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35 飛馬のルート号1
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「このルート号なんだけどね。あまり飛馬らしくない性格なのよ。なんていうか、引っ込み思案? 慎重すぎて仲間の輪に入れないというか。野生だったらまず餌が取れなくて死んじゃうか、おこぼれを貰って細々と生きる感じね」
ちょっと心配な子がいる、とライちゃんさんに紹介されたルート号。その嘴はマットな金色、鶏冠は赤。羽毛のお腹側はラベンダーグレー、背中側はホワイト。翼と尾羽は羽毛の二色がグラデーション状に入り混じった、彼の性格を表しているが如く繊細な色合いをした飛馬だった。
「何か話してる? この子自己主張が少ないから、わからないことが多いのよねえ」
「うーん…そうですね…」
『…………』
「なんにも喋ってないですね、今のところ」
「やっぱりー? ちゃんと言うことは聞くんだけどね。とにかくテンション低いのよね。ここで産まれて長年居るらしいんだけど、闘争心が低すぎるから衛兵が騎乗するには向かないってんでずーっと仲間を見送ってきた子なのよねー」
ちょっとコミュニケーションを取ってみて欲しい、というのがライちゃんさんとコーバスさんのお願いだった。まさかここで壁にぶち当たるとは。話せて交流ができるという僕の能力は、そもそも声を発さない相手では全く通用しないのだ。
「初めまして、カイです。ここでひと月、お世話の勉強をさせてもらいに来ました。ルートくんだよね? どうぞよろしくお願いします」
「…………」
「ルートくんは何が好き? お母さん飛馬のスペーク号は、ポリンとフレークの実が大好きみたいだけど。ルートくんは?」
「…………」
「もうすぐ運動の時間だね。ひとりで走る? 僕が乗って飛ぼうか?」
「…………」
──これぞまさしく糠に釘。打てど響かず。
飛ぶのはまだ慣れていないので、ひとまず乗せてもらうことにした。ここでお世話の仕方を教わりつつ、騎乗の練習をさせてもらっているので乗ることにはもう慣れているのだ。
ひとまず手綱を手に取ると、すぐにルート号は大人しくしゃがんでくれた。こちらの音や動作には反応している。そういうときは顔の正面をこちらに向ける。耳が聞こえなかったり、人の動作がわからないということではなさそうだ。これは僕の勘だが、どちらかというとかなり空気を読むタイプなのかもしれない。
「じゃあ、僕は今からルートくんに乗せてもらおうと思うんだけど、本当は行きたくないな、と思っていたらこっちの手。別にいいですよ、と思っていたらこっちの手を嘴でちょっとつついてくれる?」
ルート号の首が僅かに動いた。ちょっと迷いながらも、右手をつついてくれた。オッケーサインだ。
「ありがとう、そうやって教えてくれるとすごく助かるよ。じゃあ鞍を乗せるからね! 君は大人しいから装具が着けやすいなあ。それも凄く助かるよ」
珍しいという自己主張のない飛馬。僕も以前は人からみるとそういう風だったのではないかと思う。僕の外見に興味を持つ人はごく僅か。いや、ほぼいなかった。それでも気まぐれに話しかけてくれる人はいたが、気にかけてくれる人はいなかった。ルート号のように大体の流れを読んだり、ひとりで出来ることが多かったからかもしれない。
コミュニケーションを取ろうと頑張ったことはある。しかし世界は変わらなかった。僕の貧相な声は周りの音にかき消される。話せないのとほぼ同じ。いるのにいないのと、ほぼ同じだったかもしれない。
指示がきちんと通る。調教はしっかり入っている。ルートくんは賢いねと誉めながら、過去の記憶に流れて行った意識をそのままにひとりで話した。なるべく悲壮な感じにはならないように努めたが、この子の目には僕がどう映っていただろうか。
──────
「さすがカイ様ね。ルート号の様子がいつもと全っ然違うわ。話してるのかそうでないのかはあたしじゃ判別つかないけど、意識してるってのはよくわかる」
「明らかにカイちゃんの動きを観察してるな。さすがカイ様。こりゃ銅像建てたほうがいいな。よし、王家に申請してみるか」
「待ってください、冗談ですよね。いらないです銅像。土地と資源の無駄です。あと、そんなに前と違います?」
こちらをじっと見ているようなルート号の首を撫でた。気持ちよさそうに目を瞑っている。この辺は飛馬が好きなポイントだ。みんな撫でて欲しがる。
「だってさっきから、ずっとカイちゃんのことを目で追ってるのよ。指示には従ってくれるけど、今まではあたしたちが何してても関心まで持ってはくれなかったわ」
「カイちゃん、まだ言葉の方は聞けてないか?」
「あ、はい、お喋りまではしないですけど、僕の拙い指示にもよく従ってくれます。あと、ルートくんは雰囲気に敏感なタイプみたいですね。喋らなくてもちゃんとわかってる感じがします」
そう、このルート号は優秀だった。そろそろ戻ろうかな、と思うと戻ろうとし始めるし、ちょっと早く走って貰おうかな、と思うと思った通りの速さで駆け出すのだ。
それを伝えると、『それはカイちゃんだけ』と言われてしまった。乗り手の視線を進行方向に向けることも指示のひとつになるのだが、それだけでは曖昧だ。普通は手綱捌きや足で叩くことによって指示を伝えるのだ。それが視線ひとつで出来ている。
凄い、流石だ、と言われるのは嬉しい。かなり嬉しいのだが、ルート号の優秀さが伝わらないのはなんだかとても悔しかった。僕の功績ではないのだ、彼の能力が高いのだ、と何度でも言いたくなった。
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© 2023 清田いい鳥
ちょっと心配な子がいる、とライちゃんさんに紹介されたルート号。その嘴はマットな金色、鶏冠は赤。羽毛のお腹側はラベンダーグレー、背中側はホワイト。翼と尾羽は羽毛の二色がグラデーション状に入り混じった、彼の性格を表しているが如く繊細な色合いをした飛馬だった。
「何か話してる? この子自己主張が少ないから、わからないことが多いのよねえ」
「うーん…そうですね…」
『…………』
「なんにも喋ってないですね、今のところ」
「やっぱりー? ちゃんと言うことは聞くんだけどね。とにかくテンション低いのよね。ここで産まれて長年居るらしいんだけど、闘争心が低すぎるから衛兵が騎乗するには向かないってんでずーっと仲間を見送ってきた子なのよねー」
ちょっとコミュニケーションを取ってみて欲しい、というのがライちゃんさんとコーバスさんのお願いだった。まさかここで壁にぶち当たるとは。話せて交流ができるという僕の能力は、そもそも声を発さない相手では全く通用しないのだ。
「初めまして、カイです。ここでひと月、お世話の勉強をさせてもらいに来ました。ルートくんだよね? どうぞよろしくお願いします」
「…………」
「ルートくんは何が好き? お母さん飛馬のスペーク号は、ポリンとフレークの実が大好きみたいだけど。ルートくんは?」
「…………」
「もうすぐ運動の時間だね。ひとりで走る? 僕が乗って飛ぼうか?」
「…………」
──これぞまさしく糠に釘。打てど響かず。
飛ぶのはまだ慣れていないので、ひとまず乗せてもらうことにした。ここでお世話の仕方を教わりつつ、騎乗の練習をさせてもらっているので乗ることにはもう慣れているのだ。
ひとまず手綱を手に取ると、すぐにルート号は大人しくしゃがんでくれた。こちらの音や動作には反応している。そういうときは顔の正面をこちらに向ける。耳が聞こえなかったり、人の動作がわからないということではなさそうだ。これは僕の勘だが、どちらかというとかなり空気を読むタイプなのかもしれない。
「じゃあ、僕は今からルートくんに乗せてもらおうと思うんだけど、本当は行きたくないな、と思っていたらこっちの手。別にいいですよ、と思っていたらこっちの手を嘴でちょっとつついてくれる?」
ルート号の首が僅かに動いた。ちょっと迷いながらも、右手をつついてくれた。オッケーサインだ。
「ありがとう、そうやって教えてくれるとすごく助かるよ。じゃあ鞍を乗せるからね! 君は大人しいから装具が着けやすいなあ。それも凄く助かるよ」
珍しいという自己主張のない飛馬。僕も以前は人からみるとそういう風だったのではないかと思う。僕の外見に興味を持つ人はごく僅か。いや、ほぼいなかった。それでも気まぐれに話しかけてくれる人はいたが、気にかけてくれる人はいなかった。ルート号のように大体の流れを読んだり、ひとりで出来ることが多かったからかもしれない。
コミュニケーションを取ろうと頑張ったことはある。しかし世界は変わらなかった。僕の貧相な声は周りの音にかき消される。話せないのとほぼ同じ。いるのにいないのと、ほぼ同じだったかもしれない。
指示がきちんと通る。調教はしっかり入っている。ルートくんは賢いねと誉めながら、過去の記憶に流れて行った意識をそのままにひとりで話した。なるべく悲壮な感じにはならないように努めたが、この子の目には僕がどう映っていただろうか。
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「さすがカイ様ね。ルート号の様子がいつもと全っ然違うわ。話してるのかそうでないのかはあたしじゃ判別つかないけど、意識してるってのはよくわかる」
「明らかにカイちゃんの動きを観察してるな。さすがカイ様。こりゃ銅像建てたほうがいいな。よし、王家に申請してみるか」
「待ってください、冗談ですよね。いらないです銅像。土地と資源の無駄です。あと、そんなに前と違います?」
こちらをじっと見ているようなルート号の首を撫でた。気持ちよさそうに目を瞑っている。この辺は飛馬が好きなポイントだ。みんな撫でて欲しがる。
「だってさっきから、ずっとカイちゃんのことを目で追ってるのよ。指示には従ってくれるけど、今まではあたしたちが何してても関心まで持ってはくれなかったわ」
「カイちゃん、まだ言葉の方は聞けてないか?」
「あ、はい、お喋りまではしないですけど、僕の拙い指示にもよく従ってくれます。あと、ルートくんは雰囲気に敏感なタイプみたいですね。喋らなくてもちゃんとわかってる感じがします」
そう、このルート号は優秀だった。そろそろ戻ろうかな、と思うと戻ろうとし始めるし、ちょっと早く走って貰おうかな、と思うと思った通りの速さで駆け出すのだ。
それを伝えると、『それはカイちゃんだけ』と言われてしまった。乗り手の視線を進行方向に向けることも指示のひとつになるのだが、それだけでは曖昧だ。普通は手綱捌きや足で叩くことによって指示を伝えるのだ。それが視線ひとつで出来ている。
凄い、流石だ、と言われるのは嬉しい。かなり嬉しいのだが、ルート号の優秀さが伝わらないのはなんだかとても悔しかった。僕の功績ではないのだ、彼の能力が高いのだ、と何度でも言いたくなった。
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