森の木陰から始まる物語

ビーバー父さん

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1,お昼寝スポットは……

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 ウチの敷地にある森の木陰で昼寝をしようとした、その数分前。

「お前だけを愛してる」

「ならどうして婚約してるの?」

「アイツの事は親同士が決めたんだ。
 まだ俺には破棄をするだけの力がない」

「いつまで待てばいいの?」

「もうすぐ、国王から許可証が出る。
 そうしたら、破棄を突きつけてやる!
 あんな可愛げのない奴、伴侶になんて迎えるものか!」 

 ぐすんぐすん、絶対だよ!? と言うセリフを聞いて、はて? と考えてからあの許可証とか言ってた声は多分、僕の婚約者だな。
 それに凄い鼻声のハイトーンは誰だったんだろう?

 声のする方へ覗き込むつもりが、眠かったので動くのを止めた。
 
 国王からの許可、ですか?

 はて?

 破棄なら破棄で、僕は全く気にしないのでご自由に、と思ってゆっくりと昼寝をする事にした。
 





「キアラ、お前とは婚約破棄をする!」

 ウチの敷地の森で密会をしていたのはやはり僕の婚約者で、その相手が幼馴染のクリッシュだと知ったのは、あの日から数ヶ月後のパーティーの真っただ中だった。
 声で婚約者なのは分かってたけど、あの鼻にかかったハイトーンが幼馴染だったとは。
 それに、木に掴まって何やら運動もされていましたので、寝ている僕の所の木にまで枝が当たって葉っぱが落ちて来て、昼寝の邪魔されたので仕方なく話を聞いてしまう事が数十回ありました。
 

 僕の婚約者は王族の末端も末端、三十人くらい死なないと王位継承権も遠い公爵家で、パーティーが何故か王宮の大広間で盛大に行われている時だった。
 公爵家なのに王宮使ってますよ、よく許されましたね。
 このソープオペラのために用意した舞台でしょうけど、王族は誰も来ていない所を見ると時間貸しして貰ったんですね。
 
 うん、これ、知ってる。

 確か市井ではやりの、婚約破棄から始まるざまぁ小説だ。

「僕と婚約破棄という事で宜しいでしょうか?
 レオナルド様」

「そうだ!
 私はこのクリッシュと改めて婚約する!」

「はぁ、そうですか」

 レオナルド自身にも、この馬鹿げた昼ドラみたいな芝居がかった婚約破棄にも、全く興味は無かった。

「キアラはレオナルドをぞんざいに扱って、酷いよ!」

 ほわほわの頭に花が咲いてそうなクリッシュが、何かを酷いと言っていた。

「はて?」

 心当たりはありませんね?
 
「その人を馬鹿にしたような表情も、私を大事にしようとしない態度にも、本当に嫌気がさしたんだ!」

「畏まりました。
 レオナルド様、ではこれで僕は貴方の婚約者ではなくなりました。
 帰宅させてもらいますね」

 親同士の誓約でしたので、この宣言が有効かどうか分かりませんが、取り敢えず帰って好きなだけ寝られる、という事です。

 あ、そのビックリした、みたいな顔はマヌケですから止めた方がいいですね。

「お前、破棄だぞ!
 婚約破棄なんだぞ! 分かってるんだろうな?」

「はい、ですから帰宅させて頂こうと。
 それに数ヶ月前から、ウチの森で何やらお二人で舞台のお稽古の様な事をされていたので、理解しておりますよ?」

 僕はつい、あの時の事を言ってしまった。
 はて? 何か間違えたでしょうか?
 皆さん、どうしました?

「私たちの事を、知っていた、だと?」

「えぇ、良く存じ上げておりますよ?
 僕のお昼寝スポットで、汗だくになる様な運動もされていたのですか?
 ああ、お掃除して行かれないのは如何なものかと。
 僕が片付けて、燃えないゴミはまだ処分できておりませんので、手元にありますよ?」

「!!」

「では、ごゆっくり。
 皆々様がたにも、このパーティーをお楽しみ下さいね」

 にっこり笑って、では失礼いたします、とその場を辞した。
 
 あ、父上達にご報告をしなくてはいけませんでした。
 このまま、ご実家に帰られてる母上とそこに追いかけて行かれた父上に報告する為にも、隣国の王宮へ行かなくてはならないのが多少憂鬱ですが、その間寝てられますね。

 僕はパーティーが開かれていた王宮を出ると、ウチの家紋が入った馬車に乗り込み、その足で隣国のおじいちゃんの王宮へと向かって貰うようにお願いしました。

 僕のための馬車は中に簡易ベッドが仕込まれていて、いつでもどこでも眠れる仕様に作られているので、おじいちゃん家に着くまでゆっくり眠りながらこれからの事を考えるとしましょう。

 多少の説明をすると、この国は僕の父上が侯爵家を継いで暮らしているシナガワ国、隣国が母上の実家があるシナガワゲートウェイ国、王同士が兄弟で仲も良いから、国境なんて有って無い様なものなんです。
 そして、文字通りシナガワゲートウェイ国はおじいちゃんが王様で母上はその娘になる。
 表側の家格だけ見ればうちは侯爵家、向こうは公爵家で僕の方は格下になるので破棄と言われればオッケーって受入るしかないんですけどね。
 そしてもう一つ、重要な事がありまして、この世界の性は男性のみ、そして第二の性がファムという妊娠が出来る性に分かれていて、僕はそのファムだと生まれた時に言われました。
 ファムは普通の男性より多少、体の作りが華奢な方が多いだけで、身体的な差がある訳じゃないんです。
 こう、女っぽいとか優しいとか、そう言うのは全く無いので、可愛いとか可愛くないとかはその方の個性かと思われます。
 男性しかいない世界で女って言葉を知ってるかと言うと、僕は前世持ちなんです。
 はい、ありがちな設定ですが、何かチートがあるかと言うと、特に無いです。
 魔法はないし普通の世界ですが、男同士で結婚して子供を作るってだけです。

 僕は前世も恋愛対象は男だったので、全然問題ないですが、多少なりとも婚約者だった事でそれなりに二人の未来を考えたこともありますからね。

 あ、前世の記憶があるだけで、大分チートでした。
 前世の僕は大学教授しかもノーベル賞を受賞するはずだったようです。
 ですが、悲しいことに働きすぎ研究し過ぎ、そして栄養失調で死んだようなんです。
 バカですねぇ。
 ですから今世では楽に生きようと思って、寝て過ごすのか一番! と思っております。
 寝て暮らすために、前世の知識で僕が初めて作ったのはコンドームでした。
 男同士でも妊娠する世界ですからね、やはりそこは不幸な子や酷い思いをしない為にも、そして何より衛生的にも! 避妊具は必要不可欠、明るい家族計画ですよ。
 そして犯罪者を捕まえる為にもDNA検査は絶対ですからね!
 なので、永続的にこの世界では無い技術を特許化していて、利用料が入るので生活に困ることなく資産だけは国家予算以上に持ってる訳です。
 

 ああ、話が長くなり申し訳ありません。
 あの二人の残したゴミの意味がお分かり頂けたかと思います。
 この世界でも、不貞は許されないのですよ。







「キアラ様、起きてください
 王宮に着きますよ」

「あぁ、今日は起きてる。
 やっぱり破棄はショックだったのかなぁ。
 眠れなかったよ」

 そう言って笑ったら、御者は真っ青になっていた。

「キアラ様! 早くお医者様に診て頂きましょう!」

 御者はものすごい勢いで馬車を走らせ、王宮の門を開けさせて、彼は叫んだ。
 医者をお願いします! キアラ様が眠れないと!
 その言葉に、王宮にいた騎士達が凄い勢いで、父上母上に伝令を走らせていた。

「ちょっ! 考え事してただけだから!」

 止めようにも既に遅く、騎士に侍従に侍女までもが走り出し王宮の奥へ消えて行った。
 その動きが次に起こす事象を考えたら、頭を抱えたくなった。

「キーアーラー!!!!
 大丈夫か!!? 何があったんじゃ!!?」

「可愛いキアラ! お前が眠れないなんて!!」

「キアラちゃん!! お母さまに教えて!! 何があったの!!?」

 ものすごい勢いでタックルのような抱擁を三連発で受けて、僕の内臓が大分ヤバイ事になってます。

「ぐえ」

 この中で一番強く締めているのが母上とは! 母の愛は強しって事でしょうか。
 でもその愛の前に、三途の川が見えそうですので、そろそろ解放して頂きたい。

「母、うえ、そろそろ、離して」

「え、あ! あ、ごめんねぇ~、キアラちゃん大丈夫?」

 苦しかった。

「母上、お元気そうで」
「もう! キアラちゃんが眠れないなんて一大事でしょ!」

 楽に生きるのが僕にとって寝て過ごすってだけですので、ちょっと昼寝をしなかったくらいで具合が悪いわけでは無いのですが。
 この両親と祖父は僕に対して過保護すぎるんです。

「キアラの可愛さは、奇跡なのじゃ!
 サラサラのアイスブルーの髪に、金の瞳、素晴らしい頭脳! これが守られるべき者じゃなくて何だと言うのだ!!」

「おじいちゃん、ご自分も同じ髪色に目の色ですよ?」

 隔世遺伝で見た目はおじいちゃんにそっくりなんで、普通ですよ。

「儂だって若い頃は奇跡の美貌って言われたんじゃ」

 確かに綺麗なおじいちゃんですけど、奇跡ではないかと思います。

「キアラは優しすぎるから、きっと自分の中にため込み過ぎてるんだよ」

「父上? 僕はそんなに考えて無いですよ?」

 コテンと首を傾げると、父上は号泣した。
 何ででしょう?

「可愛い!! キアラ可愛い!!」

 またぎゅうぎゅうと抱きつかれて、本題に入れません。

「あの、父上! お話があります!」

「何でも買ってあげるよ?」

「いえ、自分の資産があるので、買ってもらわなくて大丈夫です。
 そうではなくて、婚約破棄を申し渡されたので受け入れてきました」

「「「な、なっにー!!!!」」」

 三人とも声がしっかり揃ってますね。

「はい、えーっとパーティーでレオナルド様はクリッシュを改めて婚約者にするという事を宣言するために、その場で婚約破棄を申し渡されたので、その場を辞してきました。
 僕としては、これから安眠を邪魔されないならそれでいいので」

 ワナワナと震える三人に、これでやっと眠れるのでまた明日、と言って王宮の一角にある僕の研究室兼自室に引き上げることにしました。



「「「あのボンクラめー!!」」」

 

 一番隅に構えてる僕の部屋まで響いて来てました。
 
 さて、彼らの事は国際法で、おじいちゃんから苦情を入れて貰うとして、僕はこのところお昼寝が出来なかったのでゆっくり寝てから、この先の事を考えようと思います。

 おやすみなさぁい……。

 




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