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傲慢★憤怒

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この恋は、偽物だ。


「もう殺すのか?」


銀色の大きな鎌を振り上げた時、後ろからの声に愛姫(あき)は動きを止め、視線だけを向けた。嫌な奴が背後で嘲笑している。


「……横取り?」
「腹が空いたからな。狩るなら俺様にくれてもいいぞ?」
「分かった、あげる」


素直に譲ると、彼は死に際の人間に噛み付いた。
【傲慢の悪魔】それが、咲音(サィン)。死が近い人間を喰らう化け物だ。


「くそっ…!やっぱ長生きしたババァは不味いな。後味悪ぃ」 
「葬送しても?」
「あぁ。もう要らねーし」


悪魔は好き勝手。その後始末はいつも愛姫の役目。
【憤怒の死神】である限り、悪魔との関係は切れない。死が迫っている人間を狩るのが死神の仕事、悪魔はその魂を喰らうのが趣味。最近は咲音に横取りされまくって怒りを通り越して日常と化してしまった。


「この前の人間は狩ったのか?」
「いつの話?」
「二日前だよ。忘れてんじゃねー」
「高校生の女の子なら見届けた」
「へぇ。真面目だな、死神は」
「……彼女に言われた。“またね”って。どういう意味?」
「は?知らねーし、興味ねーよ。それより」


いきなり腕を掴まれ、愛姫はビクっとした。


「まだ足りねぇんだわ。お前が満足させてくれよ」
「……拒否権ないくせに」




ギシッとベッドが軋む。人間の姿に変えて入ったほてる。そんなに広くない室内で悪魔と2人きり。このパターンは最近のものだ。何が楽しくて悪魔はこんなノリノリなのか分からない。愛姫はただ彼のペースに合わせるだけ。成るように成ればいい。


「そんなに嫌な表情すんなよ。萎えるだろ」
「…嫌では、ない……」
「お前、感情出すの苦手だもんなぁ。もっと顔の力抜けば?」
「…意味が分からない……」
「ま、最中になれば変わるだろうし」
「っ……」


首筋を舐められ、愛姫はビクっとした。
悪魔とこんな関係になったのは、つい最近のこと。透韻と音信不通になってしまい、物足りなさを感じていた頃だ。不意に現れた咲音は愛姫の獲物を横取りした上に愛姫まで喰らった。その行為を愛姫は全く知識に入れておらず、訳の分からないまま事が済んでいた。ただ身体の痛みだけが紛れず、暫く怒りが収まらなかった。


「もっと声出せよ」
「…どうやって?」 
「なに?煽ってんの?」
「咲音はこんな事して楽しいの?」
「なんだよ。こんなの遊びだろ?楽しんだ方が面白いじゃん」
「…人間は…遊びでこんな事はしないと言っていた」
「俺様は聞いてない。それに、人間じゃねぇし」
「……っ」


咲音は愛姫の脚を広げ、その間に顔を埋めた。また、熱いものがこみ上げてくる。悪魔の舌で絡め取られて脈がどんどん速まっていく。


「……さ……サィ、ン……」
「感じてきたか?この間はさっさとヤッちまったからな。今日は丁寧にしてやるよ」
「…もう…いい……。焦れったい」
「解さねぇと痛ぇーんだぜ?俺様に任せろっての」
「…嫌…だって……」
「直接舐めたからな。もう身体やべーだろ?」


まだ、下半身しか弄られてないのに愛姫の息は乱れていた。身体が疼いて仕方ない。指で触られた訳でもないのに、ひどく悪魔のものが欲しいと身体が訴えている。


「ここも舐めてやろーか」
「い、いい……!要らない……」
「やべーんだろ?指より舌の方が効果覿面だもんなぁ?」
「…咲音……っ……」
「そんな表情で名前呼ばれたら、誘ってるようにしか見えねーよ、愛姫」
「ひっ…!や、だ……!」 


今度は乳首を狙われ、愛姫はビクンと腰を浮かした。悪魔の舌には“媚薬”成分が含まれており、舐められれば忽ち性欲に溺れ、悪魔の好きなようにされる。愛姫は理解してても信じてはいなかった。所詮、具現化されただけの存在。魔女だってそんなに有能じゃない。それなのに、こんなに身体が熱いのは、もっと別の理由があるのだと愛姫は信じたかった。


「はっ……ぁ……くっ……」
「どうした?乳首だけでイキそうか?脚が泳いでるぞ」
「いや、だ……。やめっ……」
「なら、どうされてーの?」
「……舐めるの……やめろ……。ゆ……指……使って……」
「指?どこ触って欲しい?」
「あ……し、下……。あな……に……」
「入れて欲しーか。やっと可愛くなってきたじゃねーか」


愛姫の反応を面白がりながら咲音は指を入れ、中を弄った。


「ぅ……ぁあ……」
「今なら言えるよな?指で?どこ触って欲しい?」
「……お、奥……」
「どこ?」 
「……嫌だ……言いたくない……」
「恥ずかしがる事ねーだろ?前立腺って言えよ」 
「……やだ……」
「はっ。強情」


