モブですけど!

ビーバー父さん

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 普通ならこうやってゲオルグの隣に並んで歩くのが嬉しくて幸せなのに……。

 過去の人の名前を聞かされても、心の棘に引っかからない強さが欲しい。
 まさか、ゲオルグがそういうプレイを楽しんでたとか思いたくは無いけど、僕だってその、求められたら応えなくも無いんだけど。

 はっ! 違う、違うよ、そんな趣味無いから!!
 やっぱりショックだったんだ、そうだ、絶対そうだ。

「ラグ様、ちょっと見ない間に背が伸びましたね。
 それに随分、体つきも男の子らしくなって来ましたね」

「男の子じゃない、男らしく、だよ!」

「私にとっては、ラグ様はいつまでも可愛らしい私のラグ様ですよ」

 セバスチャンは僕を後ろからぎゅっと抱きしめて、やっと会えました、と呟いた。

「僕だって、セバスに会いたかった」

 セバスチャンに向き合って僕もきゅっと抱きしめた。
 やっぱりセバスチャンは家族として、大事な人として僕には必要不可欠な存在なんだって思い知らされた。

 ゲオルグが、離れろとセバスチャンと僕を引き剥がして、その腕の中に抱きこんで黒いコートで覆った。

「この国のロッシ別宅は、少し街外れになるんです。
 その分景観も素晴らしいですよ」

 海が見える高台らしく、開放感が凄いって言いながら、景観にそぐわないのが二人ほどいますが、と付け加えた。

「ラグ様、お疲れでは無いですか?
 あの変態が、ご面倒をおかけして」

「セバス、暫くぶりだったから言わなかったけど、もう僕は平民何だからそんな言葉使いダメだよ?」

「ラグノーツ様は降下されていても、その品格は隠せないのですよ」

 アシッドが恍惚とした表情をしながら、スキップしていた。

「セバス、アシッドは前からあんな感じ?」

 ゲオルグのコートから顔だけを出して、アシッドの浮かれっぷりを見ながら聞いた。

「血を好むとは分かっていましたし、どちらかと言うと狂戦士的で命のやり取りの場に敢えて突入して行くタイプでした。
 育った環境のせいで、自分を大事にしないのだと思っておりましたが、そうでもなかった様ですね」

 片鱗はあったのか。

「セバスの叔父上殿はそっちのアシッドを使いたかったんだろうな。
 何だかリカルドもあんなアシッドの面を知らないだろうし、ミワもアシッドがいるのは構わないんだよね?」

「はい、ラグ様
 アシッドはあれだけ貴方に敵意を出しながら魔法は一度も使っておりません。
 セバスチャン殿やゲオルグ殿から傷をつけられても、です。
 まあ、性癖と言うかそれを好む体質でもあるようですが」

 そこ!
 痛みが好きで、自分を危険に晒すような事はして欲しくないんだよな。

「アシッド!」

「はい! ラグノーツ様!」

 浮かれた足取りをピタリと止めて、月明かりの下綺麗な姿勢で立つアシッドは、セバスチャンとよく似た美形だが、狂気とも言える微笑が恐怖を与える死神にも見えた。

「僕といるなら、自分を粗末にしないで。
 自分の血を一滴たりとも流さない様にするって誓って、ね?
 命を危険に晒すような事したら、許さないからね? 分かった?」

 月明かりの下にいる死神は、更に美しく微笑み、恭しく胸に手を当て腰を深く折った。

 そして跪き、僕の手を取るとその甲にくちづけた。

「恐悦至極に存じます。
 このアシッド・ロッシ、ラグノーツ様の為に何をおいてもお側でお守りする事を誓います」

「ありがとう、アシッド。
 これから宜しくね」

「ああ! ラグ様、ラグ様!
 その素晴らしい微笑み! イキそうです!」

 いや、早まったか。

「アシッド! いい加減なさい!」

「兄上、こればかりはいくら尊敬する兄上のお言葉でも、従えません!
 ラグノーツ様は私の神ですから!」

 キリッ! ってアシッドが真面目な顔をしてセバスチャンに断りを入れた。

 神って何だよ! BLの神様はマッチョなオネェなんだぞ!!

「ラグ、あのアホ兄弟はほっとけ」

「変態だけど、可愛いよね。
 懐いてくれるのは純粋に嬉しいしね」

 凄く危うい存在だけど、味方ならかなり頼もしい存在になるとは思った。

「お前のその危機管理の無さは今に始まった事じゃないが」

「んー? そう?」

 ちょーっと不機嫌になった。
 僕って心狭~い!

「ゲオルグさぁ、誰と比べて危機管理が出来てないって言ってるの?
 僕にはミワ緑頭も、それにアシッドもいる!」 

 アシッドのキラキラした表情を横目に見ながら、ちょっと失敗したかもと思ったのは内緒だ!

「誰とではなく、一般的にだ!」

「僕は誰も彼もを疑いたくない。
 ちゃんと話してみたいと思うから、無茶をする僕を止めてくれるのは嬉しいけど、子供扱いして欲しくない。
 それに……、っさあ、マルロイって何?
 過去で終わってるのかもしれないけど、プレイをしたりしてた相手なんでしょ?
 僕は子供すぎて対象にもならなかった?!
 それとも、子供の体じゃ、なきゃ、ゲオルグは愛せない、の、かなぁ」

 ゲオルグの手がピクリとして一瞬だけ僕の体から離れたのが分かった。

「バカ、ゲオルグ!
 こんな時に手を離したら、認めた事になるじゃん!」

 今更抱きしめて来ても、ダメだ!

「ラグ、違う!」

 僕はゲオルグのコートの中からアシッドに手を引かれて、ロッシ兄弟の腕の中に抱き込まれた。
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