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会社での爽太は初めてのまともな仕事だというのにすぐに馴染んで立派に業務をこなしていた。もともと頭の良い人間なのだから当然と言えば当然だった。本人のやる気がなかっただけでその気を出してしまえばあっという間に皆に頼られるメンバーの一員となった。営業課の恵が忙しくなるとその後続業務を受ける爽太の業務課も忙しくなる。新規の顧客が増えれば業務課は製造に情報を回して材料の発注も同時にしなければならず、営業課の次に忙しいセクションだった。残業も少しするようになって恵ほどではないが同等に忙しく仕事をしている。
営業課の昼休みはまちまちでお客さんとのアポの都合もあり、食べれる時間に食べていい事になっている。少し遅くなったがその日も恵は節約のためにお弁当を作っていて席で食べていた。昼休憩を終えた業務課と総務課のみんながオフィスに戻ってきて、爽太は恵を見つけるとすぐに席へ来た。
「めぐちゃん、今日……」
営業課に来て話しかけた爽太の声をまるで聞こえなかったみたいに恵はホワイトボードで記入をしている葉月に声を掛ける。
「葉月さーん、社用車予約とってるんですよね」
「え、うん。13時半から」
「あざっす! これ食ったらすぐ出します」
「え、昼ゆっくり食べて大丈夫だよ」
「いや、今日サンプル三か所持って行くんですよ。その準備したいんで」
「めぐちゃん……」
「わりぃ、忙しいからまた今度」
残りを口にかきこんで恵は弁当箱をしまい、鞄に入れるとすぐに社用車の鍵を棚の鍵管理システムから取り出してオフィスを出た。
慌ただしく出て行った後姿を爽太が目で追いかける。
「最近、なんかやけに忙しいフリするんだよね、萩野。なんかあったの?」
二人が入社する前から知り合いなのだと聞いた葉月が爽太に話しかけた。爽太は葉月の余裕のある態度があまり好きではない。
「いえ、特に……」
あの夜から恵は爽太の家に来ていない。本人にはプロジェクトが忙しいからと言って誤魔化し続けているが本当のところは分からない。
嫌われるようなことをあの夜しただろうか。顔にやけどをしていそうだったから心配になって近づいたらお前はもう大丈夫だと言われてそれきりだ。
好きだと伝えた恵の反応はいつも曖昧で、何度かキスをしたのにそれでも家に来るからきっと受け入れてくれたのだと思っていた。でも今の状況を見るとそれは変わってしまったのかもしれないと爽太は蒼くなる。
「就職したら、受け入れてくれるんじゃなかったのか……」
「え、何? 喧嘩してるの? 僕が仲直りのきっかけ作ろうか?」
葉月と恵はペアで大きな客先を周ることが多い。葉月のノウハウを恵に引き継がせて一人立ちさせるためだと課長が話していたのを聴いた。あと半年は一緒に行動することになるだろうとも言っていた。恵の横にはいつもこの男がいる。イケメンで爽やかで、仕事ができますオーラが漂っていてはなはだ鼻につく。実際営業成績のグラフを見ると恵と葉月チームの線は突出しているから仕事ができるのには違いはないだろうが半分は恵のものだ。なのに誰もがこの男がエースだと言う。爽太はどうしても葉月が好きになれなかった。
「結構です」
「そう」
再び余裕の返答をした葉月に心の中で舌打ちして爽太は仕事に戻った。
「あ、あいつファイル忘れてる」
恵の机の上に置いてあった白いファイルに気づいて掴むと同時に、恵が飲んでいたコップを見てそれを持ち給湯室へ持って行った。
なんで机の上に置いてあったコップを持って行ったんだ。なんだか気になって爽太は葉月の様子が見えるようにプリンターへと移動した。こっそり給湯室を覗いたら、恵のコップの中のコーヒーを飲んでいるところが見えた。
『めぐちゃんの飲み残しのコーヒー飲んだ』
だが何も言えず、睨みつけていたら葉月が気づいた。そして爽太を見てクスっと笑った。
営業課の昼休みはまちまちでお客さんとのアポの都合もあり、食べれる時間に食べていい事になっている。少し遅くなったがその日も恵は節約のためにお弁当を作っていて席で食べていた。昼休憩を終えた業務課と総務課のみんながオフィスに戻ってきて、爽太は恵を見つけるとすぐに席へ来た。
「めぐちゃん、今日……」
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慌ただしく出て行った後姿を爽太が目で追いかける。
「最近、なんかやけに忙しいフリするんだよね、萩野。なんかあったの?」
二人が入社する前から知り合いなのだと聞いた葉月が爽太に話しかけた。爽太は葉月の余裕のある態度があまり好きではない。
「いえ、特に……」
あの夜から恵は爽太の家に来ていない。本人にはプロジェクトが忙しいからと言って誤魔化し続けているが本当のところは分からない。
嫌われるようなことをあの夜しただろうか。顔にやけどをしていそうだったから心配になって近づいたらお前はもう大丈夫だと言われてそれきりだ。
好きだと伝えた恵の反応はいつも曖昧で、何度かキスをしたのにそれでも家に来るからきっと受け入れてくれたのだと思っていた。でも今の状況を見るとそれは変わってしまったのかもしれないと爽太は蒼くなる。
「就職したら、受け入れてくれるんじゃなかったのか……」
「え、何? 喧嘩してるの? 僕が仲直りのきっかけ作ろうか?」
葉月と恵はペアで大きな客先を周ることが多い。葉月のノウハウを恵に引き継がせて一人立ちさせるためだと課長が話していたのを聴いた。あと半年は一緒に行動することになるだろうとも言っていた。恵の横にはいつもこの男がいる。イケメンで爽やかで、仕事ができますオーラが漂っていてはなはだ鼻につく。実際営業成績のグラフを見ると恵と葉月チームの線は突出しているから仕事ができるのには違いはないだろうが半分は恵のものだ。なのに誰もがこの男がエースだと言う。爽太はどうしても葉月が好きになれなかった。
「結構です」
「そう」
再び余裕の返答をした葉月に心の中で舌打ちして爽太は仕事に戻った。
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なんで机の上に置いてあったコップを持って行ったんだ。なんだか気になって爽太は葉月の様子が見えるようにプリンターへと移動した。こっそり給湯室を覗いたら、恵のコップの中のコーヒーを飲んでいるところが見えた。
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