1 / 20
1-1
しおりを挟む
チャイムが連打され、部屋に音が重なる。布団の中に深く潜んだが催促は止むことはなく、今度はドンドンドンとドアを叩く音が響いた。
「開けろ!いるのは分かってんだぞ」
テレビで見る取り立て屋のようなセリフを聞いたのはこれが初めてではない。開けるまでこの声が続くと知っている。布団を剥いでふらふらと玄関へと向かった。途中でスマホの充電器の線に足を引っ掛かっけ、こけそうになるのを辛うじて耐え、ぼさぼさ頭でドアを開けた。
「おはよ……めぐみ」
「遅い!」
「ごめんー」
どうみても申し訳なさそうには見えない、ヘラヘラとした顔で部屋の中へと戻る爽太はまた布団の中へ入ろうとする。が、そこをめぐみこと荻野恵に襟首を掴まれ洗面所へ連れて行かれた。
「今日は面接の日だろ!この日のために俺わざわざ仕事休んだんだぞ。シャワーを浴びて頭を洗え! 歯を磨け! それからひげを剃れ! 本当に働く気あんのか!」
「うーん」
明らかにノーと言いたげな声で、無精髭の生えた顎を擦り男は浴室に入った。
南向きに位置する六畳ほどの部屋は縦に長く、東の壁には万年床になっている布団が敷いてあり、その前に炬燵が置いてある。
炬燵の上には、飲み物が入っていたであろう内側が汚れたマグカップが三つ、空のペットボトル二本にラップトップ、マウス、本、食べ終わったお菓子の袋、買って来てそのまま置いたのだろうジュースとカップ麺が入っているコンビニの袋があった。
これ以上炬燵の上に物は置けない。そしてものが置けないのはそこだけではなかった。床にも服やゴミが散乱して足の踏み場がない。恵は溜息を吐きながら部屋中のゴミを集めた。ゴミ箱を開けるが余地はなくキッチンの一番下の引き出しから新しいゴミ袋を取り出して広げて捨てる。人の部屋の物なんて触りたくもない。ましてやゴミなんてまっぴらごめんだ。なのにこの部屋の物だと不思議と抵抗がなく、勝手に手が掃除をし始める。
「世話が焼ける」
シャワーを浴び終わり、洗面所からだるそうにタオル一枚腰に巻いて出てきた爽太はその言葉が聞こえなかったように床を漁りながら「服どれ来たらいいかな……」と呟いた。
恵は西の壁の押し入れを開いてクリーニングの袋を被ったままのスーツを取り出した。面接が決まったと聞いた半月ほど前、ここに来てくしゃくしゃだったものを急いでクリーニングに出して、数日前にここへ掛けておいた。大学入学式の際に着たと言うスーツを折角綺麗にしたのに羽織りもせず、今日の面接を受けようなどとよく思えたもんだと、内心腹立たしさを抱えて恵はスーツを布団の上に置き、薄い袋を破る。
「袖通してないみたいだけど、着れるよな?」
「多分……」
「多分って。着れなかったらどうするつもりだよ」
「面接諦める」
「ふざけんな。面接の準備してくれてる会社に失礼だろう! クリーニングに出した俺の気持ちも金も返せ」
そう言うとハンガーからスーツを外し、裸のまま着て見せた。
「みっともない恰好で行って落とされるならなら行くだけ無駄じゃない?」
「それは屁理屈だろ。やらなきゃいけない事やらないで、自分の都合だけ優先してたら仕事なんて出来ないぞ」
「だから仕事なんてしたくないんだって」
「それじゃぁ生きてけないだろ」
「生活保護受ける」
「甘えんな!」
「めぐちゃん怖い」
ぐいっと手が引っ張られ後頭部を固定されると唇が近づいた。ウッと嗚咽が漏れて下を向いた。まだ濡れたままの髪から零れる雫が恵の頬を濡らしてぞくりと寒気を運んでくる。冷たいと文句を言おうとすると唇は奪われていた。今度は本当に怖い。
上下の唇を何度もつつくようにキスされて口の中に割って入ろうとする。硬く口を閉じて鼻から息を吸うとミントの匂いがした。清潔な事に安堵する。汚いのは嫌だ。初めての時はひげ面で顔も洗ってなくて男臭かった。今日はひげも剃りたてでいつもはざらつく顎もつるつるとして清潔だ。いや、違う、こんなことに感動している場合じゃない。このために仕事を休んだんじゃないんだ。恵は顔を背けて逃げようとしたが、今度は手首を掴まれてそのまま布団に抑え込まれた。
「めぐちゃん……美味しい」
「だっれが、美味いんだ、こんのっ」
抵抗しようとするが、偏食で痩せこけていても十センチ以上も背の高い爽太には力では敵わない。強引に口の中を犯され、ぐいと腰に硬い物が当てられると恵の顔は真っ青になった。
「大丈夫?」
「るさいっ! お前のせいだ! この変態!」
掴まれた手首を伸ばすとさっき破いたクリーニングの袋ががさりと音を立てた。次の瞬間恵は膝を持ち上げる。
「っッターーー!」
股間を抑えて蹲った爽太の背中を一蹴りし、恵は眉間に皺を寄せながらすごんだ。
「爽太! 今日の面接受からなかったら俺に触れるの禁止!」
「ええっ! えええっーー!」
恵は置いてあったゴミ袋を両手に二つずつ持って部屋を出た。
