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来客
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『悪い!綾瀬、今晩泊めてくれ!』
不意に掛かってきた電話は白夜からでその声色から焦りが感じ取れた。
「いき…なり…?大丈夫……だけど……」
『そっか、さんきゅー!今からでもいい?』
「えっ……!今はちょっと……。んっ……」
ガクッと脚が震え、声も漏れてしまった。
『じゃあ、都合の良い時間になったら連絡してくれると有難い』
「ん……。分かった……」
『今、先輩と一緒?』
「…そう…だよ……。ぅあ……っ…」
『ーーなぁ。さっきから何やってんの?』
「いや……何でもな……っ…」
反対の耳にまとわりつく卑しい音。綾瀬の脚の間には結多の姿。懸命に舌を動かしながら綾瀬のペニスを愛撫していた。
『まさかエロいビデオ見てんじゃねー?』
「違う……!そんなの、見ない…」
『ふぅん?まぁ、いーや。じゃ、連絡待ってるから』
「うん……。また……」
綾瀬はすぐに携帯を棚の上に置き、結多の頭に触れた。
「…先輩……。おれ…もう……イキそう…」
「ん。いいよ、出して」
「だっ…、ダメです……!離して下さ……」
「えー?」
ゾクゾクと震えが増し、もう我慢出来なかった。
グイッと結多を離し、その直後に射精してしまった。ビュッと結多の顔にも飛び散り、更にエロさが増す。
「すみません…!今、拭きます…!」
「ぅえ……。ちょっと飲んじった……」
「大丈夫ですか!?水飲みます?!」
「大丈夫だよ、綾瀬。すぐ離さなかったオレも悪いし。それより電話、白夜?」
綾瀬からタオルを受け取り、顔を拭きながら結多は聞いた。
「はい。今から泊まりに来てもいいかって」
「今から?急だね」
「すみません、一応OKしてしまったんですけど…」
「いいよ。白夜なら仲良くなったし、大丈夫」
「ありがとうございます」
「じゃあ、今日はエッチ出来ないね」
「白夜が眠るまで待ってますか?」
「んー……折角明日休みだからいっぱいしたいなって思ったんだけど」
「見られてもいいなら、やりましょうか」
「えっ……でも……恥ずかしい…」
結多は照れながら顔を逸らした。
「先輩は恥ずかしがる必要ないですよ。とっても可愛いです」
「また……!か、可愛いっていうのは女の子に使う言葉だよ」
「嫌なんですか?」
「…嫌じゃない…けど…」
「エロいって言ったら怒るでしょう?」
「だからそれも女の子に使う言葉……」
「先輩は女の子よりとても美人です。高校の時から、貴方が一番綺麗に見えた。今も」
綾瀬は結多の頬に触れながら優しく微笑んだ。そんな表情を向けられては否定出来ない。
「……ありがとう」
「本当の事なので」
「綾瀬が良いなら……白夜に見られても良いよ」
「もしもの話ですけどね。先輩が声を我慢出来なかったらあいつも起きるだろうし」
「あ……綾瀬…。あのさ……」
「はい」
「奈留さんがいた時みたいに口塞ぐのはやめてほしいなぁ……って」
「やっぱり苦しかったですか?」
「うん……ちょっと顎がね…」
「すみません。配慮が足りなかったですね」
「オレも声抑えきれなかったし、おあいこ」
結多はにこっと微笑みかけ、綾瀬もつられて頬を緩めた。
「白夜呼んでも大丈夫ですか?」
「うん。あ、寝る場所どうする?」
「おれの部屋で寝てもらいます。だから、また先輩のお部屋お借りします」
「うん。じゃあ、布団敷いてくるね 」
「はい」
綾瀬は携帯に手を伸ばし、結多はルンルンで自室へ戻っていった。
