9 / 46
9 遠き山に日は落ちて
しおりを挟む
ガイルはゆっくりと流れるような動作で歩みを進める。次々とモンスターの背後へ回り込み、愛用の長剣で切り倒した。
最初の襲撃で起きた混乱に乗じて、圧倒的に数の勝るモンスター側が力で押し切れれば町はかなり危うかっただろう。しかし強固な防壁が阻んでいる間に長衣の集団の出現でそうはならなかった。
統制のない乱戦状態は、敵の数の優位性を潰してはいたが、町側の強力な攻撃魔法をも封じてしまっている。長衣の集団も同士討ちを危惧して、最初に見せたまぶしい魔法を控えるようなっていた。
戦況は個々の戦いの様相を呈し始め、能力で勝る冒険者側へ徐々に有利に働き始めている。
ガイルが周囲にいるオーク三匹と切り結んでいると、長衣の集団の一人が時折彼の様子を窺い、ゆっくりだが確実に近づいているような気がした。
モンスターを倒してくれているのだからこちらの敵ではないだろう。かと言ってアルザスの町にはアーレイ教の教会もないので町の人間ではない。
旅の途中で立ち寄った教会で世話になったことは何度もある。だがハッキリ見る余裕が今はないものの、近づい来ようとする者の顔に覚えのないことは間違いない。
長衣の集団へ気が向いて完全に注意力が散漫になっていた。
ガイルが右側にいたオークのこん棒をはねのけたと思った瞬間、何かが背中へ激しくぶつかった。
態勢を崩した彼が見たのは、オークよりも一回り小さいゴブリンだった。長衣の集団の攻撃を避けて逃げ出そうとやみくもに走っていたのである。
体当たりはガイルを狙ったものではなかったのに、思わぬ方向からの衝撃は大きな隙となった。ずっと戦っていたオーク達は当然見逃さず、手にした武器を掲げ勢いよく襲いかかってくる。
様子見をしていた周囲の数匹のオークも突如攻撃へと転じた。
ガイルは無理やり体をねじって手斧を避け、こん棒を剣で受け流す。両膝を曲げて態勢を立て直しながら、長剣で横一閃に薙ぎ払った。致命傷を負わすことはできなかったが、周囲の二匹には確実にダメージを与えることに成功した。だが次々とオークの斧が彼へ肉薄する。
オーク程度との慢心があったのは間違いない。自嘲をかみしめたガイルは覚悟を決めた。
左肩側であれば、師のデニスから譲り受けた防具で少しなら耐えられる自信がある。武器を握る右肩や右腕への攻撃は、戦闘継続を考えると何がなんでも避けなければならない。
両手で握り締めていた剣を右寄りに強く構え、左側へ攻撃を誘う。何をどうすればそこまで汚れるのかと、言いたくなるほど赤黒い手斧の刃を必死に睨みやる。やって来るであろう左肩の衝撃へ備えるために足の裏へ思いきり力を入れた。
左へ受ける攻撃と同時に長剣を一閃。それで目の前のオークとあと一匹くらいは始末できるはず。
さすがに恐怖でなりふり構わず叫びたくなる気持ちを何とか押し殺す。
デニスの遺品にあった胸甲を改造して、左肩から心臓を守るような鎧にした。このような形で強度を試すハメになろうとは思ってもいなかった。さらに今日は家に置いてきたあの魔剣をもし背負えていたら、少しは役に立ったかもしれない。背中を守る防具として。
我ながらおかしなことを考えている。
このような状況にあっても最後まで武器として使おうとしないことを、妙な所だけデニスに似ていると彼は妙に面白く思った。
おかげで落ち着きも取り戻せた。やはりデニスには敵わないらしい。
だが、何時まで経っても彼の命運を握った斧が振り下ろされる瞬間は来なかった。
必死に踏ん張る彼の目の前で次々とオーク達が崩れていく。頭や首筋には、先ほどまでなかった矢が深々と突き刺さっていた。
助けてくれたのは防壁の上にいる味方の弓兵だった。
彼は大きく三回深呼吸をしてから、再びモンスターの中へ切り込んだ。その後もやや危うい状況へ陥るたびに、防壁の上から狙いすましたように飛んでくる矢に助けられた。
かつてあった魔神戦争では、魔神軍には指揮官がいて配下のモンスターを動かしたと伝わっている。だが今はそのように続率のとれた襲撃ではない。
一方、ガイルら冒険者達の攻撃と、強固な防壁の上からの魔法と弓矢による支援、長衣の集団の遊撃は、図らずも連携がなっている。
理由は明解で人間達の間には共通言語があり、モンスター達にはない。オークやゴブリンには言葉に近い意思伝達手段はあるものの、オーガやジャイアントとの細かい意思疎通はできない。
劣勢が鮮明となったモンスターの集団は、我先にと崩れ落ちるよう逃げ去って行ってしまった。
「やれやれ何とかなったか。あれだけの腕があれば魔法にこだわることも――なんて言うだけなら簡単か。多分ハイエルフ、それもあの髪の色は純血種だろうしな」
目の前に倒れたオークの頭へ刺さった矢を見たガイルが背後の防壁を見上げる。
夕映えに一際輝く人影へ丁寧に頭を下げた。
腕はパンパンに張って鉛のように重い。これほど長い時間戦ったのは、デニスと獣人の里へ忍び込んだ時以来だろう。少し離れたところでは、ビンセントも大きく肩を上下させている。SSクラスらしく周囲にはモンスターの死体の山が築き上げられていた。
戦いの最中にガイルへ近づこうとした長衣の人間は、何かを言いたそうに彼を見ていたが、仲間から促されそのまま立ち去って行った。
最初の襲撃で起きた混乱に乗じて、圧倒的に数の勝るモンスター側が力で押し切れれば町はかなり危うかっただろう。しかし強固な防壁が阻んでいる間に長衣の集団の出現でそうはならなかった。
統制のない乱戦状態は、敵の数の優位性を潰してはいたが、町側の強力な攻撃魔法をも封じてしまっている。長衣の集団も同士討ちを危惧して、最初に見せたまぶしい魔法を控えるようなっていた。
戦況は個々の戦いの様相を呈し始め、能力で勝る冒険者側へ徐々に有利に働き始めている。
ガイルが周囲にいるオーク三匹と切り結んでいると、長衣の集団の一人が時折彼の様子を窺い、ゆっくりだが確実に近づいているような気がした。
モンスターを倒してくれているのだからこちらの敵ではないだろう。かと言ってアルザスの町にはアーレイ教の教会もないので町の人間ではない。
旅の途中で立ち寄った教会で世話になったことは何度もある。だがハッキリ見る余裕が今はないものの、近づい来ようとする者の顔に覚えのないことは間違いない。
長衣の集団へ気が向いて完全に注意力が散漫になっていた。
ガイルが右側にいたオークのこん棒をはねのけたと思った瞬間、何かが背中へ激しくぶつかった。
態勢を崩した彼が見たのは、オークよりも一回り小さいゴブリンだった。長衣の集団の攻撃を避けて逃げ出そうとやみくもに走っていたのである。
体当たりはガイルを狙ったものではなかったのに、思わぬ方向からの衝撃は大きな隙となった。ずっと戦っていたオーク達は当然見逃さず、手にした武器を掲げ勢いよく襲いかかってくる。
様子見をしていた周囲の数匹のオークも突如攻撃へと転じた。
ガイルは無理やり体をねじって手斧を避け、こん棒を剣で受け流す。両膝を曲げて態勢を立て直しながら、長剣で横一閃に薙ぎ払った。致命傷を負わすことはできなかったが、周囲の二匹には確実にダメージを与えることに成功した。だが次々とオークの斧が彼へ肉薄する。
オーク程度との慢心があったのは間違いない。自嘲をかみしめたガイルは覚悟を決めた。
左肩側であれば、師のデニスから譲り受けた防具で少しなら耐えられる自信がある。武器を握る右肩や右腕への攻撃は、戦闘継続を考えると何がなんでも避けなければならない。
両手で握り締めていた剣を右寄りに強く構え、左側へ攻撃を誘う。何をどうすればそこまで汚れるのかと、言いたくなるほど赤黒い手斧の刃を必死に睨みやる。やって来るであろう左肩の衝撃へ備えるために足の裏へ思いきり力を入れた。
左へ受ける攻撃と同時に長剣を一閃。それで目の前のオークとあと一匹くらいは始末できるはず。
さすがに恐怖でなりふり構わず叫びたくなる気持ちを何とか押し殺す。
デニスの遺品にあった胸甲を改造して、左肩から心臓を守るような鎧にした。このような形で強度を試すハメになろうとは思ってもいなかった。さらに今日は家に置いてきたあの魔剣をもし背負えていたら、少しは役に立ったかもしれない。背中を守る防具として。
我ながらおかしなことを考えている。
このような状況にあっても最後まで武器として使おうとしないことを、妙な所だけデニスに似ていると彼は妙に面白く思った。
おかげで落ち着きも取り戻せた。やはりデニスには敵わないらしい。
だが、何時まで経っても彼の命運を握った斧が振り下ろされる瞬間は来なかった。
必死に踏ん張る彼の目の前で次々とオーク達が崩れていく。頭や首筋には、先ほどまでなかった矢が深々と突き刺さっていた。
助けてくれたのは防壁の上にいる味方の弓兵だった。
彼は大きく三回深呼吸をしてから、再びモンスターの中へ切り込んだ。その後もやや危うい状況へ陥るたびに、防壁の上から狙いすましたように飛んでくる矢に助けられた。
かつてあった魔神戦争では、魔神軍には指揮官がいて配下のモンスターを動かしたと伝わっている。だが今はそのように続率のとれた襲撃ではない。
一方、ガイルら冒険者達の攻撃と、強固な防壁の上からの魔法と弓矢による支援、長衣の集団の遊撃は、図らずも連携がなっている。
理由は明解で人間達の間には共通言語があり、モンスター達にはない。オークやゴブリンには言葉に近い意思伝達手段はあるものの、オーガやジャイアントとの細かい意思疎通はできない。
劣勢が鮮明となったモンスターの集団は、我先にと崩れ落ちるよう逃げ去って行ってしまった。
「やれやれ何とかなったか。あれだけの腕があれば魔法にこだわることも――なんて言うだけなら簡単か。多分ハイエルフ、それもあの髪の色は純血種だろうしな」
目の前に倒れたオークの頭へ刺さった矢を見たガイルが背後の防壁を見上げる。
夕映えに一際輝く人影へ丁寧に頭を下げた。
腕はパンパンに張って鉛のように重い。これほど長い時間戦ったのは、デニスと獣人の里へ忍び込んだ時以来だろう。少し離れたところでは、ビンセントも大きく肩を上下させている。SSクラスらしく周囲にはモンスターの死体の山が築き上げられていた。
戦いの最中にガイルへ近づこうとした長衣の人間は、何かを言いたそうに彼を見ていたが、仲間から促されそのまま立ち去って行った。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる