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「……ええそうよ、お兄様が悪いのよ。好きな女を別の男に取られたからっていつまでもメソメソしてるからついお節介を働いたんじゃない」

「おい、いつまで邪魔をしている」

 ブツブツとぼやくルアンナの扱いに困っていると、やがて助け舟が現れました。
 おそらく妹の帰りにしびれを切らしたであろうハルバード様が控室まで彼女のことを迎えにきてくれたのです。
 純白のタキシードに全身を包まれた彼はとても魅力的で、思わず見惚れてしまいます。

「そろそろ式が始まるからお前は一足先に戻って出席者に挨拶の準備を――」

 そこまで言ってからハルバード様は言葉を閉ざされました。
 私の花嫁姿を見たせいでしょうか、口をポカンと開けて固まっておられます。
 もしかしたら花嫁衣装が似合っていないのではと不安に駆られていたところ、

「……綺麗だ、メリエッダ」

 ハルバード様からポツリともらされた一言に、今度はこちらが赤面する番でした。

「あ、ありがとうございますハルバード様……」

 父と同じ褒め言葉にも関わらず誇らしさよりも気恥ずかしさを覚えてしまいます。
 ですが、愛しい人にそう言っていただけるのはこの上なく嬉しくもありました。
 私はこの人と結婚するのですね。

「ごほん。もう人目もはばからずお熱いことね。あーあ、わたしも早く素敵な男性と巡りあいたいものだわ」

「なら俺の知り合いで良ければ紹介しようか? メレツ子爵家の嫡男でな――」

「五十過ぎた年増じゃない、そんなの可愛い妹に紹介しないでよこのバカお兄様!」

 ベーッと舌を出しながらプリプリと怒った様子でルアンナは控室をあとにしました。

「いったいなぜルアンナは怒ったんだ? 確かに年齢は離れているが気の良い御仁だというのに」

 どう考えても年齢差のせいですよ、とはあえて言わないでおきました。
 乙女心は複雑だということを少しはハルバード様も自覚されるべきなのです。

「……まあいい、では行こうかメリエッダ」

「はい、ハルバード様」

 どちらからともなく手を握り、私たちは二人で歩き始めました。
 一度は一方的な婚約破棄で終わったこの物語、しかし始まりもまたこれからなのです。

 ……ただ一つだけなにかを忘れているような気がしますが、思い出せないということはおそらく取るに足らないことなのでしょう。


__________

 次の更新で最終回になります。最後はのざまぁで締めます。
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