人に好かれない僕が獣人の国に転移したらおかしいくらいモテた話

清田いい鳥

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57 飛馬鳴き声研修会

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 日中の気温が少し下がってきて、随分過ごしやすくなってきた頃。ブラッキーくんの様子も気温の低下と共に変化していた。

 空で混乱していたときに、助けてくれたルート号のあとについて回るようになったのだ。これは大きな変化と言えるだろう。

 馬場に出る時間になると、他の先輩飛馬たちと同じように飛び出しては行くのだが、やがて首をキョロキョロさせてタピオさんを探し回り、彼がいなければ渋々、といった様子で他の人間の元へ行く。

 これが定番の流れだったのが、他の飛馬に交じるルートくんに習ってかけっこを楽しんだり、慣れない羽づくろいに挑戦してみたり。

 羽づくろいは特に非言語コミュニケーションとして有効だ。以前、王宮の厩舎にいるコーバスさんたちに習ったことだが、これをこまめにすることで『私はあなたに敵意はありません、仲間です』と、伝えることができるという。その辺は鳥たちと一緒だ。

 ブラッキーくんがタピオさんを慕っていたのは、これも鳥たちと一緒で刷り込みというものなのだろう。タピオさんもそこにはとっくに気がついていたが、人間が飛馬に変身できるわけがない。だからこそ手の打ちようが何もなく、どうすればいいかと悩んでいたのだ。

「ルートくん。あのね、ちょっと頼みたいことがあって。ブラッキーくんとみんながずっと仲良く遊べるように、仲間に入れてもらうっていうか、面倒みてあげてってお願いしてもらえるかな?」
『もちろんいいよ。ぼくはずっとここには居られないからね。でしょ?』

「うん、他の仕事もあるからね。あのね、みんなに話を聞いてみたけど、子供のお世話をしたことがなくて、どうやって遊んだらいいのとか、何がイヤで何がスキなのかわからないって言ってた。あと人間のところにばっかり行くから、こっちには来たくないんだなーって思ってたって」
『そっか、お母さんが中にいたわけじゃないからね。普通はお母さんも一緒に遊ぶけど、身体の大きさが違う人間がおんなじようにはできないよね』

「そうそう。だから、ブラッキーくんは今こういう感じだから仕方ないんだよって助け舟を出してほしい。ほかの子たちには、子供だからまだこういうことがわかんないんだよって教えてあげて。過保護になったらダメだから、ちょっとしたことは見てるだけでいいからね」
『うん。大丈夫。任せて!』

 なんて頼もしい相方なんだ。多分ないだろうが、万が一彼を返してくれと言われても、即金で買い取れるように一生懸命稼がねば。

 そのためにはひとつひとつの依頼をしっかりこなす。それしかない。なんだ、言葉がわかるだけで何も解決しないじゃないか、なんて思われたら困る。非常に困る。

 今回の依頼は、ブラッキーくんの独り立ち。そのためには、僕というよりルートくんがいなくても、彼に伝わる何かの合図がほしいところだ。

 合図。指示。信号。なにがあるだろう。飛馬じゃないとできない非言語的な何かじゃない、形になる、人間もできるような……鳴き声だ! 今はそれしかない!



 僕はさっそくタピオさんのもとへ駆けつけ、意味がわかっている鳴き声はあるかと聞いてみた。僕も彼らと話しながら聞き流していたため、情報は全く整理されていないが。

 でもそれより先に、話せない人がなにを知っていて何を知らないのか、確認を取っておきたかったのだ。

「鳴き声の意味ですか……? いえ、音量の大小によって感情が高ぶっているかそうでないか、判断をつけているという程度です」
「わかりました。じゃあ僕が通訳しますので、ブラッキーくんの鳴き声を覚えてもらっていいですか? ルートくんにも実演してもらいます」

「鳴き声に意味がある、ということですか?」
「意味、といってもきっと大雑把な感情だけしかやり取りできないでしょうが、うまくいけばみんなで言葉を操れます。指示を伝えたり、感情を受け取ったりしやすくなると思います! ブラッキーくんはまだ子供で、調教に適した時期じゃないですよね。その日を迎えるまでのつなぎとして、なにかできないかと考えました。初めての試みなので、実験の意味合いもありますが」



 左にブラッキーくん、右にルートくん。放牧タイムを終えて小腹が空いているときを狙い、上手にできたらあの特別なおやつをこっそりあげるからとお誘いをかけ、残ってもらうことに成功した。

 ブラッキーくんは『まだ? ねえねえまだ?』とすでにウキウキ気分ではしゃいでいる。それをルートくんが『シッ。静かに。言うこと聞かないともらえないんだよ』と諭している。彼は今日もいい兄貴分として働いている。

「いいですか、僕が指示を出します。そしたらまずブラッキーくん、続いてルートくんが声を発します。これが感情を表す鳴き声です。いきますよー、さんはい! おなかすいた!」

 ウミュミュ!! という高い鳴き声が辺りに響き渡った。飛馬も人間と同じように、幼いうちは声が高く、成長するとわずかに低くなってくる。ルートくんの声と比べるとちょっと違って聞こえる。

 お集まりいただいた施設の皆さんは、一斉にサラサラとペンを動かしメモを取っている。なんか新人研修みたい。教育係って大変だよな。メモが終わったかどうかを確認しながら、話を進めて、進めすぎていないか注意して、本当にわかっているかも確認して。

