんばかりの声援が沸き起こる中、それは起こった。
 突然王妃が急に顔の右側を手で覆いしゃがみこんでしまったのだ。

 男爵はその一瞬を見逃さなかった。
 どこからか黒い霧が飛んできて王妃に顔に当たったのを。
 王妃が顔を覆う直前、確かに王妃の顔が爛れていたのを。

 これか!これが俺の依頼の達成の証!

 男爵は笑った。
 心の底から大声で笑った。
 そして叫ぶ。

 「皆見たか、新王妃の顔を。醜く爛れたあの顔を。あれがあの女に与えられた神の祝福だ。 新王は一生あの醜い王妃だけを愛さなければならないのだ。 ははははっ これが笑わずにはいられようか。 あーははははは」 

 男爵は直ぐに兵士に捉えられた。
 男爵は笑い続け、抵抗する事無く捕らえられた。
 その後の男爵を知る処刑役人によれば男爵は首を落とされるその直前まで楽しそうに笑っていたのだという。
 1人の父親の復讐は成った。


☆★☆


 ストロンシア王国で新王が即位して1年が経った。
 ここアークサンド帝国では今日は目出度い日だ。
 何故なら今日は皇太子の婚礼の日なのだ。
 
「アーティア様、とてもお綺麗です」

「メリス恥ずかしいわ」

 純白のドレスを纏うアーティアは恥ずかしそうに、でもとても幸せそうに笑った。
 メリスは本当に良かったと思う。
 そして、魔神の呪いが解けて以降の日々を思い出した。


 
 アーティアに掛けられた魔神の呪いが解けると、一行は直ぐにフェリス公爵領に向かった。
 そこには第二王子やミンティリスも一緒だった。
 フェリス公爵も王都より戻ってきており、そこで第二王子の仲介でアーティアはフェリス公爵と対面した。
 公爵は泣いてアーティアに侘び、アーティアも公爵に恨みはないと公爵の手を握ったのだった。
 フェリス公爵は既に後継者として血縁者を養子に迎えているのでアーティアとの婚姻を望んだが、ジャンが公爵に面会を申し込んで以降はパタリと後継者との婚姻について何も言わなくなった。
 その代わり、アーティアとの養子縁組を望み、同じく養女のミンティリスと姉妹になった。
 先に養女になったのはミンティリスではあるが当然アーティアがミンティリスの姉になる。
 その後ジャンは帝国に戻ったが、1ヶ月経ったある日ジャンはアークサンド帝国皇太子アルジャーノとして公爵令嬢アーティアにプロポーズしに訪れたのだ。
 正式にはスロトンシア国王の承認が必要な案件にはなるが、アーティアがリリアーシアだと知らず、フェリス公爵の養女という知識しか無い為、拍子抜けする程許可はすんなりと出た。
 フェリス公爵家とアークサンドの結びつきが強くなることを以前ナルシリスは警戒していたが、現在王城ではそれどころではなかったのだ。
 当面アークサンドとスロンシアの関係が強化されるならそれで良いとされたのである。

 こうしてプロポーズを正式に受けたアーティアはアークサンドに嫁ぐことになった。
 ジジ達はアーティアの頼みで暫く公爵領に留まり公爵領でなんでも屋を開いていた。
 アーティアもカロンの能力を使って度々手伝った。
 その際アーティアの部屋でアーティアの本体を守っていたのは勿論一緒に侍女として付いてきたメリスだ。
 そしてジジ達はアーティアがアークサンドに向かう時も一緒に付いてきてくれた。


☆☆☆


「お姉ちゃん綺麗!」

「おお!アーティアとても綺麗じゃよ」

 花嫁の控え室に入ってきたジジとカロンの笑顔を見てアーティアも笑顔になった。
 アーティアはフェリス公爵領に着く前、ジジと交わした会話を思い出していた。


 
「ジジ様はあの湖の魔神だったのですね」

「バレてしまったのう。元々儂らはあの地の精霊じゃったが、邪なる人間に縛られてあの湖に封じられてのう。利用される内に魔神になるまで墜ちてしまったのじゃよ。アーティアが儂らの縛りを解いてくれたのじゃ。大変感謝しておる」

「私は何も」

「ほっほっほ、それならそうしておこうかの」

「ジジ様達はこれから……どうするのですか?」

「そうじゃのう。気ままに旅でもしてみるかのう」

「えージジィと一緒じゃつまらないよ」

「私も……私も一緒に連れていって下さい。私はジジ様のなんでも屋のパートナーですよね」

「アーティアや、儂らに気を遣わなくていいぞい。真に隣にいて欲しいのは儂らではないじゃろう?」

「ジジ様……せめてもう少しだけ一緒にいて欲しいです」

「うんジジィお姉ちゃんもそう言ってるんだしそうしようよ」

 あの日の会話を思い出しながらジジ達の笑顔を見つめるアーティア。
 アーティアは思う、自分の我儘でジジ達はアークサンドまで付き合ってくれた。
 でもこれ以上は……

「アーティアや」

 アーティアが口を開く直前、ジジが何の気負いも無くアーティアに呼びかけた。

「ジジ様どうしました?」

「実はジャン殿にいろいろ依頼されてのう。この国でなんでも屋を開く事にしたんじゃ」

「え」

「お姉ちゃん。これからも宜しくね」

「そういうことじゃ。宜しくのう」

 アーティアは泣きそうになった。
 こんなに嬉しい知らせは他に無かった。
 
「こちらこそ、改めて宜しくお願いします」


☆☆☆


「お姉様、とっても綺麗ですわ」

 アーティアの控室は更に賑やかになった。
 ミンティリスがウィリアムにエスコートされてやって来たのだ。
 2人の背後にはフェリス公爵もいて、純白のウェディングドレスに包まれたアーティア見て涙ぐんでいた。

 ミンティリス達から得た情報によれば、王城は大混乱になったのだという。
 実は、呪いが跳ね返ってナルシリスの顔が爛れた時、同時にナリシリスに洗脳された者の洗脳も解けた。
 それは新王となったアルドリヒもだった。
 アルドリヒにとってはナルシリスに言わされて、生涯ナルシリス以外の伴侶を持たないと宣言してしまった直後の事だ。
 直ぐにナルシリスとアルドリヒは不仲となり、またナルシリスを助ける者も無く今は幽閉されている。
 実際お披露目のあの日以降、ナルシリスは表舞台に出てきていない。

「あの者には残った魔神の力の残滓を魔神に返す役目を負わされておるでのう。アーティアに掛けられた呪いは魔神の力。その命が尽きた時魔神の元に力を返しに行かねばならぬのじゃ。魔神との契約者の末路は無残なものじゃて」

「なるほど、賢者様それで義姉上の様に急に顔が爛れたんですね」

 ウィリアムは元々リリアーシアを姉のように慕っていた上にアーティアがミンティリスと姉妹になったことでアーティアの事を皆の前でも堂々と義姉上と呼ぶようになっていた。
 ミンティリスはと言うと、あの日の決戦で今は王弟となったウィリアムに護られていた事でキュンときてしまったらしく、急にしおらしくなった。
 今ではウィリアムに相応しい后になる為に淑女勉強を努力し、振る舞いもかなり洗練されてきている。

「今、ナルシリスはそんな事に……今の私の力があればナルシリスに掛けられた呪いを断ち切ることも」

「お姉ちゃん優しすぎだよ」

「そうです義姉上、こうなったのも自業自得。義姉上が慈悲をかけるには値しません」

「それはそうですけど…」

 会話はそこで打ち切られた。
 新たな来客が登場したからだ。


「アーティア失礼するよ」

 部屋に入ってきたのは新郎のジャンこと皇太子アルジャーノだが、ウィリアム達と同じく国賓としてこの国に来ているストロンシア国王アルドリヒを伴っていた。
 国王夫妻を招待したのだがナルシリスは現在療養中の為欠席と返事を受けていたのだ。
 皆が控えて頭を下げる中、アーティアも頭を下げて挨拶をする。

「この度はお忙しい中お越し下さり誠に有難う存じますストロンシア国王陛下。フェリス公爵家のアーティアと申します」

「アーティア譲、顔を上げてくれ。両国の縁がより強固になる様そなたの献身に期待する。今日の目出度い日に立ち会える事を嬉しく思う……」

 アルドリヒの言葉が止まった。
 アーティアが頭を上げ、その顔を初めて見たから。

「そなた、リリアーシアでは……何故」

「今のわたくしはアーティアでございます。わたくしは九死に一生を得ましたがリリアーシアを名乗ることが出来なくなりました。ですからアーティアとして生きる事にしたのです。そしてアルジャーノ様に出会ったのですわ」

「そ、そうか。 しかしその顔は」

「アーティアの顔の火傷は邪法によるものだった。だから解いたのだ。邪法である呪いを掛けた者に呪いが返った筈だがその者の呪いはもう一生解ける事はあるまい」

「なんてことだ」

 アルジャーノの説明を受けたアルドリヒは衝撃を受けた。
 リリアーシアに掛けられた呪いの元凶はナルシリスだと改めて突きつけられたのだ。

「陛下、挨拶はここまでにしましょう。席までご案内致しますよ」

「あ、ああ宜しく頼む」

 アルドリヒはアルジャーノに連れられて出ていったが、その様子はアーティアに何か言いたげで未練がましかった。

 アルドリヒは来賓席に座りながら、アルジャーノとの式を見守るしかなかった。
 その胸の内に在るのは美しく微笑むリリアーシアへの未練。
 その美しい笑みを向けられる先は自分では無く、隣国の皇太子。
 元々は自分へ向けられていた笑顔がナルシリスのせいで失われてしまった。
 そう思うとナルシリスへの憎悪が増大していく。

(許さん。許さんぞナルシリス。貴様が余計な事をしなければ俺の隣にいたのは美しいリリアーシアだったのだ)

 しかし、アルドリヒは大衆の前で生涯ナルシリスだけを愛すると宣言した。
 そして式の時に神前でも宣言していた。
 アルドリヒにとって神への制約は呪いと同じになった。

 アーティアは機を見てナルシリスを呪いから救いたかった。
 女性の身で顔に火傷を負う苦しみを知った者として、放っておけなかった。
 それが例え自分にその呪いを掛けた者であっても。
 かつて偽りの友情とは云え、ナルシリスの励ましで確かに救われた自分がいて、だからこそ今があるのだから。
 
 しかしアーティアの想いが叶う事は無かった。
 ナルシリスはアルドリヒが国に戻ってすぐ処刑されたからだ。
 ナルシリスは国を食い物にした魔女として火炙りの刑にかけられ、ディアス侯爵家は反逆の意志ありと冤罪を押し付けられて一族全員処刑になった。
 こうしてディアス侯爵家は王国から無くなった。 

 ナルシリスは病死と発表したアルドリヒは喪も開けない内に新たなパートナーを得た。
 そして内々で式を挙げたのだが、誓いの言葉を言った瞬間今度はアルドリヒの顔全体が火傷を受けたかのように爛れた。
 これはナルシリスが魔神の力を有していた時にかけた呪い。
 アルドリヒが浮気した時に発動する呪いだった。
 魔神の力の残滓はアルドリヒの魂にも刻まれていたのだった。 
 当然死後その力をアルドリヒの魂も魔神に返しに行くことになる。
 そしてナルシリスと共に魔神の糧となって永劫に苦しむ事になるのだ。
 遠い未来に何処かの聖女の力で開放されるその時まで。

 家臣の反対を押し切って新たなパートナーを得た結果、顔に呪いの火傷を受けたアルドリヒは、先の誓いを破った為に神の怒りを受けたと家臣達に見なされた。
 このままでは王国自体が神の加護を失うとして、アルドリヒは家臣達によって幽閉され、王弟ウィリアムが新王に即位した。
 アーティアがアルジャーノとの式を挙げた3ヶ月の後の事だった。


☆★☆


「ジジ様、今日の依頼は何でしょう」

「これは殿下と妃殿下、今日も、ですかな」

「ここではアーティアでお願いします」

「俺の事もジャンで」

「判っておりますとも」

「あ、お姉ちゃん。今日も来たんだねー歓迎するよー」 

 アークサンド帝国首都のひっそりとした通りにいつの間にかできたなんでも屋。
 そこでは毎日が賑やかで穏やか?だ。
 覗きに執念を燃やすエロジジィのジジとそれを未然に防ぎ続けるカロン。
 アーティアを巡ってこの二人の攻防は今日もいつものように繰り広げられるだろう。
 ジャンは結婚してすぐの頃、裏で繰り広げられる攻防に気付いてしまった。
 そしてなんでも屋でのジジのパートナーを豪語するアーティアが未だに気付いていないのを不思議に思うのだった。


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みんなの感想(10件)

マミタロ
2020.11.06 マミタロ

リリアーシアにとって王太子は優しかったとあったけど、周りから見たらそうは見えなかったと言う事なのですかね。呪いのせいで割り増しされてたけど、呪いが無くても火傷の状態でも少なくてもそう思ってるって事ですよね。ク○ヤローですね。

ジジ様軽く幻影を見せて復讐してましたけどwなかなかに苛烈な性格してらっしゃる。

しかしあの女の魅了的なものが第二王子にかかってない?!女狐扱いしてるの見て少し安心してました。今後どう絡まっていくのか楽しみです!

丁太郎。
2020.11.08 丁太郎。

感想ありがとうございます
そして、なかなか更新出来ずに申し訳ないです。
現在ストックを貯めてますが、完結までは書くつもりでいますので、気長にお待ち頂けたら幸いです

解除
伊予二名
2020.03.20 伊予二名

酸化メチレンだった…(´・ω・`;A) アセアセ

解除
伊予二名
2020.03.20 伊予二名

ビニートスさんは肉の痛み系のザマァがよく似合う人ですね。取り敢えず十本の指の爪を剥がすことからでしょうか。然るのち肉を削いでいくと良さげ。

( ゚∀゚)o彡゜凌遅刑! 凌遅刑!

丁太郎。
2020.03.20 丁太郎。

ありがとうございます。
ビニートスのざまあが始っておりますが、拷問必須の展開です。
頑張れ拷問官。

解除
1 / 5

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