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8 そっちは逃げる方向じゃない
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ずっとAクラスをうろついているガイルに、今の力を見せつけるために近づいてきたような口ぶりが本意であれば何も問題ない。
何か良からぬことを考えているのであれば、注意するに越したことはない。
ガイルは戦闘が始まればなるべく近づかないことを密かに心に決めた。
走りながら耳にした噂話では、町の二重の防壁はまだ破られてはいないが、このままでは時間の問題と思われるらしい。
大半はオークやゴブリンで、たまにオーガやジャイアントような強い魔物も交じっている。
ダンジョンには、スケルトンやレイスといったアンデッドモンスターもいるのに、今のところ目撃はされていない、などである。
「ここ最近は静かだったのに、いきなりスタンピードとはな。何の因果だ?」
「言っても仕方あるまい。今は北門へ早くたどり着かないと」
「足手まといにだけはなるなよ」
ビンセントの嫌味を聞き流すようにガイルが視線を流したところ、彼らと同じく北へ向かおうとしている少女が目に入った。
白い長衣に三日月のネックレス。アーレイ教団なのは一目でわかったが、ナーガ山には巡礼地もないし、教会が建っているような場所でもない。
この混乱状況の中、女の子が一人で歩いて北を目指していることは、あきらかに普通ではなかった。
「ビンセント、先に行っててくれ!」
「お前、やっぱり怖気づいたんだな!」
ガイルは、ビンセントの中の自分の評価をいまさら変えようとも思っていない。
ギルドを巻き込んで、デニスの遺品を独り占めした卑怯者と思われているのは重々知っている。それにこのクエストが終われば、これまでどおりビンセントと接触する気もさらさらない。
どう思われても関係のない彼は、気になった少女のもとへ走り寄った。
「おい、そっちは逆だ! 逃げるなら反対へ向かえ!」
「逃げる? どうして?」
ガイルは、自分の半分ほどの身長の女の子の肩をつかんで振り返らせる。
真っ直ぐに彼を見る深い藍色の大きな瞳に吸い込まれたかのような目眩を感じた。周りは避難民が大勢いて騒がしいはずなのに、突然静寂に陥ったかのような錯覚も覚える。
少女はガイルの様子を気にすることもなく、おさげの黒髪の首をかしげる。肩に掛かるくらいで切りそろえられていて、人形のような整った目鼻立ちはとても愛らしく、本当に疑問を感じているように思えた。
「そんなことより人を探しているの。北へ向かうって言っていたから、私も行かなくちゃ――あれ?」
ガイルの制止を振り切って歩き出そうとした少女は、彼の胸元を見て立ち止まった。視線に気づいた彼も目を下へ向けると、首に掛けたネックレスがのぞいていた。
いつもならば装備の下にあって、着替えの時以外は見えない。今日は先ほどギルドで鑑定を受けて外していたところにこの騒ぎが起きた。あわてて身に着けて身なりを整える暇もなかったのである。
少女はおぼつかない足取りでそっと手を伸ばし、彼の胸元にある半月メダルへ触れる。
「あなた、デニスっていうの?」
「え、いや、それは俺の師匠の名前だけど」
「デニスはいないの?」
「そ、そんなことより、早く逃げるんだ!」
唐突な少女の振舞いガイルも思わず状況を忘れそうになる。逃げて来た者がぶつかったことで我を取り戻すことになった。
ガイルとメダルを見比べた少女は小さくうなずき、逃げる人並みに逆らうことなく立ち去った。
できればギルドに連れて行って保護をしたかったけれど、ギルドを安全な場所にできるかはガイル達のこれからの働き次第でもある。
彼は一度頭を振ってからビンセントを追いかけて北門へたどり着いた。
門の前では先に到着していたビンセント達も今や遅しと開門を待っている。しかし直ぐに外へ出ることはできない。
門を開けるということは外からも入れることを意味する。そのためタイミングを見極める必要があった。
五人が一列横並びになって三十人ほどになったとき、防壁の上から大きな掛け声のすぐ後に爆発音が響き渡る。ほぼ同時に両開きの重々しい木の門が少し開かれた。
ガイルが目にしたのは、燃え盛る炎と煙の向こうに、町の衛兵や冒険者らがモンスターと乱戦を繰り広げている光景だった。
魔法による広範囲攻撃を行い、援軍のガイル達を戦場へ投入する間を作ったのはすぐに分かった。一斉に駆け出す仲間に遅れまいと、ガイルも腰の長剣を抜いて走った。敵の数は圧倒的に多い。己を鼓舞するように自然と雄叫びが咽喉から出ていた。
厳しい師に鍛えられた剣士としてのガイルの力量は、ロキが不満を爆発させたようにAクラス程度に収まるものではない。一際大きく目立つオーガはBクラス、ジャイアントならAクラスの腕力くらいはある。集団になったオークもBクラス以上の力を発揮する。押し寄せているモンスターに一対一であれば後れを取るとはガイルも考えていない。
油断なく戦場を見回す彼の視界で特に目を見張ったのは、モンスターではなくボロボロの長衣を被った五人の集団だった。ダンジョンのある方向から突如現れ、次々とまぶしく輝く魔法を使ってモンスターを蹴散らしている。
彼らが何故そのような場所から来たのかは不明だが、おかげでモンスターの中には混乱と恐慌がみるみる広がるように見えた。
何か良からぬことを考えているのであれば、注意するに越したことはない。
ガイルは戦闘が始まればなるべく近づかないことを密かに心に決めた。
走りながら耳にした噂話では、町の二重の防壁はまだ破られてはいないが、このままでは時間の問題と思われるらしい。
大半はオークやゴブリンで、たまにオーガやジャイアントような強い魔物も交じっている。
ダンジョンには、スケルトンやレイスといったアンデッドモンスターもいるのに、今のところ目撃はされていない、などである。
「ここ最近は静かだったのに、いきなりスタンピードとはな。何の因果だ?」
「言っても仕方あるまい。今は北門へ早くたどり着かないと」
「足手まといにだけはなるなよ」
ビンセントの嫌味を聞き流すようにガイルが視線を流したところ、彼らと同じく北へ向かおうとしている少女が目に入った。
白い長衣に三日月のネックレス。アーレイ教団なのは一目でわかったが、ナーガ山には巡礼地もないし、教会が建っているような場所でもない。
この混乱状況の中、女の子が一人で歩いて北を目指していることは、あきらかに普通ではなかった。
「ビンセント、先に行っててくれ!」
「お前、やっぱり怖気づいたんだな!」
ガイルは、ビンセントの中の自分の評価をいまさら変えようとも思っていない。
ギルドを巻き込んで、デニスの遺品を独り占めした卑怯者と思われているのは重々知っている。それにこのクエストが終われば、これまでどおりビンセントと接触する気もさらさらない。
どう思われても関係のない彼は、気になった少女のもとへ走り寄った。
「おい、そっちは逆だ! 逃げるなら反対へ向かえ!」
「逃げる? どうして?」
ガイルは、自分の半分ほどの身長の女の子の肩をつかんで振り返らせる。
真っ直ぐに彼を見る深い藍色の大きな瞳に吸い込まれたかのような目眩を感じた。周りは避難民が大勢いて騒がしいはずなのに、突然静寂に陥ったかのような錯覚も覚える。
少女はガイルの様子を気にすることもなく、おさげの黒髪の首をかしげる。肩に掛かるくらいで切りそろえられていて、人形のような整った目鼻立ちはとても愛らしく、本当に疑問を感じているように思えた。
「そんなことより人を探しているの。北へ向かうって言っていたから、私も行かなくちゃ――あれ?」
ガイルの制止を振り切って歩き出そうとした少女は、彼の胸元を見て立ち止まった。視線に気づいた彼も目を下へ向けると、首に掛けたネックレスがのぞいていた。
いつもならば装備の下にあって、着替えの時以外は見えない。今日は先ほどギルドで鑑定を受けて外していたところにこの騒ぎが起きた。あわてて身に着けて身なりを整える暇もなかったのである。
少女はおぼつかない足取りでそっと手を伸ばし、彼の胸元にある半月メダルへ触れる。
「あなた、デニスっていうの?」
「え、いや、それは俺の師匠の名前だけど」
「デニスはいないの?」
「そ、そんなことより、早く逃げるんだ!」
唐突な少女の振舞いガイルも思わず状況を忘れそうになる。逃げて来た者がぶつかったことで我を取り戻すことになった。
ガイルとメダルを見比べた少女は小さくうなずき、逃げる人並みに逆らうことなく立ち去った。
できればギルドに連れて行って保護をしたかったけれど、ギルドを安全な場所にできるかはガイル達のこれからの働き次第でもある。
彼は一度頭を振ってからビンセントを追いかけて北門へたどり着いた。
門の前では先に到着していたビンセント達も今や遅しと開門を待っている。しかし直ぐに外へ出ることはできない。
門を開けるということは外からも入れることを意味する。そのためタイミングを見極める必要があった。
五人が一列横並びになって三十人ほどになったとき、防壁の上から大きな掛け声のすぐ後に爆発音が響き渡る。ほぼ同時に両開きの重々しい木の門が少し開かれた。
ガイルが目にしたのは、燃え盛る炎と煙の向こうに、町の衛兵や冒険者らがモンスターと乱戦を繰り広げている光景だった。
魔法による広範囲攻撃を行い、援軍のガイル達を戦場へ投入する間を作ったのはすぐに分かった。一斉に駆け出す仲間に遅れまいと、ガイルも腰の長剣を抜いて走った。敵の数は圧倒的に多い。己を鼓舞するように自然と雄叫びが咽喉から出ていた。
厳しい師に鍛えられた剣士としてのガイルの力量は、ロキが不満を爆発させたようにAクラス程度に収まるものではない。一際大きく目立つオーガはBクラス、ジャイアントならAクラスの腕力くらいはある。集団になったオークもBクラス以上の力を発揮する。押し寄せているモンスターに一対一であれば後れを取るとはガイルも考えていない。
油断なく戦場を見回す彼の視界で特に目を見張ったのは、モンスターではなくボロボロの長衣を被った五人の集団だった。ダンジョンのある方向から突如現れ、次々とまぶしく輝く魔法を使ってモンスターを蹴散らしている。
彼らが何故そのような場所から来たのかは不明だが、おかげでモンスターの中には混乱と恐慌がみるみる広がるように見えた。
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