17 / 46
17 クズには誰もが苦労させられる
しおりを挟む
クレセント教団はアーレイ教でも選ばれし者の象徴である。ルキウス自身もアーレイ教を動かす導主の一人。メフィストの配下にすぎないマリニアの言いざまはとても看過できなかった。
だが数多いアーレイ教の信徒でも、口の悪さでマリニアに敵う者はそうそう居ない。
「メフィスト様も、よくこんなクズとお付き合いをされることだ。いや、そもそもあの方がクズではあったか」
「マリニア! もう一度言ってみろ!!」
「何度でも言ってあげますよ。王位簒奪のために魔神へ魂を売ろうとしている人間以下のクズだってね」
「バ、バカなことをっ! この女、オリジナルダンジョンへ入って魔神の残滓に心を惑わされたのであろう! 今すぐログレスへ連行しろ!! 私自身が審問にかけてやる!」
少し前までは、まとまりかけていた場が再び混乱し始めている。
様々な経験を詰んだロキにしてみればルキウスの取り乱した様子のほうが見るからに怪しい。アーレイ教の大幹部と目されるメフィストとルキウスをクズ呼ばわりしたマリニアに一切悪びれたところはない。
しかし今はそれを追求するよりも気になることがあった。
「あの、ルキウス様?」
「あ、ああ、ギルドマスターよ。私は急遽帰らねばならない用ができてしまった。キアラは、その男がログレスへ連れてくるように。必ずだぞ」
「承知しましたが、先ほどオリジナルダンジョンへ入ったとか仰られたような」
「それは――だ、そう、スタンピードの原因究明を私が命じていたのだ」
「さようでございましたか。それで何かおわかりになられましたでしょうか?」
「お前も見ての通りだ。これ以上は聞くな」
「も、申し訳ありません」
「大丈夫、前来た時よりも落ち着いていたから」
「マリニア! 黙れ!」
「じゃあ私はクレセントとのバカどもと先に帰るから、キアラはデニスの男と帰ってきなよ」
「むう、わかった」
「メフィスト様も大変。でも間違いなく面白いことになるわね」
マリニアはルキウスや他の者達の背中を押して、率先するようにガイルの家を出て行ってしまった。
残された三人の視線が落ち着かなげに交差する。
「ガイル、一体どうなったんだ?」
「俺に聞かないでくれよ。変な約束をしたのはロキだろう」
「あの場では、ああ言うしかないだろう。それともこの娘の面倒をアルザスで見る気なのか?」
「まさか!」
「私はそれでもいい」
「俺が困るんだ!! こんな少女の主人――じゃなくて一緒に住んでいるなんて知られたら身の破滅だ」
「それは心配ない。誓約はさっきマリニアに破棄された」
「ほ、本当か?」
「残念ながら私がこの町にいる理由もなくなっている。だからルキウスも簡単に帰ることにした」
「そ、それって、俺が主人じゃなくなったてことか?」
「残念?」
「んなわけあるか!!」
「そう。でもログレスへ行ったら、今度は私のしるしで誓約が使えるようになる。安心した?」
「んなわけないだろうっ、て・・・・・・俺も行くのか?」
「そっちのおじさんがルキウスに約束した」
「ロキぃ」
「そこは知らなかったんだから俺のせいじゃないだろう!」
恨めしそうなガイルの視線を、小さなキアラの体の後ろへ回ったロキは避けようとする。まったく意味のない行動だった。
「それでこれから本当にどうするんだ?」
「やっと帰ってきたと思ったらログレス行きって勘弁して欲しいのだけど」
「まあ、ちょっと遠いわな」
「どこがちょっとだ! 行って帰って半年は掛かるんだぞ!」
「どうせ引退は遠のいたのだし、ギルドとして町を救ってくれた恩人への礼物を運ぶクエストを依頼してやる。物見遊山がてら行ってこい」
「俺はアーレイ信者じゃない」
アーレイ教の信者は、数年に一度聖地巡礼と称してログレスの大礼拝堂を訪れる。
ログレスは世界有数の大都市でもあり、一種の娯楽となっている旅の資金を貯めるために働いていると豪語する者もいる。
無難とも言えるロキの配慮に力なくガイルが答えると、キアラが大きな目をさらに大きくした。
「うそ? デニスの男なのに」
「ほう? 怪しいとは思っていたがやはりそうだったのか」
「ちょっと待て! いつからそうなった!?」
「マリニアが言った」
さも当然のごとく不思議そうに首をかしげるキアラ。
その隣のロキも、何故かうんうんとうなずいている。
確かに弟子入りをした頃はよくからかわれたものだった。
デニスは凄腕でとてもスタイルのいいレンジャー。動きやすさを優先させて、体にピッタリはりつくような服や装備を好んで着けていた。肌は日に焼けて黒かったけれど間違いなく美人でもあった。
ガイルがデニスへ弟子入りしたのが十四の時。デニスはちょうど十歳年上だった。
彼をデニスへ弟子入りさせたのは、目の前のむさくるしいギルマスだった。おかしな噂を消すために、もう一人デニスに面倒を見てもらうことにしたのもロキだった。
間違いなく状況を面白がっていることと、多少の気遣いを感じたガイルは不承不承心を決めた。
「行けばいいんだろう!」