夕食も入浴も全て済ませてあったので、白夜が来ても何ら支障はない。時刻は夜10時過ぎ。この近所だと言っていたからすぐに来るだろう。
「先輩。白夜来たら出て貰って良いですか?」
布団の用意をし終えてリビングに現れた結多に綾瀬は声を掛けた。
「うん。綾瀬はお仕事?」
「はい。あと少しで仕上げますので……」
「いいよ。オレが付き合わせちゃったしね。また新作書いてるの?」
「えぇ。この間書き上げたものも来週発売なので」
「本当!?楽しみー♪ 絶対買うからね!」
「ありがとうございます 」
「サイン会は!?またやらないの?」
「今度の土曜日、やりますよ」
「え、本当!?場所は?何時にやるの?」
テンション高めに聞いてくる結多に若干驚きながら綾瀬は息を吐くようにゆっくりと答えた。
「午後3時からシャンシャインシティでやります」
「池袋だ♪オシャレだね〜。本屋さんとかじゃないんだ」
「はい。人混みを考えての事みたいで」
「整理券とかあるのかな?あ、抽選だっけ?」
「あの、先輩……。来る事前提ですか?」
「そうだよ。先生のサイン会だもん。前回も行ったじゃん」
「大騒ぎになりましたけどね…」
「オレの所為?」
「人気モデルだって事、自覚してます?」
「してるよー。だから変装して……」
「帽子だけじゃバレますよ」
「だぁって〜……!マスクは苦手だし、グラサンは目が悪くなるし、下向いてればバレないかなって…」
「甘いですね」
「えー……」
「変装無しの方が返って分からないんじゃないですか?」
「おぉ!成程」
「有名人が素で歩いてるとは普通思いませんもんね」
「さっすが、綾瀬!じゃ、そのままでいくね」
「あ。一応服の確認はさせて下さい」
「いいよ」
結多に任せておくとどんな格好をしてくるか分からない。ファンにダサいなどとガッカリされると綾瀬も責任を感じてしまう。
「じゃあ、すみません。仕事させてもらいます」
「うん。白夜の事は任せて」
「ありがとうございます」
思いの外、会話が長くなってしまい綾瀬はバタバタと自室に戻っていった。暇になった結多はテレビの横にある棚から『Sherid *E* Le ScioN』(シェリド ヱ ルシオン)のDVDを取り出し、鑑賞を始めたーー。
ピンポーン
白夜が来たのは30分程経った頃だった。伊佐達の格好良さにメロメロになっていた結多はワンテンポ遅れて白夜を出迎えた。
「こんばんは、白夜」
「あ…、こ、こんばんは……」
まさか結多に出迎えられるとは思わず白夜は言葉がぎこちなく出てしまった。
「突然すみません……」
「良いよ。ご飯は食べた?」
「はい。お風呂も済ませてます」
「そうなんだ。どうぞ、上がって」
「お邪魔しまーす…」
白夜は遠慮気味に結多の後ろについていき、リビングで鞄を置いた。
「綾瀬は…?」
「今、執筆中なんだ。だから、暫く待っててね」
「あ、そうなんだ…」
「何飲む?あ、珈琲飲める?」
「はい…。何でも大丈夫です」
結多は2人分の珈琲を入れ、白夜に差し出した。
「ありがとうございます」
「寛いでていいよ 」
「じゃあ、遠慮なく」
白夜は結多と向かい合わせに座りながら珈琲を頂いた。身体が温まり、気持ちが落ち着く。
「それにしても結構急だったね。嫌じゃなければ説明聞いてもいい?」
「はい……。もう本当、下らないんですが…」
「うん。何かあったんだ?」
「俺…今、一人暮らししてて…。でも、家を女の子達に突き止められちゃって、朝から晩まで張り込みみたいにいるんですよ……。もうマジで…キツくて…」
「へぇ。人気者だねぇ」
「ちょっと遊び過ぎたっていうか……。それで、今日なんか女の子同士で喧嘩しててもうどうしようと思って……」
「放っておけば良いんじゃない?」
