人に好かれない僕が獣人の国に転移したらおかしいくらいモテた話

清田いい鳥

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28 神話の続き

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 犬耳の治療魔術師さんが教えてくれたのは、オルフェくんに聞いた神話の続きと言えるものだった。

 うっかりして混ざってしまった人と獣。ここの神様の手ずから作られた生命は、皆魔力を持つという。最初は、魔力の質は同じものだった。これが古代魔力である。

 しかし神様の手を離れて繁栄したり滅亡したり、枝分かれしていくうちに環境の影響を受けて変化した。これが現代の魔力。

 動物には不要だったのか殆ど消えてなくなってゆき、人間と魔獣には量に個体差があれど残った。人間と魔獣でも違いが見られるのだが、全体的に現在、古代魔力が残っている個体はほとんどいない。

「僕の仮説だけどね。神様は、作った命を下界に落とす。それはまるで小麦粉を撒き散らしたようだった。これは神話をモチーフにした名画などに描かれている。その風に乗って飛んでしまった命が、別のところに着地した。その一つが君。ここには明らかに別の世界から来たとしか思えない人の記録もある。もう亡くなってたり、記憶喪失の可能性もあるけど、確かにあるんだ」

 この世界に着地した命と、風に乗って飛んで行った命が着地する場所は同一ではない。だから時間差が生じた可能性がある、魔術師さんはこうも言っていた。

「なんだか壮大な話すぎて、飲み込むのに時間がかかりそうです」
「ほとんど神話だもんね。僕も神様に会って話したことはないから、結局のところは原因不明としか言いようがない。でもね、古代魔力の量がいくら多くても、生活に支障はないよ」

「普通の魔力が多いと、何か困ったことになるんですか?」
「なるよ。暴発する。人間も魔獣も、大規模な戦争なんかを繰り返したりしてたからか、主に火力という方面で魔力が変化し発達したようでね。暴発したら文字通りに大爆発する。本人も周りも危険に晒される。だから量が一定水準からそれ以上になる子は、魔術学園に強制入学させられるんだよ」

 なんだって。魔術学園なんてものが存在すると。僕の脳裏には超有名な児童文学である、あの作品のテーマ曲が流れた。

 そして暴発。文字通りの大爆発。それは確かに本人の意思を無視した強制力が働いても、致し方ない理由になる。

「でもね、古代魔力はそんな性質がない。暴発しないし、特に勉強して制御する必要もない。昔の人々は日々を生きるのに精一杯で、そんな高度な勉強はせずとも命を繋いで来たわけだからね。君は職業鑑定所からの紹介だったけど、どんな仕事をしようと思ってる?」

 僕は魔獣と話ができること、それを生かして魔獣と人との交流をスムーズにする仕事に就きたいと話した。



「え!?!? 魔獣と話ができるの!? あの魔獣と!? マジで!? 凄いね君!!!!」

 さっきまで落ち着いて話をしていた魔術師さんは、一瞬で別人のようになり今日一番のリアクションを見せた。『マジで』とか言っちゃってる。僕は慌てて周りの様子を窺ったが、よかった。遮音魔道具がしっかり仕事をしているようだ。

 前のめりになった魔術師さんに今までどんな魔獣と話をしたのか、何を言っていたのかと質問責めされたので、ひとつひとつお答えした。海岸で出会った雷雲犬のシャギーと、守衛地のアーリー号の話くらいしか持ちネタがなかったが、魔術師さんは興味深そうに聞いてくれ、時折爆笑していた。主にアーリー号の話で。

「はー、楽しかった。いや、お仕事中なんだけどね僕。ウッザ、とか言ってたの。くっ…! 辛辣…っ!」
「彼らは喋ったりできないんで、人間側は推測して対応するしかできないんですよね。だから通訳できるのは役に立つかと思って」

「そうだねっ…、ふふ、役に立つどころじゃないな。革命が起こると思う。君、職業鑑定所じゃなくてやっぱり王都に行きな。魔獣を扱ってる大元は国で、衛兵や兵士たちが乗る魔獣を調教する仕事があるよ」
「…そうですか、やりたいですけど、僕はなるべくここから離れたくないんですよね…どうしよう…」

「ん? 魔獣の調教施設はここの近くの山にあるよ。知らなかった? 王都で調教師として使えると認められて、希望すればそこに派遣されると思うよ」

 今度は僕が驚く番だった。アーリー号の背中からみたあの景色。山の一部に拓けた場所が確かにあった。山の向こう側のことしか考えていなかったが、あれが調教施設だったとは。

『早速王都へ連絡して紹介状を書こう。君の連絡先の番号はこれでいいかい?』と魔術師さんは言ってくれた。後日王都の方から連絡が来るらしい。

 色々新しいことを聞きすぎて、ぼーっとした頭でオルフェくんの元に帰った。『どうした、大丈夫か?』と心配してくれたがここで話せる内容ではないため、職業鑑定所のラガルさんにまた後日連絡しますと挨拶だけして、ぼーっとしたまま錐鞘亭に帰宅した。



 ──────



「…カイ? どうした、いや嬉しいけど、マジでどうした」
「僕、王都に行かなきゃいけないんだって。調教師になるにはまず王都だって」

 ぼーっとしたまま帰ったのでマウラさんに心配されたが、大丈夫だと繰り返し言って部屋に戻り、僕はオルフェくんに抱きついた。期待通り、腕を回して支えてくれる。ホッとするなあ。

「調教? 何を調教するんだ? …人間?」
「もう、なんで人間を躾るのにわざわざ王都まで。違うよ、魔獣の調教だよ」

 オルフェくんは僕が清廉樹祭で出店していたSMプレイ専門店で、お店のおじさんに縄について質問をしていたのを見て、僕がそういうものに興味を持ったと勘違いしたらしい。ないよ。どっちかというとあるのは君でしょ。僕なんかその大きい手で簡単に拘束できるくせに、更にどこをどう拘束するというのだ。

 オルフェくんはソファーに座り、僕は膝に乗せてもらった。年上のやることではないと自分でわかってはいるが、どうしても心細かったのだ。僕は彼にへばりついた。これ幸いと明らかに僕の匂いを堪能している彼と、また白昼堂々そういうことになりそうだが、日頃お世話になっている彼には真面目に話をせねば。



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© 2023 清田いい鳥
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