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3 僕は13歳じゃない
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「あの、僕、本当にもう大丈夫だし、子供じゃないから……」
「似たようなもんだろ。迷子になっちゃったんだから」
僕の手をがしりと握って放してくれない彼が、そう言って少し笑った。あっ、笑った顔初めて見た。つられて笑ったら、びっくりした顔をして目を泳がせていた。…そんな変な顔しちゃってたかなあ。
『歩けるか』『抱っこしてやる』などと真面目な顔で言う彼に、いいから、さすがにそこまで弱ってないと何度も言ってネズミ耳のおばさんのお店へ帰った。おばさんはびっくりした顔をしたあとパアッと笑い、『お帰り! ご飯にしましょかね!』と言ってくれた。
何かの肉を煮込んだ料理と、粒の大きいお米のご飯をいただいた。おばさんは上を指差し『休んでおいで』と言ってくれたので、今朝出たばかりの部屋に有り難く上がらせてもらった。お昼時のラッシュを終わらせたおばさんは、オルフェウスさんと何か話し込んでいた。僕のことかなあ。
うん、やっぱりコンセントは見あたらない。本棚にある本も昨日はインテリアとして流し見していたが、手に取ってどのページを開いても読める。しかしやはり造形がどう見ても未知のもの。外国語としても存在しないはずのもの。
これからどうしよ、とため息を吐いていたらノックの音が響いた。オルフェウスさんがお茶を持ってきてくれたのだ。
「えっ、オルフェウスさんってそんな若いの。いいなあー」
「オルフェでいい。俺はもう成人だよ。カイの方が年下だろ」
「えっ、僕もう二十五歳だけど…さっきも言ったじゃん」
「はあ? 嘘つけ。絶対十三歳くらいだろ」
いやいやだから。二十五って言ってるよね。今年で二十六だよ。干支一周レベルの鯖読みするヤバい奴だと思って欲しくないんだけど。
「ねえオルフェくん、ずっと思ってたけどその耳は外さないの? 何かイベント?」
「外す? …ああ、種族が違うからな。耳は耳だよ。まあ昔はもっと野生に近かったらしいけど、血が薄まってこうなったとか。そっちこそなんで横についてんだ」
「ねえ、その耳、触っ────」
「だめだ」
だめなんだ。本物かどうか確認したかったのに。
違う違う、そんなことは重要じゃない。僕は夜食、宿泊からの朝食、昼食までいただいてしまった、お金はあるけど金貨はない奴なんだ。これ以上甘えるわけにはいかないが、行くところがない。だから決心した、ここで働くから置かせてくれとお願いした。頭を下げた。懇願した。しかし彼は腕を組んで、ずっと唸っていた。
時々、グル…と獣のような喉の音が聞こえるたびに身体が跳ねる。なんだろう、彼のことはもう怖くないのに身体が強張る。
「絶対表に出ないと約束してくれ。ここは多分、あんたのいた街より治安が悪い。最悪拐かされるぞ」
「えっ、僕が? でも誘拐したとしてどうするんだろ、休みなく働かされるとか?」
「それならまだいい。あんたみたいな────」
「話は終わったかい? アタシも混ぜとくれ!」
──ネズミ耳のおばさんが入ってきた。
おばさんの名前はマウラさん。『あたしゃ鼠の獣人だよ! この子は馬で養子だから似てないんだよねえ。ほんと遠慮なく食ってでっかくなりよってからに! ははは!』と元気いっぱいに教えてくれた。多分これ、獣に人と書いて獣人だな。そういうことだろうな。あはは。僕はもう何も驚かないぞ。
オレンジピールみたいな果実が入ったクッキーをいただきながらあれこれ話し、そういえば耳って触っちゃいけないもんなんですかと質問した。『いいよ! 触るぅ?』とぐいっと頭を向けてくれたので恐る恐る触れた。うわあ。本物だあ。あったかくて柔らかい。
マウラさんが『くひひひ』と笑って身体を震わせ始めたので、ハッとして手を引っ込めた。くすぐったいんですかと聞くと、『背中がゾワゾワする!』とケラケラ笑っていた。
僕でいうと耳をフーッとされるようなもんなのかもしれない。ところでこのやり取りを見ていただけのオルフェくんがソワソワしているのは何故だろう。長めの襟足の毛をしきりに弄っている。触られてる気分になっちゃったのかな。
小さい手でカップを持ったマウラさんが、お茶にふうふう息を吹きかけながら言った。
「ところでさ。あんた働きたいんだって? でも絶対表には出ちゃダメだよ。外に出るときはこいつを護衛に連れてきな」
「そんなに治安が悪いんですか? さすがにオルフェくんに悪いんじゃ…、昼間でもダメですか?」
「昼でもダメだね。これから発情期の季節だからさ。この冬が過ぎたらもう春だ。うっかり子供を作りたくない女の子は皆そうしてるよ」
「えっ、でも、僕は男で」
「ダメだ。かなり幼く弱く見えるし、その……」
「あんたはほんとに可愛いからねえ! そんなんでフラフラひとりで外に出てみな、相手が発情してなくてもあっという間に手込めにされるよ、間違いないね」
人生初である。可愛い、とは他者に向ける感情だと思っていた。マウラさんは何度も僕を可愛い可愛いと評したが、全然心に浸透しない。他人の話を聞いているようだ。
「獣人は怖いよお。こんな何事もない顔してる男でもね、来るときが来たら豹変するよ。ということであんたらさっさと結婚しな」
「けっこん ……結婚!?あの結婚!?」
「おいババア!! 勝手に話進めんな!!」
「はー? 何がご不満だね。カイくんは自分の身を守れる。あんたは毎日我慢したりハラハラしなくて良くなるんだよ。可愛いと思ってるくせに」
「十三歳だぞ!! 十三歳!!」
「待ってください僕の気持ちは!! あと二十五歳!!」
『確かにそりゃ、思ってるけど十三歳』とブツブツ言うオルフェくんと、『いっとけいっとけ! 惚れさすんだよ男だろ!』と煽るマウラさんと、『なんで誰も僕の意見聞いてくれないんですか! あと二十五歳!』と訴える僕とで平行線になり、そろそろディナータイムの仕込みをせねばということで午後のお茶会は強制終了した。
────────────────────
世界は広い。美の形はひとつではないのです。ね? そこで見てる美しいお嬢さん。
おめーはまた読者をナンパしやがって、と思われたお嬢さんは星とブックマークお願いしまーす!
© 2023 清田いい鳥
「似たようなもんだろ。迷子になっちゃったんだから」
僕の手をがしりと握って放してくれない彼が、そう言って少し笑った。あっ、笑った顔初めて見た。つられて笑ったら、びっくりした顔をして目を泳がせていた。…そんな変な顔しちゃってたかなあ。
『歩けるか』『抱っこしてやる』などと真面目な顔で言う彼に、いいから、さすがにそこまで弱ってないと何度も言ってネズミ耳のおばさんのお店へ帰った。おばさんはびっくりした顔をしたあとパアッと笑い、『お帰り! ご飯にしましょかね!』と言ってくれた。
何かの肉を煮込んだ料理と、粒の大きいお米のご飯をいただいた。おばさんは上を指差し『休んでおいで』と言ってくれたので、今朝出たばかりの部屋に有り難く上がらせてもらった。お昼時のラッシュを終わらせたおばさんは、オルフェウスさんと何か話し込んでいた。僕のことかなあ。
うん、やっぱりコンセントは見あたらない。本棚にある本も昨日はインテリアとして流し見していたが、手に取ってどのページを開いても読める。しかしやはり造形がどう見ても未知のもの。外国語としても存在しないはずのもの。
これからどうしよ、とため息を吐いていたらノックの音が響いた。オルフェウスさんがお茶を持ってきてくれたのだ。
「えっ、オルフェウスさんってそんな若いの。いいなあー」
「オルフェでいい。俺はもう成人だよ。カイの方が年下だろ」
「えっ、僕もう二十五歳だけど…さっきも言ったじゃん」
「はあ? 嘘つけ。絶対十三歳くらいだろ」
いやいやだから。二十五って言ってるよね。今年で二十六だよ。干支一周レベルの鯖読みするヤバい奴だと思って欲しくないんだけど。
「ねえオルフェくん、ずっと思ってたけどその耳は外さないの? 何かイベント?」
「外す? …ああ、種族が違うからな。耳は耳だよ。まあ昔はもっと野生に近かったらしいけど、血が薄まってこうなったとか。そっちこそなんで横についてんだ」
「ねえ、その耳、触っ────」
「だめだ」
