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2章

ひたすら、前へ

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 次の日、祭りの前に俺にこれまで分かった事を説明すると言われ、ヒルダーヌ様の執務室に呼ばれていた。

「先日の賊は、トーラントから来た者で間違いありませんでした。他の賊も半分は北部出身者でした。こんなにあっさり白状したのは、ジュンヤ様の御業を目にした為です。神の化身に手をかけるところだった……そう言って、全てを話して許しを得ようとしています。まぁ、ゆるしませんが、今はペラペラ話してくれるので助かります」

 サラッと黒い。こういうのはダリウスとの違いかな。あっちは直球勝負タイプだもんな。

「王都にいる文官も保護し、出張と称してユーフォーンに呼び戻しました。既に王都は出て居ますのでご心配なく」

 捕縛された最初の犯人達は口が堅く手強かったが、最後の犯人の自白でかなり解明された様だ。トーラント家の宰相が、我が子や一族で側近を固め権力を思うままにしたい。しかも汚職もあると分かって来た。第三妃は唆されたのだろうが、積極的な為やはり温情はかけられない。だが、追っ手は全て排除された、とはっきりした。

「トーラントが再び刺客を放つ可能性もありますが、王都は今問題が起きているのでそんな余裕はないでしょう。皆様がこれから向かうトーラント領では、領主館は避けて滞在できる様模索中です。首都レナッソーではなく、近隣の町の方がいっそ安心かもしれませんね。敵の懐に飛び込むも同然ですから。」

 刺客は気をつけるしかない。滞在先も、迷惑をかけなきゃどこだって良い。だが、気になる言葉があった。

「ヒルダーヌ様、王都の問題とはなんですか?」
「殿下達には知らせましたが、聞いておられないので?」
「はい。」

 ヒルダーヌ様は、ちらっとティアの様子を伺った。口止めしてたんだろうか?

「隠していたのではない。聞いても先へ進むしか道がないから話さなかったのだ。いぜん、少しだけ瘴気が広がりつつあると話しただろう? 今は更に瘴気が濃くなり、病人が増えつつあるが、死者はまだ出ていない様だ」
「それ、大事な事だよね?戻った方が良いんじゃないか?」
「いや。おそらく、穢れの中心にいるのはナトルだ。マテリオ、続きを」
「はい。前にも呪詛返しの話をしたと思うが、覚えているか?」
「うん」

 人を呪わば穴二つ。俺が浄化する事で呪をかけたナトルに反動がいっている。

「報告だけだが、監獄のある棟を中心に瘴気が漂い始めているらしい」
「水じゃないって事?」
「そうだ」
「そんな!」
「一帯を封鎖し、民は避難している。それと、殿下がお前の魔石を持たせ王都に送り込んでくれたお陰で、監獄の警備員や瘴気を受けた民を守っている。もしも王都に戻っても、ナトルの瘴気がなくならない限り同じだ」
「ナトルを浄化したら? 俺なら出来るだろう?」

 一度浄化して、また北の浄化に行けば良い。マテリオは何にも悪くないのに、強い口調になってしまった。

「北の呪を払わねば、また繰り返すだけだ。そして、北の穢れの方が遥かに濃い」

 スパッと切り返されて、二の句が継げない。そこへティアも加わった。

「ジュンヤ、今王都に戻るのは悪手だ。恐らく民を巻き込んで宰相と第三妃の勢力と戦うことになる。私はこのまま先へ進み北の浄化をすると決断した。民を苦しめるのは心苦しいが、彼らとの最終決戦は呪の浄化後だ」

 俺を諌めるティアは、先の事をしっかり考えていて、きっと正しい。でも。

「でも、苦しんでいる人がたくさんいるかも」
「体の弱い者、金銭面で自力避難が困難な者を優先して、ケローガなどのジュンヤが浄化した町村へ疎開を指示した。ユーフォーンも受け入れ可能になったので、今、第一弾が向かっている」

 そこまでしてるという事は、俺が聞いてたよりずっと大変な状況になっていたんだ。

「ケローガでは、歩夢が簡易住宅を建築してくれた。多くの民が町の外でも屋内で過ごせる様になり助かっている。魔力の消費が大きいので数は作れないそうだが、民は助かっている」
「すごいな、歩夢君。じゃあ、俺も先へ進んで...終わらせるしかないんだな」
「頼む。この穢れを祓えるのはジュンヤだけだ」
「分かった。ところで、王都の瘴気は水じゃないなら、空気に漂ってる状態なのか?」
「恐らく。マテリオ、その辺り、神殿から連絡は?」
「はい。実験で、魔石をマスクに仕込んで入れば問題なかったと聞いています。ですから、一息ごとに……そういう事でしょう」
「中心にいるナトルを浄化するのは骨だな。今からしっかり対策をしておかねば。ジュンヤ。大変だと思うが、小さな魔石に浄化を頼みたい。今からマスクを可能な限り多く製作して備える。一部は王都の警備に送りたいのだ」
「もちろん!小さい物ならたくさん作れるよ。魔石を手に入れてくれたら、俺、頑張るからっ!!」

 最善を尽くす。これしかない。ティアはこんな苦しい事を胸に抱えて旅をしているんだ。グダグダ言っていられないな
 話が決まり、ヒルダーヌ様が俺を見た。

「それと、ディックですが騎士棟で罰を受けることになりました」
「騎士棟で?」
「彼らには彼らの流儀で裁判があります。あなたは立ち会う必要ありませんが、ご報告をしておきます」
「どうなるんですか?」
「それは騎士達次第です。私は口を挟みませんので」

 腕をなくし、信用もなくし、友もなくしただろう。自業自得ではあるけど。

「俺……」
「お前が気にやむことはねぇぞ?あのバカが悪いんだ。その始末はつけなきゃならねぇ」
「ダリウスもそこに参加するのか?」
「もちろんだ」
「そうか……」
「お前は来るな。良いな?」

 大人しく頷く。多分見ていて耐えられなくなるから。だからと言って庇うのも違うし。

「殺すのは、ダメ。それだけは、頼んで良い?」
「ふぅ……そう言うと思った。まぁ、死なない程度に締めとくよ」

 頭を撫でられ、子供じゃないぞと睨む。そういえば、ダリウスが貴族モードじゃないのに、ヒルダーヌ様が何も言わないのに気がついた。

「二人は、和解出来た?」
「ああ。昨日、ゆっくり話す時間も作れた。今後は兄上を出来る限り補佐していく事になった」

 ほんの少し恥ずかしそうに微笑むダリウスを見て、嬉しくて堪らなくて抱きついた。

「良かった。本当に良かったな!」
「ジュンヤ、ありがとうな。あの時、怒って悪かったな」
「そんなこと気にしてない! ヘヘッ、すげー嬉しい」

 今すぐチューしたいくらいには嬉しい。我慢してるけどな!

「ジュンヤ様。仲がよろしい所申し訳ありませんが、私からも改めて感謝をいたします」

 ヒルダーヌ様に言われて、慌てて姿勢を正す。

「幼い私の誤った判断で、領民にも不安を与えておりました。しかし、父が指名し弟の補佐も得た今、私は今後も研鑽を重ねる所存です。ジュンヤ様の慈悲深く他人を思いやる御心に救われました。どうぞ、この暴れ馬の調教を今後ともよろしくお願い致します。」
「兄上っ!? 暴れ馬って——酷くないですか?」
「ああ、暴れグマの方が良いのか? ジュンヤ様はクマとお呼びになるとか」
「それはっ! 許しているのはジュンヤだけですからっ!」
「ふっ……そうか。ジュンヤ殿ならクマと呼んで良いのか」
「っ!! うう……」

 ダリウスの負け。せっかくシリアスなシーンなのに、コメディになっちゃったよ。でも、こんな風に仲良く話す姿が見れるなんて。

「失礼しました。本当にジュンヤ様には感謝しております」
「いいえ。こんなやり取りを見る事が出来たので、無理やり調べた甲斐がありました。俺こそ、不躾な点が多々あったと思います。申し訳ありませんでした」
「いいえ。我らを思っての事...。では、これで差し引きゼロという事で」
「そうですね。これからもよろしくお願いします」

 俺が手を差し出すと握り返してくれた。

「そうそう、ジュンヤ様。私に関する噂の大元と、汚職の元締めをお知りになりたいですか?」
「それはもう。」
「ジュンヤ様が色々尋ねた伯爵でしたよ。男爵に罪を被せる様に画策していたのですね。ですが、あなたが疑問に思い調べた事で見つかりました。最初の頃はかなり周到でしたが、後半は雑で、もっと早く捜査しておけばと悔やまれます。それと、ジュンヤ様と会話をされてから危機感を持ってハカリゴトをした結果、大きな穴を見つけました。ミスを隠す為動き、更に矛盾を深めた...。まさに墓穴を掘ったのです」
「あの人が?」

 真面目で良い人だと思ったのに、すごくショックだ。悲しい...。

「ジュンヤ様。貴族は化かし合いです。それに巻き込み、申し訳ありません」
「いいえ……ショックではありますが、ダリウスの隣に立つからには、俺も学ばなくてはいけませんね」
「私も協力いたします。でも、あなたには、その真っ直ぐな御心をなくさないでいて欲しいと思っています」

 ああ。ヒルダーヌ様とこんな会話が出来る様になるなんて。

「さて、重い話はこれくらいにしましょう。祭りの準備も進み、予定通り明日開催されます。祭りの日は最初だけ貴賓席にいて頂いて、あとはご自由にどうぞお楽しみ下さい」
「そういえば、サージュラはどうなりました?」
「ああ……そうでした」

 すっごく嫌そうな顔だ。うん。気が合わないタイプですよね。

「私から話そう」

 ティアがため息をついた。ため息案件か...。

「南西の砦まで、我らと同行する。トラージェとの国境の砦だ。そこで出国を確認し、北の浄化に向かう。王都に戻れぬ理由はこれもある」
「あの野郎、護衛が強いから適当な奴じゃ撒かれるかもしれないからな。俺達で追っ払う」

 追っ払うって言っちゃうんだ、ダリウス。本当に嫌いだね。

「サージュラには改めて協力要請をする様に言い含めた。とっととお帰り願う。ジュンヤの近くに置いておきたくないのでな」
 
 ティア、言葉がちょっと素になってるよ。

「わずかな間の我慢だ。丸一日で砦には着く。だが、絶対に一人で近づくな。良いな?」
「了解です」

 気は重いけど、帰って貰えるんだから我慢しよう。とりあえずセクハラに注意。

 それより祭りだ!! 祭りで配給の予定が、先日の浄化の儀式で一通り終わったので挨拶だけすれば祭りを満喫出来るんだ!! 祭りは二日間開催され、既に色んな行商人が集まっているらしい。

 楽しみだ~!! ウキウキワクワク。祭りって燃えるよな!

 テンションの上がる俺をみんなが微笑ましい顔で見てるが気にしない!! ウキウキしてる俺を見てみんなも笑った。
 こんなリラックスした笑い声を久しぶりに聞いて、ここまでの頑張りを自分で褒めた。

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 次は二日間開催されるお祭りのお話です。わちゃわちゃと楽しく二話ありますのでよろしくお願いします。
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