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60 妙な初々しさ

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「あ……まっ、待って! ちょっと待って!」
「いやあ……それは無理ですね。見てくださいよ、今こんなんですよ。興奮しちゃって。すっげえ痛いんですからねコレ」

「う、うわあ、すご、固いね……、うんわかったわかった、わかったから灯り消して! それだけ! それだけでいいから!」
「えー……、わかりました。消しますよ」

「あ、ごめん待って、やっぱ怖いかも……暗すぎて……」
「うーん……、じゃあ手元灯だけ点けときますか」

「え、え、全部脱ぐの……? 脱がなきゃダメ……? 恥ずかしい……」
「それは……、いや、それはそれでクるものがある。いいかもしんない」

「や、待って、そのくらいでっ……、オレ、身体鍛えてるわけじゃないから、その」
「俺だって鍛えたりなんかしてないですし。一緒ですよ。ていうか見たいんです。全部。毛が生えてるところも全部。見せてください」

 俺は夜着を脱がそうとする。クラースさんは着ようとする。まるで反対の動きをし続ける俺たちは滑稽だったかもしれない。でも今は密室だ。誰も見てない。恥ずかしいことなんかない。

 ずっとそう言い聞かせるように事を進めた。正直、爆発寸前だが。特に顔が怖くないようにするには限界がある。というか無理だ。だからいっそ、それは一旦棚の上に預けて、こっちを見るよう促した。俺を見ろ、こっちを向け、と何度も何度も呪文のように唱えていた。

「クラースさん、そんな横ばっかり向かないで。俺のこと見て。……怖い?」
「怖くないけど、違うことが怖いっていうか、君は素晴らしい未来のある若者で、こんな傷だらけの訳あり品なんかとさあ、やっぱり……あ、あ、そんな……!!」

「傷がどうとか考えたことないですね。むしろ見るたび興奮して仕方なかったな」
「あっ、き、傷跡が好きなの……? そういう趣味あったっけ……? あっだめ!! だめだめだめ!! 君はそんなことしなくていいから!!」

「なんでですか。ここ気持ちいいでしょ。自分でだって触ったことあるでしょうに。ぶっちゃけ言うと、前の工房にいた頃にね。夢に見ちゃってたんですよ。クラースさんとこうなる夢。なんか学園の寮っぽいとこにいて、クラースさんが制服を着てて、俺が下だけ脱がして、脚を……この先は入籍してから教えてあげます」
「ええぇ……嘘でしょ。それいつの話……? 制服って何、いつからそんな、あっ……!! やだ、汚いよ、汚いから……!!」

 普段は布できっちり隠されている箇所から、いつもよりずっと濃い肌と粘膜の匂いが立ち上がる。それはクラクラするほどいやらしく、夢や想像では感じられない強い刺激として心臓を刺し、俺の心を逸らせた。

 良かった、勃ってる。縮こまってたらどうしようかと。散々舐め回したり吸ったりしてからそれを報告してあげようと、彼の顔を見ると汗だくになりぎゅうぎゅうと目を閉じて、両手で口を抑えていた。太腿がブルブルと震えている。体勢が辛いのだろうか。

「脚がだるいでしょう。後ろから失礼します。一回イクといいですよ。俺はそれまで我慢できます、っていうかします」
「え、え、ほんとにするの……? む、胸くすぐったいよ…………はっ……! うそぉ、嘘でしょ……!」

「だってすげえ好きだから。こうまでさせてもらったらそりゃ期待はしますよ。きちんと役所に行ってから、なんて真面目なことは無理でした。飢えてますから。野犬に家中うろつかれるよりマシでしょう」
「だからっ、野良犬はオレの方っ……ジルくっ……ジルくん!!」

 ばたばた、と音が鳴りそうなくらいに体液が飛び、緊張で固くなったクラースさんの身体が細かく跳ねた。弛緩し余韻に浸ってもらっているうちに、孔に魔術薬を使い、ここで好くなれ、と集中した。

 元よりそう望んでいるので意識なんてしなかったし、呪文の類も必要なかった。というかさすがに知識がない。身体の中にあるという魔力回路を想像し、そこに呪術という名の言葉を冷たい星に乗せてゆく。

 勝手に中に侵入して揺さぶり響かせるように、入れ、染み込め、と願いという形を取った命令を飛ばしてゆく。そうしているとやがて貧血のような、眠いような、少しのだるさが襲ってきた。その時である。

「ジルくん、ジルくん、これ、今何してるの……? これ、なにっ……ねえっ、なに……!?」
「……今どんな感じですか。できれば具体的にお願いします」

「いっ……!! イキそう、イキそう!!」
「えっ」

 あれがこうなったらこうしよう、という計画というか心積もりはあったのだ。まさかこんな早くに前倒しになるとは夢にも思っていなかった。接触すれば話が早い。特に一番弱いところを。常識としてわかっていたつもりだが、一瞬心が追いつかなかった。

 即座に脚の間に入り、というか強引に割り開き、爆発寸前のものを少し食い込ませて彼の様子を伺った。恐怖を感じてしまったらしく、ビクン、と身体が強く震えた。視線が定まっていない。多分、何か違うものを今見ている。俺じゃない誰かを見ている。

