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34 赤ちゃん飛馬
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オルフェくんを誘い、ライちゃんさんと三人で厩の端を覗くと、飛馬をミニチュアにした形の赤ちゃんがミュウミュウというよりピュウピュウと鳴いていた。ミニチュアとはいっても大きい飛馬の子供なので、既に子馬くらいのサイズである。その横ではお母さんのスペーク号がくったりと寝そべっていた。
全身が白く、背中にはグレーのうり坊みたいなシマシマ模様。全てが羽毛で包まれていて、まだ翼の羽根や尾羽根は生えていないようだ。今はお母さんに構ってほしいのか、凄い音量で鳴いている。
『お母さん疲れたからちょっと…ちょっと横にならせて…頼むわ…あーあ、ひとりでゆっくり飛びたいわあ…めちゃくちゃポリンとか食べたい…ポリン…フレーフの実でも可』
「お母さん、ひとりで空飛びたいって言ってます…あと、ポリンかフレーフの実? が食べたいって」
「あら、大分お疲れのようねー。ちょっとひとっ走り調達してくるわ! もしお母さんがいいって言うなら赤ちゃんと遊んであげて! 遊び道具はこっちの小屋に入ってるから! じゃね!」
『ちょっと小一時間眠らせて…この子超元気…いやさ、元気なのはいいけどさ、元気すぎるんだって…ピーロちゃんの子はもっと大人しい子だったのにさあ、父親のせいかしらねえー』
『ままー! ままー! あしょぼー!』
──あ、子供の声も聞こえる。随分退屈しているようだ。
「スペークさん、あのー、僕が連れ出すから、…うん、わかるよ、じゃあちょっと連れて行くね。ポリンとフレーフの実はあとで届けるから、大丈夫だよ、うん」
「…大丈夫か? 俺、鳥の世話ってしたことないから自信ないな」
「鳥の遊びは僕が大体わかるけど、馬の遊びが楽しいかもしれないよね。とにかく脱走だけには気を付けなきゃ」
しかし鳥の遊びといってもこのサイズである。子馬サイズはそこそこでかい。体高が1mを超えているのだ。指を渡らせるなんて到底できない。撫でて宥めながら子供用の手綱を着けて、素直に遊び道具のある小屋を覗いてみることにした。
「このぶっとい縄ってなんだろう。引っ張り合いっこするのかなあ。それはちょっと無理だから……あ、フライングキャッチャーらしきもの」
「なんだそれ。餌皿か?」
『ぽーいしてー。ぽーいしよー』
「いいよ、じゃあこれにしよっか」
これにしよっか、と軽くは言ったものの、ミニ飛馬の体力は半端なかった。大人の飛馬がへばるのだ、相当なものである。体力メーターが大人飛馬の倍近くあるんじゃないか。
もう何度投げたことだろう。腕が上がらなくなってきた。ちょっとでいいから横になりたい。あのお母さん飛馬の気持ちが今ならとってもよくわかる。しかし僕は絶賛休憩中のスペーク号と約束したのだ。あと三十分は頑張ってみせる。
あと何故かオルフェくんがキャッチする側として参戦している。なぜだ。君はこっちだろうに。一応人間側だろう。楽しく駆け回りながら、まだ飛べない赤ちゃんとキャッチの高さを競っている。
オルフェくんのお馬さんっぷりは耳だけではなかった。ラグーさんに攻撃したときの華麗な回し蹴りを思い出す。脚力が半端ないのだ。赤ちゃんとはいえ飛馬に負けていない。走る速度とジャンプ力が拮抗している。長い脚をフルに生かしていらっしゃる。
時々ピュイッピュイッと文句を言う赤ちゃんをからかって遊んでいる。嘴でオルフェくんをつつこうとするがヒョイヒョイと避けられている。赤ちゃんがヒートアップし、オルフェくんは木の棒をどこかから持ち出してきて戦いごっこに発展する。その間僕は休めるが、なんて大人気ないんだ君は。