結多はサラッと解決策を言った。
「えっ…」
「男の取り合いなんて今だけだし、その内冷めるよ」
「でも……。家に帰りづらいというか…」
「なら、暫く泊まっていきなよ。オレらは構わないよ」
「…良いんですか?邪魔者じゃない?」
「白夜は、女の子にしか興味無いんでしょ?」
「まぁ……男だし……」
「なら大丈夫。綾瀬にも伝えとくよ」
「や…でも、服とか……」
「オレの貸してあげる。殆ど貰い物だし、アパレル業してる白夜ならセンスも良いから着方も大丈夫だと思うし」
「…本当に良いんですか?」
「うん。ほとぼり冷めたら様子見に行って見れば?」
「あ、ありがとうございます。じゃあ…その、暫くお世話になります」
「こちらこそ。あ、白夜は綾瀬の部屋で寝てって」
「はい。最初からそのつもりでしたし」
「ベッド派?」
「どちらかと言えば。布団も嫌いじゃないですけど、畳むのが面倒で」
「そこが難点だよね」
2人の楽しげな会話が聴こえ、白夜が来たのだと分かった。綾瀬はペースを早め、なるべく遅くならないように進めた。
「ーー何、見てたんスか?」
珈琲も飲み終わり、結多が片付けをしている中、白夜はテレビに目を向けながら聞いた。
「『Sherid *E* Le ScioN』のDVD観てたんだぁ」
「知ってます!すっごい人気ですよね!」
「白夜も好き?」
「はい!良いですよね、シェリド!歌も上手いし、演奏も上手だし!この間のアルバムも頑張って初回限定盤ゲットしたんですよ!」
テンション高めに語る白夜に結多は嬉しくなり、同調しながら頷いた。片付けも手早く済ませ、白夜と一緒にソファーでDVDの続きを再生する。
「ヤベー!マジカッコイイー!」
「何度見ても飽きないから凄いよね」
「俺、ライブ行った事ないんスよねー。いっつも落選して」
「ファンクラブの人でも取りにくいみたいだよ」
「マジでかぁ……。一回で良いから行きてー」
「オレと綾瀬は今度のライブ行くけどね」
「マジっスか!?めっちゃ羨ましー」
「いいでしょー♪」
「次のライブの時には絶対当ててやる」
「いい意気込みだね!ファイト」
どんどん盛り上がっている会話を聴きながら綾瀬はまた手を早めた。キーボードの音が耳につくくらい休む間もなく黒い文字が綴られていく。
「……あの、先輩」
「ん?」
歌が終わり伊佐達のトークショーになった時、白夜は話しかけた。
「その……綾瀬とは、どうですか?」
「どうって?ラブラブだよ」
「や……あの……夜……とか……」
「夜?綾瀬はお仕事してるけど……」
「じゃなくて!営みの話ですよ」
「営み?……あぁ、夜ってセックスの事か。してるけど、なに?」
結多は「当然でしょ」という表情で白夜に聞いた。恥じる様子もなく堂々と答える結多に白夜の方が動揺してしまった。
「そ、そうなんですね……」
「白夜も女の子抱いてるんでしょ?」
「……まぁ……色々と……」
「オレらの場合はさ、好きになった相手が同性だったってだけで何もおかしな事じゃないんだよ」
「いや……偏見してる訳じゃ……」
「うん。白夜はそういう見方しないって分かるよ。だから堂々と話せるんだ」
「先輩……」
「ねぇ。白夜は、オレらがセックスしてても構わないって寝てられる?」
「えっ……!?」
突然なにを言われるのかと焦ってしまった白夜は結多を直視出来なかった。
「キミは、綾瀬の部屋で寝る。でも、隣の部屋からオレと綾瀬の声が聴こえてきたら?それでも、欲情しないって言える?」
「……それは……」
「一応、確認したいなと思って。気持ち悪いとかウザイとか思われたらお互い気まずいだけになっちゃうから」
