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24 持つべきものは

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「暫く姿を見ませんでしたね。それもハイエルフのお嬢さんにキアラ様とは」
「何がだ?」
「いいんですよ。皆まで言わなくとも」

 コルトはガイルの左右に座ったパメラとキアラを見て、どこか納得した笑みを浮かべている。
 困ったようにガイルは頭を掻いた。デニスを失ったガイルは固定のパーティーをずっと組んでこなかった。単なるクエスト同行のメンバーなのだと説明しても今さら信じそうにない。
 コルト司教はとても腕のいい治療師でもあるが、あのデニスと意気投合をした人物でもある。思考回路が多少ぶっ飛んでいるので、ガイルも誤解を解くのはあきらめることにした。

「それよりあの三人をどうしたらいい」
「そうですね。一服盛りますよ。暫く寝ていてもらいましょうか」

 想像しないコルトの答えにガイルとパメラが答えに詰まった。
 
「い、 いいのか?」
「良くはないですけど、ここでガイルさんに貸しを作っておく方が私的には利益が大きいかと思って」
「えらく俗な動機だな」
「まあ半分冗談ですけど、あの人達の役目はあなた達の様子見でしょう。本気でキアラ様を奪回するならつもりならば、あのような普通の信徒は使いません」
「そう。メフィストのしるしも持ってない」
「キアラ様が彼らとの同行を拒否された理由ですね」

 小さく頷いた少女にコルトが続けた。

「でも彼らは本当にメフィスト様の使いだとは思いますよ。ただ都合よく近場に居た者はメダルを持つほどの力を持っていなかっただけでしょう」
「さっきからメフィストって出て来るけど、それってルキウスみたいなものか?」
 
 ガイルは疑問に思っていたことを尋ねた。
 アーレイ教の信徒でもないから導主とか尊称を付ける気は毛頭ない。それ以前に最初から人を見下した態度が気に入らないからと言った方が正しい。
 これまでの流れからするとキアラはその人物を良く知っていると思われた。しかし言葉足らずで、ガイルにはコルトがしてくれた簡潔な説明のほうがわかりやすかった。
 
「つまりルキウスと同じアーレイ教の導主会の一人で研究者ってところか」
「はい、それとデニスさんとも仲が良かった人です」
「・・・デニスって何者だったんだ?」
「あなたの師匠でしょう?」

 人を食ったような態度でコルトが答える。どうやら教える気はまったくないらしい。ガイルは仕方なく事情を知っていそうなキアラへ顔を向けた。

「デニスはキアラを守る人。ガイルもキアラを守る?」

 普段は感情の起伏を見せない少女の蒼い瞳に揺らぎを見た彼は思わず見惚れてしまう。
 ログレスまでは護送のクエストを受けているので当然のことになる。
 今さらながら師であった女性が何をやっていたのか、頭を悩ます暇もなく答えを求められた彼は口にした。

「まあ、そうなるんじゃないか――」
「わかった。今のキアラにはしるしがないけれど約束する。デニスのメダルを出して」
「やだよ! またおかしなことする気だろう!!」
「むう、いいから出す」
「おっ!?」
「きゃっ!」

 キアラは勢いよく立ち上がり、ガイルの体をよじ登って頭にへばりついた。突然頭が重くなったガイルは体勢を崩す。倒れた先に座っていたパメラが小さな悲鳴を上げた。
 ガイルは慌てて手を付いて体を起こした。彼のすぐ目の前で、キアラは何故かパメラと顔を見合わせて抱き合っている。倒れる彼の頭から落ちた先でパメラが受け止める形になったらしい。
 何故か二人の視線が彼へ非難がましく向けられる。

「な、何だ?」

 もとはと言えばキアラがメダルを取ろうとしたことに原因がある。責められるいわれはない。
 彼はしっかり座り直そうと伸ばした手へ更に力を入れる。

「いやーっ!!」
「むう、えっち」

 ガイルはパメラへ倒れ掛かって覆いかぶさっている。体を起こすために手を置いた場所に、革のソファーのありがちなしっかりとした反発が無い。気づいた時はもう遅かった。
 とてもやわらかく温かいパメラの豊かな胸をガイルは思い切り鷲掴みにしていた。
 大慌てで手を引いた彼へ険悪どころか凶悪な思念が向けられる中、コルトがのんきに告げる。それは困窮するガイルにとって救いの神のお告げ以外何物でもなかった。

「じゃあ、ガイルさんだけは別の部屋にしましょうか」

 すっかりご機嫌斜めになった二人と別になった隣室でガイルはくつろいでいた。   
 本心を言えば、気を遣うことなく一人寝ができるのはかなりありがたい。同じ敷地にアーレイ教の三人組がいるのは気になる。けれどコルトは信用できる。
 何だかんだ言っても、デニスが築いた信頼関係にガイルはまた助けられたこと感謝していると扉を叩く音がした。
 ガイルは警戒をしながら扉を開ける。高そうな酒瓶とグラス二つを持ったコルトがにこやかな顔を見せた。
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