だめなんだ。本物かどうか確認したかったのに。
違う違う、そんなことは重要じゃない。僕は夜食、宿泊からの朝食、昼食までいただいてしまった、お金はあるけど金貨はない奴なんだ。これ以上甘えるわけにはいかないが、行くところがない。だから決心した、ここで働くから置かせてくれとお願いした。頭を下げた。懇願した。しかし彼は腕を組んで、ずっと唸っていた。
時々、グル…と獣のような喉の音が聞こえるたびに身体が跳ねる。なんだろう、彼のことはもう怖くないのに身体が強張る。
「絶対表に出ないと約束してくれ。ここは多分、あんたのいた街より治安が悪い。最悪拐かされるぞ」
「えっ、僕が? でも誘拐したとしてどうするんだろ、休みなく働かされるとか?」
「それならまだいい。あんたみたいな────」
「話は終わったかい? アタシも混ぜとくれ!」
──ネズミ耳のおばさんが入ってきた。
おばさんの名前はマウラさん。『あたしゃ鼠の獣人だよ! この子は馬で養子だから似てないんだよねえ。ほんと遠慮なく食ってでっかくなりよってからに! ははは!』と元気いっぱいに教えてくれた。多分これ、獣に人と書いて獣人だな。そういうことだろうな。あはは。僕はもう何も驚かないぞ。
オレンジピールみたいな果実が入ったクッキーをいただきながらあれこれ話し、そういえば耳って触っちゃいけないもんなんですかと質問した。『いいよ! 触るぅ?』とぐいっと頭を向けてくれたので恐る恐る触れた。うわあ。本物だあ。あったかくて柔らかい。
マウラさんが『くひひひ』と笑って身体を震わせ始めたので、ハッとして手を引っ込めた。くすぐったいんですかと聞くと、『背中がゾワゾワする!』とケラケラ笑っていた。
僕でいうと耳をフーッとされるようなもんなのかもしれない。ところでこのやり取りを見ていただけのオルフェくんがソワソワしているのは何故だろう。長めの襟足の毛をしきりに弄っている。触られてる気分になっちゃったのかな。
小さい手でカップを持ったマウラさんが、お茶にふうふう息を吹きかけながら言った。
「ところでさ。あんた働きたいんだって? でも絶対表には出ちゃダメだよ。外に出るときはこいつを護衛に連れてきな」
「そんなに治安が悪いんですか? さすがにオルフェくんに悪いんじゃ…、昼間でもダメですか?」
「昼でもダメだね。これから発情期の季節だからさ。この冬が過ぎたらもう春だ。うっかり子供を作りたくない女の子は皆そうしてるよ」
「えっ、でも、僕は男で」
「ダメだ。かなり幼く弱く見えるし、その……」
「あんたはほんとに可愛いからねえ! そんなんでフラフラひとりで外に出てみな、相手が発情してなくてもあっという間に手込めにされるよ、間違いないね」
人生初である。可愛い、とは他者に向ける感情だと思っていた。マウラさんは何度も僕を可愛い可愛いと評したが、全然心に浸透しない。他人の話を聞いているようだ。
「獣人は怖いよお。こんな何事もない顔してる男でもね、来るときが来たら豹変するよ。ということであんたらさっさと結婚しな」
「けっこん ……結婚!?あの結婚!?」
「おいババア!! 勝手に話進めんな!!」
「はー? 何がご不満だね。カイくんは自分の身を守れる。あんたは毎日我慢したりハラハラしなくて良くなるんだよ。可愛いと思ってるくせに」
「十三歳だぞ!! 十三歳!!」
「待ってください僕の気持ちは!! あと二十五歳!!」
『確かにそりゃ、思ってるけど十三歳』とブツブツ言うオルフェくんと、『いっとけいっとけ! 惚れさすんだよ男だろ!』と煽るマウラさんと、『なんで誰も僕の意見聞いてくれないんですか! あと二十五歳!』と訴える僕とで平行線になり、そろそろディナータイムの仕込みをせねばということで午後のお茶会は強制終了した。
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世界は広い。美の形はひとつではないのです。ね? そこで見てる美しいお嬢さん。
おめーはまた読者をナンパしやがって、と思われたお嬢さんは星とブックマークお願いしまーす!
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