子豚のワルツ

ビーバー父さん

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エストゥールの笑顔

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エリュは黒い子猫、エストゥールのまま再生された。


え?
トルク、お前ー!!
私の権威を代行したな!?


神様!父様!ありがとうございます!!

シュリが二人の間に割って入って、感謝を伝えエリュを腕に抱いた。


シュリは、だめ。
エリュが最初に抱かれているのは母様じゃないと、だめ。

フロウがエリュをシュリから取り上げ、僕の腕に託してくれた。


もう、お前ら帰れ!
次、これやったらスキル取り上げるからな!
それと、家名の話し聞こえたけど、咲季もエストゥールも私の子だから!
神に家名は無いからな!
トルク、お前の家名に咲季もエストゥールも入れないから!残念だったな!
はっはっはー!!

余程、業腹だったのか、神様は最後にそう告げて消えた。
そか、田淵じゃないんだ…。





僕の腕の中には静かな寝息のエストゥールがいて、それを自分の腕に戻したいので、咲季の後ろを着いて回っていた。

「シュリ、約束したよね?
 身勝手な想いを押し付けないって
 エリュが選ぶんだからね。」

「母様、分かってる。
 でも、抱っこくらいさせてくれないか?
 俺も、エリュに選ばれる努力をしたい」

シュリの気持ちも分かるけど、まだ目覚めないエストゥールを渡すわけにはいかなかった。

「目覚めて、エリュが自分の意思で、
 シュリに会いたいって言ったら、ね」

「それは」

「自信ない?
 自信が無いから、先にエリュといたいとかなら、絶対に許さないからね。」

「はい。」

あながち、ハズレてはいなかったようだ。
シュリが不安になるのも分からなくは無いけど、今までのエリュを見ていれば、そんな事無いんだけどね。

抱いていたエリュがくぁっと欠伸をして、手足をピンと伸ばして目覚めようとしていた。

「エストゥール、起きた?」

「んにゅ、ぅ」

黒い子猫は、目をしばしばさせながら、僕を見つめてニャッと鳴いた。

「え、と
 しゃべれない?」

「母様、しゃべれる
 エリュ、斬られたからもう、会えないと思ったの。」

「うん、ちゃんと治したよ。」

グルグルゴロゴロと喉を鳴らし、僕に体ごとぶつかる様に擦り寄ってくれた。

「エリュ、俺が分かる?」

「ん?
 えっと、どういう意味?
 て言うか、僕が分かるの?」

真っ青になったシュリが、慌ててシュリ兄様だよ!って言っていた。

「エリュ、ごめんね、本当にごめんね!
 俺の事、忘れちゃったならちゃんと好きになって貰えるまで、頑張るから!」

「忘れたりしてないよ?
 シュリ兄様、変な魔法で、おかしくなったから、僕の事分かるのかな?って思っただけだし。」

キョトンとした表情と、どこか無関心な表情を浮かべて、エリュはシュリの事を忘れてないと告げた。

「エリュ、皆んなが待ってるから、行こう。」

「母様、エリュを抱っこさせて欲しい。」

神妙なシュリに、僕もダメとは言えなかった。

「エリュ、シュリに抱っこしてもらっても良い?」

「ううん、僕、自分で歩くよ」

そっと床に降ろすと、人化した。
黒い髪に金色の瞳を光らせて、シュリを見上げた。
抱っこするつもりで出した手を引っ込められずに、モジモジしているシュリを見て、少しだけ笑ってしまった。



皆んなが集まっているダイニングへ行くと、ダリューン国王が良かった良かったと、豪快に笑って、シャズとロゲルは、撃沈か?とシュリに聞いてきたりして、そのままエリュをひょーいと持ち上げて、間に座らせた。
マロとフロウは小さな末っ子を間に挟んで、食事を始めてしまったから、シュリは仕方なくエリュが見られる向かい側に座った。

「エリュ、しっかり食べろ。
 後でトリシュ叔父様のお説教だろ?」

「え!?あれ有効なの?」

「有効だ。」

トリシュが心の中では生きてここにいる事をすごく喜んでいたが、あの時ちゃんと魔法を使えていれば、展開が確実に違ったからだ。

「ぶーぶー、ちぇー」

そして、どんどんシュリ絡みの話題から離れていった。
伴侶になる事は反対していないが、支配されていても、エリュの事を斬ったのが許せなかっだと言うのが、皆んなの総意でエリュが伴侶になりたいと言うまでは、シュリを遠ざける気満々だった。

「エリュ、俺を助けてくれてありがとう」

唐突に、シュリがエリュにお礼を言って、頭を下げた。

「僕、シュリ兄様を助けられた?」

「ああ、エリュが居てくれなければ、
 俺はあそこであの気持ち悪い狐に種付けさせられる所だった。」

「そか。
 良かった。
 シュリ兄様に触ってた人、僕は嫌いだったけど、邪魔しちゃったかな?って心配だった。」

話題を避けていたのに、脳筋は天然とは違った意味でストレートだな、と皆んなが思った事は確かだった。

「俺は、エリュ以外、触られたくない。
 エリュ以外触りたくない。
 だから、俺の伴侶に」
「わーわー!!!
 シュリ、ダメでしょ、それは!!」

僕は、慌ててシュリの口を塞いで、黙らせた。

「シュリ兄様の事好きだけど、同じだけ好きじゃないと思うんだ。
 僕を殺しちゃった罪悪感でそう思ってるだけじゃないかな?
 僕はあの絡みついてた人、殺したかったけど、シュリ兄様が悲しむかな?って思ったら、幸せになって欲しいし、斬られた時にシュリ兄様を諦めたんだ。」

エリュの方が冷静に判断していた。

「エリュ、俺はそんな事思っていない!
 支配されて、お前を斬った事は悔やんだ。
 でも、今目の前にいるお前を見て
 罪悪感より愛しくて触りたい気持ちしかないんだ。
 お前を愛してるって気づいた。
 家族愛じゃない、母様よりも誰よりもエストゥール、お前だけが欲しい。
 この腕にいないと気が狂いそうだ。
 もし、お前が他の男の腕にいるなら、その男を殺してやる!」

やばい、ヤバいよ、シュリどこでヤンデレかサイコに行った?

皆んなはニヤニヤ笑ってるし、どうして止めないんだよー!?

「僕、シュリ兄様に誰かが触ったら殺してもいいの?
 そいつも殺したいけど、まずは、シュリ兄様を殺すよ?」

「ああ、殺してくれ。」

エリュが綺麗な笑顔で、うん、シュリ兄様、と。

「え、いや、待とうか。
 これ、どう言う事?」

僕は納得できない。

「母様、僕、母様よりシュリ兄様が好きみたい。
 母様には生きて抱きしめて欲しいけど、シュリ兄様は僕以外を触るだけで、殺したくなるから。」

「え、あー、そうなんだ。」

「うん、だから、シュリ兄様と伴侶になりたい。」

どっちも、お互い必要なら仕方ないか。
そして、どっちも、怖いわ、これ。

「シュリ、言祝ぎの誓いをしなさい。」

トルクの言葉に静かに頷き、エリュの所まで行くと、座ったエリュに跪いてその手を取った。

「神の愛し子エストゥール、私の生涯を貴方に捧げます。
 魂の約束は魂が事切れるまで、そして来世もまた、貴方と共にあると誓います。」

エリュは、涙を流しながら同じように誓った。

「僕も、シュリ貴方に全てを捧げ、来世もまた、貴方と共に生きると誓います。」

魔法陣が浮かび、二人を包んで消えた。

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