オッドアイの守り人

小鷹りく

文字の大きさ
94 / 231
第二部 オッドアイの行方ー失われた記憶を求めて

クルーズ 3

しおりを挟む
出る途中で取ったアルコールのグラスを持ち、手すりに寄りかかったフィンが聞く。潮風に髪がなびいてそれだけでフィルムの一場面のようだった。

「なぁ、本当にあれだけなのか?」
「何が?」
「お前ほとんど監督と喋ってないのに、アレで本当に浮気性が直るのか?二万ドルだぞ?」
「あぁ、心配要らないよ。」
「なんだ?催眠術みたいなもんなのかよ?」
「まぁそんなところだ。」
「俺にも変な術かけてねぇだろうな?」
「お前にかけて俺に何の得があるんだよ。」
「そりゃそうか…。」
 俺はアルコールと一緒にくすねてきたサンドイッチを口にする。能力を使った後は血中糖度が一気に下がっている。糖分を取って船を安全に下りるまでは安心できない。

 船の上なんて何十年振りだろう。湿度は高いが風が頬に当たって気持ち良い。フィンは俺を見ながら言った。
「なぁ、お前はずっとここに居るんだろう?」
「さぁな。仕事が仕事だからな。それは分からない。」
 口をもぐもぐさせながら俺は応える。

 俺だってやっと慣れて来たこの国を離れたくないが、フィクサーの仕事をしていれば危険な事だって沢山ある。だがそれを承知でやってるんだ。生きていく為に。

「…お前、今の仕事辞めて俺のタバコ屋手伝うか?」
「なに言ってんだ、人を雇う余裕は無いはずだ。」
「こう見えて二代続く列記としたタバコ屋だ。金はある程度、ある!」
「ある程度じゃ何かあった時に大変だ。お前に迷惑は掛けられない。」
「もしもーし、今掛けられてますけど?」
「親父さんの治療費も掛かるだろう。馬鹿なこと言うな。」
「…冗談だよ。金かぁ…。」
 フィンはハァーと溜息をついた。
「この煌びやかな世界と俺のタバコ屋とでは桁が違うんだろうな。」
「そうだろうな。やっぱりゼロを一つ増やしとくべきだったな。」
「だな。」

 お金があればどこでも生きていけるが、俺はただただ苦しみなく暮らしたい。洗脳の力があっても、体を捕われて距離を取られてしまえば俺は凡人だ。赤乃さんとは訳が違う。

この前来た宮内省の男のように、いつ俺の情報を嗅ぎつけて誰に狙われるか分からない。そう考えるとやはり記憶を消しておくべきだったか。不安はいつまで経っても消えない。この能力を持つ限り平穏な生活は叶わぬ夢だろう。だが、フィンやジェスが傍に居てくれる事は俺にとってその平穏な生活の仮住まいをさせてもらっているようで、俺はその束の間の幸せを噛み締めていた。

「お前は俺の家族みたいなもんだな。」
「何だよ急に…。」
 そう言うとフィンはとても複雑な顔をした。まともな家族を持ち合わせない俺が言うセリフでもなかったか。 
「お前の事を大事に思っているって事だよ。」
「なんだよ、始めからそう言えよ。損した気分になっただろう。」
「何が損なんだよ。」
「教えねぇよ。俺の報酬忘れんな?」
「はい、願い事は一つだけ叶えて差し上げます、ご主人様。」
 フィンは飲んでいたアルコールを吐き出しそうになり、俺を睨んだ。俺は何も悪いことは言ってないはずだ。

 フィンは港に着くまで船の中に居る俺が知らない有名人を窓の外から教えてくれて、俺達は無事に船を下りた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

fall~獣のような男がぼくに歓びを教える

乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。 強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。 濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。 ※エブリスタで連載していた作品です

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...