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高校生の時の清野爽太は、他校の女子たちがわざわざ校門前に見に来て騒ぐほどのイケメンだった。スポーツもできたし勉強も学年で常に十位内に入っていた。高身長で鼻梁の高い整った顔で笑みを振りまき、頭の良さもルックスも鼻にかける事なく、誰からも好かれて、順風満帆な絵に描いたような充実した高校生活を送っていた。荻野恵はそんな彼と親友であることを誇らしく思っていた。
恵と爽太は幼馴染だ。髪や目の色素が薄く背も低いままで揶揄われる恵を爽太がいつも助けていた。「爽太みたいに強くなりたい」「爽太と同じ学校に入りたい」助けたことに恩を着せる事もなく、偉そうにするわけでもなく、いつもヒーローのようにどこからともなく救いに来てくれる爽太を恵は敬愛していた。
恵なのにめぐちゃんと女の子の様に呼ばれても、爽太が親しみを込めて呼んでくれるなら嬉しかった。爽太がちゃんづけで人の事を呼ぶのは恵だけで、弱いところを見せるのも恵だけだった。恵には爽太だけが特別で、爽太にとっても恵は特別だった。
そんな爽太が汚部屋に住むようになったのは大学二年生の頃だ。両親が離婚したのがきっかけだった。大学生にもなれば色んな事を受け入れられる年齢だし、親の離婚だって今どき珍しい事じゃない。爽太に大打撃を齎したのは両親の離婚という精神的ショックではなく経済的な問題だった。勉強もスポーツも出来て両親も仲が良く金にも困っていなかったはずの家計はふたを開けてみれば火の車だった。温和そうな父親の浮気に耐えきれなかった母親は出て行き、高額な慰謝料を請求したが父親は浮気相手に有金ほとんどを貢いでいて、離婚後父親名義の家も家財道具も一切を売り払わねばならなくなった。母方は爽太を可愛がっていたが家は容赦なく現金に変えられた。
父親は独身用の社宅に暮らし、爽太は大学が紹介してくれた寮扱いの格安アパートで暮らす事になった。自宅から通学できる場所の大学なのに、その自宅がなくなり、父親の安定した収入と学資保険で入学金も授業料も賄えていたため奨学金も必要ないと申請しておらず、使えるお金はどこにもなかった。
いきなり自分の生活は自分で何とかしなければならなくなり、一人暮らしを強いられた爽太はアルバイトに明け暮れる日々を送るようになった。
生活費のためにあくせくバイトしてやっと暮らしていける学生生活で勉学に勤しめるわけもなく、辛うじて単位を修得して大学卒業までを過ごす事が出来た彼の部屋は、バイトの忙しさからゴミで溢れるようになっていた。就職活動も上手くいかずニートとなり寮をでて今は壁の薄いアパートに住んでいる。日雇いのアルバイトで毎月の家賃と生活費を何とか稼いでそれ以外は布団の中にうずくまっている。爽太と同じ大学を選んだ恵は爽太をずっと見ていた。そしていつも助けてくれた恩返しにと引きこもった爽太に手を差し伸べたのは良いが、思った通りに事は運ばなかった。
助けてくれてありがとう、お前のお陰で立ち直れたよと、直ぐに元の元気な彼に戻ると信じていた恵だが、爽太の状態は思った以上に重症だった。経済的にも、精神的にも。
「めぐちゃん、めぐちゃんは俺の事捨てたりしないでしょう」
お前はもう立派な大人だ。親離れする歳だし、仕事を見つけてちゃんと働けよ。そう言っても不安がった。
「疲れたんだ。僕はめぐちゃんがいればいいんだよ。ねぇ、めぐちゃんは俺の事必要? 要らない?」
どうしてそんな所に話が飛ぶんだ。苛立って怒ると泣きそうな顔をする。どんな時でも両手を広げて自分を庇ってくれたヒーローだったのに。綺麗な顔に生やした無精ひげは途方もなく似合ってなかった。こんなの爽太じゃない。『名は体を現すっていうものね、なんて爽やかな青年なの』近所でも評判だった。どうして汚部屋なんかに住んでるんだ。恵は腹立たしさを抱えていた。でも助けてくれた事を忘れてない。ちゃんと自立するまで手伝おう。そう自分の中で決めていた。
「爽太。大丈夫、俺はちゃんとお前の事必要としてる。だからここにいるんだろ」
そう言って抱き締め返すと酷く安心して喜んだ。そうして甘えてくる。
「ありがとう。めぐちゃん、好き……」
そう言うつもりじゃない。嗚呼、俺、なんか間違えた。そう思った時にはもう遅かった。体の大きい爽太に抑え込まれて涙を流しながら好きだ好きだと言われ続け、近づいてきたと思ったらそのまま唇が奪われていた。恵は胃の中のものを全部その場に吐いた。それが二人の初めてのキスだ。
恵と爽太は幼馴染だ。髪や目の色素が薄く背も低いままで揶揄われる恵を爽太がいつも助けていた。「爽太みたいに強くなりたい」「爽太と同じ学校に入りたい」助けたことに恩を着せる事もなく、偉そうにするわけでもなく、いつもヒーローのようにどこからともなく救いに来てくれる爽太を恵は敬愛していた。
恵なのにめぐちゃんと女の子の様に呼ばれても、爽太が親しみを込めて呼んでくれるなら嬉しかった。爽太がちゃんづけで人の事を呼ぶのは恵だけで、弱いところを見せるのも恵だけだった。恵には爽太だけが特別で、爽太にとっても恵は特別だった。
そんな爽太が汚部屋に住むようになったのは大学二年生の頃だ。両親が離婚したのがきっかけだった。大学生にもなれば色んな事を受け入れられる年齢だし、親の離婚だって今どき珍しい事じゃない。爽太に大打撃を齎したのは両親の離婚という精神的ショックではなく経済的な問題だった。勉強もスポーツも出来て両親も仲が良く金にも困っていなかったはずの家計はふたを開けてみれば火の車だった。温和そうな父親の浮気に耐えきれなかった母親は出て行き、高額な慰謝料を請求したが父親は浮気相手に有金ほとんどを貢いでいて、離婚後父親名義の家も家財道具も一切を売り払わねばならなくなった。母方は爽太を可愛がっていたが家は容赦なく現金に変えられた。
父親は独身用の社宅に暮らし、爽太は大学が紹介してくれた寮扱いの格安アパートで暮らす事になった。自宅から通学できる場所の大学なのに、その自宅がなくなり、父親の安定した収入と学資保険で入学金も授業料も賄えていたため奨学金も必要ないと申請しておらず、使えるお金はどこにもなかった。
いきなり自分の生活は自分で何とかしなければならなくなり、一人暮らしを強いられた爽太はアルバイトに明け暮れる日々を送るようになった。
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「めぐちゃん、めぐちゃんは俺の事捨てたりしないでしょう」
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