「……想像でしかありませんけど……綾瀬と先輩なら、綺麗だと思います。気持ち悪いだなんて思いません。それに、抱き合ってるものだと思ってたし…」
「えっ…」
「綾瀬と先輩が交わればいいなってずっと思ってました。端から見てたら分かります。お互いの事が好きなんだなって。羨ましいくらい」
「…白夜…」
「だから、俺に構わずして良いですよ。覗いたりしないので」
「……ありがとう」
結多は柔らかな表情を浮かべ、お礼を言った。その表情に白夜はドキッとする。
「ーー白夜」
仕事を終えた綾瀬か現れ、白夜は軽く挨拶を交わす。
「お仕事終わったの?」
「はい。書き上げました」
「あのさ、綾瀬。暫く白夜泊めても良いよね?」
「大丈夫ですよ」
「えっ、本当に良いの?」
「事情があるなら仕方ないよ。好きなだけ居ればいい」
「悪いな」
「おれの部屋で寝て貰うけど、良い?」
「おぅ。お前と先輩の邪魔はしねぇから」
「うん」
綾瀬があっさりと受け入れたので白夜は安堵した。
「明日は仕事?」
「はい。早番なんで、7時には出ます」
「早いね。じゃあもう寝た方が良いか」
「白夜、寝巻き貸すから」
「お、おぅ……。さんきゅ」
何から何まで色々してもらいながら白夜は綾瀬のベッドを貸して貰った。寝巻きもサイズは丁度よく、明日の服も結多から借り、準備は整った。
「じゃあ、白夜。おやすみ」
「あぁ。おやすみ」
綾瀬は結多の部屋へ行き、静寂が漂った。隣の部屋から2人の声が聞こえてくる。これからするのだろうか…などと考えてしまう。雑念に支配される前に白夜は眠りにつくことにした。
「白夜、大丈夫ですか?」
「平気。オレと綾瀬がしてるって事も知ってるし、覗いたりしないって」
「そうですか」
「いい子だよね、白夜」
「惚れますか?」
「女だったら好きになってたかも。でも、綾瀬以上に好きになれる人なんていないよ」
「おれもです」
結多を押し倒しながら綾瀬は口づけをしたーー。
不意に掛かってきた電話は白夜からでその声色から焦りが感じ取れた。
「いき…なり…?大丈夫……だけど……」
『そっか、さんきゅー!今からでもいい?』
「えっ……!今はちょっと……。んっ……」
ガクッと脚が震え、声も漏れてしまった。
『じゃあ、都合の良い時間になったら連絡してくれると有難い』
「ん……。分かった……」
『今、先輩と一緒?』
「…そう…だよ……。ぅあ……っ…」
『ーーなぁ。さっきから何やってんの?』
「いや……何でもな……っ…」
反対の耳にまとわりつく卑しい音。綾瀬の脚の間には結多の姿。懸命に舌を動かしながら綾瀬のペニスを愛撫していた。
『まさかエロいビデオ見てんじゃねー?』
「違う……!そんなの、見ない…」
『ふぅん?まぁ、いーや。じゃ、連絡待ってるから』
「うん……。また……」
綾瀬はすぐに携帯を棚の上に置き、結多の頭に触れた。
「…先輩……。おれ…もう……イキそう…」
「ん。いいよ、出して」
「だっ…、ダメです……!離して下さ……」
「えー?」
ゾクゾクと震えが増し、もう我慢出来なかった。
グイッと結多を離し、その直後に射精してしまった。ビュッと結多の顔にも飛び散り、更にエロさが増す。
「すみません…!今、拭きます…!」
「ぅえ……。ちょっと飲んじった……」
「大丈夫ですか!?水飲みます?!」
「大丈夫だよ、綾瀬。すぐ離さなかったオレも悪いし。それより電話、白夜?」
綾瀬からタオルを受け取り、顔を拭きながら結多は聞いた。
「はい。今から泊まりに来てもいいかって」
「今から?急だね」
「すみません、一応OKしてしまったんですけど…」
「いいよ。白夜なら仲良くなったし、大丈夫」
「ありがとうございます」
「じゃあ、今日はエッチ出来ないね」
「白夜が眠るまで待ってますか?」
