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16 いつでも頼りになる男だ
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ガイルが軽く左腕を動かす。長衣の男二人があっけなく振り払われ、大げさと思えるほどのしりもちをついた。
「あ、悪い」
思わず謝罪を口にしたガイルだが、右手はまだルキウスの手首を取っている。
キアラに聴いてもたいしたことは教えてくれないだろう。しかし目の前の若い男は事情をある程度知っていそうなだけでなく、いろいろと口走っている。
「おい、教えろ。さっきから胸の上で熱いこのメダルは何なんだ? それに誓約もだ」
「誰が貴様などに――っつう! わ、わかった!」
ガイルはひねったルキウスの手首をさらに高く持ち上げる。
「知りたければそうだな――お前がキアラに服を脱げと命令してみろ!」
「貴様はまだそんな悪ふざけを」
「痛っ、お前が聞いたことに答えただけだ!」
ルキウスは馬鹿にしたような表情ではあるが、嘘をついている様子は見られない。
「――俺が今脱げと言ったら、どうなるんだ?」
「わかった」
単に言葉の意味をルキウスへ確認するつもりで口にしたガイルはすぐに後悔した。
キアラが長衣の裾を握って勢いよく両腕を上げたのである。
「ま、待て!!」
思わずルキウスの腕を取った手を放して少女が脱ごうとした服を抑えつける。
ほんのわずかな時間だったのに、ルキウスは長衣の者達の後ろへ姿を移した。どうやら狙い通りだったらしい。
「わかったか、お前の思い通りだろうが! どうせなら膝まくらなどで満足せずに、夜伽でも命令すればいい!」
ルキウスが歪んだいやらしい笑みを浮かべているのは癇に障る。けれどガイルは言い返せる言葉を持たない。無意識とはいえキアラの感触を楽しんだのは事実である。
「夜伽する?」
「しない!!」
このどうしようもない怒りをどこへ向ければいいのか。見つかるはずもないと分かっていながら顔を動かすガイルの目に、この場でもっとも頼りになる男の顔が映った。
ロキもそろそろ騒ぎの納め時と感じていた。
「ルキウス様、事情は詳しくわかりませんが、探し人は見つかったけれど連れて帰れそうにない、といったところでしょうか?」
「だからどうした」
「その少女が探し人であれば、ひとまずガイルにお任せいただけませんか。いろいろと行き違いはあったかもしれませんが、この者は責任感も強いです。Sクラスの冒険者なので頼りにもなります」
「あっ!?」
場違いな声を上げたのは会話に入っていないガイルである。
彼はすっかりそんなことは忘れていた。
ルキウスはガイルを一瞥しただけで何も言わずロキへ顔を向けた。
「Sクラスなど何の意味もない――が、その者がキアラをログレスまで連れてくるのであれば、我々はひとまず引こう」
「ありがとうございます」
ロキにとってルキウス達は町の恩人でもある。クレセント教団の名前は知れ渡っているし、アルザスの悪評をバラまかれるのも困る。最終的にはガイルの味方をすることになるだろうが、対立はできれば避けたい。
「では必ず連れて来い――」
「あらあら、そんな甘いことでは困るのだけど」
ルキウスがキアラを一度だけにらんで立ち去ろうとしたとき、若い女の声が遮った。
ガイルも声のほうへ顔を向ける。この場でもっとも汚れた長衣を着た者が、いつの間にか彼らの背後に立っていた。
見覚えのある気がしたガイルは確認するように視線を走らせる。キアラは嬉しそうに新たな人物を迎えた。
「マリニア、お帰り」
「キアラ、お待たせ。でもこれは何の騒ぎ?」
「デニスの後継者見つけた」
「どこに?」
「ここ」
汚れた長衣を頭から外してガイルへ向けた顔は、キアラより少し年上と思えるくらいの少女だった。
淡い茶色の髪を水色のリボンで後ろでにまとめている。整った目鼻立ちの中の瞳もリボンと同じ色ではあるが、今は怪しい影を帯びていた。
「――まさかとは思うけれどこの男?」
「そう。誓約も効いた」
「え? どういうこと?」
「こういうこと」
すっかり蚊帳の外だったガイルの腕にキアラが抱き着いた。
みるみるマリニアと呼ばれた少女の顔が引きつり始める。
「私はこの人のものになった」
「はあ!? あなたがこいつをものにしたじゃなくって!?」
「私は今はしるしを持っていない。だからデニスのしるしを私に使った」
「直ぐに出しなさい!」
「持ってない!」
「あなたのじゃないわ! そちらの男よ!!」
「お、俺のせいじゃない!」
「うるさい!」
鬼の形相でにらむマリニア。幼い少女に抱き着かれていることを怒られたと思い込んだガイルはとっさに反論を試みる。マリニアの狙いは彼の胸にぶら下がったメダルだった。
伸ばされた手を遮ろうにもキアラが抱き着いて邪魔をする。メダルはマリニアにあっさり奪われてしまった。
彼女はメダルの様子をじっくりと見て軽くうなずく。汚れた長衣の袖へ手を通して取り出したのは、人差し指ほどの薬瓶だった。慎重に栓を開けてゆっくりメダルの色違いの部分へ緑の液体をまんべなく垂らした。
シュウシュウと音をさせて白い煙がメダルから上がる。見る見る埋まっていた下弦側に穴が開き始め、あっと言う間に元通りの鋳抜きメダルへ戻ってしまった。
「まがい物のクレセントのメダルが触媒で助かったわ」
「貴様ごときがクレセントを愚弄するか!」
気が緩んで思わず本音が出たマリニアの言葉にルキウスがかみついた。
「あ、悪い」
思わず謝罪を口にしたガイルだが、右手はまだルキウスの手首を取っている。
キアラに聴いてもたいしたことは教えてくれないだろう。しかし目の前の若い男は事情をある程度知っていそうなだけでなく、いろいろと口走っている。
「おい、教えろ。さっきから胸の上で熱いこのメダルは何なんだ? それに誓約もだ」
「誰が貴様などに――っつう! わ、わかった!」
ガイルはひねったルキウスの手首をさらに高く持ち上げる。
「知りたければそうだな――お前がキアラに服を脱げと命令してみろ!」
「貴様はまだそんな悪ふざけを」
「痛っ、お前が聞いたことに答えただけだ!」
ルキウスは馬鹿にしたような表情ではあるが、嘘をついている様子は見られない。
「――俺が今脱げと言ったら、どうなるんだ?」
「わかった」
単に言葉の意味をルキウスへ確認するつもりで口にしたガイルはすぐに後悔した。
キアラが長衣の裾を握って勢いよく両腕を上げたのである。
「ま、待て!!」
思わずルキウスの腕を取った手を放して少女が脱ごうとした服を抑えつける。
ほんのわずかな時間だったのに、ルキウスは長衣の者達の後ろへ姿を移した。どうやら狙い通りだったらしい。
「わかったか、お前の思い通りだろうが! どうせなら膝まくらなどで満足せずに、夜伽でも命令すればいい!」
ルキウスが歪んだいやらしい笑みを浮かべているのは癇に障る。けれどガイルは言い返せる言葉を持たない。無意識とはいえキアラの感触を楽しんだのは事実である。
「夜伽する?」
「しない!!」
このどうしようもない怒りをどこへ向ければいいのか。見つかるはずもないと分かっていながら顔を動かすガイルの目に、この場でもっとも頼りになる男の顔が映った。
ロキもそろそろ騒ぎの納め時と感じていた。
「ルキウス様、事情は詳しくわかりませんが、探し人は見つかったけれど連れて帰れそうにない、といったところでしょうか?」
「だからどうした」
「その少女が探し人であれば、ひとまずガイルにお任せいただけませんか。いろいろと行き違いはあったかもしれませんが、この者は責任感も強いです。Sクラスの冒険者なので頼りにもなります」
「あっ!?」
場違いな声を上げたのは会話に入っていないガイルである。
彼はすっかりそんなことは忘れていた。
ルキウスはガイルを一瞥しただけで何も言わずロキへ顔を向けた。
「Sクラスなど何の意味もない――が、その者がキアラをログレスまで連れてくるのであれば、我々はひとまず引こう」
「ありがとうございます」
ロキにとってルキウス達は町の恩人でもある。クレセント教団の名前は知れ渡っているし、アルザスの悪評をバラまかれるのも困る。最終的にはガイルの味方をすることになるだろうが、対立はできれば避けたい。
「では必ず連れて来い――」
「あらあら、そんな甘いことでは困るのだけど」
ルキウスがキアラを一度だけにらんで立ち去ろうとしたとき、若い女の声が遮った。
ガイルも声のほうへ顔を向ける。この場でもっとも汚れた長衣を着た者が、いつの間にか彼らの背後に立っていた。
見覚えのある気がしたガイルは確認するように視線を走らせる。キアラは嬉しそうに新たな人物を迎えた。
「マリニア、お帰り」
「キアラ、お待たせ。でもこれは何の騒ぎ?」
「デニスの後継者見つけた」
「どこに?」
「ここ」
汚れた長衣を頭から外してガイルへ向けた顔は、キアラより少し年上と思えるくらいの少女だった。
淡い茶色の髪を水色のリボンで後ろでにまとめている。整った目鼻立ちの中の瞳もリボンと同じ色ではあるが、今は怪しい影を帯びていた。
「――まさかとは思うけれどこの男?」
「そう。誓約も効いた」
「え? どういうこと?」
「こういうこと」
すっかり蚊帳の外だったガイルの腕にキアラが抱き着いた。
みるみるマリニアと呼ばれた少女の顔が引きつり始める。
「私はこの人のものになった」
「はあ!? あなたがこいつをものにしたじゃなくって!?」
「私は今はしるしを持っていない。だからデニスのしるしを私に使った」
「直ぐに出しなさい!」
「持ってない!」
「あなたのじゃないわ! そちらの男よ!!」
「お、俺のせいじゃない!」
「うるさい!」
鬼の形相でにらむマリニア。幼い少女に抱き着かれていることを怒られたと思い込んだガイルはとっさに反論を試みる。マリニアの狙いは彼の胸にぶら下がったメダルだった。
伸ばされた手を遮ろうにもキアラが抱き着いて邪魔をする。メダルはマリニアにあっさり奪われてしまった。
彼女はメダルの様子をじっくりと見て軽くうなずく。汚れた長衣の袖へ手を通して取り出したのは、人差し指ほどの薬瓶だった。慎重に栓を開けてゆっくりメダルの色違いの部分へ緑の液体をまんべなく垂らした。
シュウシュウと音をさせて白い煙がメダルから上がる。見る見る埋まっていた下弦側に穴が開き始め、あっと言う間に元通りの鋳抜きメダルへ戻ってしまった。
「まがい物のクレセントのメダルが触媒で助かったわ」
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