 ハイ! 全然わかりません! と素直に言ってくれる人ばかりじゃない。その辺もよく観察しておくのがベターだ。後でその新人が何度も失敗すれば、お前ちゃんと教えてるのか、とさらに上の上司に責められることもあるだろう。だからこちらも真面目にやらねばならない。

 待って、ダメだよ、いいよ。止まって、飛んで、降りて、走って。様々な指示に使えるであろう鳴き声。他にはお腹が痛い、だるい、気持ち悪い、などの心身不調を訴える鳴き声を重点的に発してもらった。

 ブラッキーくんは時折、僕の言っている言葉の意味がわからないような様子だったが、それなりに発音していたような気がする。そんな彼が本格的に飽きてしまわないうちに今日はお開きにした。

 先ほど発したばかりのくぐもったウミュミュ、の音を喉から出しつつ、ブラッキーくんは僕の手のひらを喰んでいる。君、おなかすいたってしきりに言ってるけど、ずっとはあげられないからね。僕は何を言ってるのかわかってるだけじゃないんだから。騙されないぞ。

「うーん……難しいですね。でもルート号の鳴き声は比較的わかりやすく聞こえる。ブラッキーはほとんど一緒に聞こえます。人間育ちの飛馬だと、飛馬語をかけてくれる親がいなかったわけで。繰り返し私達が声がけして、他の飛馬の言語を聞いているうちに、少しずつでも身についてはくるでしょうね」
「あっ、そうそう。そこなんです。この子は仲間との会話量が乏しい。だから話を聞けないというか、わかんなくって、仲間との会話の全てを当てずっぽうで受け止めて動く子になる可能性がありました。そうなると後々支障が出ますよね。それを今確信したところです」

「俺、可愛くミュー、とか言えっかな……」
「俺もそこ心配になってた。ミュミューウ、って……」
「野太い野太い。全っ然可愛くない」

「あっ、そのっ、全部覚えなくってもいいんですよ。ていうか無理ですから。僕ははっきり違って聞こえますけど、皆さんからだとほとんど一緒に聞こえちゃうんですよね?」
「……いや、ダメだよ、いいよ、はわりと違う」
「えー!? 全部一緒じゃないスか!? 俺黙って聞いてたけどー、見てくださいよ俺のメモ。ほらー、全部一緒でしょ!?」
「俺もっスよ、ほら。まるで同じ。メモの意味なかったですわ」
「以下同文すぎて言うことないわ」

 ………………な、なんでもすぐには成功しない。失敗は成功の母という。僕は挫けないぞ。諦めない。なんとかして、この飛馬たちの気持ちを汲み取って、幸せな人間界ライフを送ってもらう。それが僕の使命なのだから。



 ──────



 全て上手くはいかなかったが、なんだか峠を越えたような気持ちをお土産に霧鞘亭へと帰宅した。暗くてよく見えないけど、あの背の高いシルエットはオルフェくんだろうか。

 手を振ってる。オルフェくんだ! 久しぶりだなあ、こんなのいつぶりの事だろう。帰っても彼がいないのがいつものことになってしまい、感覚が麻痺していた。これこそ僕の日常なのだ。安心するなあ。

「オルフェくん! ただいま!」
「おかえり。全然出迎えてやれてなくてごめんな。ルート号の支度は終わってるよ」

「ふふ、本当は一人でもいいんだよ。でもありがとね。ルートくんのことも。ねえ、最近ずっと外に出てるけどさ、オルフェくん本当は何してるの?」
「ん? 本当は?」

 やはりちょっと疲れた顔をしている彼は、それでもにこにこして僕の話を聞いてくれている。……しまった、ちょっと疑ってた気持ちが口から漏れてしまったぞ。

 オルフェくんは特になにも追求せず、僕の手を引いて中へと入れてくれた。そしてすぐに『風呂に入ったら部屋に行くからな』と、バスルームの方へ向かって行ってしまった。

 あれ、まさかとは思うけど、ちょっと怒ったりなんかしてないよね。部屋を勝手に掃除したの……迷惑じゃなかったかな。引き出し、勝手に開けられたくなかったかも。

 勝手に色々捨てたりなんかしてないけど、僕は僅かな疑いをかけて彼の部屋に入ったのだ。無意識にいらないことをしていたかも。いや、してないぞ。してない。……ていうかそこまで覚えてない。

 うーんやっぱりいつもと違う、あっさりすぎて変だよな、と食事を終えてお風呂に入り、部屋に帰ったらちゃんと彼はいた。

 ……大の字になってベッドを占領し、めちゃくちゃ気持ちよさそうに眠っているが。

 ちょっと。僕はどこで寝ろっていうのさ。ムッとしたのであれこれ遠慮なく試してみたが、上に乗っても全然起きないこの大きな成人男性を動かす力は僕にない。認めたくはないがそれが現実である。

 明日はまた仕事の日。休みを取っていないから仕事なのだが。でもそういうことになってもいいや、と勇気を出して唇を奪ってみたが、何の反応も返ってこず。

 僕だけが欲求不満なのだと誰かに嘲笑われているような気がして、なんだかとっても悔しくなり、結局彼の腕の下に丸まって眠りについた。わりとちょうどいい。それもまた悔しい。

 ああ、本格的に淋しいなあ。今、とってもモモタロスとミケランジェロをなでなでしたい。彼らならたとえ眠っているとき僕が触れても怒らずに、手をペロペロ舐めて反応をお返ししてくれるのに。



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