咲音は意地悪く、カリッと指で前立腺を引っ掻いた。愛姫はビクビクっと反応してしまい、あと少しで達してしまいそうだった。


「こんなに感じるクセに」
「や、ぁあ……」
「ほら。次はどうして欲しい?」 
「っ……もう、いい……。終いだ…」
「なんで?これからじゃん」
「五月蝿い……。こんな事……時間の無駄だ……」


愛姫は咲音を押し退け、ふらつきながらベッドから下りた。


「逃がさねぇよ」
「やっ……!」


イラつきながら咲音は愛姫の手を取り、強引にベッドの上へと戻した。そのまま愛姫を四つん這いにさせ有無を言わさずに挿入した。


「…いっ…!抜け……!やだ……!」
「嫌じゃねぇだろ?欲しかったクセに」 
「……痛い……」
「あぁ。お前が逃げるから半端になっちまった」
「痛いよ……」
「なんで嘘つくんだよ。そんなに恥ずかしいか?」
「だっ……て……こんなの……不毛だ…」
「俺様はずっとお前とこうしたかった」
「…う、あ……」


いきなりぐるんと体勢を変えられ、愛姫は挿入されたまま仰向けにされた。


「……咲音……?」 


自分を見つめる悪魔の表情が今まで見た事のない哀しげな微笑を憂いていたので愛姫は戸惑ってしまった。


「どんな想いでお前に近付いたか、解ってねーだろ」
「……意地悪する為でしょ?」
「最初はそうだったよ。ちょっかい出せば振り向いてくれると思った。続けていく内にお前に惹かれてたんだ」
「……咲音が言うと嘘くさい」
「だから言いたくなかったんだよ。お前、俺様の事信じないから」
「そういうの、疲れる。気持ちに応えてたら、持たなくなる」
「あぁ。お前はそうだから余計俺様だけのモノにしたいと思った。愛してるんだ、愛姫」
「…この状況で言うんだ」
「好きじゃなかったらこんな風に抱いてねぇ」
「本当に?」
「あぁ」


咲音はそっと愛姫に口付けした。


「ーーなら、咲音も愛姫だけのものだよな?」
「そうだよ」
「咲音 」


今度は愛姫から口付けし、そのまま舌を絡めていった。咲音の本音を知って愛姫は安堵していた。嘘でなかったことに身体の硬直が解け、咲音を受け入れた。互いに激しく抱き合い、快感に身を委ねた。





「咲音の獲物は、透韻だと思ってた」


情事が済み、横になりながら愛姫が呟いた。


「あいつは無理だ。手に入りもしねーし、誰のモンにもならねぇよ。バカな天狗が懸命に口説いてたっぽいけど、成果0だな」
「それで愛姫を虐めたくなった訳?」
「まぁ、簡潔に言うと。お前だって美人だよ」
「……咲音が褒めるとお世辞に聞こえる」
「どんだけ信用ねぇの……。でも、本当だから。この白くて絹みたいな長い髪も、白い肌も水色の瞳も全部俺様だけのものだ」
「……咲音の瞳も綺麗だけど。虹色の瞳なんて唯一無二じゃん」 
「羨ましいだろ?」
「くれって言ったら貰えるの?」
「いいぜ。等価交換だ」
「何と?」
「お前のこの髪と」
「……冗談。片目になったらすぐ失明しちゃう」
「仮の話だって。でも、そういう時が来たら、迷わずお前にやるよ」
「……来たらね」


愛姫は眠そうに欠伸をしながら咲音にくっついた。


「おやすみ」
「……うん」


誰かと一緒に寝るのは久々だった。いつも眠れない時、傍にいてくれたのは透韻だけ。最初はみんな一緒だったのに、いつからか離れていった。透韻とも連絡付かずで他の仲間とも会う機会がない。それでも、誰かが欠ければ分かるようになっているから今のところはまだ大丈夫だ。咲音と一緒にいれば怖いものはない。


「……透韻……」


そう呼んだら、振り向いてくれる気がしたんだ。





「お前、いつ寝てんの?」


鎌を抱きながら屋根の上で星を眺めていた時、不意に現れた透韻が愛姫に声を掛けた。


「……分からない。気付いたら起きてる」
「怠くねぇの?身体」 
「平気。透韻こそ、寝ないの?」
「目が冴えた。お前がいねぇから、ここかと思って」 
「…空なんて……ゆっくり見なかったから」
「星ねぇな」
「でも……落ち着く」 
「じゃあ、オレも今日はここで寝よっかな」
「背中痛くない?」
「平気。ほら、愛姫。一緒に寝よ」
「……うん」


何故か、透韻が傍にいるとすぐに眠れた。あの感覚は何だったのか。今となってはよく思い出せない。でも、ひどく透韻に逢いたいと思ってしまった……。
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