16 / 71
16 シルビアでの尋問
しおりを挟む
マットの依頼はとても簡単で、シルビの冒険者ギルドで知っている限りの情報を提供することだけだった。
速さ優先だったので、ひたすら馬で走ること二十日あまりでシルビ公国の首都とも言うべきシルビアへ辿り着いた。
プリの体が覚えているとは言え、俺が不慣れだったので出足はペースが悪かったと思う。それでもスーによると、倍近く短縮できていると目を丸くしていた。
途中の宿を取る町ごとに馬を乗り換える、贅沢振りの恩恵の面目躍如だ。さすがフォレスト伯爵家の依頼と言ったところだろう。報酬もお使いクエストにかかわらず莫大な額が提示されたが、内容が内容だけに、シルビアの冒険者ギルドで行われた質問攻めには辟易とさせられた。
完全に尋問だな、と俺は思った。
ギルドの三階にある小さな部屋へ通された俺達は、手前側の質素な木の椅子に三人座らされた。上座になる部屋の奥のデカい重厚な机越しに、冒険者ギルドのマスターやらシルビ公爵のお使いのお偉いさんやら、教会のお偉いさんやらがこっちを睨んでいる。
彼らの左手には、俺達の座る椅子と同類と思しき簡素な机が併設され、ギルド職員の若い男女が座って、それぞれ議事進行と書記をしている。
当初から聞かれることはわかっていたので、用意をした答えを述べるだけだったが、名前を名乗って宣誓しろと言われたところだけは、少し戸惑ってしまった。
神様からプリの生家はハインリヒ家だと聞いてる。しかしプリの名前はプリとしか聞いたことがない。良く知っている欧米風に並べるなら『プリ=ハインリヒ』になるのだろうが、本当にこれが正しいのか甚だ疑問だった。
知り合った人間は少ないが、それぞれミレーネなりマットなり普通の名前である。プリとスーが、俺の感覚ではイレギュラーすぎるのだ。しかしスーは、何もひるむことなく『スー』と名乗っていたので、俺も心では躊躇しながらも『プリ』とだけ口にした。
尋問の印象をまとめると、悲壮感漂うギルド、のんきなシルビ、不愉快そうな教会といったところだ。たまに尋ねられはしたが、スーは相変わらずマイペースな答えで、相手をイラつかせるだけだった。俺に至っては、イチヨ騒ぎに巻き込まれていないので何も答えることはない。はっきり言えばマット一人で十分だったと思う。
ようやく終えた頃には夜になっていた。座り続けて強張った体をほぐしながら階段を降りようとすると、書記の女の子がマットに声を掛けた。
宿はギルドで手配をしてくれているらしい。これから探すのかと思うとうんざりさせられたところなので、本当にありがたかった。
しかしマットはまったく知らされていなかったらしく、珍しく戸惑っていた。報酬の一部と考えれば俺は悪い気はしないが、マットの受け取る理由がないからだろう。
何となく落ち着かない様子のマットの後を、俺とスーは憔悴した足取りで歩き、宿屋を目指した。
冒険者ギルドは、たいてい街のメインストリートか商業区画にある。シルビ公国の首都ともいうべき街なので、夜も遅いのに開いている飲み屋や宿屋はかなりあった。至るところから大きな笑い声が聞こえ、窓からは明るい建物の中がよく見える。
伯爵依頼のクエストを終えた俺達のために予約してくれた宿なのだから、この辺りだろうと勝手にタカをくくっていたら、どんどん人通りのない暗い方ヘマットは歩いて行く。
さすがにおかしいと思った俺が、急ぎ足で前を歩くマットの肩を掴んで止めようとしたところで、彼もいきなり歩みを止めた。
「宿屋はどこにある?」
「――俺達は囮にされたようだな」
「どういうことだ?」
「プリちゃん、すっかり囲まれているのです」
二つの小さな通りが交差する薄暗い四辻の真ん中で、スーが俺の背中に自分の背中をくっつける。いわゆる二人の時の敵を迎え撃つ態勢に入った。
賑やかな町中を歩く時に、負けず劣らず賑やかなスーがずっと黙って付いて来ていた理由がわかった。
「スーは気づいていたか」
「はい。マットさんに心当たりは?」
「ありすぎてわからない。だが今回の矛先はどうやらお前達みたいだ」
「そうなのか?」
「はい――たぶん私なのです」
スーは腰から愛用のショートソードを抜いて油断なく構えた。
俺も慌てて銀のメイスを握ったが、盾がないのは何となく左手が心許ない。マットは腰に佩いた長めの剣を抜き放つと俺の左手に位置取った。
それが合図ではなかっただろうが、寂しい裏路地の四方から黒づくめの男十人以上がゆらりと現れ、俺達は完全に包囲されてしまった。
速さ優先だったので、ひたすら馬で走ること二十日あまりでシルビ公国の首都とも言うべきシルビアへ辿り着いた。
プリの体が覚えているとは言え、俺が不慣れだったので出足はペースが悪かったと思う。それでもスーによると、倍近く短縮できていると目を丸くしていた。
途中の宿を取る町ごとに馬を乗り換える、贅沢振りの恩恵の面目躍如だ。さすがフォレスト伯爵家の依頼と言ったところだろう。報酬もお使いクエストにかかわらず莫大な額が提示されたが、内容が内容だけに、シルビアの冒険者ギルドで行われた質問攻めには辟易とさせられた。
完全に尋問だな、と俺は思った。
ギルドの三階にある小さな部屋へ通された俺達は、手前側の質素な木の椅子に三人座らされた。上座になる部屋の奥のデカい重厚な机越しに、冒険者ギルドのマスターやらシルビ公爵のお使いのお偉いさんやら、教会のお偉いさんやらがこっちを睨んでいる。
彼らの左手には、俺達の座る椅子と同類と思しき簡素な机が併設され、ギルド職員の若い男女が座って、それぞれ議事進行と書記をしている。
当初から聞かれることはわかっていたので、用意をした答えを述べるだけだったが、名前を名乗って宣誓しろと言われたところだけは、少し戸惑ってしまった。
神様からプリの生家はハインリヒ家だと聞いてる。しかしプリの名前はプリとしか聞いたことがない。良く知っている欧米風に並べるなら『プリ=ハインリヒ』になるのだろうが、本当にこれが正しいのか甚だ疑問だった。
知り合った人間は少ないが、それぞれミレーネなりマットなり普通の名前である。プリとスーが、俺の感覚ではイレギュラーすぎるのだ。しかしスーは、何もひるむことなく『スー』と名乗っていたので、俺も心では躊躇しながらも『プリ』とだけ口にした。
尋問の印象をまとめると、悲壮感漂うギルド、のんきなシルビ、不愉快そうな教会といったところだ。たまに尋ねられはしたが、スーは相変わらずマイペースな答えで、相手をイラつかせるだけだった。俺に至っては、イチヨ騒ぎに巻き込まれていないので何も答えることはない。はっきり言えばマット一人で十分だったと思う。
ようやく終えた頃には夜になっていた。座り続けて強張った体をほぐしながら階段を降りようとすると、書記の女の子がマットに声を掛けた。
宿はギルドで手配をしてくれているらしい。これから探すのかと思うとうんざりさせられたところなので、本当にありがたかった。
しかしマットはまったく知らされていなかったらしく、珍しく戸惑っていた。報酬の一部と考えれば俺は悪い気はしないが、マットの受け取る理由がないからだろう。
何となく落ち着かない様子のマットの後を、俺とスーは憔悴した足取りで歩き、宿屋を目指した。
冒険者ギルドは、たいてい街のメインストリートか商業区画にある。シルビ公国の首都ともいうべき街なので、夜も遅いのに開いている飲み屋や宿屋はかなりあった。至るところから大きな笑い声が聞こえ、窓からは明るい建物の中がよく見える。
伯爵依頼のクエストを終えた俺達のために予約してくれた宿なのだから、この辺りだろうと勝手にタカをくくっていたら、どんどん人通りのない暗い方ヘマットは歩いて行く。
さすがにおかしいと思った俺が、急ぎ足で前を歩くマットの肩を掴んで止めようとしたところで、彼もいきなり歩みを止めた。
「宿屋はどこにある?」
「――俺達は囮にされたようだな」
「どういうことだ?」
「プリちゃん、すっかり囲まれているのです」
二つの小さな通りが交差する薄暗い四辻の真ん中で、スーが俺の背中に自分の背中をくっつける。いわゆる二人の時の敵を迎え撃つ態勢に入った。
賑やかな町中を歩く時に、負けず劣らず賑やかなスーがずっと黙って付いて来ていた理由がわかった。
「スーは気づいていたか」
「はい。マットさんに心当たりは?」
「ありすぎてわからない。だが今回の矛先はどうやらお前達みたいだ」
「そうなのか?」
「はい――たぶん私なのです」
スーは腰から愛用のショートソードを抜いて油断なく構えた。
俺も慌てて銀のメイスを握ったが、盾がないのは何となく左手が心許ない。マットは腰に佩いた長めの剣を抜き放つと俺の左手に位置取った。
それが合図ではなかっただろうが、寂しい裏路地の四方から黒づくめの男十人以上がゆらりと現れ、俺達は完全に包囲されてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
空手馬鹿の俺が転生したら規格外の治癒士になっていた 〜筋力Eのひ弱少年治癒士が高みを目指す!?〜
くまみ
ファンタジー
前世は空手部主将の「ゴリラ」男。転生先は……筋力Eのひ弱な少年治癒士!?
「資質がなんだ!俺の拳は魔法を超える!……と、思うけど……汗」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は五里羅門(ごり・らもん) 35歳独身男だ。硬派すぎて女が寄り付かず。強すぎる空手愛と鍛え抜かれた肉体のせいで不本意ながら通称「ゴリラ」と呼ばれていた。
仕事帰りにダンプに跳ねられた俺が目覚めると、そこは異世界だった。だが転生した姿は前世とは真逆。
病弱で華奢。戦闘力最低と言われる職業の「治癒士」(ヒーラー)適正の10歳の少年・ノエル。
「俺は戦闘狂だぞ!このひ弱な体じゃ、戦えねぇ!
「華奢でひ弱な体では、空手技を繰り出すのは夢のまた夢……」
魔力と資質が全てのこの世界。努力では超えられない「資質の壁」が立ちふさがる。
だが、空手馬鹿の俺の魂は諦めることを知らなかった。
「魔法が使えなきゃ、技で制す!治癒士が最強になっちゃいけないなんて誰が決めた?」
これは魔法の常識を「空手の技」で叩き壊す、一人の少年の異世界武勇伝。
伝説の騎士、美少女魔術師、そして謎の切り株(?)を巻き込み、ノエルの規格外の挑戦が今始まる!
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】
普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます)
【まじめなあらすじ】
主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、
「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」
転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。
魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。
友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、
「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」
「「「違う、そうじゃない!!」」」
これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。
※他サイトにも投稿中
※旧タイトル
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる