モブですけど!

ビーバー父さん

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 やっと帰り着いた。
 車や電車の生活に慣れた頭と体は、この世界の交通機関に不満しかなかった。

「チートとかあったら絶対車か電車作ってるよー!
 もう!」

 この世界に魔法があるとかも知らなかったし、十歳までのほほんと生きて来たのは仕方ないけど、もうちょっと賢くても良いだろうよ、僕は!

 ゲームをプレイしてから来たかったよ。



「ラグノーツ様、そのお怪我はどうなさったのですか!?」

 家令であるセバスチャンが大慌てで迎えに出て来た。

 うん、執事はセバスチャンだよな。
 しかも、若い!これもまた美形なお兄様だ。

「王子の木剣がこめかみに当たってしまって、かなり血が出たみたいなんだ。」

「何ですと?!」

 怒りにセバスチャンの顔が般若の様になるのが分かった。

「セバス!
 僕は大丈夫だから!
 それと、この傷の事で父上にお話があるから、取り次いでもらえる?
 自室にいるから、お願いね?」





 公爵家の中で四男だと自室はそれなりなだけで、結構狭い。
 家督を継げない息子さんの扱いって、どこもこんなだ。
 一応、これまで生きてきた記憶もあるし、貴族社会もこなせそうだ。
 僕は平民になるまで、ラグノーツと言うキャラを演じ続けなきゃいけないんだ。
 それまでに少しでも、僕にとって生きやすい地盤を固めないと。
 モブなんだから、シナリオなんか知るか!って言うのが本音だった。

 ベッドに転がると、傷が疼いた。
 前世の記憶が戻ったりで、アドレナリンが大量に出ていたのか、あの時は痛みより逃げる一択だったから気にしてなかった。
 痛みでドクドクと脈打つ感じが、傷の酷さを物語っているみたいで少し怖くなった。
 言葉通りキズモノで、本当に醜くてどうしようもない痕になるかもしれなかった。

 コンコンコン

 ノックに応えると、セバスチャンが入ってきた。

「ラグノーツ様、旦那様がこちらにお見えになるそうです」

「え、悪いから僕が行くよ」

「その傷ででございますか?
 手当をし直しましょう」

 鏡を見ていないけど、そんなに酷いのか?
 
「分かった、お願いするね、セバス」

「はいっ!」

 ん?心なしか息が荒くないか?

 そして、セバスチャンは救急箱の様なセットを出した。
 は? 出したよ、ナニコレ!

「どこから出したの?」

「空間魔法でございますよ。」

「セバスって魔法が使えるの?!」

 魔法を目の当たりにして、興奮気味に聞けば僕にも魔力があって、勉強すれば使えると言う事だった。
 よっしゃ!!

「ラグノーツ様、王子の所で治癒してもらわなかったのですか?」

「う、ん、僕ね、ロシアスとの婚約を破棄して貰おうと思って。
 それなら、希少な治癒魔法を僕なんかに使ったらダメでしょ?
 本当に必要な人に使ってあげないと」

 傷を治されたら困るからな!
 あくまで、自然治癒だ、自然治癒!

「なんとお優しい。
 キズモノになったからと、身を引くなんて。
 あのボンクラ王子には、ラグノーツ様は勿体ないと常々思っておりました」

 解かれた包帯の下の傷は、結構酷かったようだ。
 
「そんなに、酷い?」

「髪で隠れる場所ですが……」

 今のこのラグノーツの容姿は、 銀髪に蒼い眼、そして何より可愛い顔だけがウリの何も無い子供だ。
 髪で隠れるとはいえ、ちょっとだけショックだった。
 
「そっか、公爵家とはいえ四男だし、可愛いしか僕の価値は無かったんだけど、これからはちゃんと将来の事を考えないとね」

 あのボンクラ王子が王位を継ぐなんて、上二人の優秀な王太子と第二王子が不慮の事故かなんか無い限り、まず有り得ない。
 一応王弟にはなる訳だから、侯爵にはなるだろうけど、僕の将来はシナリオで既にその可能性もなかったしな。

 少し暗い気持ちになっていた所に父上が来た。

「ラグノーツ!
 先ほど、王宮から早馬が来て、その怪我と婚約破棄の申し入れがあったぞ!」

 早速来たか。
 キズモノを伴侶にはしたくないよなぁ。

「はい、僕からお願いしました。」

「あのボンクラ王子のせいだろうが!
 婚約破棄なんぞする必要があるか!」

 恩を売れなくなる父上は、烈火の如くお怒りです。
 傷の状態とか僕の体調は後回しですか、そうですか。

「そんな償いみたいな結婚生活は嫌です」

「では、その様にキズモノになったお前に何が出来ると言うのだ?」

 これが父親なのだろうか。
 公爵家、自分の立場と利益にしか目を向けない親が必要なのはあと八年もある。

「はい、学校へ行かなくて良いように、あと二年で六年分の勉強をします。
 そして、十二歳になりましたら僕を平民として放逐して下さい」

「ほぅ、出て行くと申すか。 
 ならば、それまで四男のお前に掛かった費用を返してもらおう。
 本来ならボンクラ王子との婚姻で得る利益も、と言いたいが……」

 クソ野郎、ホント最低だな!
 自分の子供だろうが!

「分かりました。
 平民になりましたら、少しずつお返し致します。
 月に一度、セバスチャンに決まった金額をお渡しする様にします」

 包帯を巻かれた頭を下げて、返済すると約束した。

「では、その金子が滞った場合は、私が決めた縁談に従ってもらうぞ、よいな?」

「分かりました」

 これが親なのか、下衆すぎて泣けてきた。
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