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7 昔は物を思わざりけり
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ダンジョンから突如としてモンスターがあふれ出す現象、スタンピード。
オリジナルダンジョンとレッサーダンジョンのいずれもスタンピードは発生するが、規模は桁違いとなる。
アルザスにあるのは、世界に7つしかないオリジナルダンジョンであった。
ロキとガイルは慌てて二階へ下りた。
次々と入る情報と慌てふためく人々を、ギルド職員が見事に整理をしている。元Sクラスの冒険者資格は伊達ではない。
ロキも情報をまとめ上げ、即座に手を打った。
アルザスは北の国境付近であることと、オリジナルダンジョンの近くにあることから、普通の町にはない強固な防壁が設けられている。その代わりではないが、王国からの守備兵の配置は申し訳程度の数しかない。
防壁はスタンピードの発生も計算に入れられいるので、普通であればそうそう破られるものではない。いま必要なのは冷静に対処することである。
「Sクラス以上には強制クエスト発動だ! それ以外でも手の空いている奴は力を貸してくれ!! 各自準備を整え次第、北門へ向かってくれ! 現場の指揮はSS以上に頼む。配置されている守備兵と協力をして町を守りぬけ!!」
ロキの怒号でギルドが一気に沸き立つ。
冒険者を場所ごとのギルド登録制としている意味は、このような時とても大きい。誰しも自分の家や帰属意識のある場所を守るためならば大きな力を発揮する。
冒険者達の反応を満足そうに見たロキは、今にも出発しそうなガイルに気づき慌てて呼んだ。
「お前はもう冒険者じゃないだろう。さっさと家へ帰れ!」
「いや、俺も何か手伝いたいんだ」
「だったら町の衛兵のところへ行って申し出ろ。冒険者達に混じるのは俺が許さん」
「ロキーー」
ギルドマスターが指示をして、責任を持つことのできるのは、冒険者に限られる。
ロキの言葉通り、ガイルはすでに引退の書類にサイン済みであった。
「だったらもう一度冒険者になればいいんだろう!?」
「・・・・・・自分の言っていることの意味がわかっているんだろうな?」
「ああ」
緊急事態を乗り切るために、ロキも本心ではガイルの助けがあったほうがありがたい。しかし命がけの職業だかこそ、決められた手続きは厳格に守らなければ誰もが安心できない。
ロキが確認したのには理由がある。
Aクラス以下の辞めて間もない冒険者の再登録は、ペナルティとして一年間の強制クエストへの参加が義務付けられる。そして原則三年は冒険者を辞めることができなくなる。
ペナルティとして実際に意味があるのは、強制クエスト参加だけなのは知れ渡っている。三年間冒険者を辞められないといっても、食うに困らなければ、通常のクエストを受けなければいいだけである。
「だったらペナルティ発動だ。復帰の手続きは済ませておくから、さっさと行ってこい! マリア、装備を返してやれ!!」
ロキは眉間にしわを寄せた渋い表情をしながら応接室で一緒だったドワーフの女性へ叫び、ガイルを見送ることなくカウンターの奥へ姿を消した。
ガイルは受け取った剣や防具を大急ぎで着用するとギルドを後にした。
猫の手も借りたい状況には違いない。
ガイルの翻意を心配して、聞く耳は持たないとのアピールかとギルド職員達は一瞬だけ思ったが、すぐに考え直した。
ロキは入口に背を向けるなり、刺青のあるたくましい腕でガッツポーズを決めて呟いたのである。
「これでSクラス決定だぞ、ガイル」
ロキが嬉しそうに笑っているのを知らないガイルは、北門を目指して必死に走った。
人の流れに逆らうため思うようには進めない。しばらくして彼と並走する男がいることに気づいた。
「ビンセント・・・・・・」
「お前と行動をするのは久しぶりだな」
「あ、ああ」