「クラースさん。俺ですよ。ジルヴェスターです。クラースさん、愛してます。聞こえてます? こっち見て。俺の目を見て。愛してるからこうしたいんです。わかりますか」
「あ、うん……ごめん混乱しちゃっ……オレ、オレね、アレ以外ではこういうのなくて、ほんとなくって……ほら、忙しかったから、勉強終わったと思ったら次は仕事のために、勉強で、誰ともこんな、……あっ……!!」

「…………、いいですか、痛いとか、気持ち悪いってなったらすぐ止めるんで、言ってください。いいですか、いいですね」
「ジルくん、もっ……だめ!! もう……あ!! っ~~……!!」

 俺だって初めてではないといえ、興奮しきりでガチガチなのだ。息は上がるわ、邪魔な汗は吹き出すわ、何度も何度も胸が縮んで苦しくなるくらいだわ。

 なのに彼の肉壁は前段階をすっ飛ばして捻じれながら狭まる、という動きを起こした。タイミングが良かったのか悪かったのか、思いっきり強く根元から絞り出されることになり、あまりの強い快楽に襲われ意識が飛んだのかと思った。眼の前が突然眩しく光り、灯りが壊れたかとも思った。

 自分がどんな声を出したか、クラースさんがどんな様子だったか、記憶がない。ただの獣になっていたと思う。気がついたら彼の腰を掴んだ己の両手と、体液をベトベトに撒き散らした彼の腹が上下していた。

 自重を支えられなくなり、彼の胸へとばったり倒れこんだ。魔力残滓のようにチラチラ輝く幻覚を見ながらも、ふやけた頭で何が起こったかを一生懸命考えていると、クラースさんが息を切らしながら死角になった方向より言葉の球を打ってきた。

「ジルくん……、君……、すっごく上手いね。そんなでもないって、前言ってたけど、謙遜でしょ。はぁっ……、言いたくないなら聞かないけどさ……すごかった。それはもう。気持ち良すぎて頭おかしくなるかと思った」
「気持ち良かったっていうのは……良かったですけど、あのですね、俺はね、ほんとにそんな器用な奴じゃなくて……」

「素晴らしいよ。天才じゃない。呪術の才、文章の才、セックスの才。まだありそう。あといくつあるの。あ、君はすごくかっこいいから容姿の才もあったよね」
「セッ……、いやだから。あるとしても、好きじゃないと絶対発揮できませんから。あとこの顔は怖いだけ。凶器なだけ」

「そっか、ありがと。オレもだよ。じゃあもう一回する?」
「えっ」

「まだなんとか頑張れる。する?」
「えっ」

「しない?」
「する」

 クラースさんは額に髪を貼り付かせ、いつかのように薄目を開け、もうほとんど眠っている疲れた顔をしていた。本当に大丈夫なのかよと思ったが、身体の方が先に反応してしまい、遠慮をする余裕もなかった。

 様子をつぶさに観察しながら弱いところに狙いをつけ、奥へ奥へと入り込む。クラースさんが気持ちいい、という表情を隠しもせず俺に見せてくれている。それが死ぬほど嬉しかった。きっと何度見ても飽きないだろう。

 上手く効いてくれたのか、イイ所に当たったのか、口を開き目をつむっているその顔も。どちらも言葉に尽くし難い。

 彼の額からはまた汗が流れた。いつもサラサラとした直線の前髪は孤を描いてへばりつき、強く閉じた目の端からは涙が流れ始めていた。最初は抵抗によりきつく閉じていた脚は今や力なく開かれて、その中心には俺のものが呆気なくねじ込まれている。

 何度も中を擦り付けるたびに開いた口からあられもない声が零れて、今この人を抱いている、そうしているのは俺だということを自覚してまた興奮した。その繰り返し。

 終わりが来てしまう前に背中が見てみたいと思いつき、やや無理やりにひっくり返したあとはぐしゃぐしゃになった夜着を剥がし、後ろからまた突き上げた。白い肌に幾筋も走る鞭の跡。体温で温まり赤く染まったそれを上から眺めていると、まるで俺が力任せに打ったような錯覚をし始めてしまう。

 あれほど跡を残した看守に対して憎悪を燃やしたくせに、随分勝手なものである。でも違う、あいつとは違う、だってクラースさんはこんなに気持ち良さそうじゃないか、と脳が安心を求めて勝手に言い訳をし始める。しかしそんな考えもみるみるうちに蒸発し始め、快感の波に包み込まれてあやふやになってくる。

 もっと乱れろ、と思ってゆるく前を弄ってみると、彼は驚いたように肩を揺らして身体を沈めた。そんなに感じているのならもっともっと気持ち良くなれ、とさっきより強めに擦り上げると声の甘さが強くなる。

 わざとグチュグチュと音を立てて興奮をさらに誘ってみると、彼の声が高くなり、ビクリと腰を痙攣させて温いものを少しずつ吐き出していた。

 もう出し切っちゃったかな、とゆっくり横にさせながら余韻を噛み締めていると、彼はもう完全に目を閉じて夢を見ているようだった。呪術ってのは長期戦に向かないですよね、と彼に言ったらお茶を吹き出すであろうことを考えながら一緒に眠った。

 今考えれば次の日のためにアレコレ整えたりだとか、そういうことをすれば良かったと思うのだが、大きな達成感と幸福感に匹敵する疲労に襲われ、それどころではなかった。

 その日はなにか色とりどりの、おめでたい夢を見た気がする。夢の中でも眠かったので記憶は定かではないが。

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