Filthyー 潔癖症なのでセックスはできません

小鷹りく

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「荻野、ファイル忘れてたぞ」

 倉庫から取引先候補に見せるサンプルを引っ張り出して紙袋に詰めている恵に葉月が近づいてファイルを渡した。

「ありがとうございます。すいません。あ、でもこれ今日は使わないかもしれないっすけど」

「資料はいつでも見せれるように準備しといた方がいいよ。タブレットで見せても結局は資料を後で送ってほしいとか言われて社に戻って時間を割くことになるし、お客さんも検討するのにわかりやすくまとめられているものを紙で見れる方が記憶に残るしこっちの熱が伝わりやすい」

「さすが、葉月さん。なんでもお見通しですね」

「そんなこともないけど」

 葉月は恵が準備していた大きな紙袋を3つ抱えて社用車に移動した。後ろから残りの荷物を抱えて恵が話しかける。

「葉月さんがいると無駄なく効率的に商談まとまるんでマジで尊敬です」

「そんなお世辞言っても何も出ないよ」

 葉月は笑ったが恵はいたって真剣な顔で続けた。恵は仕事に対して真面目で営業先からもその点においてよく褒められるが、葉月の処理の速さと的確な判断があったからスムーズに商談は進んできた。

「俺はこの仕事すごく誇りをもってやってます。いい加減なことをしたくないしこれからもずっと葉月さんと仕事続けたいです」

「うん、どうした、いきなり改まって」

 持っていた荷物を積んで葉月は恵へ向き直った。

「なんか、あった?」

 恵は首をぶんぶんと振った。葉月は優しく笑う。

「荻野はさ、この会社すごく好きだよね」

「はい。俺自分の取り扱ってる商品にもすごく誇りを持ってます。もっと大きくなって世界中に支社作って世界を変えてほしいと思ってます」

「スケールが大きいな。それ入社時にも言ってたよね」

「覚えてたんですか」

「新入社員歓迎会ですごい熱量で語ってたからね」

「恥ずかしいな、そんな熱血でしたか」

 ドアを開けて二人は車に乗りこんだ。恵がエンジンをかける。シートベルトを締めながら葉月は続けた。

「うん。僕は荻野、すごいと思うよ」

「そうでしょうか」

「開発チームもいつも荻野がきらきらした目で新製品の話を聞いてくれるからつい色々話しちゃうって。そういう熱意をもって商品をお客さんに売り込んでくれてるのがすごく嬉しいって言ってた。話してる間にいろんなアイデアをもらえる事もあるから世間話も馬鹿にできないしって」

 そんな風に思ってくれていたなんて知らなかった。熱血がうざがられることもあるのを感じている。だけど熱をもって仕事をしないと新しいことに挑戦しようとしても誰にも伝わらないのは事実だ。そのことをどこかで理解してもらえてるようで嬉しい。

「そうなんですよね! 俺もスーパーで担当の人と喋っててアレがゴミになるとかこれが要らないとか聞いてると、もしかしてそれってトレーの材料になるんじゃないかなとか。なんていうか、循環させることを考えるヒントが落ちてる気がして」

「うん、うん、分かるよ」

 葉月の同意に心強さを感じる。自分を追いかけてきて妥協で入ったどこかの誰かとは全然違って、仕事もできて合理的で理解のある先輩とチームが組めて本当にラッキーだと恵は思った。

「葉月さん、今日外回り終わったら一杯どうですか?」

「いいの? いつも誘っても断られてたから外で飲むの嫌いなのか、僕が嫌われているのかのどっちかだろうって思ってた」

「げ、そんな事思わせてたなんて、すいません。そんなわけないじゃないですか。俺の責務はもう全うされたので自由になったんです」

「弟さんたちの事?」

「まぁそんなようなものです」

 濁して答えた恵は車に乗り込んでエンジンをかけた。

 
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