Filthyー 潔癖症なのでセックスはできません

小鷹りく

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出社してから、ホワイトボードとパソコンでスケジュールを再確認した。恵の言う通り、午後に葉月とアポが入っている。

爽太は心配で頭が痛かった。恵は真面目だ。仕事に誠実で適当なことができない。営業ペアをいきなり解消するのも無理だと言っていたから、嫌だと思っても頑張ってしまうだろう。

会社に来れないくらい顔をボコボコに殴ってやれば良かったと思う。だが恵と爽太が幼馴染であることは社内では既知のことだし、傷害事件にでもなったら、恵に迷惑が掛かってしまう。 分かっていたから、あれ以上は手を出せなかった。忌々しい。


会社での立場は葉月が先輩で、チームリーダーだ。周囲からの信頼も厚い。なのに恵に手を出した。リスクを負ってまで恵を手に入れたいということなのだろうか。本気だとしたら厄介だ。


爽太は苛立ちに爪を噛みながら、事務所の入り口を見つめた。


しばらくして葉月が出社した。爽太の視線が動いたので、恵も振り返る。姿を見て恵の体が強張っていた。

腹立たしさから舌打ちをしてしまい、周囲からぎょっとした目で見られ、すいません、蚊がいたもので、と苦しい言い訳をした。


葉月はめぐみに抱きついた。そして好きだと言って、キスまでしようとした。思い出しただけで、腹が煮えくり返りそうだ。

潔癖症なのにキスをしようとするなんて、最低だ。挙句の果てに嫌がられて恵は吐いた。

ん……? どこかで聞いたことのあるような……。

思考の中の違和感に気づき、考えれば考えるほど、自分がやったことは葉月と全く同じことだという事実にぶち当たる。

好きだからと言って、恵の気持ちや体調に関係なく、気持ちをわかってほしいという強欲ばかり先走ってぶつけた。

葉月と同じように気持ちを押しつけた。恵に申し訳なくて仕方なかった。これからは絶対傷つけない。爽太は固く心に誓った。



*


どれだけ気心が知れていたとしても、襲われた相手と密室になるのは気分のいいものじゃない。だが営業パートナーを解消するには部長や、もしかしたら支店長にまで話を通さないといけないだろう。

理由は話せないし、成績がいいのに会社はタッグ解消を許可しないと思う。それに頑張ってきたのに、今までの実績も不意になってしまうのは、悔しい。ここは上手くやり過ごそう。

恵は毅然とした態度をとる、と心に決めて車のドアを開いた。

「あ、そっちに座っちゃうんだ」

後部席に座った恵に、躊躇なく運転席に乗っていた葉月が言う。

「あんなことがあったんですから、油断なりません」
「だよねー、ははっ、ごめんごめん。でもなんで清野は僕の家知ってたのか謎だよ。荻野以外に知ってるのは、総務の人だけなんだけどな」

 もうちょっと真摯に謝ってもいいんじゃないか。慕っていたし、尊敬していただけにショックは大きかった。笑い飛ばすくらいの事にしか思ってもらえないなんて。

それに葉月は爽太の個人情報入手の件を知っているようだった。会社のパソコンの記録を検索すれば、誰が住所録を参照したのかすぐに分かる。家に来て爽太が葉月に暴力を振るっているのだから、追及されたら分が悪い。葉月は恐らく個人情報乱用を引き換えに、今回の件を不問にしろと言っているように聞こえた。

「葉月さんて、そういう感じの人でしたっけ」
「僕は欲に従順なんだよね。それに嫌なものは嫌って言うし」
「それは別に悪いことではないと思いますけど」
「荻野も嫌なことは嫌って言った方がいいよ」

葉月はふっと口だけで笑い、車を出した。

営業先での仕事はつつがなく進み、予定していた契約も締結することができた。順調で、無駄がなく、スムーズでスマートないつも通りの葉月だった。

ふとどうしてこんなことになっているのだろうと、不思議に思うほどにいつも通りに仕事ができた。

終わってから、また車に乗り込むと、葉月は深呼吸をした。

「どうしたんですか」
「いや、これで恵との仕事も終わりかなと思って」
「どういう意味ですか」
「営業パートナー解消しようか」
「えっ?」
「解消したいでしょ」

言葉につまった。会社は仕事をする場所で、葉月との仕事はうまくいっている。成績もいい。なのにプライベートな感情が邪魔をする。
葉月があんなことさえしなければ、これからも一緒に仕事ができたのに。この仕事が好きなだけに悔しさが募る。

「なんであんなことしたんですか」
「決まってるだろ、荻野の事が好きだからだよ」
「好きなら何してもいいって思ってるんですか」
「そりゃ少しは躊躇したさ。でも君があまりにも可愛いんでね」 
「俺は男です。可愛くないです」
「清野をあんなにさせておいて、カマトトだね」
「あいつは違うんです。昔からずっと一緒だし」
「清野は特別、ってことだね」

言われた通り、爽太は恵の特別だ。ただ、それを認識していなかったと思う。
爽太は憧れだった。ヒーローだった。引きこもりにもなったけど、今でも恵のピンチに必ず現れるヒーローだ。

「はい、そうなんだと思います」

認めると恥ずかしくなった。恵は俯く。

「営業パートナー、解消しなくても大丈夫です」
「ほんと?」
「前みたいに仕事が出来るなら」
「ほんとにそれでいいの?」
「俺、この仕事好きなんです」
「君って、ほんとに可愛い……」
「やめてください。今度俺に触ろうとしたらぶっ飛ばすんで」
「本気?」
「はい」
「わかった」
「俺、葉月さんと仕事すんの、好きなんです。葉月さんとだから進めてこれたんです。これからも仕事はちゃんとしたいから。お願いします」
「じゃあ、今回のことは、これで勘弁ってことで」

葉月は客先に心配されぬよう貼っていた絆創膏を指差した。

「はい。誰にも何も言わないんで、葉月さんも爽太が殴ったこと忘れてください」
「……わかったよ。ほんと見た目を裏切る男気だよね」
「どういう意味ですか」
「まんまだよ。さぁ、帰ろう」

和解は成立した。後部座席の恵は今から戻ると爽太へメッセージを送り、恵は目を擦った。早く爽太に会いたかった。

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