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5章 おまけだった兄さんの異世界改革 子育て&改革編

一報

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翌日、ティアに呼び出されて朝イチで会議室へ向かった。大臣達が難しい顔をして並んでいて、いいニュースじゃないのはすぐにわかった。

「お待たせしてしまいましたか?」
「いいえ。こちらこそ突然お呼び立てし申し訳ありません。どうぞお座りください」

ベルパル卿が頭を下げた。

「ジュンヤ、トラージェから使者がくることになった。恐らく、あちらの瘴気被害についてだと思う」

テーブルにはカルタスとトラージェ両国の地図が広げられている。それを見ると、北部の大社に近い地域にたくさん駒が置いてあり、そこが問題になっているんだとすぐわかった。

「浄化に行くのはいいけど、今は困るな……」

俺は思わず下腹を撫でた。浄化の旅で隣国まで行くのは不安だ。

「もちろんジュンヤは行かなくていい。あちらは神子の代理ならマテリオをと言っているが、アレはお前から離れないと公言してるから無理だ」

確かに石頭なので、絶対妥協しないだろうな……

「代わりに、マナかソレスを派遣しようと思っている。あの二人が巡行に同行したことは知られているし、魔石を預けても信頼できる人物だ」
「確かにそうだけど、長旅だし大丈夫かな」
「神子代行として近衛も派遣するつもりだ。他国への旅ゆえ、第3騎士団からも派遣する」
「安全に旅ができるならいいけど……」

魔石は予備が十分にあるし、預けても問題はない。でも、一番心配なのは安全確保だ。魔石を利用したい人がいるのも報告されている。厳重に警備がつくなら大丈夫かな?

「使者は誰がくる予定?」
「まぁ、想像がつくだろう?」

ティアはニヤリと笑った。結婚してから、ティアは臣下の前でも表情が豊かになり、周囲を驚かせている。

「サージュラ、か?」
「地位も交渉能力もある。妥当な線だろう」

俺も頷く。

「それに、あの人なら俺達が何を言っても強かに対応できるよね。まぁ、俺も今度は負けないけど」
「頼もしい言葉だな」

あの頃は浄化で手一杯だったが、今は落ち着いて対応できると思う。それに、トラージェの瘴気被害については気になっていたんだ。
自分でいけないのは残念だが、王妃になってしまったから簡単に他国へ行けないのもわかってる。

「トラージェは耕作可能な土地が少ないところへ瘴気の被害がでたとあれば、深刻な食糧難の恐れがある。必死で交渉してくるだろう」
「だから今のうちにマナ達を派遣する話を進めているんだね」

問題は、あちらが納得するかだけど。今は旅なんて無理なので、さすがに了承してもらわないと困る。

「私としてはマナを派遣しようと思っている。彼は国内も巡回し旅慣れているし、柔軟な思考の持ち主だからな」

確かに、普段は軽口をたたくがいざという時は品格のある対応ができる。いやな話だが、万が一トラブルに見舞われても即対応できる気がする。

「警護に関しては私が十分な配慮をするので任せていただきたい」

ファルボド様の重低音の声が会議室に響く。

「私も久しぶりに旅に出たいのですが、そうはいきませんな」
「そなたがおらねば困る」

ティアが苦笑する。

「次期皇帝といわれている第二皇子は知っていますが、第三皇子は自由奔放との噂。もしサージュラという皇子がくるのであれば、会うのが楽しみです」

ファルボド様は右の口角だけをあげ、不敵な笑みだ。

あなたは絶対面白がってますよね!?

サージュラの出会いはどんなものになるんだろう……想像するとちょっと怖い。
ただ、今回来るとしたら正式な国使として来ることになる。以前のようにチャラチャラしていない可能性も高い。気を引き締めて対応しようと心に決めた。

日程は一週間後。本来ならじっくり検討する件だろうが、よほどの緊急事態なんだろうな。

「ティア。俺は魔石の在庫確認をして、必要なら充填しておく。そっちの管理は任せてくれるか? 後で報告書を送るよ」
「うむ。頼んだぞ」
「じゃあ、これから神殿に行ってくる。あと、アリアーシュにマナを守る魔導具を頼みたいんだけどいいかな?」
「もちろんだ。用心に越したことはない。我々はもう少し話を詰めておく」

大臣達も頷いたので会議室を後にした。

魔導士塔は、騎士棟から少し離れた位置にある。実験用のドームがあり、そこで日夜怪しげな実験が行われているらしい。隣に三階建ての魔導士塔が建っている。

「ここ、ちょっと苦手なんだよな」

思わず呟くと、エルビスが苦笑した。

「我々とは少しタイプが違いますからね」

彼らの多くは、神子という地位には対して興味が湧かないらしい。
魔導士塔に着き、入り口で本人認証を行う。機密事項が多いためで、水晶玉のように透き通ったスフィアに魔力を流し登録しておく。属性が同じでもそれぞれ質が違うそうで、指紋や虹彩と同じで個人を判断できるという。

そう。彼らは神子に興味はない。それより興味があるのこと、それは――

「あああぁ! ジュンヤ様っ! ようこそいらっしゃいました! もしや、またお力を分けていただけるのですか?」

受付の魔導師のテンションがヤバい。彼らにとって俺は、魔導具をグレードアップするレアアイテムなのだ。貪欲に魔力を求められるので、ちょっとだけ怖い。

「今日はアリアーシュに用事があってきました。が、協力は惜しみません」
「ありがとうございます! では、アリアーシュ殿をお呼びするので、応接室へどうぞ」

二回目の魔導士塔だが、各部屋に厳重な遮音と結界が掛けられているので落ち着かなくなるほど静かだ。出されたお茶を飲み待っていると、アリアーシュが現れた。

「――王妃殿下自ら足をお運び頂き、恐縮でございます」

深々と頭を下げるアリアーシュ。王妃になってから、人目があるところでは礼儀を尽くした態度を崩さない。

「今は顔見知りだけだ。いつも通りでいいよ。俺も落ち着かないし」
「では、遠慮なく。で、何の用だ?」

コロッと態度が変わり、そうそう、これがこいつだよなと笑った。

「こっちにも連絡が来てるかな? 神官をトラージェに派遣するんだ。で、その候補がマナだ。彼が旅の間安全に過ごせるような、防御系の魔導具を持たせたい」
「なるほど。それくらい簡単だが、攻撃魔法は付けなくていいのか?」
「何もないとは思うんだが……」

だが、それは俺の甘さなんだろうか。

「では、攻撃された時だけ反撃する道具にしよう。――それなら、誤って人を傷つけないで済むはずだ」
「本当か!? ありがとう!」
「礼などいらん。気色悪い」
「ふふっ。いや、礼は言う。いつもありがとう」
「っ! 用はそれだけか? それなら早く帰れっ!」

つっけんどんだが、耳が赤いのに気づいて俺はまた笑う。

「じゃあな。あんたを信じてるよ!」

そういう俺を手でシッシッと追い払う仕草をしたアリアーシュが、やけに可愛く見えた。


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