Filthyー 潔癖症なのでセックスはできません

小鷹りく

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「で、恵はなんて?」

「なんてって言うか、吐いて寝ちゃったんだよ」

爽太は両手を組んで親指をくるくるさせながら、申し訳なさそうに話した。恵が起きてから家まで付き添い、自室で再び眠りについたのを確認して、海の部屋で兄弟たちと静かに話している。

「爽太は一体何してるわけ? 間に合ったから良かったものの、危うく兄貴は葉月にやられてたんだぜ」

 海の言葉に寒気を感じて、爽太は自分の肩を抱きしめた。碧が助け舟を出す。

「まあまあ、恵の危機一髪には間に合ったんだから。葉月って人は、どうしてんの 」

「わかんねえ。殴った後、二度とめぐちゃんに触るなって言ったら、殴られたほっぺた押さえてうすら笑ってた。気色悪い」

「え、諦めねってこと?」

「わかんない。でも、会社ではめぐちゃんの営業パートナーだし、関わらないってことができない。めぐちゃんもそれ気にしてた」

「まあ、兄貴仕事は真面目にするからな。すぐに解消っていうのは難しいかも」

「何かいい方法があればいいけど、仕事絡みとなると俺たちは口を出せないな」

碧と海は顔を見合わせた。

「分かってる。俺に任せてくれ」

「任せてたらこんなことになってねーし。兄貴が好きなら、ちんたらしてねえで早く恋人にしろよ」

「俺だってできるならそうしたいよ!  でもめぐちゃんの潔癖症は、思ったよりひどいし」

「潔癖症なのに触れる唯一の人間がお前だろ。なんとかしろ」

年下なのに不遜な態度の兄弟に、頭が上がらない爽太は、はいと小さく返事した。

小さい頃から恵を守るようにして、過ごしていた海と碧は、変態から恵を救った爽太に一目置いていた。

恵が爽太を慕っていたのも知っていたし、爽太が恵を好きで、大切にしていたのをよくわかっていた。何があっても、爽太には文句が言えなかった二人だが、爽太が引きこもりになって、恵に世話を焼かせるようになってから格下げされた。働くまでは口も聞いてくれなかった。

爽太が就職してからは、悔い改めると態度で示すようになったので、最近では前のように連絡も取るようになっている。

それに爽太は、海と碧の唯一の良き理解者だ。2人の悩み事は誰にも言えず鬱憤が溜まるが、爽太に話すことで若干のガス抜きができている。

「俺も早くお前らみたいにラブラブしたいな」

「それはお前の努力次第だな」

手厳しい返事に頭を垂れて、爽太はそっと荻野家の門を出た。





月曜日、爽太は恵の家の門の前で待っていた。ボーっと待っているだけなので通り行く人たちがチラチラ見ているが、スーツ姿でかろうじて不審者回避だ。

「びっくりした。誰かと思った」

「おはよう。めぐちゃん」

「おはよう」

 恵は元気がなさそうだった。営業でトップの成績を収めているのは、葉月のお陰だといつも言っているが、元気で明るい恵も少なからず勿論貢献している。その元気印が影を潜めて痛々しい。

「体調大丈夫? 会社行ける?」

「なんともねえよ。行くに決まってるだろ。あんなこと、なんともねぇし」

 なんともないと二回も繰り返し言っている。まるで自分に言い聞かせているようだ。暫く距離を置かれていたが、週末の事があったせいか、爽太が迎えに来ているという事に、何の突っ込みもないのも、らしくない。

「めぐちゃん……」

 爽太は心配で手を伸ばした。気づいた恵はそれを避けた。

 伸ばした手を引っ込めて、爽太は恵の横を歩く。

「今日残業あるの?」

「一応夕方までアポ入ってる」

「一緒に帰ろう」

「遅いかもしれねぇからいいよ」

「残業して待ってるから」

「いいよ、か弱い女子でもあるまいし」

「俺がそうしたいから」

「勝手にしろよ」

 どこか不安げな声だった。襲われた男と職場だけではなく、社用車で一緒に行動しなければならないのだ。憂鬱にもなるだろう。車中何もない事を願う。

「後部座席に座ってね。距離取ってね」

「母親みたいに世話焼くな」

「めぐちゃーん。心配だから。お願い」

 立ち止まって説得を試みる。恵は振り返ったが、一瞥しただけでまた歩き出した。

「めぐちゃん……」

 スタスタと先を行く恵に走って追いつき、可愛い横顔を覗いた。

 元気いっぱいじゃないけれど、少し顔色が戻った気がする。

「めぐちゃん、LIME返してね! ねっ?」

「絶対だよ。お願い」

「めぐちゃーん」

 ため息をついて恵は立ち止まり、爽太の目を見て分かったよ、と言った。

 道中爽太はできるだけ気がそれる会話を試みた。会社の研究している内容が思いのほか面白そうだとか、いつも帰る時に野良猫に会うとか。恵はふーんとか、へぇとかしか相槌を打ってくれなかったが、爽太を無視することはなかった。

 朝の太陽がまぶしすぎるのか、恵は俯き加減で会社まで歩いた。




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