ガイルの傍を走るビンセントは、見るからに立派な体格を持つ剣士だった。
重そうな装備を鳴らしながら、眉を少ししかめたガイルを気にもせず言葉を続ける。
「昔のことをまだ気にしているのか? 過ぎたことだろう」
「お前がそれを言うか?」
「悪い。あれは俺も若かった。今となってはお前よりもクラスは上だし、剣士でよかったと思ってる――といってもお前も今は剣士なんだよな」
「・・・・・・いろいろとあってな」
この二人はたまたま冒険者となったのも同じ時期だった。ガイルの師匠デニスが、ギルドからの依頼でビンセントの面倒も見ることになり、三人でパーティを組んで六年ほど旅をしていた。
そしてデニスの死を契機に袂を分かってしまう。
朗らかな態度のビンセントとは対照的にガイルの表情はさえない。
あきらかにビンセントの態度に困惑をしていたのである。
二人がパーティを解消する原因になったのは、デニスの装備品の分配でもめたことによる。といっても不平は、ビンセントが一方的に言っていただけであった。
当時の二人のクラスには扱いかねる装備を、デニスは色々と所持していた。そのためギルドが一旦分配を預かり、二人のクラスや修得スキルといった状況に応じた分配をした結果、ガイルの方に多くが分け与えられた。
デニスがガイルをかわいがっていたことを、よく知っていたギルドの配慮も災いしたと言える。
高価な薬などの配分はあったけれど、希少な武器や防具などの装備品をもらえなかったビンセントは不満が募った。使えなくとも売ればかなりの額になる。新しい装備品を買ったりもできる目論見があった。
結局、二人の溝は埋まらず口を利くこともなくなった。ギルドも依頼を受けるエリアが重ならないように配慮をしたりして、顔を合わす機会がほとんどなくなり十年以上が過ぎた。
当時のビンセントの思いは一つだった。デニスは間違いなくガイルのほうをかわいがっていた。しかし、せめてガイルよりクラスが上だったら、少しは装備品がもらえて依頼をもっと楽にこなせたはずだった、と。
この一念で、ビンセントはアルザスのギルドでは十人にも満たないSSクラスになっていた。
オリジナルダンジョンとレッサーダンジョンのいずれもスタンピードは発生するが、規模は桁違いとなる。
アルザスにあるのは、世界に7つしかないオリジナルダンジョンであった。
ロキとガイルは慌てて二階へ下りた。
次々と入る情報と慌てふためく人々を、ギルド職員が見事に整理をしている。元Sクラスの冒険者資格は伊達ではない。
ロキも情報をまとめ上げ、即座に手を打った。
アルザスは北の国境付近であることと、オリジナルダンジョンの近くにあることから、普通の町にはない強固な防壁が設けられている。その代わりではないが、王国からの守備兵の配置は申し訳程度の数しかない。
防壁はスタンピードの発生も計算に入れられいるので、普通であればそうそう破られるものではない。いま必要なのは冷静に対処することである。
「Sクラス以上には強制クエスト発動だ! それ以外でも手の空いている奴は力を貸してくれ!! 各自準備を整え次第、北門へ向かってくれ! 現場の指揮はSS以上に頼む。配置されている守備兵と協力をして町を守りぬけ!!」
ロキの怒号でギルドが一気に沸き立つ。
冒険者を場所ごとのギルド登録制としている意味は、このような時とても大きい。誰しも自分の家や帰属意識のある場所を守るためならば大きな力を発揮する。
冒険者達の反応を満足そうに見たロキは、今にも出発しそうなガイルに気づき慌てて呼んだ。
「お前はもう冒険者じゃないだろう。さっさと家へ帰れ!」
「いや、俺も何か手伝いたいんだ」
「だったら町の衛兵のところへ行って申し出ろ。冒険者達に混じるのは俺が許さん」
「ロキーー」
ギルドマスターが指示をして、責任を持つことのできるのは、冒険者に限られる。
ロキの言葉通り、ガイルはすでに引退の書類にサイン済みであった。
「だったらもう一度冒険者になればいいんだろう!?」
「・・・・・・自分の言っていることの意味がわかっているんだろうな?」
「ああ」
緊急事態を乗り切るために、ロキも本心ではガイルの助けがあったほうがありがたい。しかし命がけの職業だかこそ、決められた手続きは厳格に守らなければ誰もが安心できない。
ロキが確認したのには理由がある。
Aクラス以下の辞めて間もない冒険者の再登録は、ペナルティとして一年間の強制クエストへの参加が義務付けられる。そして原則三年は冒険者を辞めることができなくなる。
ペナルティとして実際に意味があるのは、強制クエスト参加だけなのは知れ渡っている。三年間冒険者を辞められないといっても、食うに困らなければ、通常のクエストを受けなければいいだけである。
「だったらペナルティ発動だ。復帰の手続きは済ませておくから、さっさと行ってこい! マリア、装備を返してやれ!!」
ロキは眉間にしわを寄せた渋い表情をしながら応接室で一緒だったドワーフの女性へ叫び、ガイルを見送ることなくカウンターの奥へ姿を消した。
ガイルは受け取った剣や防具を大急ぎで着用するとギルドを後にした。
猫の手も借りたい状況には違いない。
ガイルの翻意を心配して、聞く耳は持たないとのアピールかとギルド職員達は一瞬だけ思ったが、すぐに考え直した。
ロキは入口に背を向けるなり、刺青のあるたくましい腕でガッツポーズを決めて呟いたのである。
「これでSクラス決定だぞ、ガイル」
ロキが嬉しそうに笑っているのを知らないガイルは、北門を目指して必死に走った。
人の流れに逆らうため思うようには進めない。しばらくして彼と並走する男がいることに気づいた。
「ビンセント・・・・・・」
「お前と行動をするのは久しぶりだな」
「あ、ああ」
ガイルの傍を走るビンセントは、見るからに立派な体格を持つ剣士だった。
重そうな装備を鳴らしながら、眉を少ししかめたガイルを気にもせず言葉を続ける。
「昔のことをまだ気にしているのか? 過ぎたことだろう」
「お前がそれを言うか?」
「悪い。あれは俺も若かった。今となってはお前よりもクラスは上だし、剣士でよかったと思ってる――といってもお前も今は剣士なんだよな」
「・・・・・・いろいろとあってな」
この二人はたまたま冒険者となったのも同じ時期だった。ガイルの師匠デニスが、ギルドからの依頼でビンセントの面倒も見ることになり、三人でパーティを組んで六年ほど旅をしていた。
そしてデニスの死を契機に袂を分かってしまう。
朗らかな態度のビンセントとは対照的にガイルの表情はさえない。
あきらかにビンセントの態度に困惑をしていたのである。
二人がパーティを解消する原因になったのは、デニスの装備品の分配でもめたことによる。といっても不平は、ビンセントが一方的に言っていただけであった。
当時の二人のクラスには扱いかねる装備を、デニスは色々と所持していた。そのためギルドが一旦分配を預かり、二人のクラスや修得スキルといった状況に応じた分配をした結果、ガイルの方に多くが分け与えられた。
デニスがガイルをかわいがっていたことを、よく知っていたギルドの配慮も災いしたと言える。
高価な薬などの配分はあったけれど、希少な武器や防具などの装備品をもらえなかったビンセントは不満が募った。使えなくとも売ればかなりの額になる。新しい装備品を買ったりもできる目論見があった。
結局、二人の溝は埋まらず口を利くこともなくなった。ギルドも依頼を受けるエリアが重ならないように配慮をしたりして、顔を合わす機会がほとんどなくなり十年以上が過ぎた。
当時のビンセントの思いは一つだった。デニスは間違いなくガイルのほうをかわいがっていた。しかし、せめてガイルよりクラスが上だったら、少しは装備品がもらえて依頼をもっと楽にこなせたはずだった、と。
この一念で、ビンセントはアルザスのギルドでは十人にも満たないSSクラスになっていた。
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