「開けろ!いるのは分かってんだぞ」
テレビで見る取り立て屋のようなセリフを聞いたのはこれが初めてではない。開けるまでこの声が続くと知っている。布団を剥いでふらふらと玄関へと向かった。途中でスマホの充電器の線に足を引っ掛かっけ、こけそうになるのを辛うじて耐え、ぼさぼさ頭でドアを開けた。
「おはよ……めぐみ」
「遅い!」
「ごめんー」
どうみても申し訳なさそうには見えない、ヘラヘラとした顔で部屋の中へと戻る爽太はまた布団の中へ入ろうとする。が、そこをめぐみこと荻野恵に襟首を掴まれ洗面所へ連れて行かれた。
「今日は面接の日だろ!この日のために俺わざわざ仕事休んだんだぞ。シャワーを浴びて頭を洗え! 歯を磨け! それからひげを剃れ! 本当に働く気あんのか!」
「うーん」
明らかにノーと言いたげな声で、無精髭の生えた顎を擦り男は浴室に入った。
南向きに位置する六畳ほどの部屋は縦に長く、東の壁には万年床になっている布団が敷いてあり、その前に炬燵が置いてある。
炬燵の上には、飲み物が入っていたであろう内側が汚れたマグカップが三つ、空のペットボトル二本にラップトップ、マウス、本、食べ終わったお菓子の袋、買って来てそのまま置いたのだろうジュースとカップ麺が入っているコンビニの袋があった。
これ以上炬燵の上に物は置けない。そしてものが置けないのはそこだけではなかった。床にも服やゴミが散乱して足の踏み場がない。恵は溜息を吐きながら部屋中のゴミを集めた。ゴミ箱を開けるが余地はなくキッチンの一番下の引き出しから新しいゴミ袋を取り出して広げて捨てる。人の部屋の物なんて触りたくもない。ましてやゴミなんてまっぴらごめんだ。なのにこの部屋の物だと不思議と抵抗がなく、勝手に手が掃除をし始める。
「世話が焼ける」
シャワーを浴び終わり、洗面所からだるそうにタオル一枚腰に巻いて出てきた爽太はその言葉が聞こえなかったように床を漁りながら「服どれ来たらいいかな……」と呟いた。
恵は西の壁の押し入れを開いてクリーニングの袋を被ったままのスーツを取り出した。面接が決まったと聞いた半月ほど前、ここに来てくしゃくしゃだったものを急いでクリーニングに出して、数日前にここへ掛けておいた。大学入学式の際に着たと言うスーツを折角綺麗にしたのに羽織りもせず、今日の面接を受けようなどとよく思えたもんだと、内心腹立たしさを抱えて恵はスーツを布団の上に置き、薄い袋を破る。
「袖通してないみたいだけど、着れるよな?」
「多分……」
「多分って。着れなかったらどうするつもりだよ」
「面接諦める」
「ふざけんな。面接の準備してくれてる会社に失礼だろう! クリーニングに出した俺の気持ちも金も返せ」
そう言うとハンガーからスーツを外し、裸のまま着て見せた。
「みっともない恰好で行って落とされるならなら行くだけ無駄じゃない?」
「それは屁理屈だろ。やらなきゃいけない事やらないで、自分の都合だけ優先してたら仕事なんて出来ないぞ」
「だから仕事なんてしたくないんだって」
「それじゃぁ生きてけないだろ」
「生活保護受ける」
「甘えんな!」
「めぐちゃん怖い」
ぐいっと手が引っ張られ後頭部を固定されると唇が近づいた。ウッと嗚咽が漏れて下を向いた。まだ濡れたままの髪から零れる雫が恵の頬を濡らしてぞくりと寒気を運んでくる。冷たいと文句を言おうとすると唇は奪われていた。今度は本当に怖い。
上下の唇を何度もつつくようにキスされて口の中に割って入ろうとする。硬く口を閉じて鼻から息を吸うとミントの匂いがした。清潔な事に安堵する。汚いのは嫌だ。初めての時はひげ面で顔も洗ってなくて男臭かった。今日はひげも剃りたてでいつもはざらつく顎もつるつるとして清潔だ。いや、違う、こんなことに感動している場合じゃない。このために仕事を休んだんじゃないんだ。恵は顔を背けて逃げようとしたが、今度は手首を掴まれてそのまま布団に抑え込まれた。
「めぐちゃん……美味しい」
「だっれが、美味いんだ、こんのっ」
抵抗しようとするが、偏食で痩せこけていても十センチ以上も背の高い爽太には力では敵わない。強引に口の中を犯され、ぐいと腰に硬い物が当てられると恵の顔は真っ青になった。
「大丈夫?」
「るさいっ! お前のせいだ! この変態!」
掴まれた手首を伸ばすとさっき破いたクリーニングの袋ががさりと音を立てた。次の瞬間恵は膝を持ち上げる。
「っッターーー!」
股間を抑えて蹲った爽太の背中を一蹴りし、恵は眉間に皺を寄せながらすごんだ。
「爽太! 今日の面接受からなかったら俺に触れるの禁止!」
「ええっ! えええっーー!」
恵は置いてあったゴミ袋を両手に二つずつ持って部屋を出た。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる