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チャイムが連打され、部屋に音が重なる。布団の中に深く潜んだが催促は止むことはなく、今度はドンドンドンとドアを叩く音が響いた。
「開けろ!いるのは分かってんだぞ」
テレビで見る取り立て屋のようなセリフを聞いたのはこれが初めてではない。開けるまでこの声が続くと知っている。布団を剥いでふらふらと玄関へと向かった。途中でスマホの充電器の線に足を引っ掛かっけ、こけそうになるのを辛うじて耐え、ぼさぼさ頭でドアを開けた。
「おはよ……めぐみ」
「遅い!」
「ごめんー」
どうみても申し訳なさそうには見えない、ヘラヘラとした顔で部屋の中へと戻る爽太はまた布団の中へ入ろうとする。が、そこをめぐみこと荻野恵に襟首を掴まれ洗面所へ連れて行かれた。
「今日は面接の日だろ!この日のために俺わざわざ仕事休んだんだぞ。シャワーを浴びて頭を洗え! 歯を磨け! それからひげを剃れ! 本当に働く気あんのか!」
「うーん」
明らかにノーと言いたげな声で、無精髭の生えた顎を擦り男は浴室に入った。
南向きに位置する六畳ほどの部屋は縦に長く、東の壁には万年床になっている布団が敷いてあり、その前に炬燵が置いてある。
炬燵の上には、飲み物が入っていたであろう内側が汚れたマグカップが三つ、空のペットボトル二本にラップトップ、マウス、本、食べ終わったお菓子の袋、買って来てそのまま置いたのだろうジュースとカップ麺が入っているコンビニの袋があった。
これ以上炬燵の上に物は置けない。そしてものが置けないのはそこだけではなかった。床にも服やゴミが散乱して足の踏み場がない。恵は溜息を吐きながら部屋中のゴミを集めた。ゴミ箱を開けるが余地はなくキッチンの一番下の引き出しから新しいゴミ袋を取り出して広げて捨てる。人の部屋の物なんて触りたくもない。ましてやゴミなんてまっぴらごめんだ。なのにこの部屋の物だと不思議と抵抗がなく、勝手に手が掃除をし始める。
「世話が焼ける」
シャワーを浴び終わり、洗面所からだるそうにタオル一枚腰に巻いて出てきた爽太はその言葉が聞こえなかったように床を漁りながら「服どれ来たらいいかな……」と呟いた。
恵は西の壁の押し入れを開いてクリーニングの袋を被ったままのスーツを取り出した。面接が決まったと聞いた半月ほど前、ここに来てくしゃくしゃだったものを急いでクリーニングに出して、数日前にここへ掛けておいた。大学入学式の際に着たと言うスーツを折角綺麗にしたのに羽織りもせず、今日の面接を受けようなどとよく思えたもんだと、内心腹立たしさを抱えて恵はスーツを布団の上に置き、薄い袋を破る。
「袖通してないみたいだけど、着れるよな?」
「多分……」
「多分って。着れなかったらどうするつもりだよ」
「面接諦める」
「ふざけんな。面接の準備してくれてる会社に失礼だろう! クリーニングに出した俺の気持ちも金も返せ」
そう言うとハンガーからスーツを外し、裸のまま着て見せた。
「みっともない恰好で行って落とされるならなら行くだけ無駄じゃない?」
「それは屁理屈だろ。やらなきゃいけない事やらないで、自分の都合だけ優先してたら仕事なんて出来ないぞ」
「だから仕事なんてしたくないんだって」
「それじゃぁ生きてけないだろ」
「生活保護受ける」
「甘えんな!」
「めぐちゃん怖い」
ぐいっと手が引っ張られ後頭部を固定されると唇が近づいた。ウッと嗚咽が漏れて下を向いた。まだ濡れたままの髪から零れる雫が恵の頬を濡らしてぞくりと寒気を運んでくる。冷たいと文句を言おうとすると唇は奪われていた。今度は本当に怖い。
上下の唇を何度もつつくようにキスされて口の中に割って入ろうとする。硬く口を閉じて鼻から息を吸うとミントの匂いがした。清潔な事に安堵する。汚いのは嫌だ。初めての時はひげ面で顔も洗ってなくて男臭かった。今日はひげも剃りたてでいつもはざらつく顎もつるつるとして清潔だ。いや、違う、こんなことに感動している場合じゃない。このために仕事を休んだんじゃないんだ。恵は顔を背けて逃げようとしたが、今度は手首を掴まれてそのまま布団に抑え込まれた。
「めぐちゃん……美味しい」
「だっれが、美味いんだ、こんのっ」
抵抗しようとするが、偏食で痩せこけていても十センチ以上も背の高い爽太には力では敵わない。強引に口の中を犯され、ぐいと腰に硬い物が当てられると恵の顔は真っ青になった。
「大丈夫?」
「るさいっ! お前のせいだ! この変態!」
掴まれた手首を伸ばすとさっき破いたクリーニングの袋ががさりと音を立てた。次の瞬間恵は膝を持ち上げる。
「っッターーー!」
股間を抑えて蹲った爽太の背中を一蹴りし、恵は眉間に皺を寄せながらすごんだ。
「爽太! 今日の面接受からなかったら俺に触れるの禁止!」
「ええっ! えええっーー!」
恵は置いてあったゴミ袋を両手に二つずつ持って部屋を出た。
「開けろ!いるのは分かってんだぞ」
テレビで見る取り立て屋のようなセリフを聞いたのはこれが初めてではない。開けるまでこの声が続くと知っている。布団を剥いでふらふらと玄関へと向かった。途中でスマホの充電器の線に足を引っ掛かっけ、こけそうになるのを辛うじて耐え、ぼさぼさ頭でドアを開けた。
「おはよ……めぐみ」
「遅い!」
「ごめんー」
どうみても申し訳なさそうには見えない、ヘラヘラとした顔で部屋の中へと戻る爽太はまた布団の中へ入ろうとする。が、そこをめぐみこと荻野恵に襟首を掴まれ洗面所へ連れて行かれた。
「今日は面接の日だろ!この日のために俺わざわざ仕事休んだんだぞ。シャワーを浴びて頭を洗え! 歯を磨け! それからひげを剃れ! 本当に働く気あんのか!」
「うーん」
明らかにノーと言いたげな声で、無精髭の生えた顎を擦り男は浴室に入った。
南向きに位置する六畳ほどの部屋は縦に長く、東の壁には万年床になっている布団が敷いてあり、その前に炬燵が置いてある。
炬燵の上には、飲み物が入っていたであろう内側が汚れたマグカップが三つ、空のペットボトル二本にラップトップ、マウス、本、食べ終わったお菓子の袋、買って来てそのまま置いたのだろうジュースとカップ麺が入っているコンビニの袋があった。
これ以上炬燵の上に物は置けない。そしてものが置けないのはそこだけではなかった。床にも服やゴミが散乱して足の踏み場がない。恵は溜息を吐きながら部屋中のゴミを集めた。ゴミ箱を開けるが余地はなくキッチンの一番下の引き出しから新しいゴミ袋を取り出して広げて捨てる。人の部屋の物なんて触りたくもない。ましてやゴミなんてまっぴらごめんだ。なのにこの部屋の物だと不思議と抵抗がなく、勝手に手が掃除をし始める。
「世話が焼ける」
シャワーを浴び終わり、洗面所からだるそうにタオル一枚腰に巻いて出てきた爽太はその言葉が聞こえなかったように床を漁りながら「服どれ来たらいいかな……」と呟いた。
恵は西の壁の押し入れを開いてクリーニングの袋を被ったままのスーツを取り出した。面接が決まったと聞いた半月ほど前、ここに来てくしゃくしゃだったものを急いでクリーニングに出して、数日前にここへ掛けておいた。大学入学式の際に着たと言うスーツを折角綺麗にしたのに羽織りもせず、今日の面接を受けようなどとよく思えたもんだと、内心腹立たしさを抱えて恵はスーツを布団の上に置き、薄い袋を破る。
「袖通してないみたいだけど、着れるよな?」
「多分……」
「多分って。着れなかったらどうするつもりだよ」
「面接諦める」
「ふざけんな。面接の準備してくれてる会社に失礼だろう! クリーニングに出した俺の気持ちも金も返せ」
そう言うとハンガーからスーツを外し、裸のまま着て見せた。
「みっともない恰好で行って落とされるならなら行くだけ無駄じゃない?」
「それは屁理屈だろ。やらなきゃいけない事やらないで、自分の都合だけ優先してたら仕事なんて出来ないぞ」
「だから仕事なんてしたくないんだって」
「それじゃぁ生きてけないだろ」
「生活保護受ける」
「甘えんな!」
「めぐちゃん怖い」
ぐいっと手が引っ張られ後頭部を固定されると唇が近づいた。ウッと嗚咽が漏れて下を向いた。まだ濡れたままの髪から零れる雫が恵の頬を濡らしてぞくりと寒気を運んでくる。冷たいと文句を言おうとすると唇は奪われていた。今度は本当に怖い。
上下の唇を何度もつつくようにキスされて口の中に割って入ろうとする。硬く口を閉じて鼻から息を吸うとミントの匂いがした。清潔な事に安堵する。汚いのは嫌だ。初めての時はひげ面で顔も洗ってなくて男臭かった。今日はひげも剃りたてでいつもはざらつく顎もつるつるとして清潔だ。いや、違う、こんなことに感動している場合じゃない。このために仕事を休んだんじゃないんだ。恵は顔を背けて逃げようとしたが、今度は手首を掴まれてそのまま布団に抑え込まれた。
「めぐちゃん……美味しい」
「だっれが、美味いんだ、こんのっ」
抵抗しようとするが、偏食で痩せこけていても十センチ以上も背の高い爽太には力では敵わない。強引に口の中を犯され、ぐいと腰に硬い物が当てられると恵の顔は真っ青になった。
「大丈夫?」
「るさいっ! お前のせいだ! この変態!」
掴まれた手首を伸ばすとさっき破いたクリーニングの袋ががさりと音を立てた。次の瞬間恵は膝を持ち上げる。
「っッターーー!」
股間を抑えて蹲った爽太の背中を一蹴りし、恵は眉間に皺を寄せながらすごんだ。
「爽太! 今日の面接受からなかったら俺に触れるの禁止!」
「ええっ! えええっーー!」
恵は置いてあったゴミ袋を両手に二つずつ持って部屋を出た。
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