でも赤ちゃんもさほど不機嫌にならず、本気になって遊べている。良かったね。僕の腕はとても良くないことになっているけどね。
「カイくーん! オルフェくーん! お疲れ様ー! 休憩しましょー!」
──天の助けだ。オネエの神様が厩から降臨なされた。
僕はその場にぐでぇと座り込み、オルフェくんが『大丈夫かー?』と走ってきた。もうちょっと早めに心配してほしかった。あとまだ走る体力あるんだ。凄いね君。
スペーク号は欲しがっていたポリンとフレーフの実をガツガツと食べていた。赤ちゃんもそのご相伴に預かっている。食べ終わったらブラッシングをしてあげようと思っていたが、スペーク号と赤ちゃんは食べたらすぐ横になって安らかに眠っていた。
赤ちゃんと遊んで砂だらけになっているオルフェくんと、グダグダになっている僕を見て、コーバスさんがニャッと笑い『今日はもう上がっていいぞ』と言ってくれた。優しい。神はここにもいらっしゃった。
──────
まだ昼の三時くらいだったがお風呂に入り、お茶を飲んでお菓子をいただき、歯磨きをして横になった。修行中だが半分お客様扱いなので、ここはお茶とおやつが食べ放題だ。素敵な福利厚生である。
「ん…………、待ちなさい。今日は本気の本気で疲れてるから」
「わかってる。我慢する」
唇を勝手に奪ってきたオルフェくんにころんとうつ伏せにされた。本当に我慢できるのかと疑っていたが、彼はまだジンジンしていた僕の腕や肩甲骨の辺りをマッサージしてくれた。
「うわあ、気持ちいい。天国。オルフェくん上手いね」
「母さんによく頼まれてたから。人使い荒いんだよな」
「その体力は大いに労働に活かせるからね…。暴れ出さないよう適度に疲れさせてたんだよ…」
「なんだよ。俺はあの赤ちゃんと一緒か」
「赤ちゃんは変なことしないけどね…」
それからはもうぐっすりだった。そのまま昏々と眠り続け、自然と日が昇る前に起きてしまった。約束を守った偉いオルフェくんは隣でまだぐうぐうと眠っていた。
────────────────────
© 2023 清田いい鳥
全身が白く、背中にはグレーのうり坊みたいなシマシマ模様。全てが羽毛で包まれていて、まだ翼の羽根や尾羽根は生えていないようだ。今はお母さんに構ってほしいのか、凄い音量で鳴いている。
『お母さん疲れたからちょっと…ちょっと横にならせて…頼むわ…あーあ、ひとりでゆっくり飛びたいわあ…めちゃくちゃポリンとか食べたい…ポリン…フレーフの実でも可』
「お母さん、ひとりで空飛びたいって言ってます…あと、ポリンかフレーフの実? が食べたいって」
「あら、大分お疲れのようねー。ちょっとひとっ走り調達してくるわ! もしお母さんがいいって言うなら赤ちゃんと遊んであげて! 遊び道具はこっちの小屋に入ってるから! じゃね!」
『ちょっと小一時間眠らせて…この子超元気…いやさ、元気なのはいいけどさ、元気すぎるんだって…ピーロちゃんの子はもっと大人しい子だったのにさあ、父親のせいかしらねえー』
『ままー! ままー! あしょぼー!』
──あ、子供の声も聞こえる。随分退屈しているようだ。
「スペークさん、あのー、僕が連れ出すから、…うん、わかるよ、じゃあちょっと連れて行くね。ポリンとフレーフの実はあとで届けるから、大丈夫だよ、うん」
「…大丈夫か? 俺、鳥の世話ってしたことないから自信ないな」
「鳥の遊びは僕が大体わかるけど、馬の遊びが楽しいかもしれないよね。とにかく脱走だけには気を付けなきゃ」
しかし鳥の遊びといってもこのサイズである。子馬サイズはそこそこでかい。体高が1mを超えているのだ。指を渡らせるなんて到底できない。撫でて宥めながら子供用の手綱を着けて、素直に遊び道具のある小屋を覗いてみることにした。
「このぶっとい縄ってなんだろう。引っ張り合いっこするのかなあ。それはちょっと無理だから……あ、フライングキャッチャーらしきもの」
「なんだそれ。餌皿か?」
『ぽーいしてー。ぽーいしよー』
「いいよ、じゃあこれにしよっか」
これにしよっか、と軽くは言ったものの、ミニ飛馬の体力は半端なかった。大人の飛馬がへばるのだ、相当なものである。体力メーターが大人飛馬の倍近くあるんじゃないか。
もう何度投げたことだろう。腕が上がらなくなってきた。ちょっとでいいから横になりたい。あのお母さん飛馬の気持ちが今ならとってもよくわかる。しかし僕は絶賛休憩中のスペーク号と約束したのだ。あと三十分は頑張ってみせる。
あと何故かオルフェくんがキャッチする側として参戦している。なぜだ。君はこっちだろうに。一応人間側だろう。楽しく駆け回りながら、まだ飛べない赤ちゃんとキャッチの高さを競っている。
オルフェくんのお馬さんっぷりは耳だけではなかった。ラグーさんに攻撃したときの華麗な回し蹴りを思い出す。脚力が半端ないのだ。赤ちゃんとはいえ飛馬に負けていない。走る速度とジャンプ力が拮抗している。長い脚をフルに生かしていらっしゃる。
時々ピュイッピュイッと文句を言う赤ちゃんをからかって遊んでいる。嘴でオルフェくんをつつこうとするがヒョイヒョイと避けられている。赤ちゃんがヒートアップし、オルフェくんは木の棒をどこかから持ち出してきて戦いごっこに発展する。その間僕は休めるが、なんて大人気ないんだ君は。
でも赤ちゃんもさほど不機嫌にならず、本気になって遊べている。良かったね。僕の腕はとても良くないことになっているけどね。
「カイくーん! オルフェくーん! お疲れ様ー! 休憩しましょー!」
──天の助けだ。オネエの神様が厩から降臨なされた。
僕はその場にぐでぇと座り込み、オルフェくんが『大丈夫かー?』と走ってきた。もうちょっと早めに心配してほしかった。あとまだ走る体力あるんだ。凄いね君。
スペーク号は欲しがっていたポリンとフレーフの実をガツガツと食べていた。赤ちゃんもそのご相伴に預かっている。食べ終わったらブラッシングをしてあげようと思っていたが、スペーク号と赤ちゃんは食べたらすぐ横になって安らかに眠っていた。
赤ちゃんと遊んで砂だらけになっているオルフェくんと、グダグダになっている僕を見て、コーバスさんがニャッと笑い『今日はもう上がっていいぞ』と言ってくれた。優しい。神はここにもいらっしゃった。
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まだ昼の三時くらいだったがお風呂に入り、お茶を飲んでお菓子をいただき、歯磨きをして横になった。修行中だが半分お客様扱いなので、ここはお茶とおやつが食べ放題だ。素敵な福利厚生である。
「ん…………、待ちなさい。今日は本気の本気で疲れてるから」
「わかってる。我慢する」
唇を勝手に奪ってきたオルフェくんにころんとうつ伏せにされた。本当に我慢できるのかと疑っていたが、彼はまだジンジンしていた僕の腕や肩甲骨の辺りをマッサージしてくれた。
「うわあ、気持ちいい。天国。オルフェくん上手いね」
「母さんによく頼まれてたから。人使い荒いんだよな」
「その体力は大いに労働に活かせるからね…。暴れ出さないよう適度に疲れさせてたんだよ…」
「なんだよ。俺はあの赤ちゃんと一緒か」
「赤ちゃんは変なことしないけどね…」
それからはもうぐっすりだった。そのまま昏々と眠り続け、自然と日が昇る前に起きてしまった。約束を守った偉いオルフェくんは隣でまだぐうぐうと眠っていた。
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© 2023 清田いい鳥
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