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21 ハイエルフの宿命
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「はー、おいしかった」
「お粗末さまと言いたいがそれはもう少し後だ」
机に置き場のないほど並んだ皿の料理をパメラが食べ終えようとしたところで、ガイルはまた調理を始めた。
彼女は少し不思議には思ったけれど、何も尋ねずにキッチンに立つ彼を見守る。彼が作った最後の一品は彼女の前にだけ出された。
「すごく綺麗ね! デザートまで出してくれるってほんと器用よね」
「もう少し時間があればもっといい物が出せたのだけどな」
「十分すぎるわよ」
ご機嫌なパメラが一口大の赤い木の実を美味しそうに頬張る。丁寧に皮を剥いて煮込まれた赤紫の果実から作られた、甘味の強いソースが掛かっている。酸味の強い木の実と絶妙なバランスで混ざり合う。
「でも、こんなのでごまかされないんだから。あの剣、早く売ってよね」
「それだけどな」
ガイルは少しバツが悪そうに、暫く冒険者を続けることになった経緯を語った。
ギルドマスターのロキから依頼が出されて、ホムンクルスの少女をアーレイ教の総本山ログレス教区へ連れて行かざるを得ない。聴かされたパメラの表情はかなり険しい。
「どうせ使わない剣だったら今すぐ手放してもいいじゃない!」
「それはちょっと勝手な言い分じゃないか?」
「だってわざわざこんな田舎町までそのためだけに来たのよ! その上、さっきは三度も助けてあげたのだからこれくらい言ってもいいでしょ!」
ガイル本人も引退するつもりであったし、パメラの言いたいことはよくわかる。
しかし事情が変わってしまった。理解できないなら諦めてもらうしかない。
パメラが命の恩人でもあることから、ガイルは何度も丁寧に説明を繰り返した。
「そのホムンクルスの女の子を送るクエストに私も同行させてもらうわ」
「ギルド直接の依頼だから俺の一存では何とも言えないぞ」
「そのくらい何とかしなさいよ!」
「何とかって」
「ごちそうさま、お料理はとても美味しかったわ」
にべもなく言い放ったパメラが食事の礼と同時に立ち上がる。明日の朝に冒険者ギルドへ行く約束をガイルに取り付けると風のように去って行った。
綺麗に平らげられた皿を見たガイルは、何とも言えない表情を浮かべる。
魔剣を譲らないとは言っていない。手に入れられる時期を知るには、彼の側にいるのが一番と判断してのクエスト同行申し出と彼は考えた。
しかし同行を許すかどうかは依頼者次第である。何の関係もないパメラの同行を許す必要性は薄く、明日のことを想像すると少し眉間にしわが寄る。
だが彼は軽く頭を振った。断るとしても依頼者ロキの判断であってガイルではない。人に責任を押し付けることで気分が少しだけ軽くなった彼は、次の旅の用意をして久し振りに我が家の寝床に就いた。
ガイルの家を逃げるように飛び出したパメラは、白金の髪を振り乱して取っていた宿へ走り込んだ。部屋に入るなりベッドへ頭を突っ込んで出した大声を殺した。
「やっと手に入れられるって思ったのに冗談じゃないわよ、ログレスなんて行って戻ったら半年は掛かるじゃない! それも女の子と二人っきりでなんて、だから――ううん、そうじゃない、私は私のためについて行くのよ!」
魔剣のことが先延ばしになったから怒っているのか、ガイルが女の子と二人っきりでクエストに行こうとしていることに腹が立つのか、パメラにも区別はついていない。しかし自ら付け足した理由で納得させているように、彼女にもアーレイ教のログレス教区へ行く理由が実はあった。
エルフには白エルフと黒エルフの二種族がある。一般にエルフとは白エルフを指す。パメラは銀色に近い白金の髪を持つ白エルフの上位種――ハイエルフになるが、その中でも純血種と呼ばれる希少な存在となる。
ハイエルフにも二種類が存在する。長い年月を積み重ねて叡智を得た普通のエルフがハイエルフになる場合と、パメラのように生まれた時からの場合である。
いずれもハイエルフには違いないが、生まれもってのハイエルフはエルフ族の中でも特別と目され、そうあるべく役目を担わされてきた。
最たるものは一千年前の魔神戦争における最終決戦の場で、魔神を倒したハイエルフの勇者。彼の活躍なしに戦争の終結はなかったと言われている。
魔神の脅威が去って、人や獣人や魔物同士が争うようになってからは、白エルフの森がたびたび侵略されそうになった。その時にも純血種のハイエルフの指導者に導かれて乗り切って来た。いいやそうではない、大きな困難がエルフ族に立ちはだかる時には純血種のハイエルフが出現するのである。
パメラは白エルフの森に三百年ぶりに生まれた純血種のハイエルフ。にもかかわらず魔法がつかえない。
すさまじいほどの彼女への期待は、彼女にとってプレッシャーにしかならなかった。辛そうなパメラを見ていられなかったエルフ族の長老が、彼女に森の外の世界へ行くことを勧めると、少し悩みはしたものの彼女も森を出ることにした。
その時に長老から条件が二つ出された
一つは言うまでもなくいずれ森には必ず戻ること。
もう一つは、かつて魔神戦争で活躍したハイエルフの勇者ゲオルギウスの足跡を追うこと。
これはどちらかと言えば、エルフ族の仲間を納得させるために長老が用意をしたものであり、ゲオルギウスもパメラと同じく森にいる時は魔法が使えなかった。
「ログレス教区は、魔神戦争で私のご先祖様と共に戦った聖女アーレイを祀る町。いずれはと思っていたけれど――」
少し冷静な気持ちを取り戻したパメラは小さく呟いた。
「お粗末さまと言いたいがそれはもう少し後だ」
机に置き場のないほど並んだ皿の料理をパメラが食べ終えようとしたところで、ガイルはまた調理を始めた。
彼女は少し不思議には思ったけれど、何も尋ねずにキッチンに立つ彼を見守る。彼が作った最後の一品は彼女の前にだけ出された。
「すごく綺麗ね! デザートまで出してくれるってほんと器用よね」
「もう少し時間があればもっといい物が出せたのだけどな」
「十分すぎるわよ」
ご機嫌なパメラが一口大の赤い木の実を美味しそうに頬張る。丁寧に皮を剥いて煮込まれた赤紫の果実から作られた、甘味の強いソースが掛かっている。酸味の強い木の実と絶妙なバランスで混ざり合う。
「でも、こんなのでごまかされないんだから。あの剣、早く売ってよね」
「それだけどな」
ガイルは少しバツが悪そうに、暫く冒険者を続けることになった経緯を語った。
ギルドマスターのロキから依頼が出されて、ホムンクルスの少女をアーレイ教の総本山ログレス教区へ連れて行かざるを得ない。聴かされたパメラの表情はかなり険しい。
「どうせ使わない剣だったら今すぐ手放してもいいじゃない!」
「それはちょっと勝手な言い分じゃないか?」
「だってわざわざこんな田舎町までそのためだけに来たのよ! その上、さっきは三度も助けてあげたのだからこれくらい言ってもいいでしょ!」
ガイル本人も引退するつもりであったし、パメラの言いたいことはよくわかる。
しかし事情が変わってしまった。理解できないなら諦めてもらうしかない。
パメラが命の恩人でもあることから、ガイルは何度も丁寧に説明を繰り返した。
「そのホムンクルスの女の子を送るクエストに私も同行させてもらうわ」
「ギルド直接の依頼だから俺の一存では何とも言えないぞ」
「そのくらい何とかしなさいよ!」
「何とかって」
「ごちそうさま、お料理はとても美味しかったわ」
にべもなく言い放ったパメラが食事の礼と同時に立ち上がる。明日の朝に冒険者ギルドへ行く約束をガイルに取り付けると風のように去って行った。
綺麗に平らげられた皿を見たガイルは、何とも言えない表情を浮かべる。
魔剣を譲らないとは言っていない。手に入れられる時期を知るには、彼の側にいるのが一番と判断してのクエスト同行申し出と彼は考えた。
しかし同行を許すかどうかは依頼者次第である。何の関係もないパメラの同行を許す必要性は薄く、明日のことを想像すると少し眉間にしわが寄る。
だが彼は軽く頭を振った。断るとしても依頼者ロキの判断であってガイルではない。人に責任を押し付けることで気分が少しだけ軽くなった彼は、次の旅の用意をして久し振りに我が家の寝床に就いた。
ガイルの家を逃げるように飛び出したパメラは、白金の髪を振り乱して取っていた宿へ走り込んだ。部屋に入るなりベッドへ頭を突っ込んで出した大声を殺した。
「やっと手に入れられるって思ったのに冗談じゃないわよ、ログレスなんて行って戻ったら半年は掛かるじゃない! それも女の子と二人っきりでなんて、だから――ううん、そうじゃない、私は私のためについて行くのよ!」
魔剣のことが先延ばしになったから怒っているのか、ガイルが女の子と二人っきりでクエストに行こうとしていることに腹が立つのか、パメラにも区別はついていない。しかし自ら付け足した理由で納得させているように、彼女にもアーレイ教のログレス教区へ行く理由が実はあった。
エルフには白エルフと黒エルフの二種族がある。一般にエルフとは白エルフを指す。パメラは銀色に近い白金の髪を持つ白エルフの上位種――ハイエルフになるが、その中でも純血種と呼ばれる希少な存在となる。
ハイエルフにも二種類が存在する。長い年月を積み重ねて叡智を得た普通のエルフがハイエルフになる場合と、パメラのように生まれた時からの場合である。
いずれもハイエルフには違いないが、生まれもってのハイエルフはエルフ族の中でも特別と目され、そうあるべく役目を担わされてきた。
最たるものは一千年前の魔神戦争における最終決戦の場で、魔神を倒したハイエルフの勇者。彼の活躍なしに戦争の終結はなかったと言われている。
魔神の脅威が去って、人や獣人や魔物同士が争うようになってからは、白エルフの森がたびたび侵略されそうになった。その時にも純血種のハイエルフの指導者に導かれて乗り切って来た。いいやそうではない、大きな困難がエルフ族に立ちはだかる時には純血種のハイエルフが出現するのである。
パメラは白エルフの森に三百年ぶりに生まれた純血種のハイエルフ。にもかかわらず魔法がつかえない。
すさまじいほどの彼女への期待は、彼女にとってプレッシャーにしかならなかった。辛そうなパメラを見ていられなかったエルフ族の長老が、彼女に森の外の世界へ行くことを勧めると、少し悩みはしたものの彼女も森を出ることにした。
その時に長老から条件が二つ出された
一つは言うまでもなくいずれ森には必ず戻ること。
もう一つは、かつて魔神戦争で活躍したハイエルフの勇者ゲオルギウスの足跡を追うこと。
これはどちらかと言えば、エルフ族の仲間を納得させるために長老が用意をしたものであり、ゲオルギウスもパメラと同じく森にいる時は魔法が使えなかった。
「ログレス教区は、魔神戦争で私のご先祖様と共に戦った聖女アーレイを祀る町。いずれはと思っていたけれど――」
少し冷静な気持ちを取り戻したパメラは小さく呟いた。
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