「んー……折角明日休みだからいっぱいしたいなって思ったんだけど」
「見られてもいいなら、やりましょうか」
「えっ……でも……恥ずかしい…」
結多は照れながら顔を逸らした。
「先輩は恥ずかしがる必要ないですよ。とっても可愛いです」
「また……!か、可愛いっていうのは女の子に使う言葉だよ」
「嫌なんですか?」
「…嫌じゃない…けど…」
「エロいって言ったら怒るでしょう?」
「だからそれも女の子に使う言葉……」
「先輩は女の子よりとても美人です。高校の時から、貴方が一番綺麗に見えた。今も」
綾瀬は結多の頬に触れながら優しく微笑んだ。そんな表情を向けられては否定出来ない。
「……ありがとう」
「本当の事なので」
「綾瀬が良いなら……白夜に見られても良いよ」
「もしもの話ですけどね。先輩が声を我慢出来なかったらあいつも起きるだろうし」
「あ……綾瀬…。あのさ……」
「はい」
「奈留さんがいた時みたいに口塞ぐのはやめてほしいなぁ……って」
「やっぱり苦しかったですか?」
「うん……ちょっと顎がね…」
「すみません。配慮が足りなかったですね」
「オレも声抑えきれなかったし、おあいこ」
結多はにこっと微笑みかけ、綾瀬もつられて頬を緩めた。
「白夜呼んでも大丈夫ですか?」
「うん。あ、寝る場所どうする?」
「おれの部屋で寝てもらいます。だから、また先輩のお部屋お借りします」
「うん。じゃあ、布団敷いてくるね 」
「はい」
綾瀬は携帯に手を伸ばし、結多はルンルンで自室へ戻っていった。
夕食も入浴も全て済ませてあったので、白夜が来ても何ら支障はない。時刻は夜10時過ぎ。この近所だと言っていたからすぐに来るだろう。
「先輩。白夜来たら出て貰って良いですか?」
布団の用意をし終えてリビングに現れた結多に綾瀬は声を掛けた。
「うん。綾瀬はお仕事?」
「はい。あと少しで仕上げますので……」
「いいよ。オレが付き合わせちゃったしね。また新作書いてるの?」
「えぇ。この間書き上げたものも来週発売なので」
「本当!?楽しみー♪ 絶対買うからね!」
「ありがとうございます 」
「サイン会は!?またやらないの?」
「今度の土曜日、やりますよ」
「え、本当!?場所は?何時にやるの?」
テンション高めに聞いてくる結多に若干驚きながら綾瀬は息を吐くようにゆっくりと答えた。
「午後3時からシャンシャインシティでやります」
「池袋だ♪オシャレだね〜。本屋さんとかじゃないんだ」
「はい。人混みを考えての事みたいで」
「整理券とかあるのかな?あ、抽選だっけ?」
「あの、先輩……。来る事前提ですか?」
「そうだよ。先生のサイン会だもん。前回も行ったじゃん」
「大騒ぎになりましたけどね…」
「オレの所為?」
「人気モデルだって事、自覚してます?」
「してるよー。だから変装して……」
「帽子だけじゃバレますよ」
「だぁって〜……!マスクは苦手だし、グラサンは目が悪くなるし、下向いてればバレないかなって…」
「甘いですね」
「えー……」
「変装無しの方が返って分からないんじゃないですか?」
「おぉ!成程」
「有名人が素で歩いてるとは普通思いませんもんね」
「さっすが、綾瀬!じゃ、そのままでいくね」
「あ。一応服の確認はさせて下さい」
「いいよ」
結多に任せておくとどんな格好をしてくるか分からない。ファンにダサいなどとガッカリされると綾瀬も責任を感じてしまう。
「じゃあ、すみません。仕事させてもらいます」
「うん。白夜の事は任せて」
「ありがとうございます」
思いの外、会話が長くなってしまい綾瀬はバタバタと自室に戻っていった。暇になった結多はテレビの横にある棚から『Sherid *E* Le ScioN』(シェリド ヱ ルシオン)のDVDを取り出し、鑑賞を始めたーー。
