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11 元カノと将来の夢
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「まず水瓶町まで行く。それから駅馬車で沿岸部まで行く。迷子になるなよ。もし一人になってしまったら、衛兵を頼れ。衛兵っていうのは黒い帽子を被ってて、ここに階級章が──」
「だ、大丈夫だって。僕は二十五歳。十三歳じゃないよ。本当だからね?」
「えー……うん、わかった」
──絶対わかってないであろうことがわかった。
「さっきの猫のおねえさん、すっごく可愛かったね。幼なじみ?」
「あー…、まあ、そんな感じ」
可愛かった、アイドルみたいだった、アイドルっていうのはこういう存在で、幼なじみっていいなあ羨ましい、と僕は思いつくままに喋った。それに対するオルフェくんの返答はあまり芳しくないというか、その話題を避けたいような感じがした。さっきまで僕の方を向いていた耳がピコピコ左右に動いている。嫌だったら悪いから、もう終わりにしようかな。
「ごめんね、色々聞いちゃって。ただ可愛い猫のおねえさんとお友達なのはいいなって」
「あー……、友達っていうか、元カノ」
ドキンと心臓が跳ねた。なんてことだ。あの距離の近さはそういうことだったのか。あの可愛さの権化のようなおねえさんのどちらかと。オルフェくんが急に遠い人に見えてきた。
「え!? どっちが!?」
「どっちも」
──どっちも!!
いやあ。世界が違う。いや元々違う世界だけど。突然の情報量の多さに頭がぼーっとしつつも、なんであんな美女たちと破局に至ったのかがどうしても気になった。彼は今とても微妙な気持ちだろうが聞いてみたい。
「あのおねえさんたちの何が不満だったの? 性格の不一致? ハッ、まさか……浮気しちゃった?」
「は? 俺はそんなことしない。……ただ、子供が出来にくいから。種族は一緒でもそこからまた細分化されてて、相性があるから。それだけ。やっぱり自分の子供は一人だけでもいいから欲しくなったって言われて」
『は?』がめちゃくちゃ怖かったが、現実的で切実な問題があったのか。悪いことを聞いちゃったな。
「そっかあ、個人的なこと聞いてごめんね。……あのさ、僕も子供が産めないよね。だったら」
「嫌だ。俺が引いたらあんたは必ず他の男に取られるに決まってる。絶対に許せない。耐えられない」
どんなことを想像したのか、オルフェくんは怖い横顔でそう言った。耳を後ろに絞るように伏せている。これはかなり怒っている時の仕草だ。ど……どうどう。どうどう。
繋ぎっぱなしだった彼の手の甲をなでなですると、苦笑いだけど笑ってくれた。腕を背中に回され、肩にもたれるように促される。しばらくぎゅうぎゅうと包まれ、背もたれの意味、と思っていると突然『あっ』とオルフェくんが声を出した。
「カイ、すまん、確認してなかった。カイは自分の子供が欲しいか? まずそこからだったな」
「えっ!? いやあ、考えたことないなあ。だって僕、そもそも女の人に男だって認知されたことがなくて…。そういう気持ちを持ったことがなかった。今も想像つかない」
奥さんがいて、子供がいる平凡な生活。そういう希望を持ったことがない。実家に帰れば仲のいい両親の姿が見られるが、そうなりたいと思ったことがないのだ。僕は自分のことを大人だと思っていたけど、実は子供のままでひとつも変わっていなかったのだろうか。ちょっと情けない。
「……でも子供のままでいたいっていう気持ちはない。自立したい。みんなが僕を守って助けてくれるのは正直嬉しい。すっごく嬉しいんだけど、いつか手に職を持ちたい。それで、今度は僕がマウラさんたちが年を取ったときに養う方になりたい」
「はは、やった。将来は俺と一緒に母さんたちの面倒を見てくれるわけね」
「うんそう。……ん? まあそうか。そうだね…?……んん?」
……なんか、甘ったるい雰囲気になってしまった。オルフェくんは腕を回したまま、ぎゅっと僕の両手を包んでくれた。体温高いなあ。
多分、僕は猫のおねえさんたちとオルフェくんの過去に嫉妬している。『元カノ』『どっちも』と聞いた瞬間、心臓がドキンと高鳴り、そのあと黒い煙のようなものが胸いっぱいに広がったのだ。さらに、僕はおそらく彼に対して執着心も持っている。
子供の問題がクリアできれば、破局はしていなかったかもしれない。マウラさんに拾ってもらうところまでは同じように事が進んでも、彼女がいるからと彼に距離を取られていたかもしれない。僕は駅でひとり泣いたまま、戻ろうと言ってくれた彼がいないあの場所で、何か予想もできない大変な目に遭い消息不明になっていたかもしれないのだ。ゾッとする。
僕は、年甲斐もなく抱きしめてほしいと思っていたあのときのままだ。濃厚すぎる接触は未だに慣れないし若干逃げ腰だが、逃げ腰なくせに僕は彼から離れられない。これは執着と見て間違いない。子供が親にするような執着心か、恋をしている人に対する執着心なのかはまだ区別がつかないが。
マウラさんが勧めるから、彼が僕を手に入れたいと思ってくれているから、といって結婚してしまうのは違う気がする。それは自分の人生の選択を、人の責任にするやり方だ。
自立したい。思いつきでなんとなく口にしたことだが、もう故郷には帰れないであろうこの状況、この場所で、自分の目標が初めて見えた瞬間だった。
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おめーは元カノ何人いんだよ、白状せいと思ったお嬢さんはお気に入り登録お願いしまーす!
© 2023 清田いい鳥
「だ、大丈夫だって。僕は二十五歳。十三歳じゃないよ。本当だからね?」
「えー……うん、わかった」
──絶対わかってないであろうことがわかった。
「さっきの猫のおねえさん、すっごく可愛かったね。幼なじみ?」
「あー…、まあ、そんな感じ」
可愛かった、アイドルみたいだった、アイドルっていうのはこういう存在で、幼なじみっていいなあ羨ましい、と僕は思いつくままに喋った。それに対するオルフェくんの返答はあまり芳しくないというか、その話題を避けたいような感じがした。さっきまで僕の方を向いていた耳がピコピコ左右に動いている。嫌だったら悪いから、もう終わりにしようかな。
「ごめんね、色々聞いちゃって。ただ可愛い猫のおねえさんとお友達なのはいいなって」
「あー……、友達っていうか、元カノ」
ドキンと心臓が跳ねた。なんてことだ。あの距離の近さはそういうことだったのか。あの可愛さの権化のようなおねえさんのどちらかと。オルフェくんが急に遠い人に見えてきた。
「え!? どっちが!?」
「どっちも」
──どっちも!!
いやあ。世界が違う。いや元々違う世界だけど。突然の情報量の多さに頭がぼーっとしつつも、なんであんな美女たちと破局に至ったのかがどうしても気になった。彼は今とても微妙な気持ちだろうが聞いてみたい。
「あのおねえさんたちの何が不満だったの? 性格の不一致? ハッ、まさか……浮気しちゃった?」
「は? 俺はそんなことしない。……ただ、子供が出来にくいから。種族は一緒でもそこからまた細分化されてて、相性があるから。それだけ。やっぱり自分の子供は一人だけでもいいから欲しくなったって言われて」
『は?』がめちゃくちゃ怖かったが、現実的で切実な問題があったのか。悪いことを聞いちゃったな。
「そっかあ、個人的なこと聞いてごめんね。……あのさ、僕も子供が産めないよね。だったら」
「嫌だ。俺が引いたらあんたは必ず他の男に取られるに決まってる。絶対に許せない。耐えられない」
どんなことを想像したのか、オルフェくんは怖い横顔でそう言った。耳を後ろに絞るように伏せている。これはかなり怒っている時の仕草だ。ど……どうどう。どうどう。
繋ぎっぱなしだった彼の手の甲をなでなですると、苦笑いだけど笑ってくれた。腕を背中に回され、肩にもたれるように促される。しばらくぎゅうぎゅうと包まれ、背もたれの意味、と思っていると突然『あっ』とオルフェくんが声を出した。
「カイ、すまん、確認してなかった。カイは自分の子供が欲しいか? まずそこからだったな」
「えっ!? いやあ、考えたことないなあ。だって僕、そもそも女の人に男だって認知されたことがなくて…。そういう気持ちを持ったことがなかった。今も想像つかない」
奥さんがいて、子供がいる平凡な生活。そういう希望を持ったことがない。実家に帰れば仲のいい両親の姿が見られるが、そうなりたいと思ったことがないのだ。僕は自分のことを大人だと思っていたけど、実は子供のままでひとつも変わっていなかったのだろうか。ちょっと情けない。
「……でも子供のままでいたいっていう気持ちはない。自立したい。みんなが僕を守って助けてくれるのは正直嬉しい。すっごく嬉しいんだけど、いつか手に職を持ちたい。それで、今度は僕がマウラさんたちが年を取ったときに養う方になりたい」
「はは、やった。将来は俺と一緒に母さんたちの面倒を見てくれるわけね」
「うんそう。……ん? まあそうか。そうだね…?……んん?」
……なんか、甘ったるい雰囲気になってしまった。オルフェくんは腕を回したまま、ぎゅっと僕の両手を包んでくれた。体温高いなあ。
多分、僕は猫のおねえさんたちとオルフェくんの過去に嫉妬している。『元カノ』『どっちも』と聞いた瞬間、心臓がドキンと高鳴り、そのあと黒い煙のようなものが胸いっぱいに広がったのだ。さらに、僕はおそらく彼に対して執着心も持っている。
子供の問題がクリアできれば、破局はしていなかったかもしれない。マウラさんに拾ってもらうところまでは同じように事が進んでも、彼女がいるからと彼に距離を取られていたかもしれない。僕は駅でひとり泣いたまま、戻ろうと言ってくれた彼がいないあの場所で、何か予想もできない大変な目に遭い消息不明になっていたかもしれないのだ。ゾッとする。
僕は、年甲斐もなく抱きしめてほしいと思っていたあのときのままだ。濃厚すぎる接触は未だに慣れないし若干逃げ腰だが、逃げ腰なくせに僕は彼から離れられない。これは執着と見て間違いない。子供が親にするような執着心か、恋をしている人に対する執着心なのかはまだ区別がつかないが。
マウラさんが勧めるから、彼が僕を手に入れたいと思ってくれているから、といって結婚してしまうのは違う気がする。それは自分の人生の選択を、人の責任にするやり方だ。
自立したい。思いつきでなんとなく口にしたことだが、もう故郷には帰れないであろうこの状況、この場所で、自分の目標が初めて見えた瞬間だった。
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