目的地は遠く、引退はさらに遠いことに、彼は小さなため息をついた。
だが数多いアーレイ教の信徒でも、口の悪さでマリニアに敵う者はそうそう居ない。
「メフィスト様も、よくこんなクズとお付き合いをされることだ。いや、そもそもあの方がクズではあったか」
「マリニア! もう一度言ってみろ!!」
「何度でも言ってあげますよ。王位簒奪のために魔神へ魂を売ろうとしている人間以下のクズだってね」
「バ、バカなことをっ! この女、オリジナルダンジョンへ入って魔神の残滓に心を惑わされたのであろう! 今すぐログレスへ連行しろ!! 私自身が審問にかけてやる!」
少し前までは、まとまりかけていた場が再び混乱し始めている。
様々な経験を詰んだロキにしてみればルキウスの取り乱した様子のほうが見るからに怪しい。アーレイ教の大幹部と目されるメフィストとルキウスをクズ呼ばわりしたマリニアに一切悪びれたところはない。
しかし今はそれを追求するよりも気になることがあった。
「あの、ルキウス様?」
「あ、ああ、ギルドマスターよ。私は急遽帰らねばならない用ができてしまった。キアラは、その男がログレスへ連れてくるように。必ずだぞ」
「承知しましたが、先ほどオリジナルダンジョンへ入ったとか仰られたような」
「それは――だ、そう、スタンピードの原因究明を私が命じていたのだ」
「さようでございましたか。それで何かおわかりになられましたでしょうか?」
「お前も見ての通りだ。これ以上は聞くな」
「も、申し訳ありません」
「大丈夫、前来た時よりも落ち着いていたから」
「マリニア! 黙れ!」
「じゃあ私はクレセントとのバカどもと先に帰るから、キアラはデニスの男と帰ってきなよ」
「むう、わかった」
「メフィスト様も大変。でも間違いなく面白いことになるわね」
マリニアはルキウスや他の者達の背中を押して、率先するようにガイルの家を出て行ってしまった。
残された三人の視線が落ち着かなげに交差する。
「ガイル、一体どうなったんだ?」
「俺に聞かないでくれよ。変な約束をしたのはロキだろう」
「あの場では、ああ言うしかないだろう。それともこの娘の面倒をアルザスで見る気なのか?」
「まさか!」
「私はそれでもいい」
「俺が困るんだ!! こんな少女の主人――じゃなくて一緒に住んでいるなんて知られたら身の破滅だ」
「それは心配ない。誓約はさっきマリニアに破棄された」
「ほ、本当か?」
「残念ながら私がこの町にいる理由もなくなっている。だからルキウスも簡単に帰ることにした」
「そ、それって、俺が主人じゃなくなったてことか?」
「残念?」
「んなわけあるか!!」
「そう。でもログレスへ行ったら、今度は私のしるしで誓約が使えるようになる。安心した?」
「んなわけないだろうっ、て・・・・・・俺も行くのか?」
「そっちのおじさんがルキウスに約束した」
「ロキぃ」
「そこは知らなかったんだから俺のせいじゃないだろう!」
恨めしそうなガイルの視線を、小さなキアラの体の後ろへ回ったロキは避けようとする。まったく意味のない行動だった。
「それでこれから本当にどうするんだ?」
「やっと帰ってきたと思ったらログレス行きって勘弁して欲しいのだけど」
「まあ、ちょっと遠いわな」
「どこがちょっとだ! 行って帰って半年は掛かるんだぞ!」
「どうせ引退は遠のいたのだし、ギルドとして町を救ってくれた恩人への礼物を運ぶクエストを依頼してやる。物見遊山がてら行ってこい」
「俺はアーレイ信者じゃない」
アーレイ教の信者は、数年に一度聖地巡礼と称してログレスの大礼拝堂を訪れる。
ログレスは世界有数の大都市でもあり、一種の娯楽となっている旅の資金を貯めるために働いていると豪語する者もいる。
無難とも言えるロキの配慮に力なくガイルが答えると、キアラが大きな目をさらに大きくした。
「うそ? デニスの男なのに」
「ほう? 怪しいとは思っていたがやはりそうだったのか」
「ちょっと待て! いつからそうなった!?」
「マリニアが言った」
さも当然のごとく不思議そうに首をかしげるキアラ。
その隣のロキも、何故かうんうんとうなずいている。
確かに弟子入りをした頃はよくからかわれたものだった。
デニスは凄腕でとてもスタイルのいいレンジャー。動きやすさを優先させて、体にピッタリはりつくような服や装備を好んで着けていた。肌は日に焼けて黒かったけれど間違いなく美人でもあった。
ガイルがデニスへ弟子入りしたのが十四の時。デニスはちょうど十歳年上だった。
彼をデニスへ弟子入りさせたのは、目の前のむさくるしいギルマスだった。おかしな噂を消すために、もう一人デニスに面倒を見てもらうことにしたのもロキだった。
間違いなく状況を面白がっていることと、多少の気遣いを感じたガイルは不承不承心を決めた。
「行けばいいんだろう!」
目的地は遠く、引退はさらに遠いことに、彼は小さなため息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる