万年Aクラスのオッサン冒険者、引退間際になって伝説を残す?

ナギノセン

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38 飛龍の執心

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 自分の体中に包帯がされていることが見えるということは服を着ていないということだ。
 全身の手当をしてくれたフィオリナに対して恥ずかしがったところで意味はないものの、服を着ないことを正当化する理由にはならない。
 脱がされた服を探そうと首を動かしたガイルは、壁際の机の上に畳まれた服や革鎧が置かれているの確認して立ち上がる。机の向こうの窓の外からのぞく大きな蒼銀色の龍に気づいた。

「ジルニトラ、いつもありがとうな」

 彼の言葉が合図となったらしい。器用に窓を舌で開けたジルニトラが部屋の中へ顔を突っ込んだ。ガイルは彼の体の半分以上はあるだろう龍の頭を抱いて撫でまわす。ジルニトラは気持ち良さそうに目を細めた。

「おじ様がすごいことは良く知っていますけれど、わたくしたち龍の谷の守り人より好かれるなんて反則です。本当に――色々と妬けてしまいます」
「すごいのは俺じゃない。デニスだ、いや、フィオリナもすごいと思うよ」

 ガイルとフィオリナは図らずも同時に彼の革鎧へ目を向ける。アーニャの攻撃を躱すために破いた油紙の覆いもすっかり元通りにされている。
 中に隠されている葉や木の実の価値を知っているフィオリナ自らの手によるものだろう。ガイルがとても大切にしていることを知っているからこその気配りである。
 彼の言葉を聞いたフィオリナも嬉しいやら悔しいやら複雑な笑顔を浮かべながらジルニトラの側へ立った。
 
「ジル、気持ちはわかりますけれど、あなただけでおじ様を独占しないでくださいね」
「フィオリナ、独占とは何のことだ? クラフトが誇る飛龍に好かれて悪い気はしないが、ジルニトラがご執心なのは俺じゃなくてデニスだろう?」
「そのデニス様が来られなくなってからは、おじ様がジルの一番になっているのですよ」

 デニスが死んだことを来られなくなったと、フィオリナはガイルのために言葉を選ぶ。本当にできた少女だとガイルはフィオリナの頭を優しく撫でた。

「そうだとしたらジルニトラの今の一番はフィオリナじゃないのか? アーニャから俺を助けてくれた騎乗振りは文句なしだろう」
「冗談はおやめください。龍には独特の順番付けがあるのをご存知でしょう? どうにか言うことを聞かせるのが精一杯の騎手が一番なわけがありません」
「そこまで卑下するものでもないと思うが、やはりあの影はジルニトラだったか」
「ええ。城門前の広場でおじ様を見つけてから本当に大変でしたのよ。人だかりの中へ降りようとするのを止めるのは苦労しました」
「それは――助かった。だとしたらフィオリナは立派に騎手を務めていると俺は思う」
 
 広場は荷物を積んだり卸したりする隊商も多く出入りする者達のたまり場になっている。ジルニトラが舞い降りなどしたら絶対にパニックになっていただろう。
 城門前の広場で入場手続きを終えて休憩中に頭上を影が過ったのをガイルは気づいていた。確認しようとして見上げた直後にキアラ略取容疑の騒ぎが起きたのである。

 フィオリナによるとアルザスのコルト司教から事前に連絡があったらしい。ガイルが受けたクエストの内容や近々王都へ寄ることを。
 以来毎日すべての城門前の広場の上を飛んで彼女は確認をしていた。そしてようやく今日になってガイルを見つけ出せたのに、何時まで経っても彼は屋敷へ来ない。

 業を煮やして家人達を冒険者ギルドへ走らせてガイルの行き先を探させたところ、彼女の侍女サラが聖女略取騒ぎの現場に鉢合わせた。
 不穏な空気を敏感に察したサラが屋敷へと戻り、報告を聞いたフィオリナがジルニトラを駆って飛び出したらアーニャとガイルの戦いの真っ最中だった。

 仮にフィオリナが来なかったとしても、騒ぎを聞きつけた兵士が集まり始めていた。どうにか命は助かったはずとガイルは考えていたが、監獄戻りは間違いない。だけどフィオリナや彼女の父である王弟アレクセイに直接事情説明ができれば、キアラ略取の容疑は晴れるに違いない。
 改めてガイルは救出をしてくれたことに感謝した。

「本当にありがとう。いろいろ面倒事に巻き込んでしまって申し訳ない」
「それはいいのです。でも王都には獣人族が多くいるのですから細心の注意をしてください」
「そうだな、悪かったと思ってる」
「いいえ、そのお陰でジルニトラだけでなく我がロックウェル侯爵家が助かったのも事実ですから」

 フィオリナは大きくなった飛龍を感慨深く見上げる。ガイルとの馴れ初めは幼竜ジルニトラを助けられたことであり、その時には既に彼と彼の師は獅子人族に追われる身だった。

「そこにつけ入るつもりはないのだが、お父上のお力をどうしても借りたい」
「もちろん龍の谷の恩人のためなら父もわたくしも何でも致します。ですが、今すぐにとはお答えできないことが心苦しいです。我が国以外でもスタンピードが起きているらしく、父は王城へずっと詰めているのです」
「――それは大変だな。しかしこのまま身動きが取れないとなれば、俺の連れにも連絡をしなければ。パメラというハイエルフの女の子だが、冒険者ギルドにいると思うからすぐに誰か人をやってくれないか?」
「・・・・・・それなのですが、少しばかり面倒なことになっているかもしれません」
「――パメラがどうかしたのか?」

 表情を険しくしたガイルにフィオリナは小さく息をのんだ。
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