ピンポーン
白夜が来たのは30分程経った頃だった。伊佐達の格好良さにメロメロになっていた結多はワンテンポ遅れて白夜を出迎えた。
「こんばんは、白夜」
「あ…、こ、こんばんは……」
まさか結多に出迎えられるとは思わず白夜は言葉がぎこちなく出てしまった。
「突然すみません……」
「良いよ。ご飯は食べた?」
「はい。お風呂も済ませてます」
「そうなんだ。どうぞ、上がって」
「お邪魔しまーす…」
白夜は遠慮気味に結多の後ろについていき、リビングで鞄を置いた。
「綾瀬は…?」
「今、執筆中なんだ。だから、暫く待っててね」
「あ、そうなんだ…」
「何飲む?あ、珈琲飲める?」
「はい…。何でも大丈夫です」
結多は2人分の珈琲を入れ、白夜に差し出した。
「ありがとうございます」
「寛いでていいよ 」
「じゃあ、遠慮なく」
白夜は結多と向かい合わせに座りながら珈琲を頂いた。身体が温まり、気持ちが落ち着く。
「それにしても結構急だったね。嫌じゃなければ説明聞いてもいい?」
「はい……。もう本当、下らないんですが…」
「うん。何かあったんだ?」
「俺…今、一人暮らししてて…。でも、家を女の子達に突き止められちゃって、朝から晩まで張り込みみたいにいるんですよ……。もうマジで…キツくて…」
「へぇ。人気者だねぇ」
「ちょっと遊び過ぎたっていうか……。それで、今日なんか女の子同士で喧嘩しててもうどうしようと思って……」
「放っておけば良いんじゃない?」
結多はサラッと解決策を言った。
「えっ…」
「男の取り合いなんて今だけだし、その内冷めるよ」
「でも……。家に帰りづらいというか…」
「なら、暫く泊まっていきなよ。オレらは構わないよ」
「…良いんですか?邪魔者じゃない?」
「白夜は、女の子にしか興味無いんでしょ?」
「まぁ……男だし……」
「なら大丈夫。綾瀬にも伝えとくよ」
「や…でも、服とか……」
「オレの貸してあげる。殆ど貰い物だし、アパレル業してる白夜ならセンスも良いから着方も大丈夫だと思うし」
「…本当に良いんですか?」
「うん。ほとぼり冷めたら様子見に行って見れば?」
「あ、ありがとうございます。じゃあ…その、暫くお世話になります」
「こちらこそ。あ、白夜は綾瀬の部屋で寝てって」
「はい。最初からそのつもりでしたし」
「ベッド派?」
「どちらかと言えば。布団も嫌いじゃないですけど、畳むのが面倒で」
「そこが難点だよね」
2人の楽しげな会話が聴こえ、白夜が来たのだと分かった。綾瀬はペースを早め、なるべく遅くならないように進めた。
「ーー何、見てたんスか?」
珈琲も飲み終わり、結多が片付けをしている中、白夜はテレビに目を向けながら聞いた。
「『Sherid *E* Le ScioN』のDVD観てたんだぁ」
「知ってます!すっごい人気ですよね!」
「白夜も好き?」
「はい!良いですよね、シェリド!歌も上手いし、演奏も上手だし!この間のアルバムも頑張って初回限定盤ゲットしたんですよ!」
テンション高めに語る白夜に結多は嬉しくなり、同調しながら頷いた。片付けも手早く済ませ、白夜と一緒にソファーでDVDの続きを再生する。
「ヤベー!マジカッコイイー!」
「何度見ても飽きないから凄いよね」
「俺、ライブ行った事ないんスよねー。いっつも落選して」
「ファンクラブの人でも取りにくいみたいだよ」
「マジでかぁ……。一回で良いから行きてー」
「オレと綾瀬は今度のライブ行くけどね」
「マジっスか!?めっちゃ羨ましー」
「いいでしょー♪」
「次のライブの時には絶対当ててやる」
「いい意気込みだね!ファイト」
どんどん盛り上がっている会話を聴きながら綾瀬はまた手を早めた。キーボードの音が耳につくくらい休む間もなく黒い文字が綴られていく。
「……あの、先輩」
「ん?」
歌が終わり伊佐達のトークショーになった時、白夜は話しかけた。
「その……綾瀬とは、どうですか?」
「どうって?ラブラブだよ」
「や……あの……夜……とか……」
「夜?綾瀬はお仕事してるけど……」
「じゃなくて!営みの話ですよ」
「営み?……あぁ、夜ってセックスの事か。してるけど、なに?」
結多は「当然でしょ」という表情で白夜に聞いた。恥じる様子もなく堂々と答える結多に白夜の方が動揺してしまった。
「そ、そうなんですね……」
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「……まぁ……色々と……」
「オレらの場合はさ、好きになった相手が同性だったってだけで何もおかしな事じゃないんだよ」
「いや……偏見してる訳じゃ……」
「うん。白夜はそういう見方しないって分かるよ。だから堂々と話せるんだ」
「先輩……」
「ねぇ。白夜は、オレらがセックスしてても構わないって寝てられる?」
「えっ……!?」
突然なにを言われるのかと焦ってしまった白夜は結多を直視出来なかった。
「キミは、綾瀬の部屋で寝る。でも、隣の部屋からオレと綾瀬の声が聴こえてきたら?それでも、欲情しないって言える?」
「……それは……」
「一応、確認したいなと思って。気持ち悪いとかウザイとか思われたらお互い気まずいだけになっちゃうから」
「……想像でしかありませんけど……綾瀬と先輩なら、綺麗だと思います。気持ち悪いだなんて思いません。それに、抱き合ってるものだと思ってたし…」
「えっ…」
「綾瀬と先輩が交わればいいなってずっと思ってました。端から見てたら分かります。お互いの事が好きなんだなって。羨ましいくらい」
「…白夜…」
「だから、俺に構わずして良いですよ。覗いたりしないので」
「……ありがとう」
結多は柔らかな表情を浮かべ、お礼を言った。その表情に白夜はドキッとする。
「ーー白夜」
仕事を終えた綾瀬か現れ、白夜は軽く挨拶を交わす。
「お仕事終わったの?」
「はい。書き上げました」
「あのさ、綾瀬。暫く白夜泊めても良いよね?」
「大丈夫ですよ」
「えっ、本当に良いの?」
「事情があるなら仕方ないよ。好きなだけ居ればいい」
「悪いな」
「おれの部屋で寝て貰うけど、良い?」
「おぅ。お前と先輩の邪魔はしねぇから」
「うん」
綾瀬があっさりと受け入れたので白夜は安堵した。
「明日は仕事?」
「はい。早番なんで、7時には出ます」
「早いね。じゃあもう寝た方が良いか」
「白夜、寝巻き貸すから」
「お、おぅ……。さんきゅ」
何から何まで色々してもらいながら白夜は綾瀬のベッドを貸して貰った。寝巻きもサイズは丁度よく、明日の服も結多から借り、準備は整った。
「じゃあ、白夜。おやすみ」
「あぁ。おやすみ」
綾瀬は結多の部屋へ行き、静寂が漂った。隣の部屋から2人の声が聞こえてくる。これからするのだろうか…などと考えてしまう。雑念に支配される前に白夜は眠りにつくことにした。
「白夜、大丈夫ですか?」
「平気。オレと綾瀬がしてるって事も知ってるし、覗いたりしないって」
「そうですか」
「いい子だよね、白夜」
「惚れますか?」
「女だったら好きになってたかも。でも、綾瀬以上に好きになれる人なんていないよ」
「おれもです」
結多を押し倒しながら綾瀬は口づけをしたーー。
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