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「今日から業務課に入ってもらう事になった、清野爽太君です。清野君、挨拶どうぞ」
「はい。清野爽太、24歳です。未熟者ですが頑張ります。どうぞよろしくお願いします」
深々とみんなの前でお辞儀する爽太は顔を上げると真っ先に恵を見た。恵はというと、難しい顔をしていた。なぜ同じ会社を受けたのか追及したが爽太はただ恵と一緒に居たいからという理由しか告げなかった。そんなことでこの会社を選んだのかと思うと腹が立った。
就活の際にはいろいろな会社を見て悩んだ。大学二年の時、セミナーに来ていたこの会社が環境を配慮した自然素材の梱包材を製造していることを知り、環境破壊を食い止めたい、世界を変えたいと熱く語る社長の理念にひどく感動し、どうせ働くなら世界にとっていいものを作っている会社に就職したいと思った。環境科学の授業も受けていたし、SDGsというものも世界中で謳われ始め、この会社は成長すると見込んでの事でもあった。熱意をもって選んだのだ。それを爽太は恵がいるから選んだという。他に理由はなかったのか。それに面接の日は働かないでいいなら働きたくないみたいな事を言っていた。いい加減な気持ちで受けたのに受かったのだ。でも折角就職しようと腹をくくった爽太の感情を踏みにじるわけもいかず、就職できることはめでたいのだからそれ以上は訊かなかった。それでも自分が耕した畑に、誰のものでもないのだからいいだろうと勝手に野菜を植え付けられるような、陣地を侵されたような変な感覚があった。爽太は変わらず恵をじっと見ていた。
「清野君の席は窓側の奥ね。午前中は業務課の林田君と研修。午後は営業課と一緒に外回りして営業の仕事の流れを見てもらう予定をしてるから」
業務課長が林田と爽太にそう告げる。それを受けて営業課長が恵に声をかけた。
「荻野。お前午後坂田グループの支店に行くだろう。清野君に営業の流れを教えてやってくれ。業務課でも営業の流れを一通り分かっておく必要があるからな」
「はい、でも今日は葉月さんと一緒に行く予定で先方の部長さんにもアポとってますし他の方にお願いした方が……」
「そうか、部長さんとのアポとなるとご面倒を掛けるか。わかった。じゃぁ君山さん、午後清野君に外回りの仕事の流れ見せてくれる?」
初日から爽太と絡まずに済んで恵はひとまずホッとした。会社は自分のテリトリーだった。時間があるときは爽太の家に世話焼きを勝手出てるが爽太が自分の会社に入り込んでくるとは思わなかった。どこか落ち着かない。そんな様子に気づいたのか今日一緒に営業へ行く葉月が恵に声をかける。葉月は営業課のエースで恵よりもニ年先輩だ。恵に営業のイロハを教えたのも彼で、威張らず丁寧に仕事を教えてくれる。
「萩野、大丈夫か? 顔色があんまりよくないけど」
葉月は人との距離感が近い。至近距離で恵の顔を覗き込む。恵だけではなく誰とでもそうなので、もう慣れた。髪の毛も毎日丁寧にセットしていて服も清潔だ。万が一接触してもきっと大丈夫な部類の人間だと恵は思う。毎日顔を見ているし、慣れもある。それでも触られそうになったら微妙に体制を変えて避けてしまう。
「大丈夫です。午前中は資料の最終確認したいですね」
「だね、じゃぁ確認終わったやつ後で一緒にレビューしよう」
「はい」
肩をポンと叩く仕草をしかけて葉月は手を止めた。二年も一緒に仕事をしていれば恵が潔癖症の気がある事にも気づく。代わりににこりと笑い掛けて二人は営業課の席へ戻った。
爽太は席に座って林田からレクチャーを受けながらそんな二人をじっと見ていた。
「はい。清野爽太、24歳です。未熟者ですが頑張ります。どうぞよろしくお願いします」
深々とみんなの前でお辞儀する爽太は顔を上げると真っ先に恵を見た。恵はというと、難しい顔をしていた。なぜ同じ会社を受けたのか追及したが爽太はただ恵と一緒に居たいからという理由しか告げなかった。そんなことでこの会社を選んだのかと思うと腹が立った。
就活の際にはいろいろな会社を見て悩んだ。大学二年の時、セミナーに来ていたこの会社が環境を配慮した自然素材の梱包材を製造していることを知り、環境破壊を食い止めたい、世界を変えたいと熱く語る社長の理念にひどく感動し、どうせ働くなら世界にとっていいものを作っている会社に就職したいと思った。環境科学の授業も受けていたし、SDGsというものも世界中で謳われ始め、この会社は成長すると見込んでの事でもあった。熱意をもって選んだのだ。それを爽太は恵がいるから選んだという。他に理由はなかったのか。それに面接の日は働かないでいいなら働きたくないみたいな事を言っていた。いい加減な気持ちで受けたのに受かったのだ。でも折角就職しようと腹をくくった爽太の感情を踏みにじるわけもいかず、就職できることはめでたいのだからそれ以上は訊かなかった。それでも自分が耕した畑に、誰のものでもないのだからいいだろうと勝手に野菜を植え付けられるような、陣地を侵されたような変な感覚があった。爽太は変わらず恵をじっと見ていた。
「清野君の席は窓側の奥ね。午前中は業務課の林田君と研修。午後は営業課と一緒に外回りして営業の仕事の流れを見てもらう予定をしてるから」
業務課長が林田と爽太にそう告げる。それを受けて営業課長が恵に声をかけた。
「荻野。お前午後坂田グループの支店に行くだろう。清野君に営業の流れを教えてやってくれ。業務課でも営業の流れを一通り分かっておく必要があるからな」
「はい、でも今日は葉月さんと一緒に行く予定で先方の部長さんにもアポとってますし他の方にお願いした方が……」
「そうか、部長さんとのアポとなるとご面倒を掛けるか。わかった。じゃぁ君山さん、午後清野君に外回りの仕事の流れ見せてくれる?」
初日から爽太と絡まずに済んで恵はひとまずホッとした。会社は自分のテリトリーだった。時間があるときは爽太の家に世話焼きを勝手出てるが爽太が自分の会社に入り込んでくるとは思わなかった。どこか落ち着かない。そんな様子に気づいたのか今日一緒に営業へ行く葉月が恵に声をかける。葉月は営業課のエースで恵よりもニ年先輩だ。恵に営業のイロハを教えたのも彼で、威張らず丁寧に仕事を教えてくれる。
「萩野、大丈夫か? 顔色があんまりよくないけど」
葉月は人との距離感が近い。至近距離で恵の顔を覗き込む。恵だけではなく誰とでもそうなので、もう慣れた。髪の毛も毎日丁寧にセットしていて服も清潔だ。万が一接触してもきっと大丈夫な部類の人間だと恵は思う。毎日顔を見ているし、慣れもある。それでも触られそうになったら微妙に体制を変えて避けてしまう。
「大丈夫です。午前中は資料の最終確認したいですね」
「だね、じゃぁ確認終わったやつ後で一緒にレビューしよう」
「はい」
肩をポンと叩く仕草をしかけて葉月は手を止めた。二年も一緒に仕事をしていれば恵が潔癖症の気がある事にも気づく。代わりににこりと笑い掛けて二人は営業課の席へ戻った。
爽太は席に座って林田からレクチャーを受けながらそんな二人をじっと見ていた。
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