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「めぐちゃん、ただいま」
面接から帰ってきた爽太を出迎えた恵はそのまま料理を作って待っていた。午前中の面接で昼は食べずに帰って来いと言ってあった。
「お帰り。どうだった」
「うん、頑張った」
「そうか。偉いぞ」
ぐったりした爽太はスーツを脱いで下着になるとエプロン姿の恵に雪崩れ込もうとした。恵は寸でのところで体を躱し爽太は空しく自分自身を抱きしめるふりをする。
「シャワー浴びて来い」
「はい……」
スーツを着てシャキッとしていればニートだとは思えない。なのに帰ってくるとたちまちだらしなくなる。小さい頃はあんなではなかった。細かいことに気が付いて気遣いができて、部屋も綺麗だった。他の同級生の部屋は男臭くて入れなかったが爽太の部屋に行くと安心して過ごせた。ヒーローの傍にいれば安心だったのに。どうやったらもとに戻るのか。そんなことを考えながら味噌汁を味見する。うん、我ながら美味い。
「変な汗かいたよ」
タオル一枚腰に巻いて出てきた爽太の体は以前よりも痩せていた。シャンプーの匂いは変わらず恵に安堵を与えた。
「お昼ご飯、何?」
背後から爽太が恵の腰を持って鍋を覗く。腰の手を払いのけながら「豚丼」と答えて座れとテーブルを指差した。爽太がいない間に綺麗にした炬燵の上で食事だ。恵が片付けてくれたお陰で今はテレビのリモコンだけが置いてある。
豚丼と大根サラダと味噌汁が並べられ、爽太は美味しそうと食事を前に体を揺らした。いつもカップ麺やコンビニの弁当を食べるから手料理が食べれるのは恵が来てくれた時だけだ。それに案外コンビニ弁当の方が高くつく。それを知っていながらも自炊することが苦手で爽太の部屋にはゴミが増える一方だった。
恵には弟が二人いて、小さいころから母親の手伝いを率先しており料理が上手い。両親が離婚したのは恵が小学校の頃。自分で食事を作ることの大変さ、家事の多さ。何もかもを母親に任せてのほほんと生きていた爽太は恵の苦労を大学生になってやっと知った。こんな大変なことを小学生からやってきたのかと恵を心から尊敬するようになった。弟二人のうち一人は大学生でもう一人はまだ高校生。恵が自宅から会社に通っているのは弟たちのためだ。
「俺までごめん」
珍しく爽太がしおらしく言うので恵は目を丸くして訊いた。
「どうした。面接ダメだったのか」
「ううん、めぐちゃん家でも大変なのに、俺まで面倒かけてるなって」
「そう思うなら早く就職しろ」
「うん。今日の面接、多分OKだと思う」
「そうなのか? なんかそれらしき事言われた?」
「うん。いつから働けるのかって訊かれて。人手不足らしいから」
「へぇ! よかったじゃん! 人手不足はどこの会社でもだからな。俺の会社もこの前新人が二人も辞めてさ。なんか感染病で在宅勤務になった時とタイミングが被って上手くなじめない子が多くて、みんな人雇ってくれって人事にブーブー言ってるよ。で、なんて会社? 確か製造業の営業事務って言ってたよな」
いただきますと両手を合わせて汁椀を持ち、自分の作った味噌汁を飲んで満足気だ。
「端田梱包株式会社」
爽太がそういうと恵は口に含んでいた味噌汁を爽太の顔に吹いた。
「お、お前……」
「うん。恵と同じ会社」
床に落ちていたタオルで吹きかけられた顔の味噌汁を拭きながら爽太はニコリと笑う。
「ずっとめぐちゃんと一緒にいられるから」
恵は開いた口がふさがらなかった。
面接から帰ってきた爽太を出迎えた恵はそのまま料理を作って待っていた。午前中の面接で昼は食べずに帰って来いと言ってあった。
「お帰り。どうだった」
「うん、頑張った」
「そうか。偉いぞ」
ぐったりした爽太はスーツを脱いで下着になるとエプロン姿の恵に雪崩れ込もうとした。恵は寸でのところで体を躱し爽太は空しく自分自身を抱きしめるふりをする。
「シャワー浴びて来い」
「はい……」
スーツを着てシャキッとしていればニートだとは思えない。なのに帰ってくるとたちまちだらしなくなる。小さい頃はあんなではなかった。細かいことに気が付いて気遣いができて、部屋も綺麗だった。他の同級生の部屋は男臭くて入れなかったが爽太の部屋に行くと安心して過ごせた。ヒーローの傍にいれば安心だったのに。どうやったらもとに戻るのか。そんなことを考えながら味噌汁を味見する。うん、我ながら美味い。
「変な汗かいたよ」
タオル一枚腰に巻いて出てきた爽太の体は以前よりも痩せていた。シャンプーの匂いは変わらず恵に安堵を与えた。
「お昼ご飯、何?」
背後から爽太が恵の腰を持って鍋を覗く。腰の手を払いのけながら「豚丼」と答えて座れとテーブルを指差した。爽太がいない間に綺麗にした炬燵の上で食事だ。恵が片付けてくれたお陰で今はテレビのリモコンだけが置いてある。
豚丼と大根サラダと味噌汁が並べられ、爽太は美味しそうと食事を前に体を揺らした。いつもカップ麺やコンビニの弁当を食べるから手料理が食べれるのは恵が来てくれた時だけだ。それに案外コンビニ弁当の方が高くつく。それを知っていながらも自炊することが苦手で爽太の部屋にはゴミが増える一方だった。
恵には弟が二人いて、小さいころから母親の手伝いを率先しており料理が上手い。両親が離婚したのは恵が小学校の頃。自分で食事を作ることの大変さ、家事の多さ。何もかもを母親に任せてのほほんと生きていた爽太は恵の苦労を大学生になってやっと知った。こんな大変なことを小学生からやってきたのかと恵を心から尊敬するようになった。弟二人のうち一人は大学生でもう一人はまだ高校生。恵が自宅から会社に通っているのは弟たちのためだ。
「俺までごめん」
珍しく爽太がしおらしく言うので恵は目を丸くして訊いた。
「どうした。面接ダメだったのか」
「ううん、めぐちゃん家でも大変なのに、俺まで面倒かけてるなって」
「そう思うなら早く就職しろ」
「うん。今日の面接、多分OKだと思う」
「そうなのか? なんかそれらしき事言われた?」
「うん。いつから働けるのかって訊かれて。人手不足らしいから」
「へぇ! よかったじゃん! 人手不足はどこの会社でもだからな。俺の会社もこの前新人が二人も辞めてさ。なんか感染病で在宅勤務になった時とタイミングが被って上手くなじめない子が多くて、みんな人雇ってくれって人事にブーブー言ってるよ。で、なんて会社? 確か製造業の営業事務って言ってたよな」
いただきますと両手を合わせて汁椀を持ち、自分の作った味噌汁を飲んで満足気だ。
「端田梱包株式会社」
爽太がそういうと恵は口に含んでいた味噌汁を爽太の顔に吹いた。
「お、お前……」
「うん。恵と同じ会社」
床に落ちていたタオルで吹きかけられた顔の味噌汁を拭きながら爽太はニコリと笑う。
「ずっとめぐちゃんと一緒にいられるから」
恵は開いた口がふさがらなかった。
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