俺が少女プリーストに転生したのは神様のお役所仕事のせい――だけではないかもしれない

ナギノセン

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16 シルビアでの尋問

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 マットの依頼はとても簡単で、シルビの冒険者ギルドで知っている限りの情報を提供することだけだった。
 速さ優先だったので、ひたすら馬で走ること二十日あまりでシルビ公国の首都とも言うべきシルビアへ辿り着いた。
 プリの体が覚えているとは言え、俺が不慣れだったので出足はペースが悪かったと思う。それでもスーによると、倍近く短縮できていると目を丸くしていた。

 途中の宿を取る町ごとに馬を乗り換える、贅沢振りの恩恵の面目躍如だ。さすがフォレスト伯爵家の依頼と言ったところだろう。報酬もお使いクエストにかかわらず莫大な額が提示されたが、内容が内容だけに、シルビアの冒険者ギルドで行われた質問攻めには辟易とさせられた。

 完全に尋問だな、と俺は思った。
 ギルドの三階にある小さな部屋へ通された俺達は、手前側の質素な木の椅子に三人座らされた。上座になる部屋の奥のデカい重厚な机越しに、冒険者ギルドのマスターやらシルビ公爵のお使いのお偉いさんやら、教会のお偉いさんやらがこっちを睨んでいる。

 彼らの左手には、俺達の座る椅子と同類と思しき簡素な机が併設され、ギルド職員の若い男女が座って、それぞれ議事進行と書記をしている。
 当初から聞かれることはわかっていたので、用意をした答えを述べるだけだったが、名前を名乗って宣誓しろと言われたところだけは、少し戸惑ってしまった。

 神様からプリの生家はハインリヒ家だと聞いてる。しかしプリの名前はプリとしか聞いたことがない。良く知っている欧米風に並べるなら『プリ=ハインリヒ』になるのだろうが、本当にこれが正しいのか甚だ疑問だった。
 知り合った人間は少ないが、それぞれミレーネなりマットなり普通の名前である。プリとスーが、俺の感覚ではイレギュラーすぎるのだ。しかしスーは、何もひるむことなく『スー』と名乗っていたので、俺も心では躊躇しながらも『プリ』とだけ口にした。

 尋問の印象をまとめると、悲壮感漂うギルド、のんきなシルビ、不愉快そうな教会といったところだ。たまに尋ねられはしたが、スーは相変わらずマイペースな答えで、相手をイラつかせるだけだった。俺に至っては、イチヨ騒ぎに巻き込まれていないので何も答えることはない。はっきり言えばマット一人で十分だったと思う。

 ようやく終えた頃には夜になっていた。座り続けて強張った体をほぐしながら階段を降りようとすると、書記の女の子がマットに声を掛けた。
 宿はギルドで手配をしてくれているらしい。これから探すのかと思うとうんざりさせられたところなので、本当にありがたかった。
 しかしマットはまったく知らされていなかったらしく、珍しく戸惑っていた。報酬の一部と考えれば俺は悪い気はしないが、マットの受け取る理由がないからだろう。
 何となく落ち着かない様子のマットの後を、俺とスーは憔悴した足取りで歩き、宿屋を目指した。

 冒険者ギルドは、たいてい街のメインストリートか商業区画にある。シルビ公国の首都ともいうべき街なので、夜も遅いのに開いている飲み屋や宿屋はかなりあった。至るところから大きな笑い声が聞こえ、窓からは明るい建物の中がよく見える。

 伯爵依頼のクエストを終えた俺達のために予約してくれた宿なのだから、この辺りだろうと勝手にタカをくくっていたら、どんどん人通りのない暗い方ヘマットは歩いて行く。
 さすがにおかしいと思った俺が、急ぎ足で前を歩くマットの肩を掴んで止めようとしたところで、彼もいきなり歩みを止めた。

「宿屋はどこにある?」
「――俺達は囮にされたようだな」
「どういうことだ?」
「プリちゃん、すっかり囲まれているのです」

 二つの小さな通りが交差する薄暗い四辻の真ん中で、スーが俺の背中に自分の背中をくっつける。いわゆる二人の時の敵を迎え撃つ態勢に入った。
 賑やかな町中を歩く時に、負けず劣らず賑やかなスーがずっと黙って付いて来ていた理由がわかった。

「スーは気づいていたか」
「はい。マットさんに心当たりは?」
「ありすぎてわからない。だが今回の矛先はどうやらお前達みたいだ」
「そうなのか?」
「はい――たぶん私なのです」

 スーは腰から愛用のショートソードを抜いて油断なく構えた。
 俺も慌てて銀のメイスを握ったが、盾がないのは何となく左手が心許ない。マットは腰に佩いた長めの剣を抜き放つと俺の左手に位置取った。
 それが合図ではなかっただろうが、寂しい裏路地の四方から黒づくめの男十人以上がゆらりと現れ、俺達は完全に包囲されてしまった。
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