万年Aクラスのオッサン冒険者、引退間際になって伝説を残す?

ナギノセン

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26 悩める司教

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 頭に血が上ったパメラはガイルに詳しく話を聞きに行くために立ち上がる。一瞬キアラを睨み、飛び出た廊下にはコルトが立っていた。

「おや、どちらへ?」
「どこでもいいでしょ!」
「では私もキアラ様に話がありますから失礼します」

 一礼をしたコルトとすれ違ったパメラは真っ直ぐにガイルの部屋を目指す。
 姿勢を戻したコルトは忌々し気な顔で廊下の向こうへ小さく首を振る。明かりの届かない暗闇で何かが動いたのを確認し、パメラが開けたままの部屋の扉をノックして静かに入って扉を閉めた。

「キアラ様、これ以上ガイルに近づくのはお止めいただけませんか」
「デニスの後継者だからそれは無理」
「彼女のメダルですか。彼が身に着けていたなんて完全にしくじりました。遺品には見当たらなかったのですがどうやって手に入れたのやら」

 ギルドマスターになる前のロキに呼ばれて、デニスの遺品分配にコルトも立ち会った。コルトにもずっと世話になっていたデニスが形見分けを頼んだとのことだった。しかしアーレイ教の司教の立場を持つ彼が、粛清されたセクションのリーダーであったデニスの遺品を受け取ることはなかった。

 最後のほうは呟くように小さな声で顎に手を当てるコルトを無表情なキアラが見つめる。視線を感じたコルトは物思いを中断させ交渉を再開した。

「メフィスト様の寄越された三人とお帰りください」
「さっきと言ってることが違う」
「本音と建て前です。ガイルも今頃は夢の中でしょう」
「何をしたの」
「彼のよく飲む安酒とは比べものにならない強い酒を与えました」
「キアラは一人では帰らない」

 本当ならばこの時点でガイルの生殺与奪を手にしているはずだった。メフィストの手の者を泥酔したガイルのところへ向かわせて捕縛する予定だったのに、パメラが彼の部屋へ先に行ったことで計画は水泡に帰した。
 残念ながらメフィストが寄越した三人は荒事には向いていない。冒険者であるハイエルフにはとてもかないそうにない。

 デニスの死後、ガイルは特定の仲間を作ろうとしなかった。依頼者の意向によって同行者はいるものの、キアラ護衛は彼一人への依頼である。同行者はいないだろうと考えていたら、いきなりガイルが連れて来たのがまさかのハイエルフだった。結果的に彼女が彼を助けている。そしてデニスの後継者とキアラは目し、デニスのメダルも知らないうちに彼が手にしている。

 得も言われる力が働いているような気がしたコルトは、無意識に小さな溜め息をついた。
 だがアーレイ教の最も危険な上役の描いた計画がダメになったからと言ってお手上げのまま退散など組織人としてできるはずがない。だとするならば搦め手でも何でも試すだけである。

「ルキウス様主導ではありますが、今回の失敗がデニスさん絡みであることを早々に伝えないと、実行部隊を率いたマリニア様のお立場が苦しくなるのでは?」

 滅多に表情の動かないキアラの頬がコルトの言葉に引き攣りを見せる。彼が気を引き締めていなければ思わず口許を緩めてしまうほど効果はてきめんだった。

 キアラとマリニアはメフィストによって姉妹のように育てられた。
 メフィストの研究施設で生まれたキアラの存在を崇拝するものもいれば忌み嫌うものもいる。
 メフィストはキアラの存在意義を魔神戦争で時空に囚われた聖女アーレイ救出の依代と謳っている。理論上、時空の狭間には永劫の時が流れているとされており、魔神を封じたアーレイにも永劫の時が存在していることになる。つまり死ぬことはないのである。

 純粋なアーレイ信者であればあるほどメフィストの標榜するキアラの存在は受け入れやすく、一部では聖女とさえ呼ばれている。
 一方、現実主義を掲げる者達からはアーレイの生存など戯言以外何物でもなく、狂信者の操り人形、無垢な信者を惑わす者と憎悪さえされている。

 今回の計画はアーレイ救出の手始めと位置付けられており、そんな彼らにとってこの失敗は最高の攻撃対象となる。またキアラやメフィストのみならず彼の手足として動いたマリニアもその例外ではない。キアラは滅多にない胸の痛みを覚えた。
 実際のところマリニアはそんなに弱くはないのだが、デニスやメフィストを目の前にして育ったキアラからすれば仕方のない評価だった。

「――わかった。どうすればいい」
「一先ず王都へはガイル達と向かってください。王都でも教会に立ち寄ってそこでガイル達と別れてください」

 小さく頷いたキアラにコルトも頷く。
 一方、隣のガイルの部屋へ断りもなく立ち入ったパメラは、すっかり酔って気持ち良さそうに熟睡するガイルに毒気を抜かれ怒りの矛先を失っていた。

「この剣、持って逃げてやろうかしら」

 机の上に抜き身のまま放り出された細身の剣にパメラの妖しげな視線が絡みつく。手入れの途中で眠ってしまったのだろう。ガイルの右手には皮脂のしみた布が握られ、左手にの先には空のグラスが倒れている。

 いずれは譲ってくれるとガイルは言っていた。彼女も盗む気は毛頭ない。代金を置いて立ち去れば、今の彼では追うこともできない。
 しばらく悩んで部屋の中をうろついたパメラが手を伸ばしたのは寝台の布団だった。机に突っ伏して眠るガイルに静かに掛けてやってから部屋を後にする。
 彼女が戻った隣の部屋ではコルトはおらず、すでにキアラも既にベッドで横になっていた。

 翌朝、小さく肩をすくめるコルトに見送られた同床異夢の六人の旅人は王都を目指して出発をした。

「デニスさん、皆を納得させられるほど私は強くもないし器用でもありません。ガイルをログレスへ向かわせない――これ以上あいつらに近づけないことで勘弁してください」

 街中にその姿が見えなくなるとコルトは小さく呟いた。
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