能登半島地震

早川座水

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私たちの声

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2月初旬。
地域の集会所に、避難者とボランティア、建築士、大学の研究者が集まり始めていた。

テーマは──「町をどう再建するか」

「まず、通学路。地盤が沈んでるところを確認しようや」
「高齢者が多い地区には、トイレの近くに仮設住宅を」

発言が飛び交う中、後方の席に慎吾と翔太が並んで座っていた。

翔太が小声で言う。

「なんか……町って、大人がつくるもんだと思ってた」

慎吾は言った。

「俺らが壊された側やからこそ、つくる資格があるんかもな」

そのとき、ファシリテーターの大学生が声をかけた。

「中学生、小学生の意見も聞いてみよう。
みんなにとって、住みたい町ってどんな町?」

翔太は勇気を出して、手を挙げた。

「ボクは、火事がこわかったから、水がたくさんある町がいい。
……あと、逃げ道がいっぱいある町」

その場に、少しだけ静寂が落ちた。
そして、誰かが拍手した。慎吾も、手を叩いた。

——少年の言葉が、大人たちを動かした瞬間だった。

抽選会場。
恵子は、番号の書かれた札を握りしめていた。

「第47番 中村恵子・翔太 1LDK(鉄骨・南棟)」

周囲では、笑う人、うなだれる人、怒鳴る人。
誰もが、“運”によってこれからの数か月を左右される現実にさらされていた。

「ママ、ぼくらんち、あたったん?」

翔太が聞く。

恵子は、笑って頷いた。

「……そう。ちょっと遠いけど、角部屋。窓がふたつあるって」

翔太は、小さくガッツポーズした。

「じゃあ……そこが、ボクらの“にばんめのいえ”やな」

恵子の目から、また涙が出そうになった。

奈々は、仮設オフィスに設けられた一角で、最後の震災連載記事に取りかかっていた。

タイトルは──

「わたしたちの町」

原稿には、慎吾のことも、翔太のことも、書かれていた。
名は伏せたが、彼らの“言葉”はそのまま残した。

「住むってことは、ただ屋根があるだけやない。
声をかけ合える場所のことを、“町”って言うんやと思います。」

「火の怖さを知ったから、水が欲しい。
暗さを知ったから、光を配りたい。
震災の中で子どもたちは、もう大人になっていた。」

「がれきの中から立ち上がったのは、建物じゃない。
声だった。」

記事が刷られ、朝刊に乗ったとき、奈々は自分の中の“記者観”が変わったことに気づいた。

「記録」ではなく、「継いでいく」こと。
それが、自分の仕事だと。

2月末。
慎吾は、炊き出し所の後片付けを終えたあと、校庭のベンチで翔太と話していた。

「仮設の生活って、慣れそう?」

翔太は頷いた。

「うん。ママが壁にカレンダー貼ってくれて、毎日ボクがマルつけてる」

「何のマルや」

「“がんばった日”のマル」

慎吾はふっと笑って、空を見上げた。
まだ寒いが、風がやや柔らかくなっていた。

翔太がそっと言った。

「しんごくん、また遊んでくれる?」

「おう。また、がんばった日にはな」

ふたりの笑い声が、空に消えていった。
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