6 / 46
6 ギルマスはおせっかい
しおりを挟む
「あれは――」
「どうした? もうすぐ鑑定結果をマリアが持ってくるぞ」
「ああ、わかってる」
クラフト王国の北の国境近くにアルザスの町は作られている。町の中心は十字に走る大通りで区画分けをされて、交差する南西の角に三階建て石造りの冒険者ギルドがあった。
ガイルは昼の太陽が照り付ける三階の窓から外の様子をうかがう。
大通りをやけに目立つ長衣の五人組が北へ進んだと見えたら、唐突に引き返す不自然な光景を目にしていた。
最後のクエストを終えてから王都ウライユールへ寄って、昨日の遅くにアルザスへは帰ってきていた。普段と変わらなければ、冒険者ギルドへのクエスト完了報告は昨日のうちに済ませている。今日にしたのは、大切な用件が別にあったからである。
「もう少し後でもいいんじゃないか?」
「やだよ。わざわざ遠回りをして戻って、気持ちと体の整理も旅の間にやってきたんだぞ」
「おまけに所持品整理も万全――か」
「見覚えがあるものばかりだろう? 金に困って売ったなんてしてないことを褒めてもらいたいよ」
「どうせなら他で褒めさせてもらいたいものだけどな」
窓際から離れて、革張りのクッションがきいたソファーに座ったガイルの目の前に精悍な壮年の男性が座っている。
顔の真ん中を斜め一文字に古傷が走り、むき出しの両腕にバラの蔓のような蒼い刺青が鮮やかに浮き上がる。誰もが認める歴戦の勇士の風貌に何ともいえない困惑を浮かべるのは、アルザスの冒険者ギルドマスター、ロキである。
冒険者ギルドは、一階に受付などの依頼スペース。二階に倉庫や職員の執務室と鑑定スペース。三階に来賓用の応接室とギルドマスターの執務室がある。
ガイルとロキは朝からずっと応接室にいて、ガイルの引退手続きをしながら、遺留も呼び掛けているところであった。
「お前がSクラスになっていれば職員にでもしてやれたのに」
「今更言ってもしようがないさ」
「どの口を下げて言いやがる! お前くらいのものだぞ、実力があるのにわざわざクラスを上げないように、あの手この手で受注調整をするような怠け者は!」
ガイルの師であるデニスが命を落としたのは、Sクラス以上の者へ義務的に課せられる冒険者ギルドの強制クエストだった。通常のクエストだったら適性やバランスも考慮されるが、突発的に発生する強制クエストには当たり前のことに一切の配慮がない。
Sクラス以上になるということは容易ではない。様々な困難を乗り越えて能力を磨き、実績を積み上げた頂の先にある。報酬や名誉などの見返りも桁違いになるけれど相応の義務が伴う。それらを天秤にかけて、なれるものなら普通はSクラスを目指すのにガイルは違った。
Sクラスにならなくても食べていくには十分との考えと、デニスを奪った強制クエスト制度だけはどうしても許せなかった。
ガイルが肩をすくめて机にあるコーヒを飲んでいると、部屋の入口の重厚そうな扉が開いた。姿を見せたのは、背丈は低いけれど横幅はそこそこある。一見して性別がわからないと言えば怒られるかもしれない。ドワーフ族の女性、マリアだった。
「とりあえず鑑定を終えました。さすがSSレンジャーの愛用品ですね。かなりの逸品揃いで驚きました。でもギルマスがおっしゃってた剣はありませんでしたよ?」
ガイルへ鑑定結果を手渡したマリアがロキを見る。ロキも意外な顔でガイルを見やった。
「あれは訳あって売約済みだから、家に置いてきた」
「ほう? 一番値が張ると思っていた物を誰に、と聞いていいのか?」
「ただの興味本位のギルドマスターにはお断りだ。しかしデニスの友人だったロキには教えざるを得ないだろうな」
ガイルは軽く肩をすくめて見せる。
今回売却する装備品が彼の手元にあるのは、ギルドマスターになる前のギルド職員だったロキが、いろいろと取り計らってくれたことによる。駆け出しのガイルを鍛えるようデニスへ頼んだのもロキであった。
ガイルはあたりさわりのない範囲でパメラのことを伝えた。
話を聞いたロキは強面を崩す。ガイル自身の歪んだ上昇志向は褒められたものではないけれど、後進を思った振る舞いはとても嬉しい。
ロキの様子を見ながら酒場でのことを口にしたガイルは、ふと気になることに気づいた。
「まさかとは思うけど、ミシェルを焚きつけたのはロキじゃあるまいな?」
「お前に突っ掛ったところの話か? さすがに邪推だぞ。犬ッコロのようにお前を慕っていたのに、手のひらを返された振舞いを俺のせいにするなよ」
「すまない。暫く会っていなかったから、あれが今のあいつなんだろうな」
「気になるか? だったらお前はやはりギルド職員になるべきだ」
「それが無理なのはあんたが一番わかってるだろう?」
アルザスでのギルド職員採用の最低条件はSクラス以上である。
オリジナルダンジョンが近いことから、他の場所より厳しい条件になっている。
先ほど鑑定書を持ってきて、ガイルとロキの会話を興味深くうかがっているマリアもSクラスである。
実は、このギルド職員のやり取りは朝から四度目になる。
何か打つ手はないかと凝りもせず考えてくれるロキを、ガイルは心からありがたく思っていた。
どうやっても結果は変わらない。それでもガイルの冒険者の登録をしたのがロキで、デニスに師事をさせたのもロキである。最後まで面倒を見たい強い意思のあらわれであった。
悶々とするロキとコーヒーを飲むガイルの耳に、階段を激しく駆け上がる音が聞こえた。
ロキは急いで立ち上がるとマリアを背後へかばった。ガイルもすぐにロキの隣に立って身構えた。
「ギルマス!! ナーガのダンジョンでスタンピードが起きた!!」
ノックもなしに扉を激しく開けた男の叫びに、ロキもガイルも思わず声を失った。
「どうした? もうすぐ鑑定結果をマリアが持ってくるぞ」
「ああ、わかってる」
クラフト王国の北の国境近くにアルザスの町は作られている。町の中心は十字に走る大通りで区画分けをされて、交差する南西の角に三階建て石造りの冒険者ギルドがあった。
ガイルは昼の太陽が照り付ける三階の窓から外の様子をうかがう。
大通りをやけに目立つ長衣の五人組が北へ進んだと見えたら、唐突に引き返す不自然な光景を目にしていた。
最後のクエストを終えてから王都ウライユールへ寄って、昨日の遅くにアルザスへは帰ってきていた。普段と変わらなければ、冒険者ギルドへのクエスト完了報告は昨日のうちに済ませている。今日にしたのは、大切な用件が別にあったからである。
「もう少し後でもいいんじゃないか?」
「やだよ。わざわざ遠回りをして戻って、気持ちと体の整理も旅の間にやってきたんだぞ」
「おまけに所持品整理も万全――か」
「見覚えがあるものばかりだろう? 金に困って売ったなんてしてないことを褒めてもらいたいよ」
「どうせなら他で褒めさせてもらいたいものだけどな」
窓際から離れて、革張りのクッションがきいたソファーに座ったガイルの目の前に精悍な壮年の男性が座っている。
顔の真ん中を斜め一文字に古傷が走り、むき出しの両腕にバラの蔓のような蒼い刺青が鮮やかに浮き上がる。誰もが認める歴戦の勇士の風貌に何ともいえない困惑を浮かべるのは、アルザスの冒険者ギルドマスター、ロキである。
冒険者ギルドは、一階に受付などの依頼スペース。二階に倉庫や職員の執務室と鑑定スペース。三階に来賓用の応接室とギルドマスターの執務室がある。
ガイルとロキは朝からずっと応接室にいて、ガイルの引退手続きをしながら、遺留も呼び掛けているところであった。
「お前がSクラスになっていれば職員にでもしてやれたのに」
「今更言ってもしようがないさ」
「どの口を下げて言いやがる! お前くらいのものだぞ、実力があるのにわざわざクラスを上げないように、あの手この手で受注調整をするような怠け者は!」
ガイルの師であるデニスが命を落としたのは、Sクラス以上の者へ義務的に課せられる冒険者ギルドの強制クエストだった。通常のクエストだったら適性やバランスも考慮されるが、突発的に発生する強制クエストには当たり前のことに一切の配慮がない。
Sクラス以上になるということは容易ではない。様々な困難を乗り越えて能力を磨き、実績を積み上げた頂の先にある。報酬や名誉などの見返りも桁違いになるけれど相応の義務が伴う。それらを天秤にかけて、なれるものなら普通はSクラスを目指すのにガイルは違った。
Sクラスにならなくても食べていくには十分との考えと、デニスを奪った強制クエスト制度だけはどうしても許せなかった。
ガイルが肩をすくめて机にあるコーヒを飲んでいると、部屋の入口の重厚そうな扉が開いた。姿を見せたのは、背丈は低いけれど横幅はそこそこある。一見して性別がわからないと言えば怒られるかもしれない。ドワーフ族の女性、マリアだった。
「とりあえず鑑定を終えました。さすがSSレンジャーの愛用品ですね。かなりの逸品揃いで驚きました。でもギルマスがおっしゃってた剣はありませんでしたよ?」
ガイルへ鑑定結果を手渡したマリアがロキを見る。ロキも意外な顔でガイルを見やった。
「あれは訳あって売約済みだから、家に置いてきた」
「ほう? 一番値が張ると思っていた物を誰に、と聞いていいのか?」
「ただの興味本位のギルドマスターにはお断りだ。しかしデニスの友人だったロキには教えざるを得ないだろうな」
ガイルは軽く肩をすくめて見せる。
今回売却する装備品が彼の手元にあるのは、ギルドマスターになる前のギルド職員だったロキが、いろいろと取り計らってくれたことによる。駆け出しのガイルを鍛えるようデニスへ頼んだのもロキであった。
ガイルはあたりさわりのない範囲でパメラのことを伝えた。
話を聞いたロキは強面を崩す。ガイル自身の歪んだ上昇志向は褒められたものではないけれど、後進を思った振る舞いはとても嬉しい。
ロキの様子を見ながら酒場でのことを口にしたガイルは、ふと気になることに気づいた。
「まさかとは思うけど、ミシェルを焚きつけたのはロキじゃあるまいな?」
「お前に突っ掛ったところの話か? さすがに邪推だぞ。犬ッコロのようにお前を慕っていたのに、手のひらを返された振舞いを俺のせいにするなよ」
「すまない。暫く会っていなかったから、あれが今のあいつなんだろうな」
「気になるか? だったらお前はやはりギルド職員になるべきだ」
「それが無理なのはあんたが一番わかってるだろう?」
アルザスでのギルド職員採用の最低条件はSクラス以上である。
オリジナルダンジョンが近いことから、他の場所より厳しい条件になっている。
先ほど鑑定書を持ってきて、ガイルとロキの会話を興味深くうかがっているマリアもSクラスである。
実は、このギルド職員のやり取りは朝から四度目になる。
何か打つ手はないかと凝りもせず考えてくれるロキを、ガイルは心からありがたく思っていた。
どうやっても結果は変わらない。それでもガイルの冒険者の登録をしたのがロキで、デニスに師事をさせたのもロキである。最後まで面倒を見たい強い意思のあらわれであった。
悶々とするロキとコーヒーを飲むガイルの耳に、階段を激しく駆け上がる音が聞こえた。
ロキは急いで立ち上がるとマリアを背後へかばった。ガイルもすぐにロキの隣に立って身構えた。
「ギルマス!! ナーガのダンジョンでスタンピードが起きた!!」
ノックもなしに扉を激しく開けた男の叫びに、ロキもガイルも